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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
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雰囲気掴みに軽い気持ちでログインしたら、危うく木乃伊取りが木乃伊になるところだった件

『Welcome to Aquarius World』


 二度目のログイン。


 今回は普通にログインすることが出来たようだ。運が良かったのか、それとも運営側で対応が出来たのか。


 まあ、それはどちらでもよいことだ。


 当たり前のことだけれど、メンテ前にログアウトした場所からスタートとなる。エンパイアの中央広場。


 メンテ明けでログインした人たちが次々とそのアバターを出現させていく。僕は本格的に混みあう前に中央広場から離れた。ここは人が多すぎる。ログアウト前に見た感じだと、広場にはかなりの人がいて、何故か道のど真ん中で露店を開いている人すらいた。


 基本的にプレーヤー同士はぶつからずにすり抜ける仕様になっているものの、あまり気持ちの良いものではないだろう。


 まずは、街の中を見て回ろう。


 エンパイアは主に4つの都市区画と王城の5つのエリアからなる。


 今いるのが、エンパイア中央区。主に商業施設などがあるエリアだ。武器や防具などの店だけでなく、食品や素材を販売する店舗もある。


 中央区から東へいくと、都市外エリアと隣接する東区。ここは各職人ギルドや闘技場、兵士の詰め所などがひしめいていて、迷路のようになっている。どの建物も堅固なつくりになっており、都市戦となった場合、最初の戦場になるのがこのエリアであろう。


 南区は、居住区となっていてエリア自体は解放されていない。というより、南区に入ると自動的にプレーヤーキャラクターが借りている(ということになっている)プライベートルームに飛ぶことになる。現在はまだ未実装だが、将来的にはプレーヤーが土地を買って家を建てることもできるようになるらしいが、まだまだ先のことである。


 西側は港湾区となっていて、こちらでは貿易商などがあるのだが、同時に怪しい雰囲気の人たちがたむろしている。


 街の北側は、王城になっていて現在は入ることが出来ない。当たり前のことだけれど、王城に入るには国家に認められるような功績を得なければならないのだろう。


 さて、僕の愛すべき妹曰く、ゲームプレーヤーには二種類の人種がいる。


 チュートリアルを見るやつと、見ないで始める奴と。


 神楽は後者であり、僕は前者である。


 僕は複雑な操作があまり得意ではないので、チュートリアルを飛ばしてしまうと何をすればよいのかわからなくなってしまうからだ。


 FFOもゲームであるから、チュートリアル的なものはあるはずだ。


 僕は、とりあえず目についたNPCに声をかけていく。


 ちなみに、NPCに話しかけるのにはそれなりのコツがいる。リアルとは異なり、ただ声をかけただけではNPCは反応しない。


 視線を一秒程度固定すると、そのキャラクターにターゲットマークがつく。その状態で言葉をかけると、話しかけたと認識してくれるのだ。


 視線以外にも、NPCにはそれぞれ固有の名前がついていて、その名前を呼ぶことでターゲットマークを付けることもできる。


 何人かのNPCと会話することで、東区の闘技場で訓練を受けることができることが分かった。また、話しかけているうちに、お使いクエストと言うべきクエストがいくつか発生したので、これの回収も行っておこう。


 町の中にはけっこうたくさんのクエストが用意されていて、中にはクリアの方法がわからないものやお使い先が分からないものもある。だけど、これらのクエストには基本的に時間制限などはないようなので、分からないものはとりあえず保留でいいようだ。


 そういえば、両親が言っていたが、MMOのクエストはヒントがほとんどないようなケースもあるそうだ。それでクリアできるのかと問い返したら、何千人というプレーヤーが答えを探すので、よほど理不尽な回答でない限り、実装から数日で解法がネット上にアップされるという。


 そんなこんなで訪れた訓練所、もとい闘技場。


 この闘技場は基本的には使われておらず、公式イベントなどが行われるときに使われることが示唆されている。また、プレーヤーたちが独自でイベントを行う際、運営に申請することで開放されることもあるらしい。


 ちなみにここでは、新兵教練という名目で、戦闘のレクチャーをしてもらえる。セミダイブのプレーヤーは基本的にオートアタックが採用されるのでそこまで重要ではないのだが、僕たちのようにフルダイブのプレーヤーはオートアタックと、直接戦闘を選択することが出来る。


 オートアタックは、基本的に手持ち武器で一定のタイミングで攻撃を繰り出す。回避などの防御行動も、一定の確率にスキルによる補正を掛けた確率で行われる。もちろん、相手の範囲攻撃やタメ攻撃の攻撃範囲から離脱するなどしてプレーヤーの意思で回避行動もとれるのだが、基本的には厳格な計算のもとでの削り合いになる。


 では、弓はどうか。これを戦闘モードをオートに設定している場合、発射のタイミングはプレーヤー依存になるものの、命中判定はやはり互いのステータスから計算された命中率に依存するようになる。


 では、フルダイブでの直接戦闘ではどうなるか。


 まず、近接戦闘だけれど、これは基本的にはオートバトルとあまり変わらない。計算された数値による成功判定が行われるというのは基本だ。だが、そこに実際に攻撃が相手の体にヒットした位置によって、成功判定にボーナスやペナルティが付くのだ。


 また、直接戦闘ならば、武器を何度も振り回して攻撃回数を上げることで、単位時間でのダメージ量を増やすことが出来るのか、という問題に対しては、これは否である。


 通常攻撃にもクールタイムが設けられており、それが過ぎる前に攻撃を当てても、ちゃんとしたダメージにはならないようになっているらしい。それどころか、敵モンスターのアルゴリズムに攻撃を受けるごとに強力な技を繰り出すためのポイントがたまっていくため、逆に不利になることもあるようだ。


 弓は、これがちょっとまずいことになっている。


 オート戦闘仕様ならば、立ち止まって「矢を放つ」コマンドを実行すればいいだけなのだが、直接戦闘であれば、きちんとした射撃姿勢をとらなければならないらしい。


 クロスボウなどの射撃武器ならば、そこまで厳格な姿勢を求められていないのだが、弓はそうはいかないらしいのだ。


 まあ、ここまでは訓練所のオッサンの説明をかみ砕いてみたことである。なので、訓練所で練習することが出来るようなのでここはひとつ、練習といこう。


 訓練所は、基本武器、つまりは初期設定で選べる武器スキルの訓練であれば、無料となっている。なので、今回、〈弓術〉の訓練を選択する。


 訓練であるので、矢の消耗を気にする必要がないのは助かる。


 一度深呼吸をして……とはいえゲームのアバターは正確には呼吸していないのだが、そこはそれ、雰囲気として……弓を構え、引き絞り、矢を放つ。


 イメージとしては完璧なはずだった。


 ところが、矢は明後日の方角へ飛んだ……のならまだマシである。前に飛んだ分だけ。


 現実は、こうだ。


 ほんの数メートル先に、矢が一本転がっている。さっきまでなかったので、僕は撃ったはずの矢だろう。


 これは、恥ずかしい。個別ブースになっていて助かった。


 矢は数秒後に消滅した。ゲームだなーと思う瞬間である。


 ここは訓練所であるからして、ただやみくもに武器を振り回すだけで上達するわけではないはずだ。


 良く見渡せば、武器を借りた場所にボタンがあった。試しに押してみると、ブースの中央、先ほど僕が矢を放った……うん、何事も最初は失敗はあるものさ……矢を落としたとは言いたくない……まあその場所に、ワイヤーフレームでできたような人型が現れた。


 しばらく待っていると、その人型は矢をつがえ放つ。流れるような動作である。


「お手本付きかー。とりあえず、今夜はこれを試して上がるかな」


 このお手本の優れたところは、見るだけでなく体験もできることであった。ワイヤーフレームに自分のアバターを重ねることで、正しい動きをまずはトレースさせてくれる。


 これはなかなか、難しい。力を抜いてお手本に任せると体が勝手に動いて正しい姿勢を取ってくれる。だけど、自分でその通りに動かそうとすると結構な確率でダメ出しされるのだ。


 それでも、少しずつ進歩はある。気が付けば夢中になっていたのだろう、訓練開始から2時間以上たっていた。つまりは既に夜中の2時を回っているということだ。失敗した。


 両親は比較的寛容なのだけれど、それ故に節度を破ると怖い。僕は、最後の一矢をシステムのサポートなしでゆっくりと狙い、体の動きをイメージしながら放つ。


 トン、と軽い音がして、矢は的に突き立っていた。小さくガッツポーズをとり、僕は訓練所を後にした。


 街の中でのログアウトには特に制限はない。システムウィンドウを呼び出しログアウトの手続きを取ると数秒でゲームの世界から現実の世界へと帰還することになる。


 ログアウトして、フルダイブシステムから解放されると、カーテンを挟んでの隣からは低い稼働音が聞こえてくる。予想通りであるが、神楽はまだログイン中のようだ。


「ちょいと失礼」


 誰が聞いているわけでもないのだがそう言葉に出してから、僕は視覚補助ゴーグルをセットしてからカーテンを引いた。


 神楽は両親の血かどうかわからないけれど、確かにゲーマーではあるのだが、同時に非常に健康的で本来は規則正しい生活リズムを持っている。


 それはどういうことかというと、そのリズムが崩れると体調を壊しやすくなるのだ。それを防ぐための人体の防衛本能なのだろうか、神楽は夜更かしをすると、体力がある一定を切った時点で、電源が落ちるように眠ってしまうのだ。


 <<SLEEPING>>


 案の定、二日連続の寝落ちらしい。


 僕は筐体のサイドボードに設置された接続端子を引っ張り出すと、僕自身のパーソナル端末と接続する。これによって、電話を掛けるような感覚で、フルダイブ中の人と話をすることが出来る。そのほかにも、アラームを鳴らして注意喚起することも可能だ。


 もちろん、ここで鳴らすのは神楽がいつも使っている目覚まし時計のアラームだ。


 アラームを鳴らしてから2分ほど経ってから、ようやく神楽が筐体から出てきた。だが、半ば眠っているようだ。


「ほら、部屋に戻って寝ろ。二日連続で寝落ちしたなんて母さんに知られたら、ほんとに禁止されちまうぞ」


「んあー。おんぶー」


 完全に子供還りしているようだった。そういえば、中学に上がる前までは相当な甘えん坊だったな。


「あー、今日だけだぞ」


「うん、きょうだけーきょうだけー」


 ゾンビか何かのように背後からしがみ付く妹をしっかりと背負いなおしながら、僕は部屋の明かりを消し、離れを後にする。ロックがかかる音を確認してから、僕は神楽の部屋へ大きな子供を背負ってゆくことにする。


 ふむ、校内ではそれなりに人気のある神楽だが、まだまだお子様体形のようだ。と身もふたもないことを考えていると、首に回された手に妙に力がこもってきた。そう言う勘の良さはさすがは女の子ということだろうか。


 今日は月も出ていない。真っ暗なはずだが、僕にとって暗闇はなんのペナルティにもならない。


 家の敷地内なら隅々まで把握している。もっとも、立ち入ることが出来ない神楽の部屋の中は別なので、ドアの前で降ろそうとする。


「やー、もうねるのー」


 こいつ、ほんとに高1か? 


「仕方ないか、今日だけだからな」


 とっととあきらめた。僕だって眠い。僕は神楽をベッドまで運ぶとさっさと自分の部屋に戻りベッドに倒れこんだ。


 僕もまた疲れていたのだろう。ベッドに倒れこんだということまでは覚えているのだけれど、直ぐに眠ってしまったのか、記憶が完全に途切れてしまっていた。


 その日、僕はたぶん初めて、色のある夢を見た。

 いつもの僕の夢は、音ばかりで構成されているのに、確かに夢を見たのだ。


 とても、とても楽しい夢だった気がする。

 誰かが、僕と一緒にいた。記憶にない、とても愛らしい声の女の子が。


「初めまして、あたしは――――」

ようやく、初日が終わりました。

ここまで読んでくださった方に感謝です。

ブックマークを付けてくださった方がいると、まだまだ未熟ですが頑張らなきゃという気になります。


 二日目から、ゲームの内容にも触れていくことになります。

 MMOである以上、他人とのコミュニケーションも必要となるのでしょうが、どのようなことになりますことやら。


 期待をせずにお待ちください。

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