うちのペットは飼い主より優秀です。
3メートル以上ある金属の門扉と石造りの外塀を見上げる。
レベルと共に勝手に大きくなる屋敷や領地と違い、目の前の門と外壁は自由に選ぶ事が出来る。
もちろん選べる種類はレベルごとにロックがかかっているが、LV99のファルケには関係ない。
今は、LV90以上でロックが解除される『武者返しの城壁』に『アルミナの門』が設定されている。
解説によると、城壁のモデルは、その昔、西郷隆盛に、「官軍に負けたんじゃないんだからね!加藤清正(熊本城の武者返しを作った)に負けたんだからね!」(要約)と言わしめした熊本城の城壁の様だ。
そして、アルミナの門は、丈夫な上、魔法とかをぶつけられると色が変わってきれいらしい。
魔法のない世界観で、魔法を使うときれいって……、と、当時は思ったのだけど、まさかこんなことになるとは……。
しかしゲームシステムが、ツバメに対する略奪行為を黙認/容認している以上、これでも自衛しているうちには入らないかもしれない。
TDOには魔法使いもいる。
「悪意あるプレーヤーから領地を守る方法……。」
やっぱり、迎撃……かなあ?
戦略的に考えて(キリッ!)とか言うなんてちょっと自分のキャラじゃないし、出たとこ勝負だよなあ?
カウンタートラップしかけて、こっち見んな作戦とか?
相談相手代わりに、ゆめこをじっと見つめると、くるくるっと回って首を傾げる様に身体を横に傾いでみせる。
……かわいいなあ、お前。
取りあえず言えるのは、引きこもり気質の為、自分自身が門外不出(意味ちが……)だ。
LV30で解放の水晶の柵に切り替えて、外の様子をすこしだけ見てみよう。
視線で、システム画面を切り替え、キラキラまぶしい肩の高さ位の透明の柵に置き換える。
すると柵の向こう側は一面、大木の海だった。
背の高い緑の濃い葉を持つ樹木が不規則に生えていて、門の方に向って細いけもの道が一本伸びている。
奥の方は暗くて見えない。
樹海という言葉が似合うそんな光景だった。
「あ、そっか、ここは秘境だから……。」
どうやら「幻の秘境で人知れず、貴族の様な、のーふライフを楽しもう!」というキャッチコピーの元のゲームの設定を配慮してくれていたようだ。
じゃあ、今まで通り、ペットたちとのんびり暮らせばいいんだ。
市街地とかだったらどうしようと、不安でしょうがなかったのだが、こんな、いかにもな鬱蒼とした森を越えて来る猛者居ないよね……。
安心要素を見つけて息をつく。
少し柵から離れて後ろに下がり、遠くまで見渡そうとしたが、手前の樹木のディフェンス能力が高過ぎて遠くを見る事は叶わなかった。
後で、ユニコーンと上から見てみるかな?
柵から5メートルほど離れていただろうか?
ゆめこが急に傍を離れて、柵に向かって寄って行く。
普段より体表が少し赤くて、何かを警戒しているようだ。
背中に背負ったままだった大弓を手に構えると、森の木の枝がガサガサと音をたてる。
怖い。
モンスターとかだったら、戦闘能力などないだろうゆめこを下がらせた方が良いだろうか?
そして、身体に茶や緑の枝や蔦を絡ませた、金髪碧眼の王子、もしくは騎士スタイルの年の近い少年アバターが現れた。
「……みーつけた。」
いきなりそんな事を言ってくる頭に葉っぱを付けたよれよれ王子に悲鳴を上げなかったのを褒めて欲しい。
もちろん心の中では大絶叫だ!
このシチュエーションは、ファルケにとってホラーでしかない。
相手が迷いなく柵に手をかけよじ登ろうとした所で、我に返ったが、その間もゆめこは発光しながら近づき、光る体表を相手の顔面に飛ばした。
「……うぁっぷ!」
顔面に光るゼリーが張り付いて目を開けていられない模様。
ナイス足止め!
知ってたけど、可愛いだけじゃなく、飼い主よりも強くて賢いペットだ。
「ゆめこ、さがれ!」
大弓をつがえると、デイリーの的と同じように、侵入予定者にもターゲットが出てきた。
つまりあれはTDOというゲーム的に見ても的だという事。
ファルケの心情的にも、門以外から入ってこようとするなら迎撃でオッケーだ。
大きく引絞ってターゲットの中心を射抜く。
侵入希望者は、白い光になって、空に飛び立って行った。
視界に経験値が表示される。
ドクドクと痛いほどに脈を打つ胸の鼓動を押さえつつ、大弓を仕舞い、戻って来たゆめこを抱き寄せる。
人に弓を放つのはやっぱり心臓に良くない。
違和感からゆめこの様子を確認する。
良く見ると、ゆめこのステータスに体力ゲージが表示され、右端が削れていた。
「……なにこれ?」
さっきの体表飛ばしの所為か?
15分のタイムゲージが出ている。
そういうことか。
「ゆめこ、少し休憩な。戻って!」
労いの気持ちを込めて撫でてからストレージに戻す。
代わりにメンダコのめそこを呼び出す。
同じ手は使えないだろうけど、少しの足止め位は出来るだろう。
ちなみにペットは151種類までストックできるが、現在120種類くらい仲間にしている。
次に、ニルさんも中に戻ってもらい、絹虫のきぬこを呼び出す。
きぬこは、真っ白いワーム系の糸職人で、今回はロープを作ってもらいたいので、麻を渡す。
平常時には枕にもなってくれるふかふかの身体を撫でると、決意表明のように「ぴい」と一回鳴いた。
そして、早速作業に入ったらしく、短い両手で麻を口元に運ぶと口の下の方からロープがどんどん出てくる。
罠の準備をしながら、プレーヤーがアップしている情報から、ツバメ狩りの詳細情報を開く。
大体簡潔にまとめるとこんなかんじだ。
・他プレーヤーに盗賊行為が出来るのはシーフ、盗賊系スキルの持ち主だけ。
・玄関、門から入った場合は、盗賊行為は出来ない。
・襲撃は1ユーザーに対し1日3回まで。
・一度襲撃に失敗すると1時間は強制ログアウトされる。
・プレーヤー不在のホームは襲撃できない。
・襲撃されたプレーヤーは反撃、迎撃可能で、トラップも有効。
・防衛に成功した場合、レアアイテムをGETしたケースも確認されているとの事。
・襲撃成功時、防衛成功時には経験値が入る。
・門に自宅警備員の紋章を掲げているホームには襲撃できない。
最後の一個は理解できなかったが、ここにいる間は、領地防衛も考えないといけないらしい。
さっき流鏑馬で手に入れたレア種の名称を見て悪い笑いを浮かべる。
そして早速、柵の傍に一定間隔で植えた。
「一回ご飯を食べて出直すか?」
芽が出て成長するまで、たしか1時間だったはずだ。
その間にカレーか肉じゃがを食べる気になる位には心が復活していた。
ファルケの初陣?はこうして終わりを告げた。
※主人公のペットのネーミングセンスについて。
ユメナマコ→ゆめこ
モフリス→しっぽ
カモノハシ→ノノ
八脚軍馬→ニルさん
一角獣→ゆにこ
メンダコ→めそこ
絹虫→きぬこ