1/2
あるくはやさ
駅を歩いていた。
昼下がりのそこにはたくさんの人が忙しく歩き回っている。
「あ」
隣で小さな声が漏れた。
「ん?どうした?」
彼は辺りを見回し、焦った様子だ。
「無い」
彼の手にはマフラーと手袋が一つ。
人間の手は基本的には2つついている。
そして、彼も人間の基本的な姿をしているので手は2つ。
でも手袋は1つそういうことか僕も辺りを見回し、探した。
「あれじゃない?」
手袋は、やはり彼より視力の良い僕が先に見つけた。
それは点字ブロックの脇に落ちていた。
「あれだっ」
彼は小走りでそれに向かった。
僕もそれに続く。
僕は彼よりは足が速いはずだ。
しかし、走ってすぐに息が切れた。
僕は苦笑いをし、徐々にスピードを落とす。
運動不足か。
彼が手袋を拾い上げたとき、僕は彼が安堵のため息を吐いたのを見た。
彼がこちらに駆け寄ってくる。
「良かった~」
彼は手袋から土埃を払いのける。
「うん」
僕は彼の手袋を見ながら頷いた。
「良かった」
僕は笑うと、彼を改札口まで見送った。