鎖国して3時間ですが、どうやらもう限界です。
「たのもー。たのもー。」
門の近くの植え込みに隠れて様子をうかがうと、やる気を疑いたくなる若干棒読みの気の抜けた女子の声がする。
「ゆきちゃん、それだと道場破りみたいだよ?」
少し慌ててはいるが、こちらもおっとりとした女子の声で突っ込みが入る。
こんな気の抜けた声に対して道場破りという言葉がすぐ出てくるのはちょっとすごい。
「結構、中広そうだけど、この鈴でちゃんと音、届いてると思う?」
届くんだよー。
と心の中で答える。
「鈴下げてるって事は、女の子かなぁ?」
質問に答えず、別の質問をぶつけるのは女子の会話で良くあるけど、なんなんだろ?
しかも鈴と女の子の因果関係が解らない。
そして女の子ではないです。
取りあえず、外から漏れてくる声に、3人以上の女子がいる事を把握。
威嚇、迎撃用の衣装を選ぶ。
一瞬で終わる着替えの後、パンプキンゴールドの髪をなでつけ背筋を伸ばす。
去年のハロウィンイベントで手に入れた『ドラキュラ伯爵の燕尾服』を着たファルケは、後から考えると、少女漫画とかに出てくる何かの様だった。
ファルケの中で、怖い衣装にカテゴリーされていたのがそもそもの間違いだったのだが、それを指摘する人間はここにはいない。
どんびきして帰ってくれるなら、それでも別に良いのだけどとか思いつつも、調子に乗って、めそこにシャボン玉を出させながら、お出迎えをする。
怖いを目指すなら、そのエフェクトも間違っているのだが、この状況を完全に理解している人間がいたとして、もはやどこから突っ込んでいいのか解らない惨状だった。
そして、門を開けると4人の個性的な美少女が、横一列に整列していた。
「お待たせしました。」
じゃーん、ドラキュラ伯爵自らお出迎えだぞー!頭が高い!怯えろ女子どもめ。
「わー、執事さんだー。」
ツーサイドアップの金髪ロングの爽やかな美少女が、嬉しそうに、藤色の瞳をキラキラさせて胸の前で手を組んで見せる。
ちなみに胸はそんなにない。
「お帰りなさいませ、お嬢さま。」
自分の中の事なかれ主義とか流されやすさとか、滑ったのを察した時の切り替えの速さとか、いろんなものを呪う。
そして、呪いながらも、この返しが一番傷が浅くて済むはずだと自分に言い訳する。
「……ただいま。」
森ガールと魔法使いを足して2で割った様な白地に金の縁取りのフード付きワンピースのおかっぱ少女が、ニコリともせずに真顔で返してくるのが居た堪れない。
っていうか、この子が「たのもー」の声の子だ。
……ゆきちゃん、もうやめて、俺のライフはゼロよ。
残りの二人はそんなやり取りを他人事のように眺めていたが、その小さい方と、目があった。
……思わずガン見してしまう。
黄金色の髪の間から、同色の耳がぴょこっと顔を出している。
ふさっとした可愛い獣耳。
先が白いふさふさの尻尾からするに、犬では無くて狐か?
巫女服がよく似合っている。
……もふりたい。
思わず時間をかけて観察してしまったせいか、怯えたように紅い目を揺らし、半歩ほど逃げられた。
……何この罪悪感。
最後の一人は、泉の妖精っぽい微笑みが麗しい美少女だった。
ストレートのロングの髪は銀色で、毛先に向かって水色のグラデーションになっている。
身体の線に沿ったマーメードラインのロングドレスも水色のグラデーションで、そのまま肌に溶ける様なデザインだ。
フィギュアスケートの選手が着ている様な素材をイメージしてもらうと解りやすいかもしれない。
距離的には他の子と同じ間隔で立っているにも拘らず、精神的には、一歩引いた所にいる様に感じた。
いや、感じただけだけれども。
「まあ、こんな所で立ち話もなんですから中へどうぞ。」
言ってる事は解るけど、そう言ったのが俺ではないというのがそもそもおかしいからね。
声の主は、棒読み少女のゆきちゃんだ。
自由なおかっぱだな、おい。
ひきつりながらも、中に招くと、めそこがドンマイとでも言いたげに、頭の上にのっかった。