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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
5/45

ようやくゲームスタートと意気込んだものの、まだまだ試練は終わっていなかった件

 空を飛ぶ。その快感は何物にも代えがたい。嗚呼、なんという快楽か。


 雲を裂いて、風を感じる。この感覚だけでも、先輩たちの陰謀に乗ってよかったと思う。


 おそらくこれは、オープニングイベントなのだ。


 しばし、この快楽に身をゆだねていたが、突然、雷雲が後ろから迫ってきた。隣を飛ぶ鷲に似た鳥が、甲高い鳴き声を上げた。それは、警告のように響いた。鳥は、速度を上げ、背後の雷雲から逃れようとする。


 いや、雷雲ではない。強いて言うなら、闇。


 闇が触手のようにうねり、僕たちを飲み込もうとする。僕と鷲は回避を続けながら、闇から逃れようとするが、やがて鷲はその闇に囚われる。


 精気を失い、落下する鷲。僕もまた囚われたのか、急速に落下を始めた。



 場面は変わり、僕は戦場にいた。今度は、間違いなく僕が作ったアバターに扮している。


「よう、リュート(相棒)。覚悟は出来ているか」


 隣にいたヒューマンの男が僕に声をかけた。視界の左隅にはテキスト文が用意されていて、声を発した男が、ダインという名前だとわかる。ちなみにテキスト文では、僕の名前のリュートと記されているが、男が発した言葉では、「相棒」と聞こえた。


 僕のアバターは右手の拳を握り、ダインの右拳と軽く打ち合わせる。イベントシーンでは基本的にオートで進むようだ。


「野郎ども、準備はいいか。祭りが始まるぜ、手柄の立て放題だ!」


 どうやら、僕は傭兵団の一員らしい。団長の掛け声とともに僕たちは突撃を開始する。


 敵は、小柄な人型のモンスターが主力で、これは極めて弱い。イベントシーンだからか、僕も弓ではなく剣を振るってそのモンスターをなぎ倒していく。


「もろい、もろいなぁ。闇の軍勢なんて所詮こんなものよ」


 傭兵隊長が嘲りの言葉を上げる。ああ、これは死亡フラグじゃないのか?


 案の定、どこからともなく飛んできた大剣が彼の体を貫通して地面に突き刺さる。倫理規定のためか、血が噴き出すようなことはなかったが、隊長は馬から転げ落ち、そのまま動かなくなった。


 次の瞬間、ものすごい風が巻き起こり、その風が収まった時、地面に突き立つ剣のもとには長い緑色の髪の女騎士が背を向けて立っていた。


「やれやれ、です。少し遊んでやるとすぐに調子に乗るのがニンゲンの悪い癖ですね」


 女騎士は2メートルはあろうかという大剣を片手で引き抜き、担ぎ上げた。


 ごうっという音がしたと思った時には、騎士は剣を振りぬいていた。剣圧が風となり戦場を蹂躙する。


 仲間の妖魔ごと、その一振りで数十の兵士が倒れた。


「なんてことだ。まさかここまでの強さだとは……嵐将カルラ、か」


 ダインがつぶやく。そして僕の方を振り返り言った。


「逃げろ、リュート(相棒)。アレは化け物だ、俺たちのかなう相手じゃねぇ」


 そういいながらも、ダインは剣を握りしめる。彼自身は戦うつもりのようだ。


 不意に周辺の時間が止まった。


〔システムメッセージ:イベントシーンでは、いくつかの場面において、行動の選択が可能です。

 あなたの行動によって、イベントの結末が変化することもあります〕


 視界の片隅に、〔Selection of Fate〕という文字が浮かぶ。


 どうやら、この文字が浮かぶと行動選択ができるらしい、が選択肢が出るわけではないようだ。行動で決めろということらしい。


 おそらくは、ここで逃げるか戦うかを選択するのであろう。僕は少し考えてから決断する。


 踏み出す足は、前へ。


「お互い、馬鹿野郎だな」


 ダインがそう告げる。


 僕=リュートは頷き、カルラへ向かって走り出した。


「俺が注意を引き付ける。お前はその隙を付け!」


 ダインは僕の前に出て雄たけびを上げながら女騎士へと斬りかかっていった。その叫びに、女騎士はゆっくりと振り向き、無造作に、しかし神速で剣を突き出した。


 ダインの体を、剣が貫く。


 だが、ダインは倒れなかった。自らを貫いた剣を抱くようにして、女騎士からその剣を奪う。


「ほう、なかなか見上げたものです」


 女騎士はそう呟く。その隙を、ダインの背後の死角から僕=リュート飛び掛かり、彼女に剣を叩きつけた。激しい音がして、彼女の兜がはじけ飛ぶ。PVで見た妙齢の美女の顔が露わになる。


「惜しかったですね」


 ゴツゴツとし装丁の籠手を着けた右手が伸びてきて、僕の喉を掴む。仮想体験で、苦しくないはずなのに息が出来ないような錯覚がする。


「だが、見事です。私の兜を打ったのはこれで二人目ですよ。死ぬ前に、わたしに名を告げる栄誉を与えましょう」


 〔Selection of Fate〕


 ここでも選択肢か。


 僕は、相棒と自分の名を叫んだ。既に相棒は事切れていたからだ。


「ダインとリュートですか。良き名です。あなたたちの名、確かにこの胸に刻みました」


 そういいながら、女騎士は空いた左手でその豊満な胸を押さえた。

 全体的にごつい鎧を着ているのだが、胸元が大きく空いていたり、おへその部分が丸出しだったりといったセクシーさも前面に押し出しているのが特徴だ。


 というか、オーガで作成した僕のアバターの身長は2メートルを超えていて、体格からすると体重は150キロはあると思うのに、それを右腕一本で釣り上げてる女性キャラというのもなんともシュールだ。


「では、さらばです。死して闇の眷属として生まれ変わりなさい」


 片手で軽々と僕を振り回し、谷底へと放り投げる。僕は殆ど抵抗も出来ずに谷底へと落ちていく。


〔Selection of Fate〕〔00:10〕


 この状況で、選択肢がでるのか!


 しかもカウントダウンしているし。つまりはその時間内で何かしろというのか。


 打てる手はいくつもない。辛うじてまだ握りしめている右手の剣。これを手放して落下に備えるか、それとも……


 僕は、思いっきり振りかぶってから、剣を投擲した。このイベントの最中は、所持スキルなどは関係ないということは、剣を使っていたことからわかっている。

 投擲された剣は、まっすぐに女騎士に向かい、その肩に激しく打ちつけられた。甲高い金属音がして、騎士の肩当がはじけ飛ぶ。


 視界が遠ざかっていく。谷底へと落ちていく。水しぶきが上がり、濁流にのまれる。


 視点が再び、アバターから離れ、第三者視点へと移る。少し高いところから、女騎士を眺めることが出来る。


「カルラ様、お怪我はありませんか」


 ザ・副官といった感じの男が駆け寄って女騎士の心配をする。


「大事ありません。肩当が砕かれただけです。それより戦況はどうなっています」


「はっ、この地に配置されていた傭兵はほぼ壊滅させました。エンパイア騎士団は後退、谷にかかる橋を落として我らの足止めを企てた模様」


「わかりました。こちらも兵をまとめ後退、シュバルツフォルトで陣を立て直します」


「はっ。……先ほどの男、とどめを刺さなくてよかったのですか」


「よい。もし生き残って我が前に再び立つのであれば、それもまた一興ではありませんか」


 妖艶な笑みを浮かべ、カルラと呼ばれた女騎士、将軍は踵を返した。

 僕の視点もまたゆっくりと遠ざかってゆく。



〔システムメッセージ:【縁:ダイン・死を看取ったもの】を取得しました〕

〔システムメッセージ:【縁:カルラ・敵対関係】を取得しました〕


 縁、か。FFOの楽しみ方の一つに、この縁の収集というものがある。ゲーム内のキャラクターとのかかわりによって得られる称号のようなものらしい。オープニングから敵のボスクラスとの縁というのはどうだかな、とも思うが、ある意味プレーヤーの攻略意欲を刺激するためのものなのかもしれないな。


 視点が変わり、一回真っ暗になってから急に視界が開けた。目を開けた途端広がる青空。なにか激しく揺れる乗り物に横たわっているらしい。


「あら、目を覚まされましたのね」


 涼やかな声。


「アレーム様、素性の分からぬものに不用意に近づきなさいますな」


 騎士がその声の主をたしなめる。


「貴様は運がいい。アレーム様のお慈悲がなければ、貴様は河岸に打ち上げられたまま屍をさらしていただろうからな。大いに感謝するがいい」


「あまり脅かしてはいけませんよ。ねえ、あなた。お名前はなんとおっしゃるの? ……そう、リュートとおっしゃるのね。もし、あなたが望むなら、エンパイアへいらっしゃい。今、エンパイアは一人でも多くの勇士を求めています。戦うだけではなく、職人や採掘者、なんでもです」


 アレームと名乗った少女は僕に右手を差し出した。隣に控える騎士はあまり良い顔はしていないようだ。


「あなたが望むなら、わたくしが口利きをして差し上げます。どうしますか?」


〔Selection of Fate〕


 僕は、少女の手を取った。エンパイアで冒険者になる。それはゲームの第一段階だ。是非もない。


〔システムメッセージ:【縁:貴族の娘アレーム・パトロン】を取得しました〕


 そして、僕は、エンパイアの門をくぐった。

 冒険の始まりである。




 オープニングイベントが終わると、街の中心の広場に立っていた。

 人混みがすごい。見渡す限り、人、人、人、である。中には道のど真ん中に座り込んでいる人も見かける。こんなに混んでいては歩くのも一苦労かもしれない。と思ったが、実際にはそうでもなかった。人とぶつかると、一瞬動きが阻害されるが、その後相手の体を素通りできる。それでもあまり気持ちの良いものではないので、ぶつかりそうになるとお互いによけたりするようであるが。


「これはまた、人酔いしそうだな」


 僕のアバターの身長は非常に高い。というか、作れる範囲では最大の身長である。そのため、この人混みから頭一つどころか三つぐらい抜けているため、あたりを見渡すことは出来る。


 後ろを振り返れば、見事なつくりの教会が建っていてこれがお昼に神楽と待ち合わせしていた教会なのだろう。ちなみに、教会は死に戻りの復活ポイントでもあるらしい。


 さて、とりあえず何から始めよう。僕はようやく、ようやく第一歩を踏み出す……






 はずだった。


〔システムメッセージ:緊急メンテナンスのお知らせ。

 本日、17:00より、全エリアの緊急メンテナンスを行います。

 まことに申し訳ありませんが、時間までにログアウトをお願いします〕


 時計を見る。

 16:46


 僕は、がっくりと、地に手をついた。



そろそろゲームさせてあげたいですね。

もう少し初日の混乱は続きます。

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