入学式終わる
……全く。
目立たないような無難な自己紹介だったはずが、西田のせいで台無しだ。
イスをひいて座り直す時、視線を感じて右斜め前を見たら、こちらに身体を向けて、くすくす忍び笑いをする小動物系美少女がいた。
柔らかそうな髪だ。
ちょっとだけ撫でてみたい。
ほんのちょっとだけ邪っぽい郁介の視線に気がついてか、慌ててわたわたしながら前を向く。
可哀想に何やら慌てさせてしまったようだ。
その後の自己紹介の流れで、先程の色素の薄いショートボブの小動物系美少女の名前が、判明した。
火狩 氷花さん。
意外にも、TDOでは、体術系統を強化しているらしい。
リアルでも、不用意に撫でようものなら投げ飛ばされたりするのだろうか?
……いや別に、撫でないけど。
自己紹介が終わると、配布物などの確認をして、今日の日程は終了だ。
紙媒体の書類を適当に纏める際に、一番手前になった部活紹介の紙の、一ヶ所で目が止まった。
『TDOクエストコード:45296253』
欄外の小さな文字に少しだけ首をかしげ考える。
なんだこれ?
TDOって書いてあるからには、あのゲームをやってない郁介には関係ないのだろうけど、なんでこんな所に間違い探しみたいに書いたのだろう?
鞄にしまった後も、少しだけ気になってしまった。
解散の挨拶の後、周りでパーティーを組む相手を探し始めるクラスメイト達。
メンテナンス、クエストコードという言葉が、聞こえて目をやると、さっきの火狩さんと、灰寺さんと、ポニーテールが似合う健康的な美少女の東雲さんが、ゲーム内の待ち合わせ場所を決めている所だった。
あんまり女子をジロジロ見るのもあれだし、結局のところTDOに興味の無い郁介には全くもって関係ない話なので、さっさと帰る事にする。
そう思い、席を立ったところを、西田にヘッドロックかけていた担任に呼び止められた。
何やってんだ?
関わりたくなくて、ひきつりながら少しだけ近寄る。
「甥が、迷惑かけたな。公私混同はあまり良くないと解っているが、なにかあったらすぐに言うように。」
そう言って歯を見せて笑う担任の顔をよく見る。
おお、言われてみれば、イケメンの親戚だけあって、担任もイケメン風の美人だ。
さらに、肩に掛かるふわっとしたウェーヴの髪が、大人の魅力を醸し出している。
「はい。」
もちろん、余計な事は言わずさっさと帰る。
西田は、何か言いたげにもがいていたようだが、しるか!
今のうちに帰るに限る。
今日は金曜だ。
土日はゆっくりゲームしよう。
意識は既に学校から切り離されていた。
あ、帰りにスーパーに寄って、人参買って帰んなきゃ。