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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
6/45

なぜか巻き添えでお説教を頂いたのに、メンテナンスがまだ終わらずに待ちぼうけをくらった件

「こら、神楽。行儀が悪い」


 母が、神楽をたしなめる。食事をしながら、端末をいじっていた神楽が慌てて電源を落とす。


「だってぇ……」


 上目遣いで抗議しようとするが、年頃の男子には通じても家族に通じるものではない。


「昨日も、お風呂入ってないでしょ?」


「シャワーは浴びたもん」


 あちゃーっと、僕は額を押さえた。こういう時は謝っとくに限るのに。


「お母さんも、ゲームをするな、と言ってるわけじゃありません。お母さんだって昔はゲーム大好きだったから、神楽の気持ちもわかります。だから、きちんとけじめをつけてやる分にはうるさく言うつもりはありません」


「かあさん、食事中だよ。お説教は食事のあとにしよう。せっかくの食事が冷めてしまう」


 口調は丁寧だが、これは厳しいお説教コースかもしれない。




「今日は、このくらいで勘弁してあげます。これからはきちんとした生活をした上でゲームを楽しみなさい」


 ようやく、お説教が終わった。食事が終わったのが7時過ぎ、お説教が終わったのが、9時。2時間のお説教はなかなかに精神的ダメージがでかい。というか、なぜ僕まで巻き込まれているのだろうか。


 極々自然に、「二人とも、そこに座りなさい」と命じられ、滔々とお説教がなされた。

 両親とも、ゲームには理解があるのは助かるのだが、その分けじめにはうるさい。


「お風呂も沸いたようだから、二人ともはいりなさい」


 父が風呂の準備をしてくれていたのだろう。僕たちに風呂を勧めてきた。


「じゃあ、お先に」


 神楽が勢いよく立ち上がろうとして、顔面からこけた。正座を続けていたためか、足がしびれてしまって、特に足首に全く力が入らなかったのだろう、見事なまでの顔面着地だった。


「いたい……」


 鼻を撫でながらつぶやく神楽。だが、どうしてもゲームに早く戻りたいのだろう、四つん這いで這いながら浴室の方へと向かっていった。


 僕は、というと、しびれた足をマッサージしながら、パーソナル端末から、ゲーム情報を呼び出す。


「むー、まだメンテ中か」


「あらあら、そういうとこ変わってないわね」


 母が笑いながら端末を覗き込んでくる。この両親、VRどころか、ARシステム以前の時代のゲーマーだったっけ。


 両親が、彼らがまだ学生だった頃のゲームの話をしてくれた。彼らの時代は丁度、MMO衰退期とも言える時期で、数々のゲームがリリースされたがほとんどが長続きしないか細々とサービスを続けていた時代らしい。お手軽なブラウザゲームや、携帯端末のアプリゲームが主流となっていたということだ。


 さして時間も経ったとは思えないが、神楽が入浴を終えて戻ってきた。


「カラスの行水だな。きちんと体洗ったか?」


「洗ったよー。お兄ちゃん、メンテはもう終わった?」


「いや、さっきまた延長の知らせが来てた。これは当分かかるかもしれないな」


「えー、運営何やってんだか」


 口をとがらせる神楽。学校ではそこそこの美少女で通っているというが、家庭内では変顔オンパレードだな。一度写真にでもとってばらまいてやりたいくらいだ。


「じゃあ、僕も風呂浴びてくるわ」


 僕は入れ替わりに風呂へ向かった。年頃の妹などは、男家族が自分と同じ湯に入るのは嫌がるとか聞いたことがあるのだが、この妹は全くそんなことは気にしていないようだ。あるいは、そんなことがどうでもいいくらいゲームに戻りたいのだろうか。


 男の入浴シーンなど回想するに値しないので、さっさと済ませて上がったとだけ告げておこう。


 リビングに戻ってきたのだが、そこに神楽の姿を認めて、まだメンテが続いているのだと確信する。


「ねえ父さん、父さんの時代もこんなのだったの?」


「そうだな、とりあえず大規模バージョンアップの後には定例で緊急メンテナンスが入っていた記憶があるな。もっとも、バージョンアップのような大規模な書き換えは、ピーク時を外していたからね。深夜に行われることが多かったな。それでも、バグなんかがよく見つかってメンテナンスアナウンスが流れていた記憶があるな」


 ARで構成されたネットワークゲームも同じような現象が起こったが、開発・運営も経験を積むことで次第にメンテナンスも減ったり、時間短縮したりできたという。


「民間VRの普及もまだまだなのに、いきなりこんな大掛かりなサービスだからな。こういうこともある。で、実際のところどんな感じなんだ?」


 どうやら父さんは興味津々らしい。それもそうだろう、父も母も姉が生まれる前までは結構なヘビーゲーマーだったと聞く。とすれば、27~8年前のゲーマーならばVRというシステムが技術的には可能・だが諸事情により開発断念、という時期を体験しているはずだ。その後、技術はVR:仮想現実から、AR:拡張現実へと開発ソースが移ったのは、僕らの世代ではよく知られた事実。


 ちなみに、ARに関しては、今世紀のはじめ、つまりは50年も前にはある程度の形になっていて実現は早かったという。

 FFOをプレイしているプレーヤーの多くが利用しているセミダイブ(もしくはハーフダイブ)と呼ばれるプレイ環境もまた、拡張現実を用いている。


「すっごいよ、実際に自分で武器を持ってモンスターを倒しているって感覚がするの。もう、夢中で遊んじゃった」


 神楽が鼻息も荒く答える。


「僕はまだオープニングが終わったところだけど、臨場感がすごいね。最初に空を飛んでいる視点から始まったんだけど、本当に空を飛んでるような感じがした。あのオープニングだけでお腹いっぱいになりそうだったよ」


「え? なにそれ?」


 答えたのは、父ではなく妹の方だった。


「なにって、オープニングシーンだけど?」


「そんなの知らないよ? 私のは、普通に門から冒険者になるために王都へ入ったところから始まったよ? なんか、慰問帰りの貴族のお嬢様とひと悶着しちゃったけど、特にすごいイベントとかはなかったよ?」


 妹は僕の方をじっと見ていた。あまり、よい傾向ではない。こういったケースでは特に。


「どういうことだ。オープニングイベントは複数あるのかな」


 僕は、僕が体験したオープニングを詳しく話した。というか、話させられた。


「ずるい。ずるいずるい! なんでそんなイベントになってるの?差が大きすぎるよ」


 ちなみに、神楽が得た縁は、【縁:貴族の娘アレーム】【縁:騎士アレフ】の二つらしい。


「これは流石に、不公平なのか?僕の縁は、【縁:ダイン】こいつはイベントで死んだ傭兵。【縁:アレーム】は神楽のと同一人物だろうな。あと、【縁:カルラ】かな」


「カルラって敵のボスキャラじゃないの? なんでそんなキャラと縁ができてるのよ」


「縁といっても、敵対関係だぞ? 敵として認められたみたいな感じで友好的なモノじゃない。下手するとマイナスの効果かもしれないじゃないか」


「それでも、ずるいの!」


 うーむ、どういうことなんだろう。こういう時はお約束ではあるが、ネットで調べるしかないだろう。


 調べてみると、丁度まとめサイトが立ち上がっていた。とは言え、まだ立ち上がったばかりで情報のとりまとめも進んでおらず、情報収集段階であるようだ。


 寄せられた多大な情報の中に、ふと見知った名前があった。


[オープニングは戦争イベント。嵐将カルラ登場。選択イベントで騙し討ちを仕掛けてみましたが、あっけなく返り討ち。ゲスを見下すような目で見られました。【縁:カルラ・唾棄すべき相手】を取得]

                      (投稿者:宝瓶宮・ウッディ)


 ウッディも、カルライベントだったのか。


 とは言え、ウッディの投稿への返信ツリーを見る限り、釣り乙だの、流石にそれはデマだのが書き込まれている。


「この人、お兄ちゃんと同じイベント?」


「みたいだ。しかし、騙し討ちとは流石ウッディさん。媚びるプレイに見せかけて仕掛けるとは」


 ウッディさんの元ネタから考えて、彼のプレイスタイルは盗賊系。騙し討ちは得意技なのかもしれない。


「知ってる人?」


「ん、まあね。ログイン出来なかった時間帯で、チャットルームで会ったよ」


 僕はそういいながら、自分もまた、カルラとの縁を得たことを書き込んだ。神楽の勧めもあって、ワールド名は記載したけれども、名前は匿名希望で出した。一応、ウッディさんにはわかってもらいたかったので、チャットルームでお会いしたことを記載しておく。


 僕はメモ帳を取り出して、その多数の書き込みからオープニングイベントの傾向を表にしていく。


「仮説くらいは立てられそうだな」


 データ量が増えるにつれて、明らかな傾向が分かってきた。もちろん、書き込みされた情報はそれぞれが勝手に書いているものなので正確さはわからない。だけど、それは基本的に数の中で整理されていく。


 寄せられたイベントの多くは何のことはない、冒険者を目指して首都へ入り、ちょっとしたもめごとに出会って、その場に居合わせた人物と縁を結ぶパターンだ。これは、早期にログインしたプレーヤーに多い。


 抽出された検体数が少ないので確証は得られないが、ログイン連打していた人たちはほぼ確実にこのタイプのオープニングに当たっている。


 また、初ログインの時間が遅くなってるプレーヤー(連打したと自己申告している人物は除く)の中にちらほらと、より上位の貴族や高名なNPC冒険者などと縁を結ぶケースが増えてきている。


 今のところ敵の将軍と縁を結んだプレーヤーの報告は、僕とウッディさんの二人だけだ。もっといるだろうけど、みんながみんなここにを見ているわけではないし、見ていたとしてもやっかみから注目されるのを避けたい人もいるだろう。


 僕とウッディさんの共通点と言えば、当然あのチャットルームだろう。ミニカルラの件もある。


「仮説? 聞かせてよ、お兄ちゃん」


「そうだな、多分オープニングにはレアリティがついていて、基本ランダムに振り分けられる。当然、レアなイベントほど出にくいわけだ。ここまではいいか?」


「うん、そうなんだ」


「お前、わかってないだろ。まあいいけど。でもって、このランダムの偏りは、ログインまでにかかった時間によって、よりレアが出やすいように調整されている。例外は連打した人たちだな。この人たちには、最初期にログインできた神楽たちよりレア度が低いイベントになりやすい」


「ふむふむ、それで?」


「僕や、このウッディさんがレアを引き当てたのは、チャットルームでそこそこ長い時間過ごしていたことがフラグになっているのかもしれないね。少なくとも、僕らのほかにチャットルームで過ごした人はいなかったし、たまに入ってくる人はいても、すぐに退室したからね」


「つまりは、チャットルームで過ごすと、レアオープニングに当たる、ということ?」


「仮説だよ仮説。確証はない」


 僕はそう告げると、ページを閉じた。


「うーん、そうだねぇ。ランダムならあえて作り直す必要もないかー」


「だな。……おや、どうやらメンテ終了時間が発表されたみたいだぞ」


 端末にメッセージが届いていた。メンテ終了時間は、23:30頃になるとのことだ。


「よーし、準備しなくちゃ」


「そうだな。明日は日曜日だし、今日くらいはいいかもな」


「お兄ちゃん、話が分かるねぇ」


「ただし、寝落ちはするなよ。さっき説教くらったばっかりなんだから、下手すると、VR禁止されてしまうぞ」


 僕は一応忠告しておく。まあ、いざとなったら僕がたたき起こしてやればいいだけだろう。


「その時は、ご迷惑おかけします」


 ……しっかり注意しておこう。多分、こいつは寝落ちするのだろうから。

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