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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
夏のイベントでの思い出
41/45

ついに使う機会に恵まれた、「ぼくがつくったさいきょうのぶき」についての件

「騎乗戦闘が出来るプレイヤーは騎獣でまわり込め! 上陸させるな!」

「魔法使いは属性弱点を探ってくれ! デバフもひととおり頼む!」

「うわぁぁ! 攻撃力高杉、一撃でHP8割もってかれたぜ」


 既に激しい戦闘が始まっていた。


「始まっているねぇ。どれ、タグNPCはどこかなっと」


 あたりを見回すと、海岸沿いに前半イベントでは見かけなかったオーガNPCが立っていた。オーガなのは、おそらく周りより頭一つ抜ける高さがあるため、目立つからなのかもしれないと思う。試しに、視点を定めてターゲットロックすると、グラント大尉というネームと、その名前の前に剣を二本組み合わせた形のアイコンがついていた。


「あのオーガね。お兄ちゃん、行こう」


「ちょいまち。イベント中デスペナが発生しないなら、レンタルルームに保管している本気弓取ってくるわ」


 そういった瞬間、〈閃光〉のメンバーが固まった。


「……おにいさん、本気装備? いつものは、そうじゃないの?」


「ん? ああ、僕は基本ソロだからね。性能から考えたら、デスペナでロストしたらショックがでかいので、本気装備は倉庫にしまってるんだよ。通常のバトルだと貫通属性が強すぎて、マイナス要素も強いってこともあるしね」


「あれよりも、強い武器、ですか」


 ヴァイスさんが固まっている。〈閃光〉の面々は、〈ピカレスク・ロマン〉の連中ほどではないけれど、エモーションの使い方が上手い。そんな彼女たちがエモーションコマンドを忘れて呆けるなど、なかなか見られる光景ではないな。


「弓の場合、強すぎても意味がないんだよね。貫通してしまったら、ダメージ値に比例したダメージより低くなるし、そもそも、貫通してしまって後ろの他のモンスターに当たってしまったら目も当てられないからな」


 僕も、あの弓を作成する際、出来る限りの準備をして臨み、しかも運が味方したのか、生産に大成功が発生してより強力な派生武器へと変貌したのは驚いたのだけれど。そして、喜び勇んでその弓を使おうとしたら、技量不足で装備不可だったのに愕然とした覚えがある。


 僕が作った弓の中では最高の代物で、装備に〈長弓〉スキル400と、〈剛力〉スキルが必要となっていたため、作成当時の僕には装備が出来なかったのだ。あれだけ必死にスキル上げしたのは後にも先にもあのときのみである。ちなみに、〈剛力〉スキルは〈筋力強化〉スキルの派生スキルだったため、取得にえらく手間取ってしまったのは、いい思い出でもあり、悪夢でもあった。


 どちらにせよ、こんな時にしか使い道のない弓である。矢も本気モードで行くつもりなので、ダメージディーラーとしてはまあそこそこのレベルにはなれるはずだ。

 しかし、強すぎて通常使いが出来ない武器なんてのは運営の陰謀を感じずにはいられないね。


 さて、と。

 武器は本気装備を引っ張り出したが、防具はどうするべきかね。正直言うと、自分がもっている最強の防具を装備しても、おそらくはたいして役には立たないような感じがするんだよね。

 今前線で戦っているプレイヤーたちの実力はどの位なのかわからないけれど、明らかにタンク仕様のプレイヤーがほんの数発の攻撃を受けただけで溶けてるんだよね。

 ちなみに巨大モンスターは、おそらくはドラゴン。おそらくは、というのは、実際にある程度近づいて直接ターゲットをロックしないと正式なモンスター名はわからないから。基本的には海中にその全身の殆どを沈めていて、頭部だけを海面に出している。それだけだと、巨大海蛇ともいえるかもしれないが、ブレス吐いてるし、魔法も使っているのが見える。


「ま、水着のままでいいか。どうせデスペナなしだしな」


 誰が聞いている訳でもないのだが、言い訳じみた感じになってしまった。

 まあ、妹たち〈閃光〉のメンバーや大陸渡りを達成した先輩たちと比べたら貧相な装備だからな。比べられたくないという心理も働いているのかもしれないな。


「すまん、待たせたか?」


 一通りの装備を整え、NPCのところに戻ると、既に〈閃光〉のメンバーは戦闘を始めていたようだった。


「待つ意味はないから、既に始めている」


 淡々としたツッコミに僕は少し目をそらしてしまった。照れ隠しに、なにか食事アイテムを摂ろうとアイテムを確認すると、いつもは幾つかスキルアップのためなどに作った品があるのだが、情けないことだが、すっかり忘れてしまっていた。イベント期間中だったこともあると自分に言い訳。

 カバンの中にあったのは、前半イベント中に作成した、海鮮バーベキューか3つあるのみである。そういえば、水泳などのスキルアップ効果もあったはずなのでとりあえず照れ隠しも兼ねて、アイテムとして使用する。


「ん? あれ?」


 違和感があった。


「どうしたの、おにいさん」


 ヴァイスさんが無表情のまま首を傾げる。


「いや、なんか食事効果が変わってる? みたいな?」


 原因が何かとステータス画面を開くと、大幅にSTRとVITの値が上がっていた。


「なんじゃ、これは?」


 さらに、原因を探ってみる。あまりの食事効果にひょっとしたら何らかの不具合が出ているのかもしれないと焦ったのだ。

 こういった、ネットワークゲームの場合、バグによって不正な利益を上げた場合、運営からの処罰の対象となりかねない。正直焦ってしまった。

 ふと、水着のアイテム説明欄に、見慣れない「潜在効果」という項目が付け足されているのに気が付いた。


【潜在効果:イベントタグ取得状態で、特定の調理アイテムの効果大幅アップ】


「これが原因か!」


「いきなり大きな声出さないでよお兄ちゃん。死に戻りで鬱気分なんだから」


 既に何も考えず突っ込んでいった我が妹はあっさりと返り討ちにあい戻ってきたようだった。

 僕は、そんな妹たちに気が付いたこの潜在効果について伝える。すると、みんな顔を見合わせてから、


「おにいさん、ぐっじょぶ」


 と宣った。


「これは、共有すべき情報だね。……お兄ちゃん、チャットモードを〈大声〉に設定して、みんなに伝えてあげてよ」


「僕が、かい。少し恥ずかしいな」


「今はお祭り。みんなで楽しまないとだめ」


「じゃあ、やるか。えっと、チャットモードを設定しなおしてっと」


 僕はチャットモードの切り替え画面を呼び出して、声が届く範囲が最大となる〈大声〉を選択する。


『みんな! 聞いてくれ! 水着の追加効果で、タグつけている最中、海鮮バーベキューの食事効果が大幅に上がっているぞ!』


 僕の声に、いろんなところから返答が帰ってくる。ちなみに、〈大声〉モードだと、どの辺から声がするのかははっきりとわからなくなる。ただ、いろんな方面から声が上がっているのはわかった。その多くは、よく気付いた、という称賛や、お礼の言葉だった。

 なんとなくこそばゆい。だが、悪い気はしない。


『今から、〈閃光〉が前面に立つ! 食事効果を受けていない者は、態勢を整えて!』


 ミネアが叫び、同時に水着姿の見目麗しい一団が前面に立つ。特に、前衛を張る近接戦闘メインの、ミネア、ヴァイスさん、にゃんこさんの三人は、それぞれのイルカを呼び出して、騎乗戦闘を開始する。


「使いこなしてるなぁ、あの子たちは」


 正直、驚きの連発である。騎乗戦闘など、このイベントが始まるまで眼中になかったろうに。


「どれ、僕もやるか」


 僕は武器の関係から、騎乗戦闘は無理である。だから、海岸で固定砲台となろう。


「さて、わたしも行きますね」


 そういって、僕を追い越し海へ入っていくのは先輩。


「アンナ様、お供します!」


 いつの間にか、舎弟モードになっていた剣士君がその後に続く。

 先輩は自らのイルカを召喚すると、それに跨り…………


「なーっ!」


 僕は思わず、声を上げてしまった。

 先輩が取り出したのは、刀でも槍でもなく、弓、それも僕の弓よりも大型のものであった。

 武器カテゴリ「和弓」

 長弓に分類される弓の中で唯一、騎乗射撃が可能な武器。

 だが、和弓を使うにはおそらくは、大陸限定スキルが必要となるはずだ。となると、先輩の弓系スキルの腕前は、僕以上ということになる。


「なにを呆けているのです? しっかり援護頼みますよ」


「え、あ、はい」


 僕は頭を振って、邪念を振り払う。先輩ならそういうこともあるだろう。


「アンナ様が弓……」


 剣士君も呆然としている。まあ、さもありなん。弓使いは嫌われているからな。


「なんと、美しい……」


 おいこら、なんじゃそれは。

 いやまあ、気持ちはわからんでもないが……すごく様になてるしな。


「我らの女神に続け! 総員、吶喊!」


 剣士君が叫ぶと、背後から怒号のような「応!」という声が聞こえた。振り向くと、野郎どもが武器を掲げて次々と海に飛び込んでいくのが見える。

 ノリいいな、お前ら。


 見回していると、職人系プレイヤーやレベルが低いプレイヤーたちはどうやらバーベキュー作成に舵を切ったようだ。海鮮バーベキューは実をいうと〈調理〉スキルが無くても作ることが出来る。正確に言えば、前半イベント内で、ポイント交換でイベント限定でのスキルを得ることが出来るため、事実上全てのプレイヤーが作成可能なのだ。

 また、職人としてのプレイスタイルが合わないような低レベルプレイヤーは、潜水系のイベント限定スキルを駆使して材料の魚介類を捕る方向へと動く連中もいるようだ。確かに、低レベルでは近づくだけでも即死しかねないほどの攻撃力が相手にはある。その中でやれることをやるのは大切なことだろう。それが、ポイントになるかどうか、だが……


「さて、始めるか」


 僕は、自前最強の弓を構え、ゆっくりと巨大モンスター……シードラゴン:レヴィアタンへと向き直った。

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