とあるプレイヤーたちのモノローグ
あるトッププレイヤーの独白
そのアナウンスを聞いたとき、俺たちは愕然とした。
先を越された。
そのことだけが俺たちの頭の中を駆け巡った。
もし、クリアした最初のプレイヤーが俺たち同様に、サービス開始から2~3日目でエリアボスに到達したグループだったならそこまでショックは受けなかっただろう。毎日のように顔を合わせ、お互いに情報も交換し合った。
もちろん、全ての情報を交換したわけではない。誰だってファーストクリアの栄誉は欲しいからだ。相手だって全ての情報を提供してくれたわけではなかろう。
だが、握っている情報はトップクラスだという自負もあった。
密入国というシステムを利用して隣接エリアでのスキル上げも行った。そのため、ネームカラーはオレンジにもなった。これは、賠償金という形で国境警備隊に規定された金額を納めることでホワイトに戻したが。
戦闘力という面においては、俺たちのチームは間違いなく現状トップ、あるいはそれに準ずるレベルのはずだ。パーティメンバー全てが、スキルスロットを戦闘系のもので埋め尽くしているし、主要なスキルは100越えをしている。
あの日、俺たちは必勝の布陣で挑むつもりだったのだ。
ポーション類を買いあさり、可能な限りの想定をして、それに対応できるだけのものは揃えた。今日こそは、勝つ。そう意気込んでいた。
幸いなことにその日は日曜日。メンバーたちも早朝からガッツリとスキルアップして準備も整えている。
気合も十分に高まっていた。
作戦もまとまり、突入のための手続きを行おうとしたとき、あいつらはダンジョンから排出されてきた。
俺たちから見れば、三下もいいところだ。
タンクメイクの禿と凡人顔のヒーラーはまあいい。あの二人はきっちりと必須を押さえている。
だが、リーダーの小悪党面は短剣という攻撃力の低い武器を使っているし、エルフは、何を考えているのか、前衛アタッカーメイクだ。そして、オーガの魔法使い。あり得ねぇ組み合わせの連中だ。
さらに言えば、戦闘中は同士討ちを避けるためにまともに攻撃参加も出来ねぇ弓使いもいやがる。
こんなふざけた構成の奴らが、俺たちを差し置いてボスに勝てるわけがない。
まあ、だからと言ってむやみに咬み付くのも大人げないだろうと俺は考えている。こんな奴らはライバルたり得ない。だからこそ寛容になれるというものだ。
「時間切れか? 大変だなお前らも。弓使いとか足手まとい抱えてよくやるよ」
俺は出来るだけフレンドリーに声をかけたつもりだった。こんなやつらでも俺たちに有益な情報を得ているかもしれなかったからだ。弓使いなどという足手まといを組み込む変わり者だが、何か気付いたことがあればよいのだが。だが、どうやら大したことはわかっていないようでその悪人面は肩をすくめた。
「ま、ぼちぼちな。いこうぜ、リュート」
悪人面が弓使いの背中を押して俺たちから逃げるように去っていく。
負け惜しみなのだろう。
ま、仇は討ってやらんでもないさ。
そして、俺たちはダンジョン突入の手続きを行うため、ダンジョン入り口の石碑に触れた。
如何にインスタントダンジョンとは言え、無限に生成されるわけではない。ある程度の順番待ちは常にある。その間のモチベーションを保つのもリーダーたる俺の仕事だ。
〔メインクエスト:エンパイア解放の狼煙〕
〔インスタントエリアへの突入の準備中です〕
〔バトルフィールド:エンパイア解放の狼煙〕
〔クリアタイムレコード:1時間25分〕
〔レコードホルダー:ウッディ 他5名〕
いつもならさらっと流す突入のためのアナウンス。
だが、昨日と違う点が一つ。昨日まではクリアタイムレコードなどなかった!
誰だよ、ウッディって。そんな奴は攻略最先端をいく固定パーティの中にはいなかった。
周囲がざわつき始める。どうやら、俺の他にも気づいた奴らがいるらしい。ということは、攻略された時間は、そんなに前ではないはずだ。
「だれか、ウッディとかいうやつ知ってるか?」
誰かが声を上げた。誰も知らなかった。最先端を行く俺たちはそれぞれのリーダーくらいは把握している。
「あれじゃね? オープニングでカルラが出たとかいうデマ流した奴」
そういえば、そんな奴がいたな。ゲーム外の掲示板の話だから信憑性は薄いが。
だが、ゲーム内ではほとんど無名のはずだ。聞いたことがない。
そんな奴に、先を越されたってのかよ。
そういえば、さっきのちぐはぐな連中、えらく余裕のある感じだったが、まさかな……
この日、集中力を欠いた俺たちは、あっさり敗退した。
悔しくて、涙が出た。
死体で排出された俺たちを、周りの奴らが嘲笑っているような気がして苛立った。
翌日、俺たちは、また密入国してスキルアップに励んだ。賠償金の額はどんどん上がっていくため、今回は丸一日を費やし、メインスキルは150を超えた。そのかわり、所持金は賠償金で飛んで行ってしまった。
さらに翌日、俺たちはついにボスを倒した。力技で相手をねじ伏せたのだ。
その日、ゲーム内掲示板に、ウッディという奴が、ボスの弱体化の可能性についてまとめたレポートを書き込んでいた。
くそ、なんでもっと早く書き込まないんだ。畜生!
ある学生プレイヤーの独白
最初のエリアのボスが初めて倒されて、10日ばかり経った。戦法もほぼ確立されて、俺のような特に入れ込んでいるわけでもないプレイヤーも、ボス討伐に成功することが出来た。
ただ、今いくつか困ったことが起こっている。
一つは、流通システムの解放だ。これまで事実上無制限に購入できていたポーションなどが、一日の販売個数が制限されてしまったのだ。
もちろん、ポーションはレア度が低いので、入荷数は決して少なくはない。だけど、大手ギルド……既に攻略系のギルドなどが複数立ち上がっている……が販売と同時に買い占めてしまっているのが現状だ。買い占められたポーションは、彼らが攻略に使ったり、あるいは高額で転売されたりしている。
特に、最大手の攻略ギルド、「黒翼連合」は、ガチの攻略系を謳いながらも、このポーション買い占め要因をギルドに招きいれているのは既に噂のレベルを超えている。
ちなみに、黒翼に正規に入ろうと思った場合、厳しい装備審査(スキルに応じたレベルの武器防具を常に装備する)やログイン可能時間の長さ(一日5時間以上、夜10時~1時の時間帯に週5日は参加できること)などという条件に一致しなければ入団できない。要は廃人集団だ。
黒翼にポーションを買い占められ、俺たちのような庶民プレイヤーはポーションなしで狩りをするか、あるいは高い金を出して彼らから購入するしかない。
もちろん、生産職の人たちもいる。だけど、次に始まったのが、職人の囲い込みだ。
これもまた、結果として財力のあるギルド……またもや、黒翼が筆頭だ……が真っ先に彼らを囲い込んだ。戦闘力の低い彼らにとって、高レベル素材や、クエストボス戦闘を代行してくれる戦闘系プレイヤーと組むことは有意義なので、結果大手ギルドの専属となることを選んだものも多い。
一部のプレイヤーが、生産系も兼ねようとスキルを取ったが、生産活動は結構地味で根気のいる作業のため、挫折する者もたくさん出たという。
俺のような、一日1~2時間というプレイ時間では、戦闘と生産を両立させるなど端から無理だ。
いっそのことやめてしまおうかとも思った。
今、FFOの世界はまさに弱肉強食の世界。俺たちのようなプレイヤーは淘汰されていくのだと諦めを感じていた。
そんな時、フレンドの一人から奇妙なプレイヤーの噂を聞いた。
そのプレイヤーはどのギルドにも所属せず、殆ど街にも顔を出さないそうだ。目撃時間は、夜9時から12時前に絞られるため、中の人はおそらくは学生かサラリーマンだと予想されている。
特に固定の場所にいるわけではなく、どうやらほとんどの時間をフィールド上で過ごし、ログアウトもフィールド内に点在するセーフティエリアや開拓村を利用しているという。
おそらくは、開拓職系の生産者プレイヤーなのだろう、運よく彼に遭遇したプレイヤーは格安でポーションや毒消しなどの薬品などを譲ってもらったという。
あまり信じられないというのが最初の印象だった。
今、ポーションなどの薬品はとても高値で取引されている。
原材料費も高騰を始めているものの、俺が調べた限りでは、材料費の3倍の売値をつけても十分な売れ行きが期待できるのが現在の市場だ。
というよりも、大手ギルドが価格調整をしているので、彼らより安い値段をつければ、あっという間に彼らの手によって買い占められる。俺たちにとっては腹立たしい限りだが、職人には作っただけ売れていくのだからうれしいことだろう。
だからこそ、分からないのだ。
噂の彼の装備はあまり高いレベルのものではないらしい。ならば、お金は是非とも欲しいもののはずだ。彼の行動原理が理解できないのだから、俺は最初その噂を信じることが出来なかった。
その日、俺は運が悪かったのか、それともよかったのか。
結果から見れば幸運だったのだろう。
その日、俺はいつもの仲間と別れて、エンパイアから北東に位置するエリア、フェルマーユを散策していた。フェルマーユは牧歌的なエリアで、特に採取系スキルを持たなくても果実系のアイテムを得ることが出来る。珍しいものが取れるわけではないが、ジュースやスイーツ系の素材となるので、多くの調理職人たちがスキル上げのために買い上げてくれるのだ。
スキルアップのための狩りなどで、現地解散になったりしたときにはよく取って帰っている。
だが、その日は勝手が違っていた。
果樹園の前には、変わった一団が陣取っていた。
FFOにおいて、採取は個別判定される。これは、採取ポイントの奪い合いを回避するためだと言われている。そのため、採取行為で問題になることは少ない。生産系ギルドの中には、採取ツアーと称して、戦闘系の護衛プレイヤーを雇って(あるいは、ギルド内の戦闘力の高いメンバーを動員して)モンスターの多い、しかし高レベルの素材が採れる場所へ向かったりしている。
だから、最初そういったツアーパーティなのかな、と思った程度だった。
俺は、軽く会釈をして、いつものように果樹の中から採取ポイントを見つけ出し、ランクの低い果実をゲットする。一通りポイントを巡回して、ちょっとした小遣い程度になる分量を集め終わる。
その間、彼らは何かをするわけではなかった。
俺は、果樹園を出るときにもう一度会釈エモを入れて、街への帰還をするためにマップを確認した。
不意打ちを喰らったのは、その時だった。
プレイヤーキラー? なんで?
俺はレベルやスキルこそ、第二エリアに対応した数値であるものの、大して資産を持っているわけではない。装備品は、公職のポイントで交換した、国家支給品だ。どこにでもいる、普通の……普通よりもむしろ資産的には少ない……一プレイヤーに過ぎない。特にほかのプレイヤーと軋轢を生んだ経験もないし、当たり障りのないプレイスタイルのはずだ。
俺が狙われる要素などないはずだ。
ふと、掲示板での噂が頭をよぎる。
PKギルド。
対プレイヤー戦略を練る対人ギルドとは異なり、プレイヤーをキルすることだけを目的としたギルド。
さっきの連中がにやにやと笑いながら(わざわざエモでにやけ笑いしながら)俺を見ている。
俺は迷わず逃げ出した。彼らの人数は5人。勝ち目はない。
相手の方が人数が多い以上、キルされても大したロストはないかもしれない。だが、乱数で管理されている(まだ仮説を検証プレイヤーが調べている段階だが)以上、ひょっとしたら購入したばかりの剣をロストしてしまうかもしれない。逃げられるなら逃げた方がいい。
彼らは、PKを楽しんでいた。
逃げ回る俺を見て楽しんでいたのだろう。伏せられていた6人目によって逃げ道を塞がれ、どうしようもなくなってしまっていた。
諦めるしかないと覚悟を決めた時、不意に囲みが崩れた。彼らのヒーラー担当が倒れたのだ。
どうやら、遠距離攻撃を喰らったらしい。
続いて、魔法使いタイプが倒された。
PK達が声を荒げて、隠れた狙撃手を罵る。
すると、森の中から、見目麗しい女性キャラクターの一団が現れ、あっという間にPK達を狩りつくしてしまったのだ。
「ねえ、君……悪いの、あっちのパーティでよかったんだよね」
彼女たちのリーダーなのだろう、とても作りこまれた巨乳美少女キャラが俺に声をかけてきた。
彼女たちの正体は、心当たりがある。
女性だけの限定戦闘系ギルド、閃光の戦乙女。ゲーム内掲示板でも最も人気のあるチームの一つだ。
「全く、状況もよく確認せずに飛び出すなよ。落ち着きのないのはこっちでも一緒か」
そう言って一人遅れて森から現れたのは、オーガの男性アバター。
「だって、お兄ちゃんがPKらしきものを見つけたとかいうからさー。助けられるものなら助けたいじゃん」
「僕のせいか?」
「先制攻撃、不意打ち。さすがお兄さん。血は争えない」
ドワ子のツッコミにオーガはがっくりとうなだれた。
「まったくもー、ポーション買いに来たらPKと遭遇なんて、さすがお兄ちゃんクオリティ。ハプニングに愛されてるね!」
俺は、そこでようやく我に返った。
「あ、ありがとうございました。もう少しでキルされるところでしたので助かりました!」
「うん、無事でよかったよかった。君は運がいいねぇ。お兄ちゃん……じゃなかった、リュートがいなかったら気付かなかったと思うよ。それに、速攻魔法使い系やっちゃったからねー」
そうだ、いくら防御力が低いからと言って、そうそう一撃で落とされたりするものなのだろうか。
「ま、新しい弓の試し撃ちでもあったからな。矢も本気矢使ったし」
弓使い? 初めて見た。
「へー。どれどれ? うわ、なにそのインチキ!」
俺も、俄然興味がわいてきた。弓使いは使えないというのが定説だ。それを覆すような何かがあるのだろうか。
こっそりと覗き込む。マナー違反だとは思うが、好奇心は抑えられなかった。
その弓の性能は、恐ろしく高かった。同士討ちが起こり得る遠隔武器でこの性能は、もはや犯罪ではないだろうか。
弓や石弓のダメージ基本値は、弓+矢という計算がなされる。そのため、俺が使っているロングソードと比較して、倍近い数値になっているようだ。
確かに強い。だが、これではパーティを組んでくれる人はいないかもしれない。少なくとも俺は御免こうむる。
一発の誤射でパーティが崩壊しかねない。
「まあ、当たらなければ意味はないし、外すと迷惑がかかるからな。なかなか使い勝手が難しい」
そう言いながら、オーガは露店マットを広げた。露店マットは、プレイヤーが簡易バザーを行うために必要なアイテムだ。プレイヤーが値段をつければ、自動的にそこに商品が並んでいくという仕組みである。
「安っ!」
露店に並んだポーションの値段を見て俺は思わず叫んでいた。
「ん? 君も買っていくか?」
オーガは気軽に声をかけてくれる。友人価格じゃないのか、これは。
「なんでこんなに安いんです? 街の販売価格の1割もしませんよ?」
オーガはしばらく考え込んだ後、あっさりと答えてくれた。
「素材から全部現地調達だからな。街の値段がいくらなのかは知らんからな。……まあ隠しキャラに出会ったと思って勝ってけ」
もちろん、買わせていただきますとも。俺は、手持ちのお金と相談しながらいくつ位買おうかと嬉しい悲鳴を心の中で上げていた。
「あー、一つだけ頼みがある。僕は、自分が作ったものをちゃんと使ってくれる人に売りたいと考えているんだ。だから、転売だけはしないでくれ」
確かに、ここで買ったポーションを転売すればいいお金になる。一瞬だけその邪な考えが浮かんだが、結局のところ、これを売ってしまえば、巡り巡ってあの大手ギルドに牛耳られた高いポーションを買いなおす羽目になることは想像できたので、俺はオーガの言葉に頷いて約束を交わした。
俺は、やはり結果としてラッキーだったのだろう。
変わり者とは言え、ギルドに属さず、また大手ギルドの圧力にも無関心な生産者と出会い、トッププレイヤーであり、人気者の閃光の戦乙女のメンバーとも会話出来た。可愛い声だったなー。リアルでもきっとかわいいに違いない。
浮かれて街に戻ったあと、彼女らにフレンド登録をダメ元でお願いすればよかったと後悔したのは言うまでもない。




