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13 昼行燈風味な支部長

「朝比奈支部長。不破かがみ捜査官、今回の件での協力者を連れてまいりました」

 良く磨かれた扉の脇にあるインターホンを押して、かがみは中の人物に到着を知らせる。

『おぉう、ご苦労さん。開いてるから入りねい』

 するとスピーカーからなげやりな声が返ってくる。

「失礼します」

 そんな室内からの返事を受けて、かがみはドアを操作。圧縮空気の抜ける音と共に横滑りに開いた出入口をくぐる。

 それに続いて、晃司も同じく挨拶を挟んで支部長室に入る。

「やあ、お疲れさん。悪いね、負傷してるのに急いでもらっちゃって」

 そう言って、奥の机に掛けた中年男性が、手をひらひらとさせて二人を迎える。

 見るからに伸びるままにほったらかした、癖の強いうねり髪。制服もかがみのものよりも徽章きしょうは多いが、くたびれよれている。

 太っているわけではなくむしろやせ型ではあるが、絵に描いたような無精者。

 それがGコスモス地球支部長の椅子に座る朝比奈修平という男であった。

 そんな持ち主と同じく、物を雑多に壁際に寄せて良しとしただらしない支部長室を、かがみと晃司は進む。

 そしてかがみは支部長を目の前に、かかとを鳴らして立ち止まる。

「報告します。先日の人身売買組織への突入作戦ですが、大敗しました。二チーム二十名の突入メンバーのうち、私を含めた十二名が負傷。さらに五名の死者が出ています」

 かがみの告げた被害状況に、支部長は渋い顔をしてあごを撫でる。

 Gコスモス地球支部において、実戦部隊として出られるものは少ない。

 二十名、小隊にして二つだけでも、一度に動かせる限界いっぱいなのだ。

 保護惑星内ではそもそも、犯罪組織も隠密を第一としている。そのため大人数のぶつかりあうような大規模な戦闘は起こりにくい。

 抑止力としてはある程度の規模は必要ではある。

 しかしそれ以上に、犯罪組織が温床とする拠点惑星制圧は必要である。加えて防衛するべき保護惑星は地球一つではない。

 組織そのものが手広すぎること。

 必要とされる可能性が低いこと。

 これらの要因から自然、戦闘目的に留まらず配置できる人員は限定されてしまう。

 そんな希少な戦闘部隊に負わされた今回の打撃は、あまりにも重い。

「幸いあの施設に拉致さられていた地球人たちは保護することは出来ました。ですがその過程で待ち伏せにあって打撃を受けました。そのため捕縛に回ることが出来ず、主要な人物は取り逃がしてしまいました。無念です」

 さらにかがみが付け加えたように、犠牲に対して得られた成果も乏しい。

 拉致されていた地球人を運び出される前に救出できたことは喜ばしい。しかし、根にはまるで届いていない。いわば一部の雑草を短く刈り取っただけで、地の下に元気な根っこを残してしまっているようなものだ。

 犯罪組織連中の力をまるで削げていない以上、対処の手を緩めることはできない。だがそのために動ける人員がいなくなってしまったのが地球支部の現状だ。

「こりゃあ、弱ったねえ……あいてっ」

 支部長は自分たちの置かれた厳しい現状を嘆いて一言。しかし不精ひげを抜きながらなので、真剣に受け取っているようにはまるで見えない。

 たるんだ朝比奈の態度に、晃司は眉をひそめる。それに同じくかがみも顔を渋くするが、すぐにかぶりをふりふりため息をついて姿勢を正す。

「……加えて、さらわれていた人たちを助けられたのも、彼の協力があってこそです。彼がいなかったら、私も殉職者に入っていたかもしれません」

「いや。不破さんの腕のケガは、俺をかばったせいですし……」

 まるでかがみの窮地に、晃司が颯爽と現れて獅子奮迅の働きで救ったようにとられかねない内容の報告に、晃司は誤った情報が伝わらないように訂正を入れる。

「それはそうですけれど。救出成功と我々の全滅回避はあなたが敵の戦力の多くを引き付けてくれなかったらできなかったこともまた事実です」

 しかしかがみは晃司の言葉に、負傷の原因は原因として、功績は功績として主張する。

「ですが……」

「ああ、キミが報告のあった例の……いつっ」

 頑なに功績の面を推すかがみに、晃司はなおも食い下がろうとする。が、それを朝比奈支部長のひげ抜きが遮る。

 平行線となっていた主張のしあいを打ち切られて、晃司は不毛な話を続けてしまっていたことに浅くため息を吐く。

「黒部晃司、オルフェインって名前のはぐれリュミナイスです」

 そして進まない話は打ち切られたままに流して切り替えることにして、晃司は改めて頭を下げて名乗る。

「うんうん、聞いてるよ。野に放たれた異星生物に遭遇して討伐したけど不破捜査官に手錠かけられたんだってね」

「……法は法です。黒部さんにも納得していただいています」

「固いねえ。真面目なのは美徳だけども、柔軟さってのも大事だよ?」

「……朝比奈支部長は緩すぎだと思いますが」

「おおっと、こいつは藪蛇だっかな」

 からかうように目線を送った支部長であったが、かがみからの躊躇なしの切り返しに慌てて目を逸らす。

「じゃ、黒部君からも見たものを報告してもらおうかな。ちょっと気になったー程度でもいいから、とにかく気づいたことを教えてよ」

 そして晃司からの報告を聞きたいと話を促す。

 ごまかされた感じはある。だが、遊びでやってるわけではないのだ。

 必要な話に集中すべきだと、晃司はそう頭を切り替えて咳ばらいを一つ置いて口を開く。

「俺は、怪しい少女を追いかけてあの建物にたどり着いたんスけど……」

「怪しい? 足あたりからスケスケで、ふわふわ浮かんでるような?」

「いや、ゴースト的な意味でなくてですね。地球人に擬態してるのに、垂直跳びで二階建ての屋根に軽々上がるとか。あり得ないレベルの身体能力を見たんでコイツは怪しいって」

 晃司はそうして、今回参戦に至った経緯から支部長とかがみに語って聞かせた。

 自分をビーコンにするつもりだったこと。

 警報に追われて奥に進んでしまったこと。

 そして戦うことになって、終始翻弄され続けで終わったこと。

 これらの中で見たもの、倒したものの特徴を覚えているかぎりに細かく伝える。

「……で、戦って逃がしちまったのの中に、同族(リュミナイス)の女らしいのがいましたね」

「リュミナイス人が!? そんなッ!?」

 そして戦った相手の中でも、特に印象の強かった者たちの話題に入ったところで、かがみが驚きの声を挟む。

 晃司がそれに反射的に振り返ると、かがみはバツが悪そうに、記録用の情報端末で顔の下半分を隠す。

「間違いないんですか? 本当に?」

「確かですね。キメラ、って呼ばれてたか……呼び名そのまんまに野獣じみた動きと体型だったし、スパークは口から出してたスけど、ありゃリュミナイス人でした」

 信じられないとばかりに重ねて尋ねるかがみに、晃司は勘違いではないと重ねて告げる。

「そんな……正義の戦士として知られるリュミナイスの一員がどうして……」

「俺みたいなのもいることですし、単にはぐれ者のはねっかえりってだけかもですよ?」

 かがみがショックを隠せない様子を見せるのに、晃司は軽口を返す。

 確かにリュミナイス人は能力と人格双方で秀でた傑物をあまた輩出している。

 だが同時に、障害児を恥さらしと捨てる親がいるように、全ての者が高潔な精神を備えているわけではない。しょせんは、ただ高い戦闘能力を備えただけの知的生命体に過ぎない。幻想に固執されても困るというものだ。

「まあでも、あんな体型まで怪獣みたいなタイプっていうのは俺も聞いたことも無いんで、ただいるだけにしても妙なのは確かっすね」

 しかしかがみがどういう訳か異様なまでにしょげてしまっているので、晃司としても慌ててフォローに回らざるを得ない。

「ですよね!? きっと何らかの肉体改造や洗脳が施されているに違いありません! やはり人身売買組織許すまじッ!」

 途端に元気になって勢いづくかがみ。それまでの真面目な大人としての顔を投げ捨てたような様子に、晃司は気圧されるままにうなづくしかなかった。

「……あと、気になったことと言えば、誘い出されたような印象を受けたところがいくつか。俺が当たったところはほとんどが場当たり的でお粗末なもんでしたが」

 そこからもう一つと戦いの中で受けた印象を語って話を戻す。

 晃司が後をつけた少女の動きも、思い出してみればやはりどこかわざとらしく、Gコスモスにつながる者を誘い出そうとの疑似餌(ルアー)役だったのだろうと思える。

 突入してくる実動部隊を罠のところにまで釣り出して、一網打尽にしてしまおう。そういう作戦だったのかもしれない。

 それが証拠に、かがみの報告にあったように、突入した部隊は待ち伏せを受けて大半が負傷者するという大被害を受けている。

 晃司――オルフェインの存在は連中の計画には無いイレギュラーだったのだろう。その予定外の戦力に混乱したがために、あの指揮役が対応するまでは場当たり的に対応するばかりになっていた。こう考えれば動きの違いに説明はつく。

「つまり……突入チームの動きや何やらの情報を渡してる内通者がいると?」

「そこまでは言いませんが、情報が持ってかれてるようには思いますね」

 眉間に皺を寄せて無精ひげをいじる支部長に、晃司は断言はできないがと断りつつもうなづく。

 治安維持組織の情報が盗まれているらしいことは気になる。だが、晃司個人としてはやはりあの怪獣じみた女リュミナイスと指揮をとっていたあのスーツの男のことが引っかかる。

 男は指示を出すのが主で、明らかに本気で戦ってはいなかった。

 しかし数と武器の優位を活かしたとはいえ、それだけならばオルフェインでも突破できたものをさせなかった。

 加えて、同族が何を理由に犯罪組織に加担しているのかも気になった。

 だまされて利用されているのならば解放してやりたい。仮に自分から喜んで手を染めているのならば、殴り飛ばしてでも目を覚まさせてやりたい。

 余裕をもって封殺された悔しさ。そして同族に対するおせっかいじみた思い。その二つが、どうしても晃司をある方向へと駆り立てる。

「不破さん。あのスカウトの話、まだ生きてるすか?」

「……え? スカウト、ですか?」

「ヒーローやってみろって、あの話っすよ」

 この組織との闘いに自分自身の拳をぶつけたい。

 その思いのままに、晃司は戦力として加わりたいと申し出る。

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