表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

50音順小説

キットアス 50音順小説Part~き~

作者: 黒やま

話の方向性が微妙に傾いた・・・

「昨日までの私だと思ってもらっちゃ困るわっ!」


テレビの向こうで私の双子の妹、明日香(あすか)の声が聞こえた。


声が聞こえたというのは明日香は声優(せいゆう)だからだ。


故に姿はなく声だけが聞こえた。


しかし最近では声優でありながら写真集を出版したり、CDを出したりするほどの人気の勢いで


いわゆるアイドル声優というものらしい。


この前なんてバラエティー番組にゲスト出演していた。


明日香が主人公を演じている人気アニメを見て思う。


私と明日香は一卵性双生児いちらんせいそうせいじだ。


当然ながら容姿も背格好も瓜二つで普通なら両親も区別はつかない。


それどころか趣味・癖・学力・好きな食べ物から好きになった人も今まで同じ


忘れ物をするタイミングも一緒だった。


それなのに私と明日香には決定的に違うものがひとつある。


それが(こえ)


普通一卵性双生児なら顔も声もそっくりなはずだ。


なのに声だけ全くちがっていた。


明日香の声は可愛らしくてまさに今の職業にぴったりの声だ。


それに比べて私はまるで酒焼けした声。


小さい頃はそんなことなかったのにいつからかこんな声になってしまった。


このだみ声のせいで小学生の時分ついたあだ名が『ドラ〇もん』。


「全く・・・なんでここだけ違うかな。」


つい思っていることが口から出てしまい


どうやら夕食の支度をしていた母に聞こえたらしい。


今日香(きょうか)、そんなこといつまで言ってたってしょうがないでしょ。


それより勉強しなくていいの?これで第一志望の大学に受かるのかしら。」


私、今日香は今年大学受験を控えている。


とくにコレといったものがないのでとりあえず地元の大学に進学しようと思っている。


「いいの、今は休憩中。」


先ほどまで英単語の暗記に没頭していたところだ。


それで一息入れようとリビングに行きテレビをつけたら


ちょうど明日香の出ている番組がやっていたというわけだ。


そんな明日香は大学には進学せず、声優業に専念するため上京するそうだ。


今や人気声優の仲間入りを果たしたのだからそれもそうなのだろうが


いつも一緒だった存在がいなくなるのはやはり寂しい。


「明日香も学校と仕事両立して頑張ってるんだから今日香も頑張んなさいよ。」


またか、明日香が声優デビューしてからはいつもこうだ。


昔は明日香の方が「お姉ちゃんを見習いなさい。」とか


「お姉ちゃんが頑張っているんだから明日香も頑張りなさい。」なんて言われてたし、


明日香だってよく「きょうちゃん助けて。」って何かあるごとに私にすがりついてたのに。


今じゃ立場逆転。明日香も頼らなくなったし、むしろ明日香の方がしっかり者といわれている。


姉の威厳がなくなりつつある。


「ただいまー。」


玄関が開く音とともにさっきまでテレビで流れていた声が聞こえた。


うわさをすれば・・・


「ふぅ。あっ、きょうちゃんだ。」


唯一昔と変わらない呼び名で私を呼ぶ妹。


「おかえり。」


いつもながら鏡で見ているようにそっくりなもうひとりの私。


明日香の人気が出てからは街でよく声をかけられる。


けれど私の声を聞くと皆一様に驚く。


それもそのはず、あの可愛らしい声がすると思ったらこんな(しゃが)れた声がするのだから。


「きょうちゃん、今日は何かあった?」


この時期の三年生は特別編成授業に入っており進学しない明日香はほとんど学校に来ない。


「今日も特になし。みんな黙々と参考書に向かい合っただけ。」


「そっか、みんな忙しいんだね・・・。」


「忙しいっていうなら明日香もそうでしょ。」


「あっ、それはそうなんだけど。」


今日は早朝から新幹線ではるばる二時間半もかけて行き夜までみっちり仕事をしてきたのだから


明日香も受験生並みに大変なのには相違ない。


着替えるため明日香が二階へ向かった後


「明日香、最近元気ないわよね。今日香何か知らない?」


母もそう思っていたらしく私に尋ねてきた。


「いや、心当たりはないけど。」


このところどうも明日香の様子がおかしい。


仕事はしっかりこなしているっぽいけど、家ではずっと上の空。


やはり姉としては心配なところだ。


久しぶりに姉としての本領発揮か?


私は重い腰を上げて二階へと続く階段を上った。


コンコンコン


「きょうちゃん、入っていいよ。」


ノックしただけで私だと分かってしまう。


ガチャ


「あぁ~明日香?何で私だってわかったの?」


「だってきょうちゃん、私と同じでノック三回するじゃない。」


確かに明日香はノックを三回する癖がある、ってことは私も同じ癖があるのか。


「そうなんだ。自分じゃ気付かなかった。」


「自分じゃなかなか気付かないことってあるよ。」


「何か悩みでもあるの?」


私の単刀直入の質問にふふっと笑っていた明日香の表情が硬くなった。


「何でわかるの?」


「見てれば分かる、自分じゃなかなか気付かないことってあるよ。」


先ほど明日香が言った言葉をそっくりそのまま返してやった。


「最近じゃ私の方がいろいろ話聞いてたのにな。」


そこで明日香は私の目をまっすぐみつめてきた。


「私、不安なの。これから上京して一人暮らししながら仕事ちゃんと出来るかなって。」


正直驚いた。明日香がそんなこと考えていたなんて。


「今でさえいっぱいいっぱいなのに・・・。だからここから通おうかなって思ってる。」


「でも前より仕事量増えてきているんでしょ。それなら東京に引っ越した方が・・・」


「わかってる。でも・・・・・。」


はっきりしない。まるで昔の明日香だ。


そこで思い出した。


小さい頃、明日香は優柔不断で寂しがり屋だった。


一人で留守番ができなかった。


なんだ、変わってないじゃん。


「よしっ!」


いきなり立ち上がった私にきょとんとする明日香。


私の決意表明(けついひょうめい)を明日香に聞かせる。


「えぇ!だってきょうちゃんはそれでいいの?」


「いいよ。やっと私のすべきことが見つかったって感じだし。それに明日香は私の妹じゃない。」


昔よく困った明日香を助けるときに言ってた台詞をもう一度いうことになるとは思わなかった。


「ありがとう、きょうちゃん。」


私はやはり姉なのだなと思う。


そして新しい決意のもとに母のところへと向かった。


「今日香?夕飯できたから明日香呼んで。」


何も知らない母が背中越しに声をかけた。


「お母さん。私、東京の大学受験する。それで明日香と二人で暮らすよ。」


いきなりのことで母は相当驚いていた。


「えっ!?いっ今から大学変えるって・・・。なんでいきなりすぎるわよ。」


「いきなりでもなんでも。」


そして私は夕食後再び自室にこもり受験まで徹夜で勉強した。


きっと明日はいい天気だ。

その後無事合格。二人で上京して仲良く暮らし始めましたとさ。めでたしめでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ