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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
20/45

フレンドからのお誘いでダンジョン攻略に行くことになった件

  【サービス開始七日目】


 早いもので、サービス開始から一週間が経った。本日は金曜日、多少の無茶が許される日でもある。もちろん、無茶を許してもらえるように、宿題や家の手伝いはきちんと済ませてある。まだまだ学生の身分、親に養われている身がつらい。


「遅くなりすぎるなよ、などと野暮なことは言わんが、けじめはきちんとつけなさい」

「けじめをつけている限りは、母さんたちも大目に見ます。わかっているわね」


 両親の談。

 あえて、禁止せずに自己管理させることでプレッシャーをかけてくるのは、この両親の常套手段だ。神楽はそれに気づいているのだろうか。食卓でろくに咬みもせずに夕食を流し込む妹の姿を横目で見ながら僕は小さくため息をついた。母さんの右ほおが僅かだがひきつっている。機嫌が悪い時の癖だ。

 母さんは料理が上手い方ではないけれど、この時代には珍しい手料理派だ。僕はきちんとした料理は出来ないからわからないけれど、母さんにはこだわりがあるらしい。

 だから、きちんと食べないと不機嫌になる。

 とは言え、それを言葉にはあまり出さない。家族だけの食事のときにいちいち注意して全体的に空気を悪くするのも嫌なのだろう。それはそれで食事が不味くなるから。

 神楽も外面はかなりいい。家の外でこういう無作法を見せたことはない。こういった無茶食いも、家族だけという安心感からさらしているものだということもみんな知っている。


「ふぉふぃほうはま」


 口いっぱいにご飯をほおばったまま、おそらくは「ごちそうさま」と言ったのだろうが、謎の音の羅列にしか聞こえない言葉を発して、神楽は飛び出していった。


「あの子は全く……」


「後で言い聞かせておくから」


 多少なりとも機嫌を取っておかねばならない。


「ごちそうさま、うまかった」


 できるだけ、不自然にならないように言ったつもりだったが、父さんは「わざとらしいことをいうな」というアイコンタクトを送ってきた。

 が、母さんの方は機嫌が治ったらしい。というか、すごいドヤ顔をしていた。

 まあ、実の所母さんの料理には当たり外れがあるので、たまに美味い物が出るのも事実ではある。その辺は大雑把な性格が影響しているのかもしれない。

 まあ、機嫌が戻ればよいのである。僕は、後片付けをしながらそう考えた。


 食事の後片付けは、実は結構好きだったりする。というのも、まだインプラント手術を受ける前、やらせてもらった数少ない手伝いの一つだからだ。皿洗いでの水の感触が仕事をしているという実感を得ることが出来るので、何となく好きになっていた。

 一通り洗い物を終えてふと、ここ数日サボっていたなと思う。

 それだけのめり込んでしまっているという事なのだろうか。


 そう思いながらも、今日は何をしようと考えている自分がいることに少し驚いていた。




 FFOにログインするためには、一度ロビールームを経由することになる。今日もロビールームへとログインしたときに、ウッディからメッセージが届いていた。どうやら、ウッディも固定メンバーを確保したらしいのだが、空きがまだあるので一度一緒にやらないかというお誘いであった。

 ウッディには借りもあるし、どうせやることも決まっていないのだからぜひお願いしたいところでもあるので、ゲームにログインすると同時に、ウッディへ了承のメッセージを送った。


 待ち合わせの場所に向かうと、既にウッディの仲間たちは集まっていた。


「よう、来たな。今日はちぃっと付き合ってもらいてぇと思ってな」


 ウッディはそういうと僕を彼の仲間に紹介してくれた。僕も自己紹介をしておく。


 さて、ここでウッディとその仲間を紹介しておこう。


 まずは、僕の最初のフレンドとなったウッディ。

 長身で痩身のヒューマン、ぼさぼさの黒髪で顔もかなりスタンダードモデルから敢えて悪人面に作り直している。短剣使いであり、スキルも基本的に「盗賊」をイメージしたメイクになっている。


 タンク役を務めるのは、ギルボア。

 巨漢という言葉がしっくりくるヒューマン男性。体格としてはおそらくヒューマンが許す最大の大きさにメイクしているのだろう。2メートルほどの身長のマッチョ体型である。その容貌は、まずその一点に集約されてしまうだろう。すなわち、ハゲ。禿頭というべきだろうか。完全にそり上げた頭部には複雑な刺青が入っていて、プロレスのヒールレスラーを彷彿とさせる。いやまあ、僕はリアルプロレスは見たことないんだけれどね。


 物理アタッカーを務めるのが、紅一点のアシェラさん。

 こちらは物理アタッカーとしては意外なことにエルフの女性キャラクターである。エルフのステータスは原則として魔法使い特性が高く、前衛特性は低めである。もちろん、フェアリーの様な特化型ではないため出来ないわけではないが、それでもステータスの低さは攻撃力の低さに直結する。それを彼女は重量武器、すなわち両手剣で補っている。

 見た目は平均的エルフ女性よりも小柄で、身長は150センチに満たない程度だろう。逆立つ赤い長髪を大雑把なポニーテールに纏めた髪型を選択している。エルフというのは原則華奢なタイプが多いのだが、キャラクタークリエイションでは結構体型などもいじれるので、かなりのグラマーなタイプになっている。肌の色は意図的にだろう、浅黒く設定を変えているため、イメージとしてはダークエルフというやつだろうか。


 ヒーラーを務めるのが、ドーラム。

 白髪を肩口で切りそろえた中年男性タイプのキャラクターだ。ウッディといいドーラムといい、基本アバターにはない中年系をわざわざ作るというのは大変だったのではないだろうか。体格的には中肉中背、顔もむしろモブ顔に作っているため、遠巻きにはNPCと間違われてしまうのではないだろうか。特徴がないのが特徴である、と言うのを地で行っているのが何とも言えない。

 強いて特徴を上げるなら、どこか貼り付けたような微笑み顔だろうか。


 魔法アタッカーを務めるのが、オーラ。

 ただ、彼を魔法アタッカーと言っていいのだろうか。彼は、そう、オーガなのだ。オーガの魔法適正は最悪である。特に、攻撃魔法を使う場合、致命的なほどのINT(知力度)が足りない。そして、魔法を数撃つためのMPが壊滅的に足りない。

 彼はそれを踏まえてでも、オーガメイジを目指しているのだろうか。それとも今後のキャラクターの進み方を見越しているのだろうか。

 その手に握るのが両手持ちの棍。杖ではなく、棍である。スキル的には、杖も棍も同じ〈棍〉スキルで用いることが出来るのだが、魔法補助を目的にした杖に対して、棍は原則として物理攻撃用であろう。


 この五人がウッディたちの基本メンバーであるらしい。フルパーティには一人足りないが、それは現地で補充したり、そもそも五人で活動したりしているらしい。


 意外なことだが、彼らはあっさりと僕を受け入れてくれた。いや、意外などと言ってはいけないだろうな。これは、彼ら同士の間の信頼なのだろう。ウッディが僕を連れてきた。だから受け入れる。単純だが、それ故にわかりやすい信頼関係。


 ウッディが僕を誘った理由、それは単純に遠隔攻撃手段を持つ僕が必要となったからであった。そういう打算的なことの方が分かりやすいし実は助かる。

 目的は、ボスダンジョン。ただしボス攻略ではなく、枝道の攻略である。


 ウッディが盗賊タイプを目指していることは知っている。

 そして、職業[盗賊]を得るためには、当たり前のことだが前提に盗賊系スキルを習得する必要があるのだ。スキル自体は、盗賊ギルドでスキルポイントといくらかのお金で取ることが出来るが、スキルそのものを上げるためには、そのスキルを使い込まなければならない。

 ウッディが鍛えたいスキルは、〈罠〉と〈開錠〉だ。

 この二つは鍛えるのが結構難しいらしい。〈罠〉の初期アーツ【罠感知】は、発動するだけでは経験値にならない。ちゃんと罠があることを感知して、あるいは感知失敗して初めて経験となる。〈開錠〉もまた、鍵のかかった扉は箱を開けて初めて経験となるわけだ。

 そして、初期エリアであるエンパイアでは、罠や鍵というギミックは驚くほど少ない。当たり前のことだが、初心者が活動することを前提としたエリアである以上、パーティ内のスキルに罠や鍵に対応できないことが多いのは予想できることであり、それを見越した配置になっているのはある意味当然である。

 エンパイアエリアでもいくつかのダンジョンが発見されており、ダンジョンの中には罠や宝箱が配置されているが、一度解除されたり発動した罠は、一定時間発動しなくなる。宝箱にしても、ダンジョン内に少数配置されるのだが、これがランダムな場所に置かれるのだ。こちらも誰かが開けると、しばらくはダンジョンの中に宝箱がない状態になってしまう。

 これでは、効率よくスキル上げが出来るわけがない。


 そこで、ウッディが目を付けたのが、インスタントダンジョンであるボスダンジョンであった。

 インスタントダンジョンは、その名の通り、即席で作られる。もちろん、ダンジョンの地図そのものは同じものが使われるし配置されるモンスターや宝箱も必ず規定数存在する。

 つまり、確実に宝箱を見つけることが出来るのだ。もちろん、一つのエリアのボスが生息するダンジョンである以上敵も強い。仲間たちも獲物の取り合いをすることなく狩りをすることが出来る。

 一つ、誤算がだったのは、小部屋のモンスターの特殊なリンク属性であったのだ。

 このダンジョンでは基本的に魔法釣りが出来ない。魔法で釣ると確実に中ボスが反応するように配置されているためだ。比較的遠距離まで届くアーツは、【挑発】であるが、これも小部屋の中に入ってボスに感知される可能性がある場所まで近づかなければならない。

 結果、思うほど上手くやれなかったところ、僕のことを思い出してくれたらしい。むろん、ウッディたちにとって僕の弓の腕は未知数であるけれど。


 しかし、最前線のモンスターに僕の腕が通用するかどうかはわからない。それでも、誘ってもらったからには頑張らせてもらう。

 僕はそう心に決めて、いくつかの買い物を済ませる。特に新しい弓の購入は外せない。

 ここで一つ問題があった。

 弓使いの少なさから、プレイヤーメイドの弓がないのだ。店売りの武器の隠しプロパティは大した物はない。神楽……ミネアの片手剣はプレイヤーメイドで、かなりレベルの高い職人の手によるもので、店売りの同じものに比べると、命中補正、攻撃力補正が高くなっているそうだ。使い勝手もかなり違うらしい。

 まあ、ない物をねだっても仕方がない。いずれ自作するしかないのだろう。


 さあ、行こう。

 ウッディが手招きをしている。僕は少し駆け足で彼に続いた。

 ダンジョン攻略。なんとも心躍る響き。楽しみだ。

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