本日は、極めて生産日和であると、ひたすらに生産を繰り返していたら、なにかのフラグを立てたらしい件
【サービス開始六日目】
結局のところ、昨日一日をやらかしてしまったことの後始末に当ててしまって、ゲーム的には何も進展がなかったのは残念なことではある。
勇者君とは和解できたものの、ネット上の悪意というものはなかなかに鎮火してくれはしない。昨日ほどではないけれど、やはり噂は回っている。公式掲示板の方は、お節介な彼らが立ててくれた真相スレで大分落ち着いている。幸いなことだが、勇者君へのバッシングもあまり見られないようだ。
問題は、外部の匿名掲示板の方である。こちらでは、いまだ根強く僕の悪評が続いている。そもそも、弓使い自体の悪評がまずあり。そこへ恰好の燃料投下になったといういきさつがある。そういった掲示板には一定数の悪意を持って種火を業火へと育てるタイプの住人がいるものだ。
そう言った悪意を見抜く目を持つことも匿名掲示板を利用する上での必須事項と言えよう。
そしてまた、一定数の掲示板の内容を鵜呑みにする、或いは信じるタイプがいるのも事実である。
今、すれ違ったプレイヤーもそう言ったタイプなのだろうか。すれ違いざまに聞くに堪えない悪口を放って行った。
「やれやれ、だ」
肩をすくめる。自分にも悪かった部分があるためか強くは出ることが出来ない。
人の噂も七十五日、と言うけれど、七十五日も響いたら、ゲームから離れてしまいたくなるかもしれん。
しばらくは目立った行動は控えておこう。
そう考え、僕は錬金術ギルドへと向かった。ああいうことがなければ、昨日のうちにギルド登録を済ませておきたかったのだが。
錬金術ギルドへの登録の仕方は二種類ある。というよりも、生産系ギルドの基本はすべて同じである。
つまりは、金か実力か、である。
原則として、〈錬金術〉スキルを所持していることは必須であるが、登録料を払ってギルド証を発行してもらうか、あるいはギルドが指定するアイテムを一定数収めるかとなる。お金のない僕としては、必然的に後者になるのだが。
色々と考えを巡らせながら歩いていると、いつの間にか職人街、錬金術ギルドへと到着していた。
ギルドには、まあ当り前ではあるがギルド長の地位にあるNPCが配置されている。
「ここは見果てぬ夢を追う科学と神秘学の学徒が集まる錬金術ギルドだ。
錬金術というのは、本来は金を生成することを目的とした魔術と科学の融合技術だったのだが、その様々な実験と研究の過程で生まれた技術を後世に伝える役目を追う学問の形態の一つだ。
君は……リュートというのか。まさしく錬金術を極めんとする深淵の徒にふさわしい知性溢れる名前だな。どうだね、錬金術を学び、世界の真理を解き明かしてみないか?」
ギルド長はそう誘いかけてきた。もちろん、これは基本的に誰にでも同じことを言うのだろう。しかしなんだね、やっぱりメロンソーダさんとかふわふわさんとかでも、知性溢れる名前だというのだろうか。
とりあえず、イエスと答える。
「やはり、君は真理の門をくぐったか。我々は新しい仲間を歓迎する、と言いたいところだが、我々としても、君の本気を見てみたい。一つは、一万ギースをギルドに収めること。なに? 金で解決するのかって? 錬金術という技術を学ぶには対価が必要なのだよ。一万、決して安くはない金額だ。それを払う意志があるというのならそれは十分に君の覚悟を証明することになる。
もう一つは、最低限の知識と力を我々に示す方法だ。具体的には、初心者用ポーションを15個納品してもらいたい。レシピに関してはサービスさせてもらおう。素材の調達、アイテムの制作は自ら考え、探し出してほしい。今後、錬金術を極めるためには必要な技術だからだ。
どうする、やめるなら今のうちだよ。錬金術は真理へ到達する道。生半可な覚悟で勤まるモノではない。ここで引き返したとしても、誰も君を臆病だとは思いはしない。さあ、どうする?」
僕は、長が提案した第二案を受ける旨を伝える。
「おお、君ならそれを選ぶと信じていたよ。これが、君に与えられる試験の品のレシピだ。受け取りたまえ。さあ、そして行きたまえ。我々は君が新たなる心理の徒となることを信じている」
クエスト受領の軽快なサウンドエフェクトが頭の中に響く。さあ、始めよう。
もらったレシピをアイテムとして使用すると、習得した状態へと変わる。レシピ帳というアーカイブの中に記載されていくことになるのだ。
レシピを増やすには、基本的にはレシピの購入、あるいはレシピアイテムの入手という方法がある。素材の配合比率などをネットで調べて作ろうとしても、レシピを持っていない場合そもそも生産コマンドの実行が出来ないのだ。
それ故、職人は基本的にはひたすらレシピを集めていくことが一つの目的にもなる。
おそらくは将来的には、ハイレベルなボスモンスターのドロップ品などというレシピ自体がレアな生産品なども実装されるに違いないだろう。
さて、肝心の初心者用ポーションのレシピだが、二種類のレシピがそのアイテムから入手することが出来た。
アロエ+蒸留水
ヨモギ+蒸留水
わかりやすくていいな。アロエにせよヨモギにせよ、どちらも薬草としてよく知られたものだ。この時代、そういったもので傷を癒すなどということはあまりないけれど、年配の方などが若いころにはそういったことはよく知られていたらしい。
もっとも、アロエやヨモギを水に溶かしたものが薬となるのか、という点においては正直分からない。というか知らない。まあ、ゲームだからといってはそれまでである。
まあ評判なんてものは気にしたところでどうにかなる代物でもあるまい。ならば、気にしないのがベストだとこれまでの経験上学んでいる。
僕は、街を出て探索を始める。まずは素材となる薬草の調達である。これは低級の素材だから街からそんなに遠いところにあるとは思えない。
将来的にはともかく、ギルド入隊試験に使われるようなアイテムがプレイヤーの行動範囲を大きく逸脱するエリアに存在するとは考えにくい。だから、僕はエンパイアの街を中心に探索ポイントを探しながら歩く。
予定外で入手してしまった〈採取〉スキルはあらかじめセットしてある。とにかく今はアイテムを集めることだけに専念しよう。
で、実際に探してみたところ、やはり植物だけあって、森の中の採取ポイントで採れることが分かった。まあ当然と言えば当然なのだが、そう言った傾向を知っておくのも大切だろう。
もちろん、途中の小川などで水を採取しておくことを忘れてはならないだろう。薬草にばかり気を付けて、もう一つの素材である蒸留水を忘れてはならない。
十分な素材が集まったところで、僕はセーフティエリアへと向かう。ギルドへの納入は個数指定である以上、携帯キットでの作成で問題はあるまい。
そして延々と、河川の水を蒸留水に加工する作業を繰り返す。当たり前のことだが、スキルアップも兼ねている行為なので、生産難易度の低い蒸留水制作を先行する。
とにかく、飽きるほど繰り返す。生産者系の掲示板で書かれていたことだが、生産の成功率や大成功率は生産行為を行う際に自動で行われる動作を意識してトレースすることで上がるという推論が立っているが、これだけの試行数を同調させるのは難しい。だから、数をこなす生産行為はオートアクションに任せた方がよいと思う。
大量の蒸留水制作が終わった時点で一息つく。生産行動も、「生産」というアクションを取っているため、スタミナポイントを消費する。入門レベルの生産ではSPの自動回復によってあまり消耗する感じではないのだが、連続生産をすると若干だが消費の方が回復を上回る。
今回気付いたことだが、スタミナが50を切ったあたりから生産アクションの時間が伸びた感じがする。体感である以上気のせいである可能性も否定できないが、スタミナという概念を考えれば十分にあり得るだろう。
幸い、スタミナポイントは、休息状態に移行しなくても、戦闘やアーツ使用がなければ回復も早い。0からでもものの数分で全快する。
全快した後、集めた素材を確認する。アロエとヨモギは両方合わせて50を超えている。嬉しいことだが、〈採取〉スキルでの【採取】は〈サバイバル〉でのそれよりもより効率的にアイテムを集めることが出来るようだったので、先日の散々な気持ちも吹き飛んでいた。
やはり、スキルレベル的には複合スキルの方が高くても、専門スキルの方が汎用性が低い分、その専門分野ではより高い効率性を持つということだろう。
先行組の中には既に、武器スキルが100に到達している者たちも多数存在する。
スキル100に到達すると、スキルを修得するためのスキルポイントを1点得ることが出来る。また、同時に戦闘スキルに於いては、より細分化したスキルが派生するということだ。
簡単に言うと、〈剣〉スキルが100に到達した時点で、派生スキルとして、〈片手剣〉〈両手剣〉〈短剣〉の習得条件が満たされるのだ。もちろん、これまで通り〈剣〉スキルを伸ばすことも可能であるが、おそらくは専門化されている分、派生スキルの方がより強いものである可能背が高い。
生産系では、例えば〈鍛冶〉スキルから派生するスキルとして〈武器制作〉〈防具制作〉〈道具制作〉などがあるという。
まあ、これらは僕が習得した時点でおいおい説明していこう。
今は、とりあえず錬金術を鍛えることをメインとする。
スタミナも回復したところで、初心者用ポーションの制作を開始する。
ただ、ひたすらに作る。
黙々と作る。
作る、作る、作る。
蒸留水とは違って、スキルがあってもたまに失敗する。だが、作れば作るほど、スキルが上がって成功率が上がっていく。気が付くと〈錬金術〉スキルが10を超えていた。おそらくだが、10を超えたころから、成功率が跳ね上がった。というより、失敗が殆どなくなった。
おそらく生産にはそう言った成功率などが一気に変化するスキル値があるのだろう。
〔システムメッセージ:セーフティエリアに置いて、累計生産回数が規定値を超えました〕
〔開拓イベントが発生します。規定数の生産回数を満たしていますのリュートにはイベントに参加する権利があります〕
おや、これは何のイベントだろう。とりあえず、僕の生産行動がイベントのトリガーだったようだ。
これは一応参加しておくべきかもしれない。
僕は選択肢から参加するを選択した。さて、何が起こるのかな? 僕は楽しみにしながらイベントの開始を待った。




