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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
夏のイベントでの思い出
39/45

対プレイヤー戦の基礎くらいは押さえているつもりだったけれど、なかなか思う様にはいかない件

 さて、対プレイヤー戦の基本なのだが。


 原則としてごく当たり前のことだが、相手より高いスキル、高い職業レベル、より良い装備品をそろえるということが基本となる。多少のプレイヤースキル差は、こういったキャラクター自体の性能差にのまれることになるのだ。

 もちろん、プレイヤースキルがまったく意味をなさないわけではない。特にフルダイブプレイヤーの場合、それなりに影響をしてくるのだが、回避スキルが低ければ、かすめただけでもクリーンヒット扱いになったりするので、結局のところ、キャラクターの性能が一番ものをいうことになる。

 昔の仮想現実ゲームもののように、プレイヤー自身の能力で相手を圧倒できるなどということはない。

 そういった差を埋めるためのスキル制度であり、レベル制でもある。


 次いで重視されるのが、戦闘スタイルの相性であろうか。

 僕の戦闘スタイルは、原則相手の攻撃範囲外からの一方的な殲滅戦である。これは、プレイヤー戦でも同じなのだが、そのため決闘スタイルのPvPとは非常に相性が悪い。相手のスタイル以前である。

 決闘スタイルの戦闘であれば、僕にとって一番相性のいいタイプは、魔法使いスタイルの相手だろうか。魔法を使うためには詠唱中移動できないという制限があるため、弓の標的にはもってこいである。そう言ったタイプであれば多少格上であっても、負ける気はしない。

 逆に相性が悪いのは、防御系のキャラクターである。重装備で防御力を高め、盾で身を守るガーディアンタイプはもちろん、回避に特化し立ち止まることのない高機動タイプも点攻撃である弓の天敵である。

 アタッカータイプは、純粋に削り合いになるため、これはキャラクターの性能次第か。


 そして、最後に、フルダイブとハーフダイブの運用の差をどれだけ理解しているか、ということも勝敗のカギとなることもある。

 フルダイブの利点は、キャラクターを自在に動かせるため、その動き次第では、キャラクターのスキル差を若干ながら埋めることが出来ることだろうか。

 もちろん、ハーフダイブでも、操作次第では相手の武器の攻撃範囲外へ移動することで完全回避は可能である。タンクタイプの上級プレイヤーたちは、モンスターの強力だがタメのあるアーツを回避する技術を持っている。というより、それが出来ることが上級タンクの最低限の能力だと言われている。

 だが、フルダイブならば、例えば首を狙った横薙ぎの斬撃をしゃがんで避けるといったことが出来る。これはアドバンテージともいえる。

 もっとも、逆のことも言えるわけで、ハーフダイブ同士の戦闘ならば、相手の武器が直撃したとしても、純粋に攻撃側の命中力と防御側の回避力から攻撃の成否が判断される。極端な話、心臓を貫くような一撃を受けても、相手を大きく上回る回避力があれば、「回避した」という結果が生まれることすらある。

 が、フルダイブの場合、相手の武器が体に当たりさえすれば、命中とみなされる。回避力が低ければ、当たらなくても体の近くを部位が通過すれば命中判定が行われる。

 フルダイブプレイヤーは、PvPを行う場合、相手とのスキル差を読んで、どれだけの幅で回避すればいいのかを見極めなければならないのだ。

 逆に、ハーフダイブの利点は、というと、オートアタックによる安定した攻撃と、アーツ発動時の初動のはやさであろう。

 例えば〈剣〉スキルの初歩のアーツである【ツインブレード】であるが、そのアクションの動作は左肩側から斜めに斬り下ろし、そこから剣を跳ね上げるという二段攻撃を行うのだけれど、通常攻撃で斬り下ろした直後にアーツ発動コマンドを入力しても、一瞬で剣を肩の上まで引き戻して発動することが出来る。実際これは、フルダイブプレイヤーにとっては脅威であったりする。なにしろ、振り下ろしたはずの剣が一瞬で上段に戻るのだから。

 フルダイブのプレイヤーの場合、アーツコマンド発動させた場合、それなりに高速ではあるのだが、あくまで連続した動作で、アーツ発動の基本の構えを取ってから技が発動する。コンマ何秒かの差なのだが、相対してみると大きな差だと言える。そのため、近接戦闘タイプのフルダイブプレイヤーは、アーツ発動のコマンドを出す際、該当アーツの初動動作に近い構えになるように意識して動くという……のは我が妹の受け売りである。


 さて長々とFFOにおけるPvPの基本を述べてきたのだが……何が言いたいのかというと、要するに負けた時の言い訳を最初にしている訳である。

 僕の前に立つ剣士プレイヤーは、明らかにタンクタイプのプレイヤーだったからである。

 しかも、それなりのレベルに達していることは、その剣と盾を見れば一目瞭然である。街に寄り付かない僕だけれども、装備品などのチェックを全くしていないわけじゃない。開拓村でアイテムを補充するプレイヤーとであることだってよくある。

 そして、彼が身にまとっているのは、明らかに一定ランク以上の鍛冶職人が作ったプレイヤーメイドの品だ。官給品よりもワンランク上の品である。身内に腕のいい職人がいるか、あるいはそれなりにお金をかけることが出来るプレイヤーなのは間違いない。

 もちろん、僕だってそれなりには装備品を整えているとはいえ、主な装備は、いちごさん印の皮鎧一式であり、浴衣着用の現在、それらの装備はカバンの中である。相手が浴衣のままである以上、それを引っ張り出すのはちょっと格好が悪い。僕にだってちょっとくらいはプライドってものがあるのだ。武器に関しては悪いけど、僕の方がやや上だと思っているしね。数値的性能だけ言えば、だけど。


 矢筒に鋼の矢をセットする。矢筒だって新調して、2ダースの矢を入れられるようになっている。実のところもう一つ矢筒はあるのだが、こちらはPvPで使うのはちょっと卑怯な代物なので今回は使わない。

 鋼の矢は、貫通力に優れた性能を持つ。もちろん、それ単体のダメージ値も高い。お値段も高いのだけれど、対盾持ちの場合、貫通系武器使いは盾の持つ貫通耐性を上回らなければ、そもそもダメージすら出せないという悲惨な結果に終わりかねない。相手が鎧を着ていないので、鎧の貫通耐性を気にしなくていいのは助かるのだけれど、それでも盾は脅威なのだ。


「じゃあ、いいかい?」


「ああ、始めようか」


 決闘開始のカウントダウンが始まる。


 5…4…3…


 緊張するなー。相手はどうなのだろう。


 2…1…ファイト!


 僕は開始の合図とともに大きくバックステップする。〈回避〉から派生した〈ステップ〉に属するアーツだ。もちろん、相手は想定済みだろうが、そもそも距離を取らなければ話にならない。

 剣士君……ライトという名前だが、剣士君でいいだろう……はそれを想定して間合いを詰めてくる。盾で半身を隠し、踏み込んでくる。

 ステップの速度はほんの一瞬、数メートルの距離ではあるが通常の移動速度よりも早いのが利点だが、クールタイムはそれなりに長い。通常なら、開幕で使うようなアーツじゃないのだけれど、盾使いにはアーツ〈盾強打(シールドバッシュ)〉がある。あれをまともに喰らったら、なし崩しに終わりかねない。


 ついでに言うと、僕の武器は長弓であり、圧倒的なダメージ値と引き換えにいくつもの制約がある。その一つが、必ず弓幹を垂直に立てなければならないというものである。短弓スキルも取らなきゃならんかねぇとしみじみ思う。ちなみに短弓は弓を横に寝かせたり斜めに倒したりした状態でも十全の性能を発揮する上、騎乗射撃が可能という優れものだったりする。


「いけ!」


 稼いだ僅かな時間、まずは一射。最近遠距離から一方的な先制攻撃が主だったので、こういった距離は懐かしい。


「おうわっ」


 剣士君はそれを盾で受ける。それで弾けると思っていたのだろうが、鋼の矢は盾を抜けて左肩のあたりに命中した。盾の貫通耐性でかなり威力は減衰しているが、完璧に受けたと思っていたのだろう、結構な驚き様である。

 くっくっく、亜人系モンスターが使う弓とはわけが違うのだよ。


 もっとも、相手もタンクプレイヤーである。すぐに持ち直す。受けたダメージの把握と対処はタンクの基本スキルであり、ダメージを受けたからといってひるむようなプレイヤーはタンクにはなれない。

 予想外の威力に驚いただけであろう。予想以上に貫通力があるという情報は既に彼の中にインプットされたであろう。

 もっとも、そえはこちらも織り込み済みである。というより、鎧なしで直撃を受ければ一気に持っていかれるというデータを相手に叩きつけることで心理的な揺さぶりをかける……つもりだったのだけれど、なかなかどうして、きっちりと基本通りに防御スタイルを崩さない。

 次の矢を番える前に、接敵される。こうなると、オートアタックというのは実に厄介であったりする。何しろ、相手はきっちりと武器攻撃のクールタイム毎に攻撃を仕掛けてくる。キャラクターが自動的に攻撃をするということは、攻撃をシステムに任せてじっくりと観察し、思考することが出来るということだ。

 対して僕は、自分の判断で回避しながら隙をつかなければならない。オートアタックだと、攻撃のタイミングは一定であることから読みやすいとはいえ、きっちりと躱しながら動くのはそれなりに集中力がいる。

 正直に言えば、僕はあまり速いものを目で追うのは得意ではない。というか苦手である。

 当たり前のことだけれど、僕は「視線を動かす」というアクションが非常に下手だ。目だけでものを把握するという行為に慣れていない。視線ではなく顔が動くので、動きを読みやすいとミネアには言われたことがある。

 その分、聴覚で補っているのだが、本来的に視覚と聴覚では情報の密度が異なっている。

 もし僕が、フルダイブ同士でPvPを行った場合、おそらくは直ぐに癖を見抜かれて一方的にやられてしまうに違いない。相手がハーフダイブだからこそまだ相手になれるというものだ。


 オートアタックとは言え、上下左右、どの方向からも斬撃はやってくる。動作の初動位置から大体の軌道はわかるのでなんとかかわすことが出来るのだけれど、先にも述べた通り、アーツを挟むことでその軌道を強引に変えることが出来るのがハーフダイブプレイヤーの強みである。


「なかなかちょこまかと、でかい図体でよく避ける」


 そう言いながら、右斜め上からの袈裟懸けの斬り下ろし動作で攻撃してくる剣士君。その軌道を読み取るために一瞬だけ僕の視線が盾から離れた瞬間だった。


「【シールドバッシュ】!」

「くっ!」


 読まれた。早い段階で癖がバレてたのだろう。剣の動きを見るために顔を向けた一瞬だった。


 ガツンと、盾が僕の肩を打つ。ほんの一瞬、そう、ほんの一瞬だけ強制的に動きが止められる。モンスターに使うシールドバッシュとは異なり気絶効果はないものの、極々短い時間、いかなるアクションも受け付けない隙ができる。


「【ソニックラッシュ】!」


 知らない技。それも4連撃かよ。これは大陸限定スキルのアーツかっ!

 ちょいまてぃ。だとすれば、相当格上じゃねぇか!


 ざっくりとHPがもっていかれる。威力も高いな、これは。だがっ!

 オーガのHPを舐めるな!


 剣士君は、アーツ発動直後の硬直で動けない。そして、こっちは強打アーツによる強制硬直は既に解けた。


「アーツ【アローシャワー】!」


 コマンドワードを叫ぶ。アーツモードに入れば、体が自動的に動いてアーツを発動してくれる。

 矢筒から5本、矢を同時に取り出すと一般常識ではあり得ない矢の番え方で上向きに同時に放つ。放たれた矢は5メートルほどの高さで分裂し、まるで豪雨のように降り注ぐのだ。ちなみに、見た目は非常に派手で数十の光の矢が降り注ぐのだけれど、実際に命中する最大数は消費した矢の数が最大となる。今の僕だと最大5ヒット。範囲攻撃の側面も持つのだけれど、単体に使った場合、5発全部が一人に集中することになる。

 そういうと、やばいくらい強そうに感じるかもしれないが、単体に使用した場合、2発目以降が加速度的に命中率が落ちる仕様になっている。実際、格下相手に使ったことがあるが、4発目以降が命中した例がない。

 それでも、この技の低い命中率に賭けるしか勝ち目はなかったと思う。正直、ジリ貧で負けることは目に見えていたから。


 さて、その結果は……

 2発がクリーンヒット、3発目がクォーターヒット。4・5発目は外れ。


 多段技の宿命として、一発の攻撃力はやや低めに設定されている。そのため、削り切れなかったようだ。タンクタイプじゃなければいけたかもしれないけれど、どうやら、職業[ナイト]の特性である、『スチールボディ』が発動したらしい。HPが少なくなればなるほど防御力が上がる仕様だ。もちろん、硬くてダメージが通らないような強力な特性ではないけれど、地味に効果があると評判の特性である。


 こうなると、立場は逆転する。今度は僕の方が硬直を晒す番だ。

 そして、フルダイブプレイヤーにとって、硬直した状態は、かなりまずい。


「勝負あり、だな」


「降参、だ」


 むしろ、ここまでやれたことに満足して、僕は敗北を宣言した。

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