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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
3/45

キャラクター作成を始めたものの、初心者が陥りやすい罠にあっさりと嵌ってしまった件

 さて、僕が大恩ある新田のおじさんたちに見事に嵌められてフルダイブ型のヴァーチャルリアリティシステムのモニターをやる羽目になってから、二週間がたち、我が家にその筐体が届く日がやってきた。


 ちなみに僕の家はそこそこ田舎の古い家なので、無駄に土地が広く、使っていなかった庭の一角に、両親がかねてより計画だけはしていた完全防音のシアタールームを増築したのだが、余分に一室作り、そこを僕と神楽が筐体を設置する部屋に割り当てられていた。


 この歳で、妹と部屋をシェアするというのもあまりないとは思うが、まるで模型かプラモでも作るようにあれよあれよという間に完成した離れに、ある種感動を覚えた。完成したと言っても、壁の一部はまだ取り付けられていない。


 なぜなら、搬入される筐体は、その本体部分だけでも、2m×1,5m×1,5mという大きさだ。重量も相当なものになるため、一度設置したらほぼ動かすことは不可能といえる。


 当然のことだけど、この離れ(僕たちに割り当てられた部屋)はそれらをすべて考慮に入れた設計になっている。両親が使うシアタールームは、大モニターと高性能スピーカーで臨場感たっぷりなのだそうだ。


 神楽は朝から全く落ち着きがなく、昨今珍しい手書きのノートをなんども見直したり、ちょくちょく書き直したりしている。呼んでも返事すらしないので、おそらくは既にゲームの世界にトリップ中らしい。気の早いことだ。


 そもそも、ゲーム本篇のサービス開始まではまだ一週間ほど時間がある。彼女がノートとともに後生大事に抱えているゲームのパッケージだが、現在のところ可能なのは、キャラクターの作成と、事前登録のみで、ゲームそのものを楽しめるわけじゃない。

 そのことを妹に話したら、えらい剣幕で怒られました。


「なにいってるの、お兄ちゃん! FFOはものすごい数のスキルからたった5つを選択しなくちゃいけないんだよ? 初期スキルの取り方によって、開幕ダッシュの如何がかかってるんだし、それに乗り遅れるわけにはいかないんだからね? それに原則、ネームの重複はあり得ないんだから、事前登録でも人気ネームは先着順、奪い合いなんだからね!」


 早口で捲し立てられ、途中から全く耳に入ってこなかったのは妹には言えない。とにかく、彼女が命まで賭けかねないほどに待ち望んでいることだけはわかった。


 そうこうしているうちに、運搬業者がやってきた。よく見ると、その運搬業者はオヅマ関連の企業で、よく見知ったロゴがトラックの側面に描かれている。ちなみに、離れを作ったのもまたオヅマ関連の業者である。


 恐ろしいほどの手際の良さで筐体を運び込み、慣れた手つきで設置していく。


「すみません、初期設定を行いますので、個人端末の接続をお願いします」


 業者さんの中で指揮をしていた青年が声をかけてきた。


 個人端末というのは、この時代、基本的に全国民が所持している多機能端末のことで、先日見せてもらった万梨阿先輩のタブレットなどがそれにあたる。タブレット型だけでなく、スマートフォン型、腕時計型、メガネ型、手帳型など様々な形態はあるが、僕と神楽はスマートフォン型を使用している。単純に電話機能を使いやすいからなのだけれど。


 端末から接続端子を引き出し、どでかい棺桶にも見える筐体に有線接続をする。セキュリティにもかかわる問題なのか、初期設定などを行うときは優先接続することが多いようだ。妹も、自分用の筐体に接続をする。


 業者さんたちは、規則ですから、といったん部屋から出る。どんなにセキュリティが発達しても、パスワードの入力などが行われる時には危険が伴う。手早くパスワードを入力すると、電子音がして接続が完了する。


「接続終わりました、お願いします」


 妹の接続も完了した時点で外にいる業者さんに声をかける。業者さんたちはそれを聞くと、きびきびとした動作で部屋に戻ってきて、筐体のサイドテーブルのようになっている部分からキーボードを引っ張り出し、ものすごい勢いで叩き始めた。


「はい、初期設定が終了しました。あとは、脳波などの同期はマニュアルと音声誘導に従って設定を行ってください」


「はい!」


 神楽の即答。業者さんたちはにこりと笑いながら帽子を取り、父さんが書類にサインをするのを確認して車に戻っていった。


「じゃあ、さっそく!」


 今にも設定を始めようとする妹の襟首をつかんで引っ張り出す。


「壁をするのが先だろ。お前が中にいたら、工事が終わらない」


 次の業者がすぐに入ってきて壁をなおしていく。これもまた手早い。


 なんだかんだで、土曜の午後をそれらの作業で消費していく。僕としては焦る必要はないと思うんだが、ゲーマーたちにとっては論外らしい。というのは、待ち時間に先輩に連絡を取ってみたのだけれど、これもまた一喝されてしまったからだ。


 まあ、サービス開始は来週の土曜日からだ、設定等は明日の日曜日を利用してゆっくりやることにして、今日は早めに休もう。





 翌朝、先輩からのモーニングコールでたたき起こされることで、僕がゲーマーたちを甘く見ていたことに気付かされるのだが。

 慌てて端末をひっつかむと、そこから洩れる、ひどく不機嫌な、明るい声。


「たっちゃん? 昨日筐体は届いているはずよね? どうしてキャラクリしてないのかしら?」


 不機嫌な明るい声というのは矛盾しているような気もするが、そう表現するしかない声なのだ。


「いやいやいやいや、ゲーム開始はまだ先なんだから、ゆっくりやってもいいでしょう?」


「何を言っているの? 私はあなたのサポーターなのですから、あなたと同じワールドにキャラクターを作らなくてはいけないのよ。だから、あなたが登録してくれないと、私や神楽ちゃんも登録できないのよ」


「え? そうなんですか?」


 それはやばい気がする。しかし、はてな、神楽なら文句の一つでも言ってくるような気がするのだが。


「そうなのっ。だから、宿題ね。今日の3時くらいまでに登録を済ませておいて」


「3時ですか? そこそこ余裕がありますから大丈夫だと思います」


 僕はそう答えて電話を切るために端末の操作をしようとした。


「余裕なんてありませんよ、たっちゃん。何を甘いことをいっているのですか? 外見データの作成とか、もろもろやると、今からでもギリギリかもしれませんよ」


「え、そうなの??」


 思わず聞き返す。ちなみに僕は、ゲームをするときにキャラクターの作成にはこだわらない方だ。半世紀以上の歴史を誇る、ダンジョン探索RPGのキャラクターメイキングでも、ボーナス値10を超えたらそれで満足する質である。ちなみに、神楽は、パーティ全員が40超えするまで延々作りこむタイプである。


「そうなの。だから急いでくださいね。もし遅れたら、一生たっちゃんと呼びますよ。たっちゃんが結婚してもたっちゃん。奥さんの前とか子供の前でもたっちゃんたっちゃん。おじいさんになっても……」


「ひっ、勘弁してください先輩。僕が浅はかでした、一ノ瀬龍斗、速攻でキャラクリを完了するための行動に移らせていただきます!」


「よろしい、それじゃあいい知らせを待ってますよ」


 僕はその言葉を最後まで聞くこともなく端末をひっつかみ、ダイブルーム(仮称)へと走った。まだ早朝5時前である。ひょっとしたら先輩は今の今まで起きてゲームのキャラクターを作っていたのだろうか?

 聞いてみたい気もするが、さらりと、「何を当然のことを言っているのですか?」とか言われたら僕はこのゲームを始める前にドロップアウトしそうだ。


 不幸中の幸いなのか、僕の寝間着はいつもジャージの上下である。もちろん、寝間着として使っているからこれで外出などはしないけど、こういう時は役に立つ。


 勝手知ったる我が家である、視覚補助ゴーグルなしでも移動に不都合はない。離れの間取りも頭に叩き込んである。玄関先でゴーグルを手に取り、接続の手間も惜しんで離れへ駆け込んだ。


 妹の罵声は覚悟していたのだが、幸いなことにそれは飛んでこなかった。どうやらまだ筐体の中にいるらしい。


 ちなみに、筐体の中には体を伸ばして休めるだけのスペースがあり、そこに横になれるようになっている。全体的にエアーマットレスのようになっていて、接続時に無防備になっている体を守るようになっている。当然のことではあるが、ダイブ中のフィジカルデータを管理し、場合によっては強制覚醒や最悪医療機関への通達もできるようになっているのが特徴だ。


 筐体を閉じているときには内部を目視することはできないけれど、常に体調をモニタリングしているので、中にいる人が今どのような状態なのかは一目でわかるようになっている。


 <<SLEEPING>>


 専門用語? でいうところの寝落ちというやつらしい。とりあえずは、当面の危機は去った。ならば、人生最大の危機を回避するための作業に入ることにしよう。




 フルダイブシステムへの同期作業は、多少手間取ったものの何とか終えることは出来た。基本的に言われた通りのことをすればよかったので面倒ではあったものの特に問題はなかった。

 問題だったのは、やはりキャラクタークリエイションだった。



『ファンタスティック・フロンティア・オンラインの世界へようこそ

 キャラクタークリエイションを始めますか?』


 天の声が響く。とりあえず、はい、と答える。


『まずは、種族と性別を決定してください。現在基本5種族から選択が可能です』


 ん? 少し気になることを言ったな。


「現在、基本5種族ということは、将来的に増えることがあるのか?」


『質問を認識いたしました。今後の種族の追加に関してのご質問と認識します。

 返答・今後のバージョンアップに従い、追加される予定があります。追加された種族に転生するための試練クエストも同時に実装されることが検討されています。

 質問はありますか? …………キャラクタークリエイションを再開します。

 種族と性別を決定してください』


 選べる種族は現在5つ、フェアリー・ドワーフ・エルフ・ヒューマン・オーガ。

 性別は、異性も選べるようだ。とは言え、流石に異性を選ぶのはちょっと気が引けた。


 並んでいる種族名になんとなく手を伸ばした。全く違和感なく体が動いていたため意識していなかったが、伸ばした手が自分の手と少し違っていることに気付いてすこし驚いた。


「これが、フルダイブ、か」


 そう思うと、周りの見え方も変わってくる。この光景は、端子を通じて視神経を刺激して映した、いつもの視覚の世界とはちがうのだ。脳に直接接続してモノを見るというこれまでにない経験。

 この世界なら、神楽や先輩が見たものを、同じ刺激としてみることが出来るんだ。


 そう思ったとき、気にしていないつもりだった障害に意外とコンプレックスを持っていたのだなと自覚する。以前、新田のおじさんが僕が『成熟するのが早すぎる、ゆっくりでいい。歪まないように一つ一つ進んでいくことがだいじだよ』と言っていたのは、このことか。


 大丈夫だ、歪もうとしていたことは自覚した。僕は、健常な視力を持つ人に嫉妬していた。認めてしまえばなにか突っかかりが取れた気がする。先輩に相談するのもいいかもしれない。それもまたサポーターの役目でもあるしね。


 あらためて、種族を詳しく見ることにする。


 フェアリーは文字通り、妖精のような種族だ。適正は魔法、特に回復とサポートに秀でる。

 体の大きさは極小、敵の攻撃の命中判定に大きくプラスになるものの、ノックバック耐性はほぼなく、また、貫通耐性も弱い。


 ノックバックというのは、敵の攻撃を受けた時に、吹き飛ばされたり仰け反ったりすることらしい。また貫通耐性というのは、貫通武器、槍や矢弾などで、一定のダメージを超える攻撃を受けた時、体を貫通してその後ろに立っているものにも攻撃が届いたりするのをどれだけ防げるか、ということのようだ。


 ドワーフはまあ、これもイメージ通りだ。適正は、重量武器の扱い。

 体の大きさは小、ただし、体重的には大なので、ノックバック耐性は高く、貫通耐性もまた高い。


 エルフは、これもおなじみだが、適正は魔法、特に精霊魔法の適性が高い。

 体の大きさは並、体重はやや軽めのため、フェアリーほど極端ではないがノックバック耐性や貫通耐性は弱い。


 ヒューマンは、いわば人間種で、適正は特にないが苦手もない。FFOは職業固定型のゲームではないので、実は強みでもあるらしい。前衛後衛どちらもこなせるオールマイティ。

 体の大きさ、体重は並。良くも悪くもこのヒューマンを基準に決められている。


 オーガは、フェアリーとの対極で角のある鬼のような種族。適正は、近接戦闘全般。

 体の大きさと体重は極大、当たり判定も大きいが、ノックバックや貫通耐性が高いので、タンク適性が高いようだ。


 しばらく考えてから、僕はオーガを選択する。僕はやや小柄な方なので、大きくてがっしりとした体躯っていうのには憧れがあるから。せっかく、違う自分を文字通り体感できるのだから、なりたい体格をえらんでもいいだろう。


 性別はもちろん、男。まあ好奇心に負けて女性を一度選択して、体系モデルを見てみたのだけれど。これはこれでアスリート系美人なモデルだったのでびっくりした。オーガというからもっとひどいものだと思ったのだけれど。


 とりあえず、種族と性別を決めると、キャラクターモデルの作成へと移る。10種類のベーシックモデルから好みのものを選び、それを微調整していくことでキャラクターを造成していくのだが、これがまた楽しい。


 まるで粘土細工をこさえるように、引っ張って伸ばしたり、無駄な肉を削ったりしていくのだ。髪の毛の設定なんかは、実際にハサミなどを使って整えるようにして作っていく。もちろん、データ上のものをいじっているので、失敗すればやり直すこともできるので、これはこれで一つのゲームと言えるのではないだろうか。


 と、セットしていたアラームが鳴った。そういえば、12時になるようにセットしていた記憶がある。つまりは、6時間以上粘土遊びをしていたってことか。


 僕はいったんキャラクターモデルのデータをセーブすると、作業を切り上げた。


 昼食は、ごく簡単なサンドウィッチで済ませる。寝落ちしていた神楽もようやく起きてきていたので一緒に食べた後、再び作業に戻る。タイムリミットはあと二時間半しかない。


 同じように、ダイブルームへ向かおうとした妹に、シャワーくらいは浴びてくるようにきつく言うと、僕は再び作業に戻ることにする。


「モデリングは、これ以上はやりこまないようにしないとな。あとはバランス調整をしてっと」


 そういいながら、僕は再び、仮想現実世界へとダイブする。


 バランス調整に関しては、自動調節機能がついていたので、それを利用した。作りこもうと思えばもっと作れるのだろうけど、流石に先輩の癇癪は怖い。というか、あの人はあれで頑固だから、本気でたっちゃんに固定しかねない。


 次いで、スキル選択の画面になる。その時点で、先輩が時間が足りないと言っていた意味がようやく分かった。


 選択できる幅が広すぎるのだ。武器の選択だけでも、剣・斧・槍・鎌・棍・杖・弓・射撃・格闘・投擲・長柄武器・鞭と多彩であり、これらが将来的にさらに細かく専門化していくらしい。

 武器スキルだけでなく、防御スキル・魔法スキル・生産スキル・採取系スキル・生存系スキル・盗賊系スキル・知識系スキルなど、正直選びきれないほどの選択肢がそこにあった。


「これは……どう選べばいいんだ?」


 キャラクターをイメージしよう。僕が選んだ種族は、オーガ。どうやら、最適な役割は、パーティの壁として敵の攻撃を一身に受ける役割らしい。種族特性もHP(生命力)とSTR(体力)VIT(耐久力)に極降りで、代わりにMP(精神力)INT(知力)CHR(魅力)は極端に低い。特にMPはヒューマンと比べて半分程度、フェアリーの1/3ほどしかない。


 まずは、魔法スキルをバッサリと切る。将来的には回復系などを取った方がよいのかもしれないけれど、初期スキルの選択肢からは思い切って外してしまう。


 次に僕が考えたのが、人と同じことをするのも面白くない、ということだった。のちに僕はひどく後悔することになるのだけれど、この時はそうするのが正しいと思ってしまっていた。


 まず、戦闘系スキルの選択だった。ここで、現在事前登録が終わっているキャラクターのスキル取得率を呼び出す。

 圧倒的人気なのが、やはり剣だった。次いで、杖、槍、斧となっている。杖はやはり魔法使いタイプに人気が高いのだろう。

 逆に人気がないのは、弓・射撃・投擲と、遠隔武器が軒並み並んでいた。特に弓は取得率0.5%となっている。つまりは現在登録が済んだキャラクターの内、200人に一人しか選択していないことになる。


「まあ、5つしか取れない初期スキルに遠隔武器を取るまで回らないんだろうな」


 僕は非常に甘い考えでそう結論付けた。ならば、取ってみるのも面白い。


 この時点で僕のキャラクターイメージはレンジャータイプと決まった。


 しばらく迷ったあと、選択したスキルは次の通り。


〈弓術〉:弓矢を扱うスキル。最大射程は弓に依存。有効射程はスキルに依存する。

〈遠視〉:視力拡大。より遠くのものを見ることが出来る。

〈木工〉:木材を加工するスキル。家具製作や木製武器、矢の制作などが出来る。

〈調理〉:食材アイテムを加工して、食品を作ることが出来る。

〈サバイバル〉:野外活動における最低限の知識と技術の複合スキル。


 〈弓術〉は、もちろんメイン武器として選択した。僕のアイデンティティとなるはずだ。

 〈遠視〉は、もちろん、〈弓術〉のサポートとして。レンジャーには斥候としての役目もあるのだから、きっと役に立つだろうと考えた。

 〈木工〉は、もちろん矢の自作が目的だけれど、木製の弓なども自作できればいいと考えた。

 〈調理〉は、自分で捕った獲物を自分で料理してみたいと思ったからだ。

 〈サバイバル〉は、野外活動をメインとするので、それらの複合スキルということで選んだ。


 時計を見ると、もう2時半だ、時間が経つのが早いなとつくづく思う。意外と僕はこのゲームを楽しめるかもしれない。


 最後にキャラクター名と所属ワールドの選択だ。


 名前に関しては、僕がよく使うハンドルネームがあるのでそれを入力してみる。


 リュート


 僕の龍斗たつとという名前の読み方を変えてそれっぽくしたのがこの名前。


 次にワールドの選択なのだけれど、現在12のワールドが用意されている。


 白羊宮・金牛宮・双児宮・巨蟹宮・獅子宮・処女宮・天秤宮・天蝎宮・人馬宮・磨羯宮・宝瓶宮・双魚宮


 黄道十二宮の名前が割り振られている。


 新田のおじさんなら、黄金の鎧を着た光速の拳士が待っていそうだ、というのではないだろうか。あの人の第二書斎という名の趣味の部屋には、半世紀以上前の……それこそ前世紀の娯楽コミックなどが満載なのだ。その中にそんな作品があったはずだ。


 ワールド選択でもけっこうな偏りがあって、一番人気は断トツの獅子宮である。ここは既に人数調整のため選択不可となっていた。疑問に思ったので、ニュースサイトにアクセスしてみる。ゲーム関連の記事を抜粋すると、どうやら有名ゲーム雑誌のライターたちが獅子宮に事前登録したことがばれたらしい。それで獅子宮にとうろくが集中したようだ。


 逆に人気がないのが、巨蟹宮。カニだもんなぁ。神話だとヘラクレスにぷちっと踏みつぶされて、あれ? なんか踏んだかな? まあ関係ないね! みたいな感じだったはず。


 まあ、それは関係ないか。


 まあ、無難に宝瓶宮を選ぶ。何のことはない、僕がみずがめ座だからだ。


 しばらく『現在登録可能かどうか調査中です』のメッセージが点滅する。


 ぽーんというちょっと間の抜けた音がして、アナウンスがなる。


『キャラクター【リュート】は宝瓶宮ワールドに登録が可能です。登録しますか』


 答えは、イエスだ。


『最終確認です、宝瓶宮ワールドに【リュート】を登録します。よろしいですか』


 ごくり、と喉が鳴った気がした。多分気のせいだろう。


 イエス。そう答える。


『キャラクター【リュート】を宝瓶宮ワールドに登録いたしました。サービス開始を楽しみにお待ちくださいませ』


 時計を見る。2時50分。慌てて接続を切ろうとしたのだが、そういえば、フルダイブシステムは僕の端末と接続されているのだから、電話機能も使えるはずだ。ヘルプ機能を呼び出して確認すると、案の定、パーソナル端末の機能も使えることが分かった。


 ギリギリではあったが、先輩に電話をかけてキャラクタークリエイションが終了したことを告げる。先輩は少し笑って、危なかったわね、カウントダウン始めてたところよ。と言ったのでちょっと寒気が走ったのは先輩には気づかれていないと思いたい。



 のちにわかることではあるのだが、この時僕は、ネットゲームというのを甘く見ていたことは否めない。


 オーガの適性は、ガチタンク。そのことはわかっていたはずなのだけれど。僕はそれはあくまで傾向の問題だと考えていたのだ。


 僕がたとえば新田のおじさんや両親(じつはこの二人、元ゲーム廃人らしい。姉さんが生まれた時にすっぱりやめたらしいが)に相談していれば、僕のゲームライフも別の形になっていただろう。


 そう、僕は、初手でしくじってしまっていたのだった。

 

次回よりようやくゲームスタート……というのは甘い考え。

新作MMO恒例のイベントが待っています

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