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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
夏のイベントでの思い出
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夏イベント後半、男の嫉妬ほど醜いものはないと思った件

 夏のイベントの後半となると、やはりお盆的なイベントと言えるだろう。

 もっとも、特定の宗教色を出さないように配慮しているのか、イベント自体は夏祭りみたいなものだ。ゲーム内時間で、18時から翌日の6時まで、つまりは夜の間、各スタートタウンの大広場でマツリダンサーというNPCが出現して、どう見ても盆踊りなダンスを披露する。通常はない露店が並び、イベント限定のアイテムを販売している。

 前半と違って、特別エリアでのイベント中心のものではないようだ。とは言え、イベントがないわけではなく、期間限定装備である浴衣を入手するイベントが用意されていた。

 これは非常に簡単なもので、お使いクエストに近い感覚である。

 NPCの花火職人が、祭りの間打ち上げる花火を作成するアイテムを探してきたり、踊り疲れたダンサーに話を聞いてその人物が求めるアイテム(飲み物だったり、スイーツだったりする)を渡したり。


 浴衣入手イベントは、そういったお使いを複数回こなすことであっさりと手に入れることが出来たので、せっかくだから浴衣に着替えて祭りを堪能する。

 そこかしこに、カップルのような雰囲気の連中がいちゃついているのが微妙にむかつくのだが、あの女性アバターの中身が本当に女性なのか分かったものじゃないと自分を慰めておく。


 まあ、こういった雰囲気の中だと、良からぬことを考える輩もいるようで、女性アバターに言い寄る男性もちょくちょく目立つ。


「あ、おにいちゃん! ナイスタイミング!」


 その声とともに、まるでぶつかるように駆けつけてきたのは、ミネアだった。


「おにいちゃん、一緒にまわろ?」


 上目遣いでいうミネア。こういう甘えた声を出すときはたいてい裏があるものなのだけれど。

 僕が戸惑っていると、ミネアのすぐ後を走ってきていたヴァイスさんが抑揚の乏しいいつものしゃべり方で、


「虫よけ」


 と一言言って僕を指さした。


「おにいさん、ごめんなさいね。いちごちゃんが今日ログインしていないもので」


 ああ、そういうことか。

 ミネアたち〈閃光の戦乙女〉は、女性のみで構成されたギルドだし、その構成メンバーのプレイヤーも全員女性であるという噂が立っている。もちろん、確かめるすべはないのだが、勘のいい人だとわかるものらしい。

 悪い虫も寄ってこようというものだ。

 だから、僕か。


 ……ちょっとショックだったりする。

 信頼してくれているのはありがたいのだけれど、男として見られていないと思うと、なんとも言えない寂寥感が漂う。

 安パイ扱いは、結構リアルでも慣れているんだけれど、少々傷つくんだよなぁ。


 しかし、今の僕たちを第三者の目で見ると、僕が女性アバター5人を占有しているようにも見えるわけで……何というか、視線に殺気を感じる。いや、デジタルな世界で殺気とかあったものではないのだけれど、周りの男どもからなんというか、そういった雰囲気が伝わってくるのだ。

 勘弁してほしい。


 ちなみに、みんな浴衣姿である。ここで気の利いた一言が出てこないのが僕という人間の限界か。

 ヴァイスさんの「やれやれ」といったアクションが僕のガラスの心臓に止めを刺さんと突き刺さった。


 結局のところ、僕に選択肢はなかった。既に妹に腕を掴まれていたし、男扱いされなくても、頼られている以上、それをほっぽっていけるほど僕の面の皮は厚くない。まあ、多少の下心がないわけではないが、女性のそういった方面への勘は馬鹿にできないので、抑えておくべきだろう。スクショくらいは期待しておくけれど。


 引き回されるように、祭りを楽しむ。


 好事魔多しとはよく言ったものである。災厄は突然にやってくる。


「ほっほぉーう、いい御身分ですね」


 とても下の方から、その声が響く。視線を下にやると、出来ればこういうシーンを一番見られたくなかった人物がそこにいた。


「せ……先輩?」


 いや、待て。先輩のホームは東大陸だろう? なぜここにいる?


「先輩のホームは東大陸だろう? なぜここにいる? と言いたげですね。決まっているじゃないですか。正攻法でここまで来ましたよ?」


 なん……だと……


 大陸間移動が出来るほどのプレイヤーの数は少ない。現状、スキルに上限があり、上限開放はまだされておらず、その上限いっぱいのプレイヤーでなければ、大陸間連絡船のパスを取ることは難しい。しかも、東大陸から西大陸への直通の連絡船は存在しないので、北大陸か南大陸経由で来たということだろうか。

 とりもなおさず、それは先輩が全ワールドレベルでのトッププレイヤーの一人ということになってしまうのではないだろうか。


「当分、こっちを拠点で活動することにしましたから、以後よろしくお願いしますね」


 むむむ……何ということだ。


「おにいさん、おにいさん。……ひょっとして、彼女さん?」


 ふわふわさんがとてもいい笑顔で、そう聞いてきた。


「そ、そんなことありませんっ! がが、学校の先輩ですっ!」


 なぜか焦ってしまう。


「悲しいわ、昔はそんな言い方しなかったのに」


 完全にからかいに来ているのがわかっているのに、分かっているのに止められない。

 僕は諦めて、いじられるがままになる。結果的にはその方が早く収拾がつくからだ。


「反応薄いですね。昔はお姉ちゃんお姉ちゃんと懐いてくれていたのに」


「過去をねつ造せんで下さい!」


 僕は思わず反射的に言い返してしまった。先輩の口角が三日月状ににたぁっと笑う。


「あんまりお兄ちゃんをいじめないで下さいよー、ま……えっと、先輩」


 ミネアが先輩と僕の間に割って入って引きはがす。


「だいたいなんです、来るなら来ると言ってくれればいいのに」


「それだと面白くないじゃないですか。とは言え、まさかのハーレム結成とは……流石のわたしもそこまでは想像できませんでしたわ」


「……この流れ、いつまで続けるんです? 正直周囲の視線が臨界点を突破してるんですが」


 そう、周りの連中からどす黒いオーラが発せられているように見えるのは気のせいだと思いたい。


「き、きき、貴様、貴重な女性プレイヤーをそんなに侍らせやがって、なんてうらやま……もとい、けしからん! 成敗してくれる」


「いやまて、僕は単にいじられているだけだっ! 決して羨ましがられるような関係ではない!」


「馬鹿者! いじられてるだけでもうらやまけしからんことに変わりない! 代われるものならむしろ変わってほしいわ」


 その剣士プレイヤーは、腰の剣を抜き放ち、僕に突きつける。

 とは言え、実際に戦闘態勢に入ったわけではなく、「武器を突きつける」というエモーションコマンドを使っただけのようだ。その根拠となるのは、彼が一歩も動いていないことにある。

 戦闘態勢をとる抜刀とは異なり、エモーションとしての抜刀だと、一歩でも動いたり、あるいは別の動作をした場合、自動的に納刀するためである。


 先輩の頭上に、ピコンという音とともに、豆電球マークが浮かび上がる。

 そして、完璧なまでの棒読みで、こう宣いやがったのである。


「やめて、わたしのためにあらそわないでー」


「先輩、何言ってるんですか」


「ふたりのとのがたがわたしをめぐってあらそいあう。ああ、なんてつみつくりなわたし」


 そう言いながら、手を組み合わせ上目遣いに僕と剣士を見る。

 セリフはわざとらしいものの、先輩の幼女アバターも相当な作りこみがされていて、非常に保護欲をそそるように作られている。

 多分、あんな媚びるような目をしながら、男性諸氏の精神を破壊しかねない妄想を膨らませてるのは間違いない。


 一方、剣士君は急に乗り気になったようだった。どうやら、先輩の一連の行動から、もう一歩踏み出しても大丈夫だと判断したようだ。そういう面では、剣士君は悪質なタイプのプレイヤーではないらしい。

 とは言え、被害を受けるのは僕なのだけれど。


「ロリ子ちゃん。今すぐこの外道の魔の手から救い出してあげるよ」


 いやまて、すげーノリノリじゃねぇか。……そこ先輩、先輩も煽るな!


 助けを求めて、妹たちを見ると、むしろワクワクしているようにこちらを見ていた。というか、なんでみんなそんなに煽るのよぅ。


 はぁ。この流れは断ち切れないか。むしろ断ち切るとかえってこじれそうな気がする。

 僕は仕方なしに剣士君に向き直った。


 よくよく見ると、シュールではある。浴衣を着た西洋剣持ちと、同じく浴衣の弓持ちが相対しているのだから。


 剣士君よりPvPの申し込みが送られてきた。正直、逃げたい気持ちでいっぱいだが、先輩の視線は明らかに、「逃げたら、いろんな秘密をばらしてあげます」と言っている。そして、この人は、本当にやる。

 一応、レギュレーションを確認する。


 〔 戦闘形態:1対1 〕

 〔 フィールド:範囲固定・半径20メートル 〕

 〔 戦闘ルール:戦闘終了後自動回復 〕

 〔      :アイテム喪失なし 〕


 結構良心的でした。これなら特には問題はないか。範囲固定は確かに僕の不利になるが、アイテムロストもなく、殺し合いでもないならまあ、許容範囲内だ。


 しかし、なんで〈閃光〉のメンバーまで悪ノリしてるんだか。

 負けてもペナルティはない以上、これもまた祭りの余興と思うしかないだろうな。


 ま、勝ち目は薄い気もするが、いっちょやってみますか。

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