10 手玉に取られている
光が壁を成したかのように迫るエネルギーの弾幕。
押し寄せるそれをオルフェインは横っ飛びに飛び込み回避。転がり受け身を取って膝立ちに。
しかしその瞬間を狙いすましてのビーム弾が、顔を上げたときにはすでに目前にまで迫っている。
オルフェインはそれを舌打ちしつつ右拳で払う。だがさらに右手側からもビーム弾がいくつか。
その初弾は肩で受け、合わせて戻した右の細かな連打で続きを迎え撃ち続ける。
そうして右に引き付けた上で、また正面から弾丸が迫る。
対してオルフェインはわずかに上体をそらして頭を狙ったものを回避。そうして貯めたばねを解き放ち身を翻して跳躍する。
踵からのエネルギー噴射もくわえて勢いを増した蹴りで、迫るビーム弾を破壊。同時にその足元を背後からの弾丸が通り過ぎる。
そして飛回し蹴りの勢いのまま、強烈なビーム弾幕の出所へ向けて飛翔する。
空中から突撃するオルフェインを近づけまいと、迎撃のビームが弾幕を成す。
しかしオルフェインは両拳の連打で弾丸をはじいて突撃の勢いを緩めない。
そのまま力技で重なる弾幕を貫き抜ける。
だがそんなオルフェインを爆発が襲う。
苦悶の声を漏らして爆炎から転げ落ちた銀色の戦士は煙を上げながら固い床を床を転がる。
「くっそ! また罠に誘いこまれてッ!」
転がった勢いのまま起き上がり、オルフェインは苦い顔を見せる。
その言葉のとおり、救出の連絡を受けて反撃開始と意気込み踏み込んだオルフェインであったが、その反撃はことごとく空振りに終わっている。
敵をひとりも殴り倒し、無力化出来ていないわけではない。
しかし敵の動きに翻弄されて、格納庫から出ることもかなわずに釘付けにされ続けているのだ。
敵はオルフェインに決して近づかず、物陰に隠れて距離を取り、弾幕を繰り出し続けることを徹底するように。
それ自体は普通の事だ。
オルフェインは格闘戦しかできない。そんな相手に決定打として通用するか否かはともかく、遠距離武器を備えた者たちが間合いを開けて一方的に攻撃しようと考えるのは正しい。至極まっとうな戦術だ。
だがオルフェインはリュミナイス人である。
強力な光線技の使い手として知られた種族を相手に、遠距離戦を徹底するだろうか?
確かにオルフェインは施設内で格闘戦しか仕掛けてはいない。しかし隠し玉にも遠距離技を持っていないだろうからと見切るのは早すぎるだろう。
「それに、妙に連携が良くなった気もする」
撃ち込まれ続ける破壊エネルギーの弾丸を叩き落しながら物陰に飛び込み、オルフェインはひとりごちる。
オルフェインが攻めに転じようとする前は、場当たり的な動きしかなかった連中が、ここへきて配置の入れ替えや攻撃のタイミング、そうしたものをよどみなく組み合わせて、罠にまで誘いこむようになったのだ。
まるで突然に全体を俯瞰視する目と、統一した意識を持ったかのように。
といっても、急に連携が機能し始めたのは妙なからくりがあるわけではないだろう。以前にはただ単に、指揮者の手が届いていなくて、いまは届いている。それだけのことだろう。
問題なのは、オルフェインの動きを把握して連携している敵の集団をどう崩すかだ。
「すぐに来るって言ってた不破さんたちから音沙汰無いのも気になるしな」
つぶやき、手早く突破しなくてはとオルフェインは意識を固める。
その手段を求めて視線を巡らせたところで、放物線を描いた何かが足元に飛び込んでくる。
高く硬い音を立てて床を弾むそれは、手のひらサイズの金属玉である。
「しまった!」
複数のそれらが何か。そして自分がむやみに足を止めすぎてしまったこと。それらを理解したオルフェインは、足のバネとエネルギー噴射も駆使してこの物陰を飛び出す。
同時に床に転がる金属玉、手りゅう弾が音を立てて爆ぜる。
爆弾の閉じ込めていた破壊エネルギーの輝きに押し出されるようにして、オルフェインの屈強な肉体が宙を舞う。
釣り出し成功とビーム弾が放たれるなか、推進力を放ち続ける両脚を振り回して姿勢制御。せまる光弾をかいくぐる。それは足の動きも相まって、泳いでいるかのようですらある。
避けきれぬ弾丸をかき分け、バタ足にドルフィンキックと織りまぜての物騒な空中遊泳。
そうして光の中を泳ぎながら、オルフェインはある一点に目をつけて、そちらへ空を蹴る。
しかしその一点とは敵の密集地点というわけではない。
荷台を備えた大きな輸送用車両の一台である。
地球人に目につくところで走らせることも考えたのだろう。大きなタイヤを備えた、地球上ではごくありきたりなトラックに偽装してある。
オルフェインはビーム弾の追撃を逃れてその車両の影に滑り込む。
これを次なる避難場所として難をしのぐつもりか。
たしかに、この輸送車はありきたりな形にされてこそいるが、Gコスモスとの荒事を考えてか装甲が施されている。盾として使うことはできるだろう。
だがオルフェインの考えはそんな守りに入った物ではない。
銀色の戦士はタイヤのひとつを、抱えるようにして掴んで車体から外す。
オルフェインは実に軽々と、パンを小分けに千切るように外して見せた。だがかたく固定もされているし、もちろんそんなに軽いものではない。
しかしオルフェインはまるで空の段ボールでも担ぐかのように、分厚い特殊ゴムと金属で出来たそれを持ち上げ、ビーム弾の出どころ目掛けて投げつける。
砲弾めいた勢いで飛ぶそれに驚きの悲鳴があがり、次いで重々しい着弾を示す音色があがる。
それを聞きながらオルフェインは、車のドアの境目に指をねじ込むや、車体からはぎとり、また別の方向へと投げ放つ。
そう。オルフェインは身を隠す盾とするべく車に目をつけたわけではない。
自身が遠距離攻撃手段を持たないことを補うための、飛び道具のかたまりとするために取りついたのである。
幸いにも、装甲化された車体はビーム弾の迎撃を受けても易々と風穴を開けられることなく、狙った場所とそこにいるものたちを襲う。タイヤでさえ対ビームリアクティブ加工されたゴムの積層式だ。撃ち落とされるどころか、逆に弾丸を弾いてしまう。
「まだ、まだ! ここからだぞぉおッ!」
「わ、わぁあああッ!?」
「う、撃ち落とせ!? 落とせぇ!?」
そんなそうそうには当たり負けしない弾丸を、オルフェインは次々と車からむしりとっては投げ放っていく。
一発一発着弾するたびに、敵の集団は蜘蛛の子を散らすように散り散りになる。
オルフェインを翻弄し、持ち味を封殺できている状況下で、反撃などまさかと油断していたのだろう。敵は瞬く間に混乱のるつぼに陥った。
先程までであれば射撃による牽制が入っていただろうに、いまでは音を立てて飛ぶジャンクから我先にと逃げるばかり。これ程までに脆いと、あの統率の取れた動きが幻だったかのようにさえ思える。
そんなてんでまとまりがなくなった敵集団の中、まだ出入口をふさいでいる者たちに向けて、オルフェインはむしり立てのタイヤを担いで躍りかかる。
「どけぇえッ! 派手に飛んでも知らねえぞッ!!」
警告か、恫喝か。発したオルフェイン本人にすらどちらとも区別のつかない雄たけびをたたきつけながら、担いだカタマリを振りかぶる。
「ぐあッ!?」
だが今まさに投げ放とうとしたその瞬間、オルフェインの眼前で光が爆ぜる。
不意打ちに視界を奪うまばゆさと痛みにオルフェインは自身の制御を失い、暴れた裏足の推進力に振り回されて床に落ちる。
叩きつけられながらしかし、オルフェインは素早くタイヤを手放して転がり起き上がる。
そして焼けついた青い目を瞬かせながら、腕を振るって駄目押しに来る何モノかを払い落とす。
「うろたえるな! 手当たり次第にでたらめに物を投げつけてきてるだけだぞッ! きちんと囲めばどうということは無いッ!」
そうしてオルフェインは、いくらかまともに像を結べるようになってきた目で、まわりに指示を飛ばす敵の指揮官らしき人影を捕らえるのであった。




