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僕のVRMMOプレイ日誌  作者: にゃあくん
初めてのヴァーチャルリアリティ
12/45

妨害にもめげず、与えられた役目を果たすことでパーティプレイの楽しみを知るものの、最後の最後で締まらない結末だった件

「はっ!」


 まずは、一矢。HPが多く残っている方が僕の担当だ。続いて、視線入力で、アーツコマンドを呼び出す。


「アーツ【ツインアロー】」


 本来なら、通常射撃に存在するクールタイムであるが、その隙間をアーツで埋めることが可能だ。何故なら、通常射撃攻撃とアーツのクールタイムは別だから。ちなみに、アーツごとにクールタイムが設定されているので、複数のアーツを連発することもできる。ただし、TPとSPによる制限内でという条件が付くが。


「さらにもう一矢」


 【ツインアロー】を放っている間に、通常射撃のクールタイムが切れ、射撃が可能となる。とは言え、既に接敵していてウサギの体当たりを喰らいながらの攻撃となる。だが、それはトカゲで慣れている。それに、これまでのミネアたちの戦闘を見て幾つかのパターンは見ている。


 体当たりは特に強い攻撃ではない。強力なのは後ろ蹴りだ。それだけは回避する。


 すぐ横で、にゃんこさんが短剣を振り回しながらもう一匹を確実に削っている。短剣は武器のダメージ値が低い代わりに、クールタイムやアーツの消費TPやSPが少ないように設定されているようだ。


「にゃんこ、おにいさん、ないすです」


 ヴァイスさんの声。あちらでも戦闘が始まったようだ。


 にゃんこさんと僕はそれほど時間をかけることもなく、ウサギを撃破する。とは言え、最大の功労者は僕でもにゃんこさんでもなく、メロンソーダさんなのは間違いない。


 というのも、僕、にゃんこさん、ヴァイスさんの三人のHP管理をしっかりと行っていたのだから。


「おまたせー」


 にゃんこさんはそう明るく言うと、ボス戦に加わっていった。こうなると、僕の仕事というものがなくなってしまう。


「おにいさんは、周辺警戒よろしく。絡みそうなウサギがいたら声かけを……」


 ふわふわさんの言葉は最後まで発せられなかった。というのは、順調に削れていたボスウサギがいきなり吠えたからである。


「これは、なに?」


 ダメージがあるわけではない、麻痺のような状態異常もない。


「手下を呼んだのかもしれん、注意!」


 僕は思わず叫んだ。トカゲのボスの時もそうだったはずだ。


 案の定、吠え終わった時点で、二匹の雑魚ウサギがボスのすぐ横に現れたのだ。


「お兄ちゃん、マラソンできる?」


 マラソン? つまりは、こいつらを連れて走り回れということか?


「一匹を釣って、フィールドを走り回って! 出来るだけ被弾はなしの方向で」


 無茶振りきたー。とは言え、言われたからにはやらねばなるまい。


 僕は、手早く距離を取ると弓を構えた。〈遠視〉によるターゲッティングも行い、できるだけ離れた距離で弓を放つ。


「じゃあ、行ってくるわー」


 踵を返し、できるだけこのキャンプから引き離した場所へ走る。キャンプから離れるということは、同時にアクティブなウサギのエリアを横切ることになるのだが、注意深く、同時に決して速度を緩めずに走る。


 集中力が増しているのだろうか、ウサギの動きがよく見える。何故だろう、基本的に今の僕はフルダイブのため、システムからのフィードバックされた感覚しかないはずなのに、目のあたりが熱い。だが、熱さが増せば増すほど、視界がクリアになっていく。


「なんか、おにいさんすごいな。きっちりウサギのアクティブエリア避けて走ってる」


「それじゃあ負けられないね、あたしたちも」


 どうやら、ミネアが単独でもう一匹を相手して、残りの四人でボスを削っているようだ。さすがにそれを見るだけの余裕はない。


 雑魚を引き回していて気付いたことがある。


 モンスターは、必ずしも最短ルートでターゲットを追うわけではないようだ。そして、雑魚とプレーヤーキャラクターの走る速度はほぼ同じ。結果、少しずつだが距離が開く。もっとも、後方を気にして振り返ったりすると距離が詰められてしまうので、なかなか難しいところだが。


 それでも、慣れてくると後ろを確認しながらでも走れるようになる。一番の情報源はやはり、音だ。移動しているモンスターはそれぞれ音を出す。まあ、足音だったり、鳴き声だったり。


 それを頼りにすれば、だいたいどの位の距離に雑魚がいるのかがわかる。


「お兄ちゃん、ごめん! また呼んだ、二匹引き回せる?」


 追加オーダー来たよ、これ。


「やってみる。すれ違いざま矢を射るから、誤射の可能性考えて射線から避けてくれ」


 どうやら、削りが早すぎたらしい。ミネアは何とかもう一匹を始末できたようなのだが、再度ボスが雑魚を呼んだようだ。


「おにいさん、お願いします」


 なんと、二回目は3匹呼んだようだ。ミネアとにゃんこさんがそれぞれ受け持っているが、ヴァイスさんはボスと雑魚1の攻撃を受けている。


 タンク仕様のヴァイスさんにとっては、雑魚の攻撃そのものはそこまで大きなダメージにはならないようだが、タメ攻撃である後ろ足蹴り(仮)にはノックバックが発生する。雑魚のノックバック攻撃から崩れることは十分に考えられた。


「いくよ、ヴァイスさん外したらごめん」


 いったん立ち止まって【ツインアロー】を発動する。通常射撃よりも、発動までの時間が短いからだ。また、この二連射アーツの特徴として、第二射目には誤射判定が存在しないこともある。さすがに連射系アーツでの誤射可能性を複数回やると、あまりに使い勝手が悪くなるからかもしれない。


 もちろん、一射目には誤射判定が存在する。それでもアーツで攻撃したのは、発動までの時間だけが理由ではない。二射のどちらかでも当たれば、雑魚のヘイトを稼げるからというのも一つの理由だ。


 幸い、二射とも命中したのか、雑魚のHPバーが幾分減る。感覚としては、このエリアに普通に湧くウサギよりややHPが低いくらいか。


 気になるのは、雑魚の攻撃ではなく、ボスの攻撃である。ヴァイスさんはうまく捌いてはいるが、明らかに攻撃速度が上がっている。HPが少なくなったため、ボスウサギの攻撃能力が上がったということなのだろうか。


「心配ない。おにいさんはおにいさんの仕事をしてほしい」


 〈盾〉スキルのアーツである【ディフェンス】を発動させ、防御に専念している。この状態だと、盾での受け流し確率が大幅に上がる代わりに、各種攻撃のクールタイムが倍増するとのことだ。


「任された。もう一周回ってくる」


 僕は再びマラソンと呼ばれる戦術を開始した。



 問題が起こったのはそのすぐ後だった。


 先ほど全滅したパーティが戻ってきたのだ。


「こいつら、うるさい。邪魔」


 ヴァイスさんが唐突にそう言った。


「しろちゃんも? こっちにも直チャットでボス返せって連続で言ってきてる」


 どうやら、先ほどのパーティが、ボスの占有権をよこせと言ってきているらしい。


「そもそも、システム上、無理」


 そうヴァイスさんが言うが、ミネアはそれを否定した。


「さっきから連続でレイド要請が飛んできてる。そのせいですごくやりにくい」


 面倒くさいやつらだな、と僕は他人事のように思ったのだが、直ぐに他人事ではないことを思い知らされる。


 僕のランニングコースを遮るようにプレーヤーが立ちはだかっているのだ。横にずれてよけようとするとそれに合わせてコースをふさぐ。


 えげつないな、こいつ。


 僕は、彼を無視して通り過ぎた。彼がきっちりと僕の進路上に立ちふさがったので、接触判定で一秒に満たない時間とは言え足止めされる。その後、彼の体を突き抜けるように移動を再開できるのだが、そのわずかな時間も二匹の雑魚を引き回している僕にとってかなり痛いロスだ。


「なっ、そこまでやるか!」


 もう一人、僕の行く手を遮る。やむなく、僕は進路を変える。通常配置のウサギの感知エリアに入るが、幸い、こちらに視線を向けているウサギはいない。


 その後も、彼らの妨害は続く。質の悪いことに、確かにこれはハラスメント行為ではあるが、プレーヤーキラーのようなペナルティが課せられるような行為ではない。


 流石に集中力が途切れてくる。


「ち、しくった」


 何度目かの妨害回避の時、雑魚の視界に飛び込んでしまったのだ。妨害する二人のエモーション機能でのダンスがとてつもなく腹立たしい。


「おにいさん、大丈夫ですか?」


「問題ない。とりあえずボスやっちゃってくれ」


 流石に三匹引き回せば、全部のから距離を取るのは難しい。


「いやらしいなぁ、この人たち。レイド組めばお兄ちゃんに絡んだ奴を倒してやるとか」


 そうきたかー。怪しいダンスを踊りながらも、彼らの進路妨害は続いている。


「気にするな。こっちはこっちで何とかするから」


 まあ、嘘も方便。


「後二分がんばって、おにいさん」


 ふわふわさんからの応援。嬉しいのだけれど、実をいうとかなり厳しい。なので一つ手を打つことにした。まあ、ちょっとした仕返しだ。


メロンソーダ≪≪『以降、ヒール援護不要で。ボス戦優先して』


メロンソーダ≫≫『それだと、あなたが大変では?』


メロンソーダ≪≪『まあ、こっちはこっちで何とかするから』


 正直に言えば、手助けは欲しいとは思う。だけど、メロンソーダさんの回復魔法の頻度などが明らかに減ってきていてヴァイスさん一人でタンクするのは厳しくなっているのか、ミネアやにゃんこさんのHPにもダメージが入っている。


 ヘイトをコントロールして、ミネアたちが一時的にターゲットを取ったりしているのだろう。どちらにせよ、カツカツで戦っているのは間違いない。


 ちなみに、僕のHPはかなり高い。HP等は、ステータスから導かれる基本値に種族特性をかけた上に、職業レベルによって増加するようになっている。キャラクターを作ったばかりの状態でのHPは、オーガは36なのに対し、基準値であるヒューマンのHPは20であり、二倍近い。もっともMPは半分以下という笑えない状態なのだが。


 HPが高いということは、それだけ耐えられる時間も長いということである。もっとも、FFOの回復魔法は〈回復魔法〉スキルと術者のMND(精神値)から算出される固定値であるのでHPが多いということはそれだけ回復に必要な魔法の回数も増えるということでもあるのだが。


 みんながボスを討伐するまで、なんとかもたせなければならない。妨害者は相変わらず鬱陶しい。


 二分というのは、ガチで殴っている間はあっという間に過ぎるのに、こうやって緊張しながらモンスターを引き回していると、ことのほか長く感じる。


 やはり、時折コース取りに失敗しているのだろう。後ろから追いかけてくる気配は増えている。当然、追い付かれて殴られる回数も、だ。


 幸いなことに、わずかな時間とは言えタメが必要な後ろ蹴りは、タメの間に射程外へと走り去ることが出来るため空振りさせることが出来る。だが、限界が近いのは間違いない。HPは既にレッドゾーンに突入している。


 一つだけ、良いことと言えば、恐ろしい勢いで〈回避〉スキルが上がっていることだろうか。


「おにいさん、無理しないで」


 ありがたいお言葉ですが、彼女たちも相当無理をしているのは感じ取れる。HPバーの動きだけでも、それは推測できるのだ。


 再び、ヴァイスさんが前面に立ち、ヘイト管理が始まると、あとはもう安心である。ミネアやにゃんこさんが一時的にタンクを引き受けて、ダメージを分散させている間に、メロンソーダさんのMP確保に成功したのだろう。HPが危険域に入る様子も見られない。


「よし、止めの【ツインブレード】!」


 ミネアの声。どうやら向こうは終わったようだ。


「おにいさん、HPまずいまずい! 今行きま……」


 うん、実はすでに限界でした。一瞬安堵してしまったのがまずかった。立て続けに2発喰らって、完全に危険域に突入した。


「ちっ、倒されちまったか」


 目の前で僕の進路を妨害しているオルガ氏。


「あ、そこ危ないよ」


 僕はとりあえず、警告する。と、同時に、僕の背後からウサギの頭突きが丁度腰のあたりに決まって、僕の最後のHPを削り取った。僕は、そのまま、前のめりに倒れ、HPゼロ、すなわち戦闘不能状態へと陥った。


 ここで、問題です。ボスが召喚した取り巻き雑魚は、僕というターゲットを失った場合、敵対心第二位であるヴァイスさんの方へ向かうのですが、僕がマラソン中に絡まれていた数匹のウサギはどうなるでしょう?


 ゲームのシステム上、僕はあくまで絡まれただけであるので、敵対心、ヘイトは誰も稼いでいない。つまりは、フリー状態に戻るのである。


 そして、僕が倒れることによって、ウサギたちの視線は誰を向いているのか。


 ウサギさんたちは、新たな獲物へと襲い掛かったのでした。


 オルガ氏が何かわめいているのだが、死亡状態の僕には聞こえない。パーティチャットはどうやら聞こえるようであるが。


「おにいさん、ごめんね。回復間に合わなくて」


 少し離れたところから、メロンソーダさんが謝ってくる。


「いや、気にしないでほしい。僕も勝手に動き過ぎたのだから」


「いえ、戦略上間違ったというわけじゃないんです。最終的には勝ったのだから。ただ……」


 ただ? なんか奥歯にものが挟まったような言い方だけど。


「ボスドロップで、ユニークアイテムが出ちゃったのよ。お兄ちゃん、死んでるからダイス振れない」


 死体状態だと戦利品ボックスを見ることもできないので、何が出たのかも分からない。


「あー、それは仕方ない。まあ時の運というかなんというか」


 今のところ、僕はそういったアイテムが欲しいという感覚はない。すごく使える弓だった、とかだと後で泣くかもしれないけれど。


「でも、わるいです。一番の功労者とも言えるのに」


 走り回っていただけなんだけれど。なんか、役に立ったと言ってもらえるだけでうれしかったりするんだが。


「それは気にしないでいいよ。楽しかったから、ちょっと意趣返しもできたしね」


「あーやっぱりわざとだったのかー。さっきからMPKMPKうるさいんだけど」


 ミネアがぼやく。


「進路上に立っていたのはあっちだし、僕は警告したんだけどね」


 ちなみに、あちらのパーティはただいま阿鼻叫喚中。音は聞こえないけれど。


 オルガ一人で死ねばほかのメンツは狙われることはないのだけれど、態勢も隊列も出来ていない状態で複数のモンスターを同時に相手にするには、彼らのコンビネーションはそこまで高くない。というよりも、彼らのコンビネーションは至極単純で、タンクがターゲットを固定している間に殴り倒す、というもののようで、タンク役の許容限界を超えた場合の戦術を持っていないのだろう。

 回復魔法の連発や、ヘイトの管理の甘さ、というよりも、前衛が四人いるのだから、それぞれが受け持てばいいのに、タンクがヘイトを取ることに固執しているようだ。


「それよりも、ちょっと時間過ぎたかな。ミネア、分かってるな」


「うん、みんなごめんね。もう落ちなきゃいけない時間なの」


「あーそっか。ミネアは高校生だっけ。戦利品分配したら、セーフティエリアまで戻って解散かな。おにいさんはどうします?」


 ふわふわさんがそう訊ねてきた。


「このまま死に戻りしてタウンで落ちることにするよ。今日は楽しかった、また機会があれば誘ってほしいな」


「はいですにゃ。お疲れ様ですにゃ」


 にゃんこさんに猫語が戻ってきた。ロールプレイモードに移ったということだろう。


「それじゃあ、僕は先に失礼するね。お疲れさまでした」


 僕はそう言ってから、ホームへの帰還を選択する。最後の最後に締まらなかったけれど、楽しい時間だった。

 パーティプレイもいいものだな……弓使いを仲間に入れてくれるやつらがいてくれればいいのだけれど。


 そんなことを考えながら、僕はログアウトを選択する。


 時間は11時15分。ギリギリで許容範囲だろう。


 明日からは平常運転、新しい一週間が始まる。僕は、ちょっとだけゲームの世界に未練を感じながらも、自室へ戻り、明日のために眠りにつくのだった。


 ちなみに、ユニーク品はメロンソーダさんが勝ち取ったらしい。ウサギの足の護符という状態異常への抵抗力が僅かに上昇する首飾りだったそうだ。

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