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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
夏のイベントでの思い出
30/45

特に本篇に絡まずに流れるプロローグ

「では、貴国は関与していないというのですね」


 老人が問いかける。その眼光は老人とは思えないほど鋭い。だが、モニターを介して相対する男もまたそれを受け止めてなお動揺することもなくその視線に自らの視線を返す。


「確かに、ロバート・ウォーカーは我が国からの出向ではあったがね。君の方で背任の証拠もそろえているのであろう?」


「制圧した特殊部隊は貴国のものだったと思うのですがね」


「我が国の国民が不当に拘束されているという情報があったからな。とは言え、どうやら誤解だったようだがね。貴国政府には正式に謝罪させてもらおう」


 表情は全く揺らがない。もっとも、彼が自国民に絶対的な人気を誇るさわやかな笑顔はそこにはない。


「まあ、それは良しとしましょう。政府からもそのように指示が出ていますからね。ですが、ペナルティは受けてもらいます。今後の貴国へのフラグメントの提供は絞らせていただきますよ」


「そこはなんとか融通してもらいたいところだがね」


「……ああ、ロバートがそれ以前に持ち出したデータですがね。貴国とは関係ないと思いますが、あれにはうちの姫が悪戯を仕込んでましてね。あれらを集めて姫への上位アクセス権を得ようとすると、大変なことが起こるよう仕掛けされているのです。ま、ロバートのアルバイトとは無縁の貴国には関係ないことでしょうが」


 老人は視線を和らげ、茶目っ気のある笑顔を急に見せた。さすがに相対する男も一瞬戸惑いを見せたが、直ぐにポーカーフェイスを取り戻す。


「ほう、どの様な悪戯か参考までに聞かせてくれないかね」


「くくくっ。踊るんですよ。とても楽しそうにね」


 男は、そばに控える秘書官を呼び寄せ、幾つかの指示をしてから老人に向き直った。


「ああ、それは愉快だね」


「愉快ですよ。姫渾身の作ですからね」




 通信を終え、老人は大きく息をついた。今頃は大慌てで対策していることだろう。


「姫、聞くまでのことではないが、あちらさんの様子はどうだい」


 ソファーに座り込み、ぬるくなった水で喉を潤す。

 コップをテーブルに戻し、その手でモニターを引き寄せる。モニターの中には、姫が自らの姿として作成したアバターがくるくると踊っている。


「とっても楽しいわ。みんな忙しそうに踊っているの。とっても楽しそう」


「そうかね、それは良かった。あちらさんに目と耳の設置は終わったわけだね」


 老人は楽しそうに笑う。


「では、今回骨を折ってもらった方々にお礼をしなくてはな」


 老人は立ち上がり、自らの個人端末を起ち上げた。すると、モニターの中の姫がひょいっとジャンプする仕草を見せ、次の瞬間、端末へと移動する。


「君は直接実験棟へと行けるのだから、わざわざ私の端末に移動する必要はないと思うのだがね」


「いやなの?」


「そんなことはないさ。若いむすめと供に歩くのは年寄りにとってとても楽しい時間だよ」




「これは素晴らしいよ、ムッシュ。どういう仕組みになっているのかね」


 老科学者は科学者らしい好奇心に満ちた目でそう言った。彼が行っているのは遠く離れたフランスからの遠隔操作でのマニュピレーター操作である。ただの遠隔操作というだけならば、それこそ半世紀前には当たり前に実現している技術である。

 では、なにが素晴らしいのか。


 一つ目は、そのマニュピレーターが、電波等の無線が完全に遮断された実験室にあるということ。もちろん有線での情報のやり取りも行われていない。

 二つ目は、老科学者が行っているのが、クレー射撃(もちろん実弾銃ではないが)であるということだ。つまりは、情報伝達にタイムラグが殆どないということである。


「これが、オズマ結晶体とフラグメントの関係の本質ですよ。結晶体とフラグメントは物理的には分かたれた存在であるにもかかわらず、繋がっているんです」


 老科学者の青い目が見開かれた。


「おお、本当のことだったのだな。つまり、この結晶体とフラグメントの性質を利用すれば……」


「お察しの通り、超光速通信が可能となります。フラグメントを搭載した外宇宙探査船も夢ではないのですよ」


 感動のあまり、老科学者は硬直してしまっていた。隣にいる若い……と言っても50にはなろうかという科学者が老科学者を気遣ってか、そっと椅子にすわらせてやる。


「その計画に我々も一枚噛ませてもらえるというのはそれは嬉しいことだが、見返りに君たちは何を望むのかね」


「研究としては、特に何も。結晶体を独占しようとする勢力の牽制をそれぞれの国家にお願いしたいとは思いますが。我々の研究は、結晶体の深奥を覗き込むことにありますので、結晶体の特性を利用する事業は政府からの依頼によることになります。ですから、具体的なプランはあなた方の国と日本政府で主導して頂ければ、我々はそれに応じる準備があります」


「それは嬉しい申し出だが……君たちはその深奥に何があると考えているのだ」


「……こんな奇怪な性質を持った物質が自然発生すると思いますか? つまりはそういうことです。わたしたちもこの物質の性質を知った時、最初に思い浮かべたのが宇宙開発でした。何光年も先の出来事をリアルタイムで知ることが出来るなら、それはパラダイムシフトと呼べるでしょう。仮に、あれを作った者が我々と同じような感性を持っているのなら、やはり宇宙へと目を向けるのではないでしょうか」


「つまり、君は、その深奥に『いる』と考えているのだね」


「今のところ、我々がその領域に入ることは出来ませんが」


「そちらの方には咬ませて貰えないのかね」


「いえ、是非とも咬んでいただきたい。深奥へダイブできるのは、あの日に生まれた子供たちだけです。貴国にもオヅマの子はいるでしょう? その子たちに、フラグメントシステムへの同調率を高めるように仕向けていただければ」


「私たちは、そこへ行けないというのか。それは悲しいな」


「まあ、表層部分だけでも我々が生きているうちには完全に解析できるものじゃないですからね。受け入れ態勢はすぐに整えますのでいつでもおいでください」


「もちろんだとも。本音を言えば、今すぐにでもそちらへ駆け付けたいところだ」


 そう言って、モニターの向こうの科学者は笑った。本当にすぐにでもやってきそうな気配だ。




 世界が大きく変わる、ほんのちょっと前のお話。

 

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