それぞれの理由
「恭子!早く降りてきなさい!」
母親の怒鳴り声に恭子は慌てて、制服に着替えた。
下に降りると、もう朝食は出来ていて、温かな味噌汁が美味しそうな匂いをたてていた。
「これ、お母さんのじゃないわよね?だって、お母さんのいつもこんな、美味しそうな匂いしないもん」
「死ぬか?」
思いっきり母に首をつかまれた。音にしたら、ギギギギ。
「これじゃダメかな?言われたとうりに作ったんだけど…」
悲しそうな葵の表情。
「ダメに決まってるでしょ!あんたの作ったのなんて食べたくもない」
そう言った瞬間に、お腹から楽しそうなぐうぐうと、いう音がする。
「食べなさい!」
恭子は決まりが悪くて、ますます意固地になる。
「嫌たら、嫌っ!」
思いっきり母の手を振り払おうとしたら、勢いあまって味噌汁を床にぶちまけてしまった。
「恭子!」
ぶたれる!そう覚悟したのだが、以外にもそれを遮る声がした。
「やめて下さい!それより恭子は大丈夫?火傷とかしてない?味噌汁はまた作ればいいから、ちょっとのいて掃除するね」
葵は雑巾でいそいそと掃除を始めた。
「葵君…あまり恭子を甘やかさないで?
この子はわがままなの」
ぐっと恭子は手のひらを握りしめた。
わがまま?
そんな事お母さんは思ってたんだ?
「違います!恭子はわがままじゃないです!」
葵は恭子に目線を合わせた。
どきっ。
恭子の胸が少し高まる。
「悩みのない人なんていないから、恭子はちゃんと考えてるんです」
ねっ?
と葵は笑った。
高鳴る鼓動。でも、恭子は素直じゃなくて。
「ばっかしゃないの!」
朝ごはんもとらずに、家をとびだした。
学校がまた最悪だった。
坂の上は立つ古い中学校、来年度には建て替えが決まっている。恭子にとってここは、戦場だった。
「おはよー、恭子。どうしたの?顔を真っ赤にして」
「真っ赤になんてしてないわ!」
万里子ちゃんは、ちょっと哀しげな顔をしたけど、すぐに気持ちを立て直したようだ。
そんな万里子だから、恭子の友達をやっている。
ありがたいと思う、が、恭子はいつもなかなか素直になれない。
「ちび恭子、今日も何怒ってるんだ?」
嫌な声。これだから、男子はガキだから嫌だ。
「別に何も怒ってないわ!」
すると、男子は面白がって、ますますはやし立てる。
むっかー!
恭子は我慢出来なくなって、その男子、平坂 健太郎を思いっきり叩こうとした。
ちなみに、恭子のビンタはけっこう痛い。
しかし…。
「ダメだよ、恭子。話し合わないと。暴力反対」
な、なんであんたが、ここにいるの?
振り向くと恭子と同じ制服を着た、葵が恭子の手を握りしめていた。
きゃー!
はっ?
あがる女子の歓声に恭子は戸惑う。
「なんだ、葵もう教室にいたのか?皆、転校生の
葵 シン君だ。かっこいいだろう。
けんかするなよ!」
て、転校生?つーか、なんで同じ学年で同じクラス?
「よろしくね、恭子」
葵の満面の笑みに恭子は、言葉がなかった。