そう、私変わりたいの。
ぽっ!
何が咲いた音がした。咲いたのは、もちろん恋の花。
万里子の顔が急に赤らむ。
きっと、万里子は葵に一目惚れしたのだろう。
うわー、めんどくさい…。
ちなみに、葵の席は万里子の右隣で、珍しく教科書を忘れた万里子に葵が机をわざわざ、くっつけて見せてあげたのだ。この年の男子は、普通恥ずかしがるものだが、葵はそんな事がないようだ。
つーか、転校生のあんたが何で教科書持ってる?
万里子は割と男子に人気のある方だから、男子がやっかんで、冷やかした。
でも、葵は冷静だった。というより、訳が分からないといった風だった。
「ただ、教科書を見せてあげてるだけなのに?」
首をかしげた。
見かねた先生が、恭子に万里子に恭子の教科書を貸して、葵と机をくっけるように言った。
はあ?
と思ったけど、この騒ぎを納めるにはこれしかないので、葵の制服の襟を掴むと、葵と机をくっつけた。
それから、授業はつつがなく進んだ。
もちろん、恭子は葵と口を聞かない。無視だ。
葵ときたら、頭は良いらしくて、どんな難しい問題もすらすら解いた。それもムカつく。
「ねえ、恭子。俺、なんか変?」
あまりの完璧さに、圧倒される周りに、葵も異変に気が付いたようだ。
遅い…。
恭子は、無視しようとしたが、さすがに友達が一人も出来なかったら可哀想だと考え直して、こう助言した。
「あんたさ、転校生なんだから少し大人しくした方がいい。黙ってても話しかけてくれるから。
何、はりきっちゃてんの?馬鹿みたい!」
葵は少し考えたのか、うつむいたがやんわり、恭子に反論した。
「自分を偽ってまで、友達はいらないよ。それは、知人であって仲間じゃない…」
こっ、こいつは!せっかく人が親切に助言してあげたのに!
でも、葵の表情は真剣でそして、暗かった。何かを思い詰めているようにも見えた。
「そんなの、綺麗事じゃない!私が、いつもどんなにか苦労してるか!」
恭子はだんだん腹が立ってきた。その時。
コン。
後ろの席から消しゴムがとんできた。恭子の顔が青ざめる。
「うるせーんだよ!ちびっこ!」
「ごっ、ごめんなさい!花村さん」
花村 可憐。恭子は、この半年可憐にいじめられていた。
小さくなった、恭子を葵はびっくりして見ていた。
花村可憐と恭子は、新学期は友達だった。
二人には共通点があった、それは
二人とも魔法少女物が大好きである事。特に可憐はイラストが上手で、自分だったら、こういうコスチュームとか描いてくれた。
まあ、こんな二人だから正直いってクラスで浮いていたものだ。でも、そこは二人の世界、気にならなかった。そんな二人を万里子だけが、暖かく見ていた。
状況が変わったのは、可憐に彼氏が出来た事だった。すぐに可憐はその彼氏に夢中になり、やがて自分の痛さを知った。
また、恭子はそんな可憐がうらやましくてたまらなかった、だからつい二人の邪魔をしたのだ。
邪魔といっても可愛いものだったから、可憐はやんわり恭子をなだめた。
「ねえ、私達さ、もう中学生じゃん?大人…じゃない?もっと現実的にいかない?例えば、おしゃれするとかさぁ」
恭子だって、分かっている。でも、つーんとはねのけた。
「彼氏出来たくらいで何?可憐変わっちゃたね」
「恭子ちゃん、そんな事言ったらダメだよ?」
万里子が危険を察して、なだめた。
でも、それが最後だった。
可憐はガタンと音をたてて立ち上がるとこう告げた。
「そう、私変わりたいの。魔法少女じやなくて、大人に!」