楽しい時間は、いずれ終わるということを知った件
何といえばいいのか……
僕たち兄妹がリアル般若によってログイン禁止令が解かれたのは実に三日後のことであった。
約束を違えた以上仕方のないことではあったけれど、それによって今回のイベントの結末を見ることが出来なかったのは痛恨の極みであった。
幸いなことに、イベント自体のランキングや報酬は、イベント終了後にも受け取ったりすることができるようで、巨大モンスターイベントでの大盤振る舞いが無駄になることはなかったのは救いである。
ちなみに、総合評価では完全にランク外であったものの、各モンスター個別でもランキングが行われており、レヴィアタン戦においての総ダメージ量で、嬉しいことにトップを取ることが出来ていた。
もちろん、これば僕が単独でなしたことではなく、バフを掛けた強化術師や矢弾を補給してくれた職人さんたちがあってこその話である。
実際、彼らもまたそれらの部門でかなりの高評価を叩きだしていたので、手柄の独り占めなどという格好の悪いことにならずに済んだのは幸いであろう。
総合評価においては、恐ろしいことだが、先輩がトップスリーに入賞していた。
彼女の恐ろしいところは、個別モンスターでの評価においては殆どがランク外だったということである。それが何を意味するか……
彼女は、全ての巨大モンスター……レヴィアタン・クラーケン・ミドガルズオルム・クトゥルフの4体とのイベントに参加していたためだという。また、彼女自身のスキル構成が自己完結型……つまり、個人で攻撃・防御・強化・回復を修めているため、僕の与ダメージのように突出したポイントがない代わりに、いろいろなタイプのポイントを満遍なく稼いでいたこともあるようだ。
……あの人は、いつ寝てるんだ?
そう考えたら負けのような気がする。あの人に関しては常識というものは当てはまらないのはよく知っている。
今回のイベントは、正直に言えば不完全燃焼というやつだった。もちろん、まだまだ養われている身で親との約束を違えた僕が悪いのだけれど……
だけれど、これからもいろいろなイベントがあるのだろうし、こだわっても仕方がないと思っていたんだ。
夏も終わりに近づき、長いはずの夏休みも過ぎ去ってしまえばあっという間だと感じていた。
思い返してみれば、この頃から異変は始まっていたのだと思う。
色々な前兆はあった。
イベントが終わったころから、ヒメさんを見かけなくなった。
ほぼ同時期に、新田のおじさんと連絡が取れなくなった。
おじさんの勤め先である研究所に国連の査察が入った。
国際情勢が非常にきな臭くなった。
気づいたからと言って何かできたわけじゃないのだけれど。
それでも、何か出来たんじゃないかと思うんだ。
世界は、僕の知らないところで動いていた。僕のようなただの学生が世界の裏側は知ることなどありえないのだけれど、世界は確実に、悪い方向へ動いていた。
その間、僕は、僕たちは何も知らずに、いつも通りの生活をしながら、ゲームを楽しみ……
そして、後悔することになった。
時は流れ、冬になり……
ある日を境に、先輩が姿を消した。
その日になって、僕の周りで何か起こっているのだと自覚した。
だけど、何が起こっているのかわからなくて、僕はいらいらしていた。
さらに時が流れ、春になったころ……
行方知れずだった新田のおじさんが僕の前に現れた。
ひどく痩せて身につけている服もボロボロで浮浪者かと思うほどの酷いありさまだったけれど、ギラギラとした目で僕を見て、徐に切り出したんだ。
「すまない、龍斗。お前を巻き込むつもりはなかったんだが、もはや手段を選んでいる時間は無くなった」
今までに見たことのないおじさんだった。
「ヒメを、助けてやってくれ。お前にしか頼めないことなんだ」
ここで、ひとまず僕のVR体験記を終えようと思う。
ここから先は、別の物語となるからだ。
僕は、おじさんの願いを受けた。
なぜなら、もう二度と姫から逃げないと誓ったから。
姫が助けを求めているのなら、僕は、行かなければならない。
世界がどうだとか、それは良く分からないのだけれど。
ただ、分かっているのは、僕じゃなければ行けない場所に、今あの娘がいる。それだけで、充分だった。
僕は、おじさんに導かれるままに、進みだす。
未知なる領域への、第一歩を。
ひとまず、区切りをつけようと思います。
いろいろと生活環境が変わってまとまった時間が取れなくなってしまいまして。……言い訳ですね。
着地地点自体は、書き始めた当初から変わらないのですけれど、新田親子が身を隠したあたりの「異変」編を端折りました。
生活リズムが安定したら、深奥での出来事か、もしくはこの後に起こる世界についての話を書いてみたいと思います。
ここまで、わたしの拙い作品を読んでくださった全ての方々に感謝を。
ありがとうございました。




