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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
夏のイベントでの思い出
42/45

強弓使いなんて、僕ぐらいのものだと自惚れていたけれど、そんなことはなかったことを思い知った件

 戦況は、戦術とかそういうレベルの問題ではない状態だ。

 水着の特殊効果で、今回のお祭り内で実装された食事の効果がとても強力なものになったとはいえ、それでも海竜の攻撃が尋常ではないことに変わりはない。

 また、デスペナがないということは逆に考えれば、モンスターの攻撃力をプレイヤーがクリアできるレベルに調整する必要がないということを暗に示している。

 実際、バーベキュー効果で防御力も格段に上がっているにもかかわらず、アタッカー仕様のキャラクターは、ブレスやかぎ爪の直撃などを喰らえばものの数発でHPを溶かし切ってしまっている。また、タンク仕様のキャラクターも、自慢の装備品がないためか、いまいち脆い。

 現状、まだ戦場が海上ということもあって、防御力特化した装備品を使うことが出来ないのが痛手のようだ。

 その中でひと際目立って活躍しているのが、オーガ軍団である。

 海上での戦闘に限っては、殆どのプレイヤーが水着+食事効果を頼りに戦闘を繰り広げているのだが、そうなると、素でHPが異常に高いオーガプレイヤーたちが入れ代わり立ち代わり壁を務めているのが見て取れる。

 輝いてるなぁ。僕もそっちに行くべきだったか?

 僕は海岸線上にに立ち、強弓を引き絞る。自動的に〈剛力〉スキルが発動し、スタミナが大きく削られる。

 これが、この弓の欠点の一つだ。通常の手持ち武器の攻撃や、〈剛力〉を必要としない弓ならば、アーツを使用しなければ、攻撃に要するスタミナは戦闘中の自然回復量よりも少なく設定されている。そのため、通常の武器ならば、アーツの使用を除けばスタミナポイントの消費に目くじらを立てる必要はない。

 だが、この弓だとそうはいかないのだ。クールタイム毎に弓を射ると、スタミナの回復量を消費量が上回ってしまい、下手を打つとスタミナが0以下になり、「疲労」という状態異常が発生してしまうのだ。

 「疲労」になってしまうと、スタミナの回復量が目に見えて落ちる。それこそ、本来なら気にする必要のないオートアタックでも、スタミナの消費量が回復量を上回ってしまうくらいに。


「だけど、その分威力は折り紙付きなんだよな」


 僕はそう呟くと、矢を放つ。狙い過たず、海竜の眉間に矢は直撃する。

 隣で魔法の到達距離まで待っている魔法使いタイプのプレイヤーがギョッとした視線を向けてくるのが微妙に心地よい。

 さもありなん。まだまだ魔法の射程内には入ってこないモンスターにこちらの攻撃が届いたのだから。


「バフ入れます、がんがんいっちゃってください」


 少年系キャラクターの魔法使いが、僕にそう話しかけてきた。

 今度は僕の方が驚かされてしまった。これまで、〈閃光〉や〈ピカレスク〉のメンバー以外にそんなバックアップを受けたことがなかったから。


「ありがとう、助かる」


 僕が答えると、魔法使いは、【ストレングス】【シャープアイ】【アジリティ】といった基本強化魔法を次々と僕にかけてくれる。どうやら、攻撃魔法一辺倒ではなく、強化魔法もしっかりと伸ばしている万能タイプのようだ。


「いえいえ、どうやら仲間へのバフも評価対象のようだから、がんがんいっちゃってください。あなたが活躍すればするほど、俺にも評価ポイントが付くんですから」


 そういう仕様か。そうか、そうだよな。ダメージ量や被ダメージ量、回復量のように目に見える数字だけを評価するのなら、バフ、デバフをメインにするプレイヤーはポイントが稼げないことになってしまう。どうやら、そんな評価の仕方はしないらしい。


「そういうわけなんで、アレが魔法射程に入るまで、適当にバフいれますよ。ポイント目当てだから、関係ないのも入れちゃうけど、気にしないで」


「むしろ、そういう打算まみれの方がわかりやすくていいね。じゃあ、支援よろしく」


 僕はそういって再び弓を引き絞る。強化魔法の効果もあってか、先ほどよりスムーズに引くことが出来たし、ターゲットをロックするまでの時間も短くなっている。

 そして、放つ。イメージ通りの軌跡を描き、矢は巨大モンスターの右目に突き立った。


「手ごたえはあるんだがなぁ」


 武器での攻撃は、その命中段階によって手ごたえが返ってくる。弓のような射撃武器でもそれは同じであるのだけれど。

 確実なフルヒットの手ごたえはあるのだけれど、海竜のHPは減ったようには見えない。


「人数制限のないバトルイベントだからじゃないか? ひょっとしたら、億単位のHP持ちなのかもしれんね」


 いつの間にか僕の近くでクロスボウを構えていた渋い男性キャラクターがいう。

 彼の持つクロスボウは、ウィンドラス式クロスボウという名の武器である。一言断って、性能を確認させてもらったところ、恐ろしいことに、僕のロングボウに匹敵する性能だった。


「くっくっく、秘蔵のこいつを使う日がやってこようとは」


 ウィンドラス式クロスボウは、弦を引き絞るのに基部に設置された巻き上げ機を使うタイプのものだ。射撃準備ができるまでの時間は非常にかかるものの、その威力は僕の弓に引けを取らない。しかし、巻き上げてしまえは、僕の弓のように〈剛力〉が必要というわけでもなく、使い勝手は良さそうだ。


「わかるわかる。僕も今日が初公開だよ」


 僕の弓は、いわゆるロングボウなのだけれど、その生産過程において大成功をおさめたためか、上級変化が起こり、異様に強く、強いがためにまともに使うことすらできない武器と化した。

 少しばかし調べたのだけれど、ロングボウの中には、その弓力が90kgwに達するものもあったという。それを再現しているのだろうと勝手に解釈しているのだけれど、生産に大成功をおさめたのに、普段使いが出来ない無駄に強いものが出来てしまったのは皮肉なものである。


 僕たちのように、海に入らない者は、海岸線沿いに集まり始めている。その中で、僕とクロスボウの彼の周りにはぽっかりと人のいない空間が出来上がっている。下手に僕らの射線に割り込めば、大変なことになることはわかっているからだろう。


 戦況を確認する。

 僕や弩の彼……ロビンと名乗った……の攻撃の直撃を受けてもHPバーが殆ど動かないような化け物HPの持ち主である海竜も、決して無限のHPを持っているわけではないようで、ほんのわずかだがダメージを受けているのは見て取れる。実際、何十人ものプレイヤーが吶喊を繰り返しているのだから、多少でもHPが削れてもらわなければ、流石に困る。

 前線を支える、オーガの突撃隊とタンク部隊も奮戦しているものの、少しずつ押されるように、海岸側へと下がってきている。


 あ、ヴァイスさんが沈んだ。


 パーティを一緒させてもらった時、あれほどまでに頑健だった彼女ですら、引き際を見誤ったら、一瞬で溶けてしまうのか。

 即座に、ホームへの帰還を行うヴァイスさん。

 ちなみに、このイベントの最中だと、一時的にこの島にホームが移されているため、直ぐに戦線復帰が可能となっている。そのため、戦闘不能になったら、ヒーラーによる蘇生を待つより死に戻りした方が戦線復帰は早い。

 どちらかというと短慮なタイプの我が妹は、結構な割合で死に戻りを繰り返しているのは知っている。

 ヒーラーのメロンソーダさんが完全にヴァイスさんに付きっ切りなもので、アタッカーであるミネアたちに回復魔法を飛ばすだけの余裕がないということもあるだろう。


「矢、足りるかなぁ」


 ぼそりと、声を漏らしてしまった。スタミナ消費の関係で多少抑えて矢を射ているものの、本気の矢はそれなりの値段がするため、数は少ない。通常のボス戦に使う分には十分すぎるほどの用意はしているのだけれど、こんなHPの化け物を相手にするのは想定外というところだ。


「おい、矢が足りねぇってよ!」


 誰かが声を上げた。


「おう、俺が作るっす!」


 そして、それに誰かが答えた。なんだなんだ?


「いや、悪いよさすがにそれは」


 僕は慌てて否定する。だが、どうやら木工職人であるプレイヤーがそれをまた否定してくる。


「職人のポイント稼ぎは、タグ付いた状態で作ったアイテムを使ってもらうのが一番なんだよ。例えば、あんたが、俺の作った矢で与えたダメージの評価ポイントに比例したポイントが俺に入ってくるんだ。そういう仕様だから、むしろ、このイベント中に作ったアイテムをバンバン消費してほしいんだよ」


 そういうことか。それはまさしく、Win-Winの関係と言えるのではないか。


「そういうことなら頼む。助かるよ」


「あ、そういうことなら俺の分のボルト(クロスボウ専用の矢)も作ってもらえないか?」


「任せとけ。そっちは俺が引き受けた」


 なんとなくうれしくなってくる。ひょっとしたらこのイベントが終わったら元に戻るかもしれないけれど、遠隔武器使いがこんなに優しくされたことなど、過去にはなかった。


「警告! 警告! モンスターの強力なアーツ攻撃で、タンクが一掃された! 上陸されるぞ!」


 その声に、慌てて戦場を見渡す。まだまだ距離があるとはいえ、今現在、モンスターの足止めをする壁役のタンクたちが一人もいない。

 そして、どうやら海竜は上陸することが最優先なのか、そこそこヘイトを稼いでいるはずのアタッカー陣には目もくれず、ゆっくりと島の方へと進路を取っている。とはいえアタッカーを無視しているわけではなく、振り返りもせずにその長い尾で背後にまわったアタッカー陣を薙ぎ払ってしまう。


「どうする、あんちゃん。このままじゃ乱戦になるぜ。そうなったら俺たちはあまり歓迎されないかもしれないぜ」


「そうだなぁ。……なあ、ロビン。あんたもそんなド級のクロスボウ使うくらいなんだから、遠隔スキルの高さは十分なんだろ?」


「たりめぇだ。そうじゃなきゃ、こんなデカブツ扱えっかよ」


 しばし、考え込む。これはむしろ、チャンスなのではないか?


「失敗しても失うものはそんなにないか…………よし、僕はこのまま攻撃を続けよう。職人さんたちのポイント稼ぎにも貢献してやりたいし、なにより、それなりのスキルがあれば、誤射などそうそうないことをここでアピールする」


「ほっほぅ? もっとぬるい性格だと思っていたが、案外過激だな。だが、嫌いじゃない。俺としても、射撃武器をもっと前面に打ち出したいからな、乗ったぜ」


 ……やはり、このひとの名前は、ロビン・フッドからか。もし、アク鯖出身だったら、〈ピカレスク・ロマン〉にスカウトされたかもな。


「じゃあ、やろうか。僕らにしか狙えない光景を見せつけに、ね」


 僕とロビンは拳を打ち合わせる。……タイムラグが殆どなかったな。ということは、ロビンもひょっとしたらフルダイブプレイヤーなのかもな。

 

 ここで、僕らの価値を引き上げておきたい。そのためには、出し惜しみはなしにしよう。

 僕は装備品欄を開き、矢筒を切り替えた。そして、アイテム欄から僕の錬金術スキルで作れる中で、最も強い効果のある「溶解液」を取り出した。


「なんか、面白れぇことしてるな」


 興味深げにロビンが僕に視線を向ける。


「簡易毒矢製造機ってところだよ。でもって、今から使うのは、相手の防御力を低下させる毒薬」


「……ああ、溶解液か。短剣系装備に使われるあれだろ?」


 ……まあ、溶解液は秘蔵というわけじゃないし、知っててもおかしくないか。


「クォレル矢にも毒系の付加はあるんだが、金額が高くてな。矢の威力も低いからそんなに使うことはないと思っていたが」


「多用はできないね。この矢筒も錬金術で作るんだけれど、この矢筒に毒を入れると、毒矢製造機の完成なんだけど、場合によっては、破損するからなー。素材も結構なレアリティがあるから、できれば秘蔵しておきたかったアイテムではあるな」


 矢筒の準備をしながら説明をしていると、ピコン、という音とともに、自動的にトレードテーブルが開く。どうやら、職人さんが矢を用意してくれたらしい。僕は少し考えて、カバンの中に常備しているアローブランチをテーブルに乗せた。

 もちろん、打算である。職人さんに素材を回すことで、より多くの矢が回ってくれば、僕にとっても職人にとってもいいことだろう。

 テーブルに乗せられた職人さんからの矢は、銀の矢だった。僕の木工スキルではまだ作ることが出来ないレベルのものだ。


「じゃあ、やるか。わかってると思うが、狙いは頭だぞ。頭を狙う限りでは、そうそう誤射はおこらねぇからな」


「もちろん」


 僕は、そう答えながら早速銀の矢を毒矢筒にセットし、弓を構えた。そんな僕らの体を、強化魔法の淡い光が包む。


 さあ、狩りの時間だ。

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