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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
17/45

ゲームの中でも人間関係は大切だと諭されて、自分がゲームだからとどこか距離を置いていたことに気付かされた件

  【サービス開始五日目】


 さて、どうも面倒なことになった。確かに成り行きだったとはいえ、自業自得とも言えなくもない。


 さっきから、罵詈雑言の嵐である。どうやら、昨日の勇者君かその仲間の誰かがかなり脚色をしてゲーム内掲示板に昨日の顛末をあることないこと書き込んだらしい。そのため、さっきから直チャットでひどいいわれようなのだ。

 最初はいちいち説明していたのだが、キリがないのでどうしようか迷っていたところである。


 僕が歩くと、義憤に燃えた一団が後に続く。問題は彼らが掲示板にあげられた事件をそのまま鵜呑みにしているだけで、決して悪意があるわけではないことだ。

 その証拠に、昨日の勇者君と違って、問答無用で仕掛けてくるわけではない。僕自身も昨日はやり過ぎたと反省していることもあって、あまりことを荒立たせたくはないということもある。


 今日は錬金術ギルドに入っていくつかのレシピを仕入れたいと思っていたのだけれどな。なかなか予定通りには進まないものだ。


 僕としても、昨日の勇者君たちには言いたいことはある。特に、彼らから隠れている間に最後のボーナス枠を〈潜伏〉で使ってしまったことについてはこちらが非難したいところでもあるのだ。


「おい、どこに行くつもりだ」


「落ち着いて話が出来るところだよ。どこがいいかな」


 僕は思案を巡らせる。とは言え、僕はあまり町中に詳しくない。


「それなら、いい場所があるぜぇ」


 丁度、通り過ぎた路地から声がかかった。聞き覚えのある声だ。そちらに視線を向けると、痩せぎすの中年男性アバターが軽く右手を挙げてこちらを見ていた。


「なんともまあ、やらかしたもんだ。まったくもって羨ましい限りだねぇ。こちとら、悪人名声ポイント上げるのに必死だっていうのによ」


 そういって手招きしてきたのは、初日に会ったあのウッディだった。


「それはありがたい。どうも誤解が生じているようで困っていたところです」


「なに、近いうちにあんたの力を借りたいからな。まあ貸しを作っておこうってやつさ。こっちだ、来な」


 ウッディの後について僕は歩く。すると集団がそれに続く。ざっと20人ほどか。このうち何人が単なる誤解であることを理解してくれるか、話を聞かない勇者君と同類は何人いるか。

 それによっては、まあコレをやめてしまってもいいだろう。妹や先輩には悪いけれど、無理して続けるようなものじゃない。フルダイブシステムを用いたソフトはたくさんあるのだし。


 ウッディが案内してくれた場所は意外なことに、いわゆる冒険者ギルドであった。職業[冒険者]を統括するギルドであり、同時に様々な依頼を受けることが出来る場所だ。ただし、見習いが取れた後のことであるが。


「この先に、チャットルームがあるのさ。その中なら少々声を出したって外には漏れねぇし、ルーム作成の段階でレギュレーションを決めることが出来るから落ち着いて話が出来るぜ」


 それはありがたい。当たり前のことではあるが、短絡的な行動を前もって制限できるのはここでは重要だ。勇者君みたいなケースとはそうそう出会いたくはない。


「ま、戦闘禁止は基本だな。あとは、ゲーム内掲示板閲覧可は必須か」


「途中入室は許可制、退出は可ってところかな。ありがとう、ウッディ」


「ま、気にすんな。それより、連中大分焦れてるぜ。早く説明しろってことだろうな」




 まずはどこから話すべきだろう。僕は頭をひねっていた。


「最初から、だろうな。それについてはまず俺から補足を入れさせてもらうぜ」


 ウッディが助け舟を出してくれる。確かにそうだ、そこから始めなければ話にならない。


「まずはリュート、おめえ、先日匿名掲示板に上がったおめえたちの噂は知っているか?」


「いや、直接は知らない。ただ、僕に仕掛けてきたパーティの言い分だと、現実とは結構違っている気がするな」


 戯言を、とつぶやく声が聞こえたが、これはスルーする。実際知らないのだから仕様がない。


「じゃあそこからだな。そのスレが立ったのが月曜日。内容はボスモンスター戦闘中にMPKを喰らってボスを奪われたというものだった」


 初っ端から嘘八百かよ。だが、ここは詳しく聞いておくべきだろう。


「そのパーティの言うには、ウサギ広場のボスと戦闘中、大量にモンスターを引き連れたオーガの弓使いが故意に彼らの戦闘エリアに乱入してモンスターを擦り付けて逃走、結果彼らのパーティは全滅した」


 ツッコミ入れたいが、保留だ。


「その後、再準備してウサギ広場に戻ると、後から来たパーティにキャンプを占領されたうえに、ボスモンスターを奪われていた。占有権を返してくれるよう交渉したのだが、またオーガがMPKを仕掛けてきた。これが、大体の要約だな」


「まあ、そのパーティが美少女軍団だったという情報でスレの流れが加速しまくったわけだがな。美少女ハーレムパーティというだけで、そこのオーガは有罪判決出てたんだけどな」


 そこで笑いが起こる。


「勘弁してくれ。妹とその友人だよ」


「だからなんだ? FFO内では女性は希少なんだぞ。妹だからってそれで罪状が減ると思うのか」

「いや待て。それは少なくとも一人フリーのリアル女の子の女アバターがいるっていうことではないのか!」

「貴様天才か。おにいさんと呼ばせてください」


 なんだ、このノリは。


「話が進まねぇよ。ちったぁだまれ。んじゃ、リュートのターンだ。実際のところ話してくれ」


「ああ、まずはどこから話すかな。まずは、僕らがウサギ広場で狩りをしている最中だったな。彼らは、僕らが保持していたキャンプ近くに陣取った。そして、最初の一言が、『そこの弓、危ないからどっかいってくれ』だったな」


「まあ、弓使いだからな。そういうやつもいるだろう。それくらい弓の誤射はやばい」


 誰かが言う。


「キャンプ候補地はいくらでも空いてたから別の所に拠点持てばいいと思うのだけれどね。こっちが先にキャンプ置いたんだから、どっかいけってのは筋違いだと思うが。その後も事あるごとに邪魔もの扱いされたんだけど、向こうも狩り始めたんでこっちからは不干渉を決め込んだんだよ」


 なんとか記憶を辿りながら話していく。


「そのうち、彼ら自身意識していたのかそれとも無意識なのかはわからないけれど、少しずつ前に出て行ってしまって、結果、リポップしたモンスターに絡まれた。この時点では、救援要請があったら対応するつもりでこちらも構えていたのだけれど、次に彼らに絡んだのが、クランボスのウサギだった」


 あらら、と額を押さえる人がちらほら。


「まあ、僕らにボスを取られないように、通常モブと戦闘中にも拘わらず、ボスにターゲットを映して3体同時に戦い始めたんだ。結果彼らは全滅した。

 その後、全滅したためフリーに戻ったボスをこちらが占有させてもらったんだが、この戦闘中に僕に割り当てられた仕事として、ボスが召喚した雑魚をキープして走り回る役をやったんだけれど、戻ってきた彼らが僕の進路を妨害し始めたんだよ。それとは別個に、ボスの占有権を返せって言ってきてたんだけれど」


 周りを見る。意外なことに、きちんと話を聞いてくれているようだ。


「まあ、ボス自体はパーティメンバーが優秀だったから順調に倒せたのだけれど、妨害もあって通常モブにも絡まれていた僕は討伐直後に雑魚に殴り倒されて死亡したわけだ。その際、あいも変わらず進路妨害を続けようとしていた彼らは、僕を追っかけていたモブに絡まれて二度目の死にがえりしたわけだ」


「……まあそんなところだと思っていたけれどな」


 その他大勢の一人が、肩をすくめて言った。エモ交えでのセリフということは、そういう対応をすることを前もって決めていたようにも見える。まあ、彼がフルダイブならまた違ってくるのだが。


「え?」


 僕の方が聞き返してしまう。


「そもそも、匿名掲示板の内容をそのまま信じるのはな」

「ありえねーよな」

「うむ、ありえん」


「ま、そこはたいていの奴が嘘と見抜いていたさ。まあ、嘘と見抜いてスレ主を叩くまでに、モテオーガ死すべしで一致してたわけだが」


 ウッディが笑いながらそう言った。なんだこの拍子抜けは。


「で、見抜けなかった間抜けがいたわけだ」




「ウッディも人が悪い」


「いやいや、真相を語ることも必要なことだぜ。それに、おめえにも悪いところはある、わかってんだろ?」


 ウッディはそういって僕の頭を小突いた。この人はエモの使い方うまいなぁ。フルダイブと変わらないくらいエモートの使い方が自然なのだ。


 集まった連中は、結局のところほとんどが真相を予想していた連中だった。

 そもそも、僕のネームカラーがノーマルであったことから、ゲーム内掲示板での晒し記事が嘘であることを見抜いていたわけだ。

 今、彼らはゲーム内掲示板に真相スレを立ち上げている。ついでにだが、勇者君が個人的に謝罪に来るなら、回収した装備品を返還するつもりがあることも書き込んでくれるそうだ。


 僕の方でも書き込みをしようかと言ったのだが、下手に本人登場は事態を悪化させることもあると控えるように言われた。

 実際、掲示板はひどく荒れていた。ゲーム内掲示板は匿名ではない。キャラクター名とワールド名が書き込みに記載されるため、あまり下手な嘘は付けない。

 勇者君、というかその取り巻きくん(多分2号)はそう思慮深い方ではなかったようだ。実際、そんなに深く考えるタイプにも見えなかったし。


 まあ、勇者君と取り巻きたちのことは置いておいていいだろう。装備品が惜しければ謝ってくるだろうし、そうでなければ、接触を図ってこないだろうからもう関係は切れたと思っていいだろうし。


「ああ、僕もちょっと気が高ぶってたんだと思う。やり過ごせるならやり過ごした方がよかったんだろ」


「そうだ。今回はおめえが立てた作戦が120%うまくいったから勝っただけだ。ちょっとでも、いや作戦が100%の状態でもこうはうまくいってないだろうぜ。MMOは結局のところ人同士の付き合いだ。むやみに敵を作るのは感心出来ねぇ」


「悪人プレイを目指すウッディに言われたくないけどな。でも、忠告ありがとう。みんなにも感謝しないとな」


「さすがに気付くか。そうだよ、あの連中はおめえのことを心配して集まった暇人どもだ。β時代にそれなりに知られた名前の奴もいるらしい」


 そういうものか。


「ま、おめえを襲ったライトブリンガーってやつも性根の所はああいった連中と同じかもしれんが、ちぃっと思慮が足らなかったのかもしれねぇ」


 そうなのかもしれない。ただ、あの剣2号……シュバルツアイゼンという名だった……はどちらかというともっとたちの悪い性質の奴のような気もしたけれど。




 しばらくして、光の勇者様から連絡があった。ウッディの言った通り、実際にはかなりまじめなタイプのようだった。

 ただ、僕を襲ったことに関しては単なる正義感ではないことは素直に話してくれた。


 このゲームに於いて、PKは決して否定されていない。その証拠が、あまりに厳格に設定されたPKやPvPにおける彼我戦力差の計算と、それによってはじき出される敗者が失うアイテムやお金の額である。

 戦争での戦力の有名な方程式に、戦力差は、双方の兵数の2乗に比例するというものがある。

 戦争ではないが、喧嘩などでも似たようなことが言われる。例えば、3人対5人で喧嘩した場合、その戦力差は3:5ではなく、9:25になるというものだ。もっとも、少人数の喧嘩だと、個々の力量がものをいうので、単純にそんな数値になるかは別でもあるのだが。


 つまりは、今回の勇者君と僕の戦力差は5:1ではなく、計算上25:1に、個々の戦闘スキルによる補正を加えたものになっている。


 おっと、話がそれてしまった。


 勇者君としては、勇者らしく悪と戦いたいという願望というか、キャラ付けをしたかったらしい。この際、その行為が正しいか間違っているかはわきに置いておこう。

 だが、今後、彼が彼らしいロールプレイをするならば、プレイヤー間戦闘はいずれ避けて通れない道であった。

 ひどく身勝手なことではあるが、将来的なプレイスタイルの確立のための踏み台として僕が白羽の矢をたてられたというわけだった。


「正義の味方がやりたいなら、もう少し人の話をきけよ」


 あきれて僕はそう諭すと、彼はすまなそうに謝った。


「正直、あの時は手段と目的が混同してしまっていたんです。プレイヤー戦の経験を積むということばかりが頭にあって、やっつけても後腐れがないプレイヤーキラーをターゲットに絞ってましたから。僕の自分勝手で迷惑をかけてしまったんですね」

 

「わかればいいんだよ。僕も正直言うと、冷静な判断が出来ていないってフレンドに叱られてしまったからね。君らを撒いた時点で僕は逃げ切るという方法もあったのだから」


 僕は、そういって彼の肩を叩いた。


「約束のものだ、帰すよ。ただ、お金の方はすまないけど正当な勝利者報酬とさせてもらう。じつはな、君らとの戦闘中に、予定外のスキルをラーニングしてしまってたいへんへこんでしまっていたのだよ」


「ぷっっ。なんですか、それ」


 彼は思わず吹き出してしまったようだ。


「いやなー、どうやら隠密活動中に、潜伏行動をしているとみなされてな。気が付いたらラーニングしていた」


「そんなこと、あるんですね。それじゃ、お金のことは諦めます。装備が帰ってきただけでも俺としては助かったし。それじゃあ、俺、いきますね。許してくれてありがとうござました」


 なんとなく危うさが残るのだけれど、それは仕方がないだろう。彼はまだ、中学生ということだから。

 まあ、今回の騒動は、これで一件落着となるだろう。念のため、おせっかいなみなさんが立てたスレに、和解成立の報告だけは書きこんでおこう。


 結局、今日一日はそれだけで終わってしまったのだった。


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