表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
9/45

戦闘慣れした頃に、見事に足元をすくわれて痛い目を見てしまったので、生産に逃げたところ、何気に嵌ってしまった件

 さて、用意したサンドウィッチにかぶりつきながら、端末をいじる。


「ふむふむ、被害報告多々ありかー」


 匿名掲示板なので情報の信頼性はそれほど高くない。殆どのケースでは明らかに有効射程外の被害のようで、直接ダメージは殆どないようだ。おそらくは流れ矢なのだろう。しかし、やられた方としてはそんなことは関係ないようだ。


 なかなかに匿名掲示板を音声モードで聞くのは精神衛生上よくない。感情のこもらない合成音声で途切れなく続く罵詈雑言。精神力をがりがりと削られていくような、或いは精神汚染が進んでいくようなそんな感じ。


 そっとページを閉じてイヤホンを外す。


 これはしばらく荒れそうだ。その波が終わるまではメジャーな狩場で戦うことは出来ないかもしれない。


 まあ、それはとりあえず置いておこう。先に生産系スキルを使ってみるというのもありだと思うから。


 まずは、少し整理しよう。


 今回、大活躍した〈サバイバル〉さん。

 実は結構重要なスキルであることが判明した。複合スキルだけあって、やれること自体は多いのだ。


 まずは、解体。何気にこれが優秀であった。惜しむらくは、通常のパーティ戦では無用の長物であることか。いや? 解体専門というのもあるのか? まあそれは僕一人で決められることではないし、当分は弓使いとしてはソロでひっそりと活動するしかないだろう。その間は解体は大活躍してくれるに違いない。


 ちなみに、解体は〈解体〉スキルとして別個で存在したりする。おそらくは専門性が高いので、〈サバイバル〉スキルよりもより効率が良いのではないだろうか。


 さらには、伐採・採掘・採取といった素材集めもできる。これまた、専門のスキルがあるので、こちらもそれらの劣化レベルなのだろうと推測する。


 本職よりも劣化するのだとしても、おそらく低レベルではそこまで差はないのではないだろうか。だとすれば、かなり使えると思っていいだろう。もちろん、いつまでも使えるというものではないだろうが。


 今のところ活躍の機会のない〈遠視〉


 これは、主に効果が常駐する特性と任意で発動する遠距離ターゲット補足能力の二つが今のところあげられる。つまりは、このスキルをセットしているだけで、通常より遠くのものを見ることが出来る特性と、通常より遠くのものをターゲットとしてとらえることが出来る能力である。

 

 実際のところ、このゲームではある一定距離を離れると、そこから先はややもやにかかったような感じになり、同時に個体名が表示されなくなる。山のような遠くの風景などはそのエフェクトはかかっていないので、これはあえてそういう風にしているのだとわかる。


 〈遠視〉スキルは、その個体識別ができる範囲をスキルのレベルに応じて広げてくれるようだ。


 また、視界の広さに限界があるように、ターゲットマーカーを付けることが出来る範囲も決まっている。


 これは、まだ直接試したわけではないのだけれど、だいたい20メートルくらいだろうか。ある一定距離を取ってしまうと、〔ターゲットが遠すぎてマーキングできない〕というメッセージが表示される。


 この距離をやはりスキルレベル依存で伸ばすことが出来るようだ。


 そして、メインウェポンである〈弓術〉スキル。


 これに関しては、多少面倒くささが目立つ。


 何しろ、初期の有効射程距離が、なんと2メートルしかない。敵との距離2メートルならば、槍で踏み込んで突いても似たような距離になる。


 この距離では、敵に弓を射ても、次の矢をつがえるどころか、矢筒に手をやった時点で接敵を許す。これはさすがに使えないと思われても仕方ないだろう。

 ちなみに、精霊魔法の初期魔法である「火の矢」などの射程距離は10メートルで、しかも必中である。


 有効射程はスキルレベルが5上がることで1メートル延びるようだ。とは言え、武器ごとに最大値が決まっているので、スキルカンスト時にとんでもなく遠距離から攻撃できるというわけではないらしい。


 〈回避〉スキルに関して、今のところ特に変わった特性が付くわけでもなく任意発動のアビリティがあるわけでもない。もっとスキルレベルが上がればあるのかもしれないが、現状、回避の判定に有利に働くくらいの能力なのかもしれない。


 正直言えば、妹に相談したいところなのだが、いかんせん、妹が食事をとりにログアウトしてくる気配はない。ダイブシステムの稼働音からすると、絶賛ログイン中なのは間違いない。


 習うより慣れよ、ということわざもある。それに、先輩や神楽に合わせるためにも多少は慣れておく必要があるだろう。


 僕は、そう決めて、もう一度ログインすることにした。とりあえず、今ある矢かポーションがなくなるまで頑張ってみよう。


 大きく伸びをして体をほぐすと、僕はもう一度、あの世界へと踏み込むために筐体へと向かっていた。


 この時僕は気づいておくべきだった。


 僕は既にこの時、このゲーム、というより仮想現実世界に魅了されていたのだということに。先輩や妹に無理矢理誘われたから、という言い訳を自分に対してしているということ。それこそが僕自身が嵌ってしまっていることの証拠であるということに。


 あの森の先には、あの丘の向こうには、どんな景色があるのだろう。

 早く強くなって、そこへ行ってみたい。いろんな景色を見てみたい。そんな欲求が抑えられなかった。そして、その欲求自体がなぜか後ろめたくて、下手な言い訳を自分にしていたのかもしれない。




 ズバリ言うと、調子こきました。慣れて甘く見ていました。増長していました。ごめんなさい。


 スキルが上がり、またトカゲの攻撃パターンを読めるようになってきて直撃を避けることが出来るようになり、狩りの効率は数段上がった。そこまではよかった。


 ポーション使用の頻度も下がり、はっきり言ってしまえば、一匹の討伐にポーションを使わずに済むようになっていた。職業[見習い冒険者]のレベルが上がることでHPも上がり、死ににくくなったことも僕を増長させた。


 結果、僕はいま、見事に屍をさらしている。


 狩って解体、狩って解体。このリズムが僕を狂わせた。などとカッコいい言葉で飾っても仕方がない。


 あまりにリズムよく進むので、辺りへの警戒と個体識別の確認を怠った。結果、ある時、無造作に弓で射抜いたトカゲは、ほんのちょっとだけ、だが確実にほかの個体よりも大きかった。


 そのトカゲの頭部には小さな角が生えていて、それが、僕がさっきまで相手をしていたトカゲと違うものであることを僕に突きつけた。


 それでも、なんとか狩れそうな感じで戦えてはいたのだ。相手のHPが2/3にまで減るまでは。


 1/3ほど削った時、トカゲが吠えた。すると、なんということでしょう。現在戦闘中のツノトカゲ(仮名)に随伴するように二頭のノーマルトカゲが現れたではありませんか。


 まあそこからは完全なワンサイドゲーム。あっという間にHPを削り取られてしまったというわけである。


 その結果がこれである。

 

 まあ、それはいい。ただ一つ不満なのは、とりあえず辺りを見回すことは出来るのだが、音が聞こえない。下を見れば、無残に倒れている僕のアバターが見える。霊魂的な状態なのだろうか。


 音が聞こえない。そのことがとても怖い。


 内心、いろいろ考えてごまかしてきたけれど、ちょっと流石にこれは怖い。


 僕にとって暗闇は然程恐ろしいものではないけれど、無音は流石に堪える。


 これはとっとと死に戻りをしろということなのだろう。視界の片隅にタイマーが見える。15分から始まったカウントダウン。おそらく、この15分が蘇生可能な時間なのだろう。


 カウントダウンを待たず、ホームエリアへの帰還を選択する。その瞬間、一瞬の浮揚感のあと、僕は王都エンパイアの中央広場にある教会の中に立っていた。


「実質初日から死亡経験かー」


 僕がつぶやくと、同じように死に戻りしてきたのであろうプレーヤーが、「ドンマイ」と声をかけてくれた。「ありがとう」と返事をしておく。


 さて、どうするかな。


 僕はスキルレベルや戦利品を確認することにする。


 まず、[見習い冒険者]のレベルは6まで上がっていた。早いのか遅いのかは判断が付きにくい。


 スキル欄を開いてみる。


 スキルスロット

 〈弓術〉Lv15 〈回避〉Lv10 〈遠視〉Lv3 〈サバイバル〉Lv6 〈調理〉Lv0


 控えスキル

 〈木工〉Lv0


 とりあえず、〈弓術〉が上がったことで、有効射程が5メートルまで伸びているのはありがたい。


 戦利品は、次の通り。


 トカゲの皮 6

 トカゲの皮(高品質)2

 トカゲの肉 10

 トカゲの肉(高品質)1

 トカゲの卵 1



 敵を倒せば必ず何かを落とすというわけでもなく、解体が空振りすることもあった。逆に皮と肉を同時に落とすこともあった。

 ただし、今のところ、高品質の戦利品は、解体でしか手に入っていない。


 もちろん、サンプル数が少ないので確実に言い切れるわけではないが、解体で得られる素材は、通常ドロップよりも品質が良いものが出やすいのかもしれない。


 どちらにせよ、矢はまだ残ってはいるけれど、直ぐには戦闘に戻る気もしない。


 ならば生産系のスキルを試してみよう。




 まずは、スキルをセットしなおす。〈遠視〉を外してから〈木工〉を付け直した。

 職業も、[見習い冒険者]から[見習い木工職人]へと変更する。


 コマンド画面を開いて、生産コマンドを選択すると、現在所持しているレシピが表示される。


 〈木工〉では、原木を木材へと削る基本スキルが表示されている。現在のところ、それだけだ。


 〈調理〉では、兎肉のグリルのみが表示されている。


 ここからスタートして、ギルドに各種生産品を納品して職業レベルをあげたり、貢献したポイントやお金を使ってレシピを購入したりしていくスタイルのようだ。


 僕は地図を開いてギルドの位置を確認する。東区エリアの、より城門に近い位置に木工ギルドは存在する。設定的には、外敵が城門を破って突入してきたとき、逆杭柵をいち早く設置できるように木材を扱うギルドが城門近くに置かれているらしい。


 木工ギルドでは何人もの職人NPCが木材を削ったり細工物をしている。いつまでも同じ動作を繰り返しているのはご愛敬だろう。


 一応は[見習い木工職人]を持っているので、ギルド員ということになっている。後天的にギルド員になるためには、結構な金額で初期レシピと初級生産道具セットを購入したうえで、スキルポイントを消費してスキルを取らなければならないらしい。


 ギルドでは、基本レシピや低級素材の販売、生産品の納品受付や買取などが出来る。とりあえず弓と矢のレシピを確認すると、弓はそこそこの金額か功績ポイントが必要だが、矢のレシピはそこまで高くはない。


 とは言え、先立つものも少なく、というかほとんどないので、〈サバイバル〉スキルを使って木材を集めてみようと思う。


 〈サバイバル〉スキルで用いる伐採道具は、ハチェットと呼ばれる手斧の一種である。サイズ的には非常に短い柄なので、武器としては使えないし、大木を伐ることもできない。おそらくは、〈サバイバル〉スキルによる伐採は、それほど大きくない背の低い樹木やあるいは木の枝を落とすくらいのものなのだろう。


 とにかく、試せることから試していくのがセオリーだろうと、僕は再び城門をくぐり、フィールドへ出た。


 相も変わらずの超大規模野犬討伐隊たちの活躍を後目に、野犬ポイントの先にある森林地区へと足を踏み入れた。

 〈サバイバル〉スキル内のアーツである【調査】を実行すると、森の中にいくつかのポイントが淡く光って見えた。


 こういったアビリティの使用は無制限なのだろうか、と一瞬考えたのだが、視界の左側に常時表示されているHP・MP・SP・TPの四種の数値のうち、STが若干減っているようだった。しかし、しばらくするとそれは回復して、再び100になる。


 すこしおさらいをしておくべきだろう。


 HPは言わずもがな、ヒットポイントの略号だ。これが0になると戦闘不能状態、通称死亡状態になる。これは恥ずかしながら体験済み。

 MPはもちろんメンタルポイントの略で、魔法的行為を行うときに消費するポイントだ。

 SPは、スタミナポイント。各種アーツ(このゲームでは、スキルによって使えるようになる技術を総じてアーツと呼称する。武技や魔法をまとめて言うときに使うことが多いらしい)を使うときに、既定のポイントを消費するようだ。

 TPは、テクニカルポイント。こちらは、アーツの中でも武技アーツの使用時に、アーツごとに決められた量を消費する。


 HPとMPは、戦闘中は自然回復はしない仕様になっていて、回復魔法や薬といった方法で回復するしかない。とはいえ、非戦闘時には僅かに自然回復を始めるし、休息状態、つまりは座ったりして体を休めることでより効率的に回復することが出来る。


 SPは、戦闘中も徐々に回復する仕様となっている。非戦闘状態であればさらに回復するし、休息状態になれば直ぐに最大値の100まで回復する。


 TPは、他の3種とは逆に、戦闘中様々な行動によってポイントを得ていくことが出来る。逆に、休息状態を取ると、0まで下がるようになっている。


 このゲームでは、SPとTPの使用のバランスをうまく取りながら戦うのが基本だ。


 では、今の僕のように戦闘以外でスタミナなどはどう影響するのか。


 戦闘以外での素材集めをする際には、まず、【調査】を発動させて、アイテムが隠されている場所を特定する。落ちているものを拾うだけのこともあるが、伐採や採掘、採取となるとそれに見合った道具でポイントからアイテムを取り出さなければならない。その際、成功しても失敗してもスタミナを消耗する。


 落ちているものを拾うだけならばスタミナは消耗しないが、タダで得られるためだろうか、殆どの場合、店売りすらできないガラクタばかりであるようだ。


 それでは道具を使ってポイントからアイテムを得ようとした場合、そこそこの数量のスタミナを消費する。ポイントを叩いたかからといって必ずアイテムを得られるわけではなく、何回も同じ行動をとらねばならないこともあるようだ。

 そのため、スタミナ切れを起こすこともある。


 初期エリアのそれも街の近くで優良な原木が採れるわけではなく、それも、本職の〈伐採〉スキルでの伐採ではないため、少し長めの枝などが限度である。


 それでも、ひたすら伐採を繰り返しそれなりの量の原木(という名の枝)を集めることが出来た。


 大きさ的に、家具などに使える木材ではない。だが、それでいいのだ。


 僕にとって、現在の木工の意義は、矢の自作であるのだから。


 十分に枝を集めると、僕は木工ギルドに戻り、それらの枝を木材に加工することから始める。


 なぜギルドまで戻るかというと、据え置きの道具を使える工具室があるからだ。ちなみにこの工具室。ドアの向こうは個別のインスタントエリアになっているので、だれにも邪魔されずに作業が出来るようになっている。


 工具室に入ると、のこぎりや鉋、ノミなどが整然と並べられていて、作業台もある。初期所持品の中にある携帯工具とは1ランク上の道具をタダで使えるのは非常にありがたい。さらに上位の道具のある工具室を借りるには有料となっている。


 ちなみに今回僕が収集した原木であるが、木材としては小さすぎるため、木の種類を問わず、アローブランチ(矢の枝)というアイテム名になっている。これを削ることで、アローブランチ材となる。これをただひたすら制作していく。


 最初は失敗続きではあったが、それでもスキルアップのための経験となっているのだろう、やがて成功確率が上がってくる。そうやってできた材木をギルドに納品することでギルドポイントを取得できる。


 余ったアローブランチ材の半分を、ギルドで買い取ってもらう。これで、また小金が懐を温めてくれる。


 意外に熱中していたようで、夕食の時間が近づいていた。僕はギルドを出ると、ログアウトした。


 少し、気を引き締めないといけないかもしれないな。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ