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19 間の悪いことで

 伝えられた地点へ向けて、レッドビートルを急がせる晃司。

 目的地へ近づくにつれて対向車線を走る車がその数を増していく。

 おそらくは出現したという怪獣から逃れようとしている人々の車だろう。

「くそッ! 街中でモロに!」

『黒部晃司と、本機の擬態解除は最接近時に推奨』

「だからまだ我慢してる!」

 すれ違う車がまだあるということは、まだまだ地球人の目が多いということ。

 記憶操作は可能であるので、人命が危うければためらうことは無い。だがむやみやたらにリスクを増やすべきではない。

 平日ではあるが、正午という時間に放たれた怪獣に、晃司は苛立ちを感じずにはいられなかった。

「しかしどうしてまた、通信障害が出るより先に、発見の報せが入るんすか?」

『通信障害はまだ発生していません。怪獣の反応もはっきりとマークできています』

「まだ出てない? ということはまさか運んでる途中に事故って?」

『可能性は否定できない。しかし、あらゆる可能性を推測、考慮しはじめれば尽きるところがない』

「だろうな!」

 いまは目の前に迫る戦いに集中するべきである。そんな愛車の真摯な警告に声を返して、晃司は機体に身を寄せアクセルを深くする。

 加速した晃司の正面に、大きな影がゆらりと立ち上がる。

 大きな頭から突き出した、長く太い一対の牙。

 晃司の三倍近い巨体は、くまなくツルリと黒光りする甲殻に覆われている。

 腕は二対四本。それらと比べてひときわ太い足が一対、体を支えている。

 その姿はまさに、二本足で立ち上がった巨大なクワガタムシとでも言うべきモノであった。

 トラックの残骸らしきものを踏み潰して、もう一対の腕と見まがうような大アゴを打ち鳴らし威嚇する虫巨人。その四本の手には、破壊エネルギーの塊が弾けている。

「いくぜオラァッ!」

 明らかに敵意を持った標的に対して、晃司は気声を上げてレッドビートルのアクセルを全開にする。

「不破さん、擬態解除の承認を……」

『警告。通信妨害の発生』

「な、ぁあッ!?」

 すわ突撃しつつ変身!

 と言うところでかけられた愛車からの警告に、晃司はたまらず目を見開く。

「なら、このままぁッ!」

 しかしすっとんきょうに声を上げながらも、晃司は迷わない。突撃と全開にしたアクセルを緩めず、虫巨人へ向けて突っ込む。

 対する虫巨人は、握りしめていたエネルギー弾を迫る晃司めがけて投げ放つ。

 同時に、タイヤと、そしてフロントカウルにエネルギーを纏ったレッドビートルは晃司の意思に従って跳躍。虫巨人の投げた破壊エネルギーの塊を飛び越える。

 迎撃のエネルギー弾を飛び越えかわした晃司とレッドビートルは、そのまま前輪の作る力場を道として空を疾走。さらに勢い増して虫巨人へぶつかる。

 腹、いや六肢の繋がる場所であるから虫的には胸と呼ぶべきか。とにかく四つの腕の中心点にレッドビートルを前輪からぶちかます。

 しかし虫巨人の外骨格はまるでびくともせず、真っ向からスーパーバイクを受け止める。

「クッソ!」

 晃司はなおも虫巨人の外骨格を貫こうと、車体を押し込む。だが虫巨人は悠々と四本腕でレッドビートルを掴まえ、真上に放る。

「なんとぉッ!」

 マシンもろともに高々と放られた晃司は、地面に落ちるまでに猫のように車体を翻させ、足場となるエネルギー力場を展開。ふわりと道路へ降り立つ。

『黒部晃司の戦闘力は封じられている。一時撤退を推奨する』

「ふざけろ!」

 レッドビートルが生存を優先した提案をするが、晃司はそれを一刀両断。虫巨人めがけてマシンを急発進させる。

 その直後に晃司とビートルの背後にエネルギー弾が着弾、爆発する。

「ここで逃げたら、俺らとあいつのおいかけっこで被害があちこちに出るだろうが!」

 爆発を背負い、次々と放られる破壊エネルギーの塊をかわしながら、晃司が叫ぶ。

 田畑の多い郊外であった恐竜モドキの場合とは違い、ここは街中。被害を抑えるならば、すでにある程度人が離れたこの場で、虫巨人をくぎ付けにし続けるしかない。人的被害を増やす可能性のある場面で逃げるなどと、できるはずもない。

『撤退不能であることは理解した。しかし、このまま体当たりを繰り返したところで、犬死にの公算が高い』

 しかしレッドビートルの言うこともまた現実である。先のとおり、勢いをつけたぶちかましでも、虫巨人にはまるで通用しなかった。

 例えて言うならば現状は、馬上槍ランス一本の騎馬兵が戦車(タンク)に立ち向かっているようなモノだ。

「やりようは、あるってこったよ!」

 しかし晃司はそんな現実を理解した上で叫び返し、レッドビートルをジグザグに走らせてエネルギー弾の合間を縫わせていく。

 その勢いのまま巨体を支える太い脚の間を、蹴りのおまけをつけてすり抜ける。

 もちろんバイクの体当たりでビクともしなかった虫巨人が、地球人並の脚力をぶつけたところでどうこうなるはずはない。

 だがそれでいい。

 突き出た尻のような虫巨人の腹。その下をくぐった晃司とレッドビートルを追いかけ振り向く動きをミラーごしに確かめて、晃司は口の端を持ち上げる。

 そして大きく機体の尻を振りながらターン。ガードレールすれすれにブレーキをかけて向かい合うと、その場でエンジンを二度三度とうならせる。

 余裕を見せびらかすその動きに、虫巨人は歯ぎしりするかのように大アゴを激しく打ち鳴らし、四本の腕を大きく広げて威嚇する。

 まんまと挑発に乗って破壊の力をたぎらせる虫巨人へ、晃司はレッドビートルを急発進、からの跳躍。エネルギー弾を置き去りに再び胸中央に体当たりする。

 晃司はここで虫巨人の外骨格を貫くつもりは無く、受け止められたとみるや素早く後輪を甲殻に接触、巨体の表面を駆け上がらせる。

 そして頭の横を抜ける際にまた蹴りを置き土産に。

「今すぐに決着をつける必要はない! こいつをこの場で釘付けに暴れさせてればいい! 大ぶりの避けやすいのを誘ってなッ!」

 くり返し重ねた挑発に、苛立ち顎を鳴らすクワガタ巨人。それを空中から見下ろして晃司が叫ぶ。

『目論みは了解。しかし……』

「どうした?」

『警告。敵に高エネルギー反応』

「んのわッ!?」

 愛車からの警鐘に、晃司はとっさに体を傾けてレッドビートルごと身をひるがえす。そうしてその直後に撃ちあがってきたエネルギー弾を、その表面を転がるようにして回避する。

 エネルギー足場とサスペンションを合わせて、可能な限り軟着陸。それでも上半身を沈みこませながら、晃司はレッドビートルを着地点にはとどまらせない。

「くっそ、まだまだ冷静だな……」

 追いかけるように放たれたエネルギー弾から逃れながら、晃司はフルフェイスメットの奥で舌打ちを一つ。虫巨人はその四つの腕それぞれに握ったエネルギー弾を一斉に投げつけはせずに、一つずつ小分けにして使っていたのだ。

「俺はともかく、お前はフルパワー出せないのかよ!?」

『本機のリミッターはオルフェインの制限解除と連動している。これは使用者の安全性を考慮してのもの。独立しての解放は不能と回答』

「無い物ねだりしてもしかたねえか!」

 しかしここで晃司が熱くなってはならない。挑発して冷静さを奪うのはこちらの方だ。敵の焦りが燃え足りないというのならば、なおさら平常心であおり続けなくてはならないのだ。

 ある程度の機能は発揮されている以上、今のマシンパワーでやるしかないと頭を切り替えた晃司は、クワガタ巨人の足元をちょろちょろと走り回る。

 それを追いかけて、虫巨人がエネルギー弾と踏みつけの攻撃を降らしてくる。が、晃司はバイクを体ごと右へ左へと傾けてその攻撃の合間を縫って駆け抜け続けていく。

 そうして道路に沿って立つ低めのビルの壁にレッドビートルを取りつかせると、勢いそのまま垂直に車体を駆け上らせる。

「そらよっとぉおッ!」

 クワガタ巨人の頭を少し越えたあたり。そこで足掛かりとしていた建物から離脱すると、大きく車体を振り回して大アゴを備えた横っ面へ後輪の回し蹴りを叩き込む。

『……ろべさ……ッ! ……こえます……ッ!?』

 それに一泊遅れて、通信機からノイズ交じりの音声が漏れる。

「通信回復!?」

『妨害はいまだ健在。しかし受信は確認』

 通信の回復。それはつまり全力を解放して戦えるということ。

 その兆しに晃司のハンドルを掴む手に力がこもる。

『警告。上方向より敵の攻撃』

「なにッ!?」

 警告を受けて晃司は我に返り、とっさにレッドビートルに空を走らせる。

 賞賛に値する反応であったがしかし時すでに遅し。

 離脱しようとしていた晃司とその愛車はあえなく、斜めから打ち下ろす巨大な物体によって叩き落された。

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