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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
28/45

本篇とはかかわりのないところで進むエピローグ

「ロバート、君には失望したよ」


 その老人は、白衣の青年に向かってそう言い放った。老人とは言え、背筋はピンと伸び肩幅も広くなまじっかな若者よりもよほど精気に満ち溢れている。


 ロバートと呼ばれた青年は、胸に抱えたメモリーチップを隠すように体を縮めている。


「さあ、それを返したまえ。今ならまだ引き返せるぞ」


「そ、それは、こ、こっちのセリフです、新田さん」


 震えながらもロバートはそう声を絞り出した。


「こ……これは、人類の、きょ……共有の財産と言うべきものです。あなた方が独占していいというものではない!」


「そうだ、だからこそ、君たちには渡せないのだよ。本職の方か、アルバイトの方かは知らんが、どちらに渡しても人類のためにはならん」


 老人が冷ややかな目でそう告げる。ロバートの顔色が一瞬で赤くなり、そして次の瞬間真っ青に変わった。


「いつから! 知ってっ!!」


「研究所の中で姫の目を欺けるはずもなかろ? 最初にアルバイトをした時からずっと君は監視されていたのだよ」


「なっ、何故!」


「情報自体は流されても問題なかったからね。そもそも、君の本国にせよバイト先にせよ、完全に情報を遮断することは出来ないのはわかっていたのだからね」


 ロバートは聞くに堪えない四文字言葉で老人を罵った。


「わ、私の身に何かあったら、本国は手段を選ばないぞ。そうなったら、人死にがでるぞ。あなたはその責任が取れるというのか!」


「それも既に解決済みだよ、ロバート。君が頼りにしている実働部隊だが、先ほどすべて対応が終わったそうだ」


「嘘だ! はったりだ!」


「そう思うかね? だが、この山中での特殊部隊同士の衝突で、片方が一方的に相手の位置情報を把握しているというハンデ戦で勝てるほど、君の国とこの国の差はないよ。そして、この研究所の半径10キロ圏内は、すべて姫の掌の内だ」


 老人は諭すように言う。


「嘘だ!」


 ロバートは首を振る。そんなことがあるはずがない。


「なあ、ロバート。お前の国があの宝箱を手にしたとして、ちゃんと鍵が生まれるのを待てるのか? 今、お前が命じられたように、力ずくでこじ開けようとするのではないのか?」


 ロバートは言葉に詰まる。本国にせよもう一方にせよ、研究所から提供されるデータでは満足が出来なかった。だからこそ、彼に命令が下った。宝箱の安全な管理の仕方が確立された以上、あの危険な宝箱を島国に隔離しておく必要はない。

 国連でも秘密裏にオヅマ研究所からアレを回収するための議案が決議されているはずだ。


 ロバートの顔色を見て、何かを悟ったのか、老人は冷たい笑いを見せた。


「お前が何を考えているのかはだいたいわかるよ。ただ、その議案は却下される。常任理事国の内二ヶ国が拒否権を使うだろう」


「そんなはずはない!」


「あれは人類共有の財産だ。お前もさっきそう言っただろ? 苧妻博士が直々に両国を説得したのさ。もちろん、手土産も持ってね」


 そろそろ話も終わりだと言わんばかりに、老人は無造作にロバートに近づき、その腕を絞り上げた。

 年齢を考えれば、ロバートが老人から逃れることはたやすいとも思えたが、その握力は圧倒的で激痛に身を悶えさせられる。

 そして、あっさりとメモリーチップを奪い取ってしまった。


「わたしの勘なんだがね。あれを無理にこじ開けると、良くないことが起こる気がするのだよ。そして、鍵たる者の選別は終わり、あとは彼女を守る騎士を育成しなければならないのさ。あの二国は、乗り気になってくれたよ」


「あ……ああ……それじゃあ、私のしたことは……」


「大したことではないよ。君の本国にせよ、バイト先にせよ、計画には参加してもらう。まあ、先走った分のペナルティは覚悟してもらうけれどね」


 がっくりと膝をつくロバート。彼の苦悩は、無駄ですらなかったのだから。


「言ったろ? あれは全人類の財産で、希望だ。不幸な行き違いはあったとしても、それを理由にはじき出したりはしないさ。まあ、いろいろと融通は利かせてもらうことになるだろうけれど、な」




 研究所の警備員に連行されるロバートを後目に、老人は空を見上げた。満天の星空。

 アレは、どこから来たのだろうか。ふとそう考える。星に手を伸ばし、まるでそれを掴むように拳を握りしめる。

 ふと、時折思うのだ。

 私は、誰かに操られているのではないだろうか。遠い、遠いどこかから、私に何かをさせようと私の知らぬ間に意志すら操って、疑問すら封じるように。

 老人は深くため息をついて、そんな妄想を振り払った。

 そんなはずはない。彼自身は、直接的に研究に携わっているわけではない。そんな専門的な知識があるわけでもないのだから。苧妻教授に求められ、アドバイザー的な立場でここにいる、そのはずだ。




 ただ、何故か確信していた。

 

 アレは、あの星空の彼方から来たのだと。

とりあえず、第一部完、といったところです。

プロローグとエピローグは、今のところ、本篇とは何のかかわりもない、ちょっとSFぶった背景っぽいなにかということで、今後、本篇と交わるのかは未知数であったりします。

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