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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
4/45

初ログインより前に心が折れそうになった僕を後目に、先輩と妹が爆走していた件

     【サービス開始初日】


 ついに、この日がやってきた。


 〈幻想開拓史〉:ファンタスティック・フロンティア・オンラインのサービス開始の日だ。


 一応、ゲームのおさらいをしておこうと思う。


 〈幻想開拓史〉は四つの大陸と、それらに囲まれた謎の島が舞台となる。


 オンラインRPGとしては少数派になるのだろうが、グランドストーリーが存在していて、謎の島から現れた闇の軍勢と、彼らによって生存領域を奪われた大陸の住人たちの争いがメインとなっている。


 プレーヤーたちは、これらの四大陸からスタートして、占領されたエリアを解放しながら謎の島を目指すことになる。実際には、エリアごとに勢力争いをして、週末の集計時にどの勢力が優勢かを競っていくことになるわけだ。


 各エリアにはエリアボスが配置されていて、これを倒すことで通行手形が手に入り、隣のエリアへの関所を通ることができるらしい。とはいえ、公式には抜け道も用意されていて、関所破りや山岳越えなどの方法で隣のエリアへ密入国も可能とのことだ。


 現在のところ、謎の島の名称も、最終的なラスボスの存在も不明であるが、先遣隊として、四大陸を瞬く間に占領した、四天王(お約束だね)とその副官などが公表されている。


 舞台を見てみよう。僕は、ゲーム概要の四大陸のページを開く。


 北大陸。イメージは北欧やロシアをベースに作られている。紹介されている街並みも、雪に覆われた幻想的なものだ。スタートタウンはミッドガルド。


 西大陸。これはヨーロッパがベース。レンガ造りの街並みで比較的オーソドックスなファンタジーのイメージだろう。スタートタウンは、エンパイア。


 南大陸。これのイメージベースは多岐にわたっていて、インド~ペルシア~アフリカあたりがモチーフになっている。マイナーな武器が豊富な大陸だ。スタートタウンはベナレス。


 東大陸。ここは、中国や日本、東南アジアなどを彷彿させる大陸だ。イメージグラフィックからすると、中国は三国志時代、日本は戦国時代的なかんじだ。スタートタウンはヤマト。


 神楽との約束で、スタートタウンはエンパイアにすることになっている。


 僕としても、βテスターである神楽の知識はなんだかんだであてにしているし、せっかく同じゲームをやるのだから一緒に遊ぶのもいいだろう。


 そういえば、先輩がどんなキャラクターを使うのか、訊いてなかったな。


 あの人の傾向は非常に読みにくいのだ。神楽の話では、βでは魔法使いタイプだったらしい。


 だけど、だからと言って同じものを使っているとは限らない。あの人は、深窓の令嬢から腐女子まで、その存在の幅が広すぎる。


 男性耽美系キャラで、趣味全開のプレイスタイルだったとしても驚かない。むしろ納得する。

 もしそうなら僕のキャラクターメイクは正解だったと言える。彼女の嗜好は、美少年同士のカップリングだからだ。マッチョ系はお呼びでないはず。多分。


 いろいろなことを考えているうちに、セットしていたアラームが鳴った。


 さあ、ログインだ。




 と、軽く考えていた僕が浅はかだっだと言える。


『現在、認証中です……………ブブー

 現在、認証中です……………ブブー

 現在、ロビーサーバが混みあっています。しばらく待ってから再度ログインしてください』


 おい、なんじゃそりゃぁぁぁぁぁ!


 何度か繰り返すが、結果は同じであった。


「こりゃ、待つしかないか」


 僕はあっさりあきらめた。なんというか、水を差された気がしたのだ。


〔システムメッセージ:一ノ瀬神楽さまからメッセージが届いています〕


 おや、神楽からだ。


 僕はメッセージ再生のアイコンをタップする。


〔お兄ちゃん、どこにいるのかな? やっぱり、フルダイブだと臨場感が違うね。

 ちょっとこの混雑の中からお兄ちゃんを探すの無理っぽいから、お昼にタウンの教会に集まろ?〕


 この娘は、既に満喫してやがりました。


〔システムメッセージ:新田万梨阿さまからメッセージが届いています〕


〔龍斗くんは、もうゲームを始められましたか? 私は、ヤマトをスタートタウンとしています。

 違うタウンスタートならなかなか会えないかもしれませんね。

 キャラクター名は、アンナマリーですので、wisくださいね〕


 こっちも既に始めているようです。弱ったね、これは。


 しばらくは、今僕の存在するロビーと呼ばれる場所でぼーっとしながら時折、ログインチャレンジをしてみるが、やはり入れない。なんだかなー。


 ふと、ログインボタンの隣に、チャットルームというのが出来ていることに気付いた。さっきまでなかった気がするが。


 試しに、それを開いてみる。


『ファンタスティックフロンティア・交流ルームへようこそ。

 わたくし、ナビゲーターを仰せつかりました、ミニカルラと申します

 以後お見知りおきを』


 愛らしい緑の髪の二頭身キャラがやはり緑色のメイド服を着て深々とお辞儀をした。


 ミニカルラ、ねぇ?


 そういえば、このキャラ、どこかで見たような……


 あ、ああ! プロモーションビデオで出ていた、四天王の一人だわ。確か、嵐将カルラとかなんとか。


 ちっちゃいから、ミニカルラなのか。


『現在、ロビーサーバが大変混雑しており、ご迷惑をおかけしております。

 仮設サーバの増設などの対応を行っておりますので、交流ルームでしばしご歓談ください。

 なお交流ルームでは、3分おきにログイン試行をオートで行わせていただくことができますのでご利用ください』


 まあ、物は試しで行ってみるか。


 そして、僕は、宝瓶宮の交流ルームのドアをタップした。



 意外なことに、かそれとも案の定なのか、ルームの中にはほとんど人がいなかった。

 端的に言えば、一人しかいなかった。


「おや、いらっしゃい。初めまして」


 眼光鋭い顎の張った、長身痩せぎすの中年男性が右手を挙げて僕を招いた。どうやら、この交流ルーム内ではゲーム内アバターが使用されるらしい。


 どこか、小悪党というのがしっくりくる外見だが、とても念入りに作りこまれたようで、なかなかに味のある風体だ。

 その分、親し気な挨拶が逆に違和感を醸し出す。


「あ、こちらこそ。今おひとりですか?」


 僕はその中年男性にお辞儀をしてから歩み寄った。


「ええ、みなさんせっかちな方が多くて、ここを覗きに来てもすぐに、ログイン連打に戻ってしまうんですよね」


 困ったものです、とその中年男性は笑った。


「ああ、自己紹介しておきましょうか。私は、ウッディと申します、以後お見知りおきを」


「ご丁寧にどうも、僕は、た……じゃなかった、リュートです。よろしく」


 僕たちは握手をしてから、用意されたベンチに座った。もちろん、ここでは仮想体であるから、立ったままでも疲れたりはしないのだけれど、なんとなく、そのほうが落ち着くからだ。


「はっはっはっ。この歳になって、久しぶりにログインオンラインに出会えるとは、長生きもするものです」 


 どうやらこのウッディ氏、かなりの年配らしい。とはいえ、僕らの世代から見て、祖父母世代が初期のMMORPG世代だからして、ご高齢の方がそういったゲームを若かりし頃プレイしていた可能性は否定できない。


「ログインオンライン、ですか。言い得て妙ですね」


 ウッディ氏の話では、昔のMMOはこれをよくやらかしたらしい。サービス開始直後や、大型バージョンアップや追加ディスクの発売後などに特に。


「はあ、なんでそうなるってわかってて対策してないんです?」


「そうだねぇ。リュート君はたとえば、映画とかコンサートとかに行ったりするかい?」


「ええ、まあ時々は」


「映画館の中は十分な席数があっても、開演と同時に入り口に入場客が押し寄せたらどうなるかね?」


「ああ、それは危ないですね、けが人とか出るかも」


「そうだね、じゃあ混雑するからと言って、その映画館の大きさを倍にするなんてプラン、通ると思うかね?」


 ああ、そうか。全体的に大きくしたら多少は混雑は解消できても、その映画館の入場数は結局変わらないのだから、空席が大量に出てしまうのか。


「だから、無理にサーバーを増設しても、維持費が大変になるだけなのだろうね。まあ、サービス開始直後のカオスが収まれば、普通にログインできるようになるよ」


「とは言え、待たされるもののことも考えてほしいところですけどね」


「まったくじゃわ。ネットゲーム黎明期に比べればずいぶんましになっていたと思っていたのに、期待の作品がこれではな」


 そういいながらも、ウッディ氏は別段怒ってはいない様だった。これも、年の功というやつなのだろうか。


 僕とウッディ氏は、けっこう長いこと話していたと思う。氏は確かに年配の方で、残念ながらフルダイブシステムの抽選にはかからなかったそうで、既存のAR(拡張現実技術)によるセミダイブでFFOにログインしているとのことだ。


 流石に人生の大先輩。彼の話はとても面白く含蓄にあふれていた。会話の端々で教養がにじみ出ていて、どうやらなかなかの人物らしい。


 彼のアバターは、彼がまだ少年だったころ愛読していたファンタジー小説の登場人物をベースに作ったらしい。主人公ではなく、主人公の仲間の一人で、義理と野望の間で揺れ、結局野望を捨てることが出来なかった人間味あふれるキャラクターだったらしい。


 ひょっとしたら、知り合いのおじさんのコレクションにあるかもしれないというと、とても驚いて、そのおじさんとは仲良くやれるかもしれないを笑っていた。

 実際、紙媒体の本は今時珍しいともいえる。どちらかと言えばコレクターアイテムとしての価値が高い。


「おや、これはいけるかもしれない」


 突然、ウッディが声を上げた。水臭いから、さん付けはやめようと言われたのでいまや名前の呼び捨てで言い合う仲だ。


「すまないね、リュート。どうやらログインできそうです。せっかくだからフレンド登録をしておきませんか?」


 もちろん、僕に異存はなかった。


「わたしは、ロールプレイ派だから、ゲーム内では大分雰囲気が違うと思うから、よろしく頼むよ」


〔システムメッセージ:ウッディさんからフレンド申請が来ています。フレンド登録しますか〕


 もちろん、イエスだ。


 僕が登録したのを確認すると、ウッディはにやりと笑った。悪人面にその笑みはよく似合う。


「じゃぁ、先に行ってるぜぇ」


 ガラの悪いチンピラ声。あえて背を向けて右手をひらひらさせる動作が決まっている。


 彼が去ってから僕はまた一人になる。


 時折、ルームを除く人はいる者の、中に一人しかいないというのをみるや、挨拶もなしに退出していく。まあ仕方のないことだろう。そこそこ人数がいるなら会話を楽しむのもありなのだろうが、そうでないなら、ログイン連打に戻る方が建設的だと判断したのだろう。


 実は、このルームの中では、プライベート端末にインストールしてあるアプリを起動できるので、退屈はしていない。だが、しかし、最新鋭のゲームをプレイするつもりの時間で、70年以上、基本的に変わっていない落ち物パズルをやっている姿はある意味かなりシュールではないだろうか。


〔システムメッセージ:一ノ瀬神楽さまからメッセージが届いています〕


〔お兄ちゃん、何やってるのかな。約束の時間とっくに過ぎてるのに。

 レベル上げ中断してきてるんだよ。早くきてよ〕


 おうふ。ウッディとの会話に夢中で時間を忘れてた。


〔すまん、まだログイン自体出来てない。僕のことは気にせず遊んで来い〕


 僕はそうメッセージを返すと、一旦ログアウトすることにした。長期戦になりそうだから食事をとっておこうと思ったのだ。


 母屋に戻り、冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップにあけてから飲み干す。


 人心地ついてから、冷蔵庫の中に保管してあった食パンを使って少し多めにサンドウィッチを作る。神楽の分も用意しておかないと、後で何を言われるかわかったものじゃないから。


 腹も膨れたところで、ちょっと気になって、匿名掲示板を覗いてみた。そして後悔した。


 そこは呪詛で満ちていたからだ。まあ、当然だろう。ゲームに入れた人が外部の掲示板に書き込みするはずがないのだ。必然的に、掲示板に書き込みしているのは、僕と同じようにログインできない人たちがほとんどである。


 稀に、ログインできた人が何らかの事情でログアウトした後、書き込みをしていたが、嫉妬の渦に飲み込まれ消えていった。


 僕は、そっと掲示板を閉じて、少し気を落ち着けようと、椅子に腰かけた。


 既に、3時近い。神楽は腹減らないのだろうか。


 ちなみに、このフルダイブシステムには、各種モニターが付いている。なにしろ、意識と体が切り離されるのだ。体の異常があった場合、それに気づくのが遅れれば大変なことになる。


 とはいえこの筐体、大本の開発コンセプトは医療補助具であり、長期のログイン状態も考慮に入れてある。無針注射器で栄養剤を直接投入することも可能であるし、排せつ物の処理機能もオプションではあるが存在する。


 フルスペックで運用すれば、数週間の連続ログインも不可能ではない。もっとも、外部で栄養剤や凝縮脱水処理された排せつ物に対応する体制が必要ではあるが。


 当然、我が家ではそんなオプションを付ける気はない。


 さて、改めて挑戦しますか。


 僕は、再びその機械の中に身をゆだねる。




 案の定、まだまだログインオンラインは続いている。とはいえ、最初の頃のようにすぐに弾かれることはなくなったようで、一回の試行が長くなってきている。


 もう、面倒くさいな。と、諦めが期待を上回り始めた頃、突然視界が開けたのだった。


『Welcome to Aquarius World』 



 そこは、大空。まるで鳥になったような視点。いや、おそらくは大空を舞う存在の視点なのだろう。


 平行して飛ぶ、鷲のような大きな鳥。肌を撫でる風の感覚がとてもリアルだ。ここまで再現できるものなのか、と感動する。


 仮想現実とはいえ、僕は、間違いなく空を飛んでいる……いや、大空を駆けていると言うべきだろう。


 一瞬で、虜になった。さっきまでの憂鬱はどこかへ飛び去った。


 地上を見たいと思うと、視線が地上に向けられた。飛んでいる自分をコントロールは出来ないけれど、視線は自由に動かせるようだ。


 雲の切れ間から、大地が見える。緑がまぶしい、とても美しい光景。


 これが、作り物だとどうして言えよう。


 やばい、興奮してきた。


 僕は、ただ、その興奮にまかせてこの素晴らしい世界を堪能していた。



2万文字超でようやく主人公はゲームの中に立つことが出来……ればいいね。


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