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天球儀高校入学式と悪魔の儀式

式が終わると、振り分けられた教室ごとの進行となる。


郁介は3組。

中学に比べ、ひどく大きく感じる本校舎に動揺しながら、他の新入生たちにまぎれて教室に移動する。

窓から見える遅咲きの色の濃い桜は八重桜だろうか?

そして、既に周りと打ち解けている一部の同級生を信じられない思いでちら見しつつも意識は、この後に待ち受けている本日最大の試練について思いめぐらせていた。


郁介を目下、恐怖のどん底に陥れている悪魔の儀式、……自己紹介。


自意識過剰と笑わないで欲しい。

誰もお前の自己紹介なんか興味ないからって言うのなら、どうぞ遠慮なくそんな無駄な工程は省略して欲しい。

中学校の入学式の後のそれで付いたニックネームが忘れられるまでに半年かかった事を苦々しく思い出す。


案の定、教室に担任が現れて簡単な挨拶を述べた後、悪魔の儀式は始まりの時を迎えた。

今現在、配布された座席表を見るに、教室の左前の席から、縦に50音順に着席している。

縦に5、横に6。

普通に考えて、左最前列の、天海さん?から始まる。

は行の鳩羽姓の、郁介の席は右後方よりだ。

先人が作った流れに乗って、やり過ごせばいい!


そして、予想通り、一番手に指名された、クロワッサンツインテールの天海さんが俺の期待を一身に背負って立ちあがる。

彼女は、恥ずかしさを少しだけにじませた純真そうな顔で、教室の全体を見渡しながらこういった。

天海アマミ のえるです。回復系中心にやってます。よろしくお願いします。」

 童顔で、小柄な美少女たが、まじまじと観察する度胸は無い!


しかし……。

想像しなかったと言えば嘘になるが、天海さんの自己紹介がすむと、当たり前のように、戦士、シーフ、魔法使い達の自己紹介になってしまっている。


お前ら、現実を生きるつもりは無いのか?

いや、もちろん、TDOには触れず、自己紹介を終わらせる子も居た訳だけれど……。

そっちの方が、圧倒的に少数だった。


ちなみに、TDOは、ゲーム内で転職ができる。

詳しい事は解らないが、複数の職業を入れ替えながら、スキルを上げて個性を出して行くそうだ。

プレーヤー同士で友達になれば、当然のように、パーティー組んで遊ぶのだろうから、天海さんの自己紹介が、間違っているのかと言われればそうとも言えない訳で……、何だろう……やっぱり、もやもやする。


新しい制服に包まれたクラスメイト達の自己紹介から、盗めるところがこれ以上見いだせず、アンニュイな内心がばれないよう貼り付けていた、平常心フェイスが、な行でいきなり崩壊した。


新入生総代のキラキラ王子(仮)が、すっと立ち上がる。

天球儀高校の入学式で、総代を勤めるのは入試トップだと母が言っていたのを思い出す。

顔も頭も良いとか羨ましい話だ。


西田ニシダ 陸都リクトです。趣味は、メンテ開けの状況を理解してないツバメ(吸収されたゲームのプレーヤー)に奇襲をかけてびっくりさせる事です!」

 他のクラスメイトの非難の眼差しをものともせず、キラキラ王子改め西田は着席する。


……羨ましいは撤回する。

こいつは間違いなく馬鹿だ!

自己紹介で、何言ってんだ!?

ちなみにルーキーのヒヨコに対して、渡り鳥のツバメは最初から財産を持っている事が多い為、狙われやすいらしい。


おかげで、西田の名前は俺の心に刻まれたが、これで良いのか?

西田は残念なイケメンだった。


間に、灰寺さんという、おかっぱの文系っぽい魔法使いの自己紹介を挟んで、自分の番になった。


鳩羽ハトバ 郁介イクスケです。のーふLV99です。探さないでください。」


 TDOに、のーふという職業が、あるのか解らないが、誰も自分の自己紹介に興味ないだろうから問題ない。

……と、言う考えは、一瞬で叩き壊される。


「その挑戦、受けて立つ!」

 自己紹介を終え、油断しきった所を、虚を突かれた形で反応が遅れる。

……西田だった。

何がつぼに入ったのか、俺に人差し指を突き付け目を輝かせてふんぞり返る。


「必ず、探し出して、その後どうするかは、それから決める!」

いや、何も挑んでないし、そもそも同じ土俵に立ってないし……。

というより、何故、そんな偉そうな表情なんだと困惑していると、担任が、「座れ」と西田に指示を出す。

西田はそれに逆らうでもなく、大人しく席に座った。


良く解らない疲労感から、ふっと目を伏せる。

大事なことかどうかは解らないが、二回目言うね?

……西田は残念なイケメンだった。


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