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20 急いで!

「クッ! このタイミングでッ!?」

 時間はさかのぼって、晃司が虫巨人を発見したその時。

 Gコスモス地球支部にてオペレーターをやっていたかがみは、正面モニターを苦々しげに睨む。

 モニターには虫食いになったマップに重なって、通信途絶を報せる赤い警告文が浮かんでいる。

 晃司にかかっている強制擬態。今まさにその解除承認シグナルを発信しようとした矢先のことであった。

「こんな狙いすましたような風にッ!」

 行き場を奪われた左手で忌々しげに黒髪をかきあげ、オペレーター席の椅子を蹴るようにして立ちあがる。

 そうして振り返った勢いで室内に目を走らせる。

 しかし室内には、支部に潜んでいるのではないかと疑わしい内通者どころか、かがみ以外の人影は見つけられない。

「……ここで犯人捜ししてる場合じゃないわね」

 かがみはやがてため息を一つ。頭を振って本当にいますべきことを為すべく頭を切り替える。

 いま急を要すること。それは言うまでもなく、ハンデを抱えて戦いに突入する羽目になった黒部晃司、オルフェインを救うこと。

 確かに晃司には壁走りができて頑丈なバイクがついている。とはいえしかし、その頼みの綱のレッドビートルもフルパワーは封じられている。こんな状態で宇宙怪獣と戦うなど犬死をしに行くようなものだ。

 もちろん直に怪獣と相対している晃司は、その辺りを良く分かっているだろう。

 さらにレッドビートルも、太刀打ちできそうに無ければ持ち主の生存を優先して撤退を推奨しているに違いない。

 だがそれでも撤退していなかった場合。一矢報いることもなく負けると分かったうえで粘っていた場合。かがみが何とかしなければ晃司が死ぬのだ。

 通信妨害の効果が薄れて、回復するのを待っている時間は無い。地上で何らかの工作が行われている以上、オペレーター室でいくら操作したところで妨害を退けられるわけでもない。

 こうなればかがみ自身も戦場に向かい、いかな妨害も関係ない距離で解除シグナルを送るしかない。

 かがみはそう腹を決めると、足早にオペレーター室を後にする。

 背後でドアが自動で電子ロックを施すに任せて、白い廊下を硬質な足音を立てて進む。

 その足取りに迷いは無く、ただ一直線に格納庫へ向いている。

「あらかがみんじゃないの? そんなに急いでどうしたの?」

 そんなかがみを、部屋から出てきたドクター・ルルイエが見つけて行き先を尋ねる。

「格納庫です」

 答える時間もおしいとばかりに、立ち止まることなく敬礼と簡潔な答えだけを返すかがみ。

 そんなかがみの態度を気にした風もなく、ルルイエはマリモのような緑色のアフロヘアを揺らして後を追いかける。

「何があったの?」

「黒部さんが宇宙怪獣と交戦しました。しかし接触よりわずかに早く通信妨害が発生。現在戦闘能力の大半を封じたままの状態で交戦状態にあると推測されます」

「あらヤダ! 大変じゃないのッ!?」

 早足に格納庫を目指しながらのかがみの答えに、ルルイエがまたマリモアフロを揺らす。

「通信妨害の話を聞いてたから、レッドビートルに通信中継ができるように仕込んでたんだけど、それでもダメだったのね」

「はい、残念ながら。ですので……」

「至近距離で信号を送ろうってワケね。分かったわ」

 かがみの状況説明から、これから取ろうとしている行動を察したルルイエに、かがみはうなづく。

 そして話は終わったとさらに歩調を速めようとするかがみを、ルルイエが大股歩きに抜き去る。

「ドクター?」

「アタシも付き合うわよ!」

「しかしドクターに万一のことがあっては……ッ!?」

「その辺はだぁーいじょうぶよ。技術部のみんなは優秀だ・か・ら。それに、片手じゃ運転、難しいでしょ?」

「う、うう……それは、そうですが……」

 つりさげた右腕をさしての指摘に、かがみは言葉を詰まらせる。

「……! そうです、最新の再生剤をいま打ってください! そうすれば右腕も自由に……」

「ダメよ。アレはようやっと開発できたばかりのもので、どんな副作用があるか、臨床実験もまだまだなんだから。みすみす危ない橋を渡らせる気はないわよ、アタシは」

 瞬く間にえぐれた筋肉繊維や骨格さえ再生してしまうという新薬。

 それを使いたいというかがみの願いを、ルルイエは危険性を理由にばっさりと拒否する。

 作り手が、そのゲームの回復アイテムじみた利便性を差し置いても使わせないあたり、本当に危険なのだろう。用法をわずかにでも間違えてしまうと、全身に異様なガン細胞が発生してしまう、とか。

 テストモニター段階とはいえ、使い手に委ねられるレッドビートルとは、作った側からの信頼感が雲泥の差であるということだ。

「分かりました。お言葉に甘えさせてもらいます」

 片手で運転しづらいのは間違いない。さらに普段コンビを組んでいる美緒も足をケガしていて動けない。

 現実的に考えて、ここはドクターの申し出を受け入れるのが正解である。

「決まりね。それじゃあ任せてちょうだい。アタシ特製のスペシャルマシンでひとっとびに送ってあげるから!」

 言いながらドクターはバチコンとウインク。ほんの数歩先にあった格納庫のドアロックを解除する。

 そうしてかがみを伴って格納庫へ入ったルルイエは、マリモアフロの下から触手をのばす。

「……そういえば、今日のカツラはアフロヘアなんですね」

「カツラって……間違ってないけど、言い方! ダサすぎじゃないのよソレ!」

 触手でコンソールを操作していきながら、ルルイエはかがみの言葉に突っ込みを入れる。

 ドクター・ルルイエの髪は実はウィッグ。もとい彼好みでない呼び方をするならばカツラである。

 彼の地球人態は実はスキンヘッドで、その日その日で頭に載せる髪を替えているのだ。

 言ってみれば髪すらも衣服と同程度にとらえたルルイエ流のオシャレなのである。

 ルルイエのファッションカツラの話はともかく、そこからはみ出した触手も駆使しての操作に従って、格納庫の床が重々しい音を立てて動き始める。

 リボルバー拳銃が撃鉄の前に弾丸を運ぶように、二人の数歩先から格納庫そのものが回転する。

 そうして目当ての乗り物が正面に運ばれてくる。

 ルルイエの呼び出した彼自慢のスペシャルマシン、「シンカー」。

 それは強いて一言で表現するのならば『深海生物』であった。

 機体上部の短いエアロフィンに、鋭角三角形の尾びれじみた後部パーツ。おまけに両脇下部にはボディを支える腹びれのような部位があるのだ。正面のクリアキャノピーに覆われた二人乗り運転席もあって、見た目はほぼ透けた頭の内側に目がある、デメニギスという深海魚そのままと言っていい。

 潜水艦のようであるが、車両用格納庫に納まっている以上は車に分類される乗り物のはずである。タイヤらしきパーツはどこにも見当たらないが、車両のはずなのである。

「さ、急ぐわよ。乗って乗って」

 ルルイエはそんな陸上で動くかどうかも怪しい乗り物のキャノピーを開けさせると、助手席に座るようにとかがみを促す。

 キャノピーを開けたシンカーは、まるで獲物がかかるのを待ち構えているかようで、乗ったら食べられてしまいそうな造詣である。だが勧められた座席は閉じれば左目となる場所。自分が目の一つとなるのだ。と、かがみは頭の中を乗車後のイメージに持って行って示された座席に腰を預ける。

 続いて持ち主を運転席に受け入れて、シンカーは大開きにしたキャノピーを閉じる。

「さてと。荒っぽい現場に出すのは久しぶりね。ワクワクしちゃう」

 ハンドルを握ったルルイエはそう言って舌なめずり。再び触手を伸ばして、四肢だけでは足りないコンソールやレバーの類いに手をかけていく。

 わずかな振動に続き、シンカーは緩やかに後進。そうしてある地点に到達すると機体が固定される。

「転移ゲートを展開……場所は日本国東海地方……」

 設定を入力していくにしたがって、機体の下からの突き上げるような振動と光とが強まっていく。

「毎度毎度、この振動は慣れません」

「そうかしら? アタシは嫌いじゃないわよ? 出撃前って感じでおっとこの子よねぇ」

 尻を突き上げる揺れにかがみが眉を顰める一方で、ルルイエはその眼を闘争心にぎらつかせる。

「ま、あきらめなさい。支部に出入りするたびに大気圏を越えさせるのも目立つし非効率だもの」

「それは、分かっています」

 Gコスモス地球支部は地球上にあるわけではない。地球の衛星である月。その地下に設営されているのだ。

 地球とはいくつか秘密裏に設置したワープゲートを介して行き来しているのである。

 そしていま、シンカーとその乗員二名を転送するためのゲートがその準備を整え、起動する。

 ほんの一瞬、あふれた眩さに包まれる機体。

 次の瞬間、シンカーのキャノピーの向こうには格納庫とは違う、薄暗い車庫の光景が広がっている。

「目的地は?」

「ナビのマップにマーク済みです」

「いよっしゃあぁあッ!!」

 目的地の指示を受けるや否や、ルルイエが野太く雄々しい雄たけびを上げてシンカーを走らせる。

 車庫を飛び出して太陽の降り注ぐ下へ。

「アタシ深き者ぉおおッ!! ハッハハハハハハハッ!!」

 他に走るモノない開かれた道路へ飛び出すや否や、ルルイエはなんとなく意味を理解してはいけない気がする叫び声をあげ、シンカーを爆発的に加速させる。

「ちょ、ど、ドクター!? こんなホバーマシンでこんな加速して! 目立つなんてもんじゃないですよ」

 キャノピーの外で景色が歪み流れる中、かがみは運転席で笑い続けるルルイエの声に負けぬように声を張って止めにかかる。

「ダイジョブダイジョーブ! 誰も走ってないし、仮に見かけた誰かがいたとしても、ピンと来た辺りから記憶が飛ぶように出来てるから!」

「なんてものを仕込んでるんですかッ!?」

 曲がりなりにも地球を保護しようとしている組織に属していながら、地球人に優しくない仕込みをしているドクターへ、かがみはたまらずツッコミの声をぶつける。

「そんなことよりほら! アレでしょ!」

 しかしルルイエはまるでお構いなしに正面を触手の一本で指し示す。

 ルルイエが言うとおり、触手の指した先には巨大なクワガタムシと人間を掛け合わせたような怪獣と、その周りをかけ回る赤いバイクの姿が。

「黒部さんッ! 聞こえますか!? 今リミッターを解除しますからッ!」

 充分な接近と見たかがみは通信を起動。シグナル送信に先立って声を送る。

 だが次の瞬間、晃司とレッドビートルは虫巨人の振り下ろした腕によって叩き落された。

「そんな!? 黒部さんッ!?」

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