なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
オムレツの味は愛の味 ~婚約者が本気で泣いても殴るのをやめない~
オレは婚約者を殴った。
婚約者はさっそく泣いた。うそなきだった。
※ ※ ※
オレの婚約者はかわいい。
だが、身も心もビッチだ。
でも、かわいい。
男爵令嬢ではあるが、当主がメイドに産ませた女の子だ。
なのに当主に溺愛されて、いつのまにか娘に納まっていたらしい.
でも、かわいい。
オレはブ男だ。
身だしなみにいくら気をつけても、ブ男だ。
どうやっても不潔に見える。
生まれつき、魚人間の血でも混ざっていると思うような顔だ。
両目が妙に離れていて、もうハゲが始まっている。
しかも汗っかき。
運動も苦手で頭も悪い。
どんな努力も嘲笑うように悪い。
ブ男ザブ男だ。
得意なのは料理だけだ。
しかもオムレツだけだ。
オムレツだけは上手だ。
婚約者の姿を思い浮かべながら作る、彼女においしいと言わせたくて作る。
オレのオムレツをしぶしぶ食べる時。
彼女は、一瞬だけ、なんとも言えずにしあわせそうな顔をする。
そして、オレに見られているのを気づくと、
「これだけがとりえね」と嗤う。
だが、あの一瞬の表情を見るだけで、オレは全てを許せる。
婚約者は、いろいろな男にちょっかいはかけていたし、とっくに処女でもなかったが、それでもかわいい。
とてもかわいい。
人格なんてどうでもいくらいにかわいい。
オムレツを食べる瞬間の顔は、オレ以外誰も知らない。
それに、オレの男爵家は貧乏で、婚約者の果てしない欲望を叶えるなんて無理だ。
だから、それを他の男が買ってると思えば我慢できた。
どんなパーティでも、絶対にオレと踊らなくても。
どんな男と腕を組んでいても。
オレとの交流日をことごとくすっぽかしても。
かわいい。
美の化身だ。
※ ※ ※
それでも、オレは、婚約者を殴った、殴り続けた。
婚約者は、オレを口汚く罵り始めた。いつも罵られているので、なんとも思わず。
オレは殴り続けた。
※ ※ ※
オレは我慢した。
婚約者と大商人の息子が、学園の生け垣の陰で、裸でがっぷりよっつしていたのを見ても。我慢した。
婚約者と某伯爵令息が、学園の空き教室で、発情した猫よろしく盛っていても。我慢した。
婚約者と某侯爵令息が、学園の屋上の隅で、トンボのごとく繋がったままなのを見ても。我慢した。
婚約者と某侯爵令息が、学園の学園内の侯爵家の特別室で交わってる音を聞いても、我慢した。
婚約者と王子が、学園の生徒会室で下半身で粘膜接触してるのを見てしまっても、我慢した。
婚約者と某教師が、学園の生徒指導室でオスとメスになっているのを見ても、我慢した。
婚約者と学園の理事のひとりが、ふたりしてトイレの個室に入って、男女の声をあげだしたのを聞いても、我慢した。
婚約者と学長が、学長室の中からいやらしい声をあげているのも、我慢した。
婚約者とその父親が、書斎でいそしんでいるのを見せつけられても、そっと扉を閉め、見なかったことにした。
※ ※ ※
それでも、オレは、ついに、婚約者を殴った。殴り続けた。
婚約者は、はじめて、本気でギャン泣きした。
それでもオレは殴り続けた。
※ ※ ※、
オレは見た。
オレの渡したオムレツを、女がゴミ箱に捨てるのを。
オレの視線に気づくと、婚約者は笑った。
だって、あんたの食べると、今日の王子様とのディナーがお腹に入らないんだもの。
王宮でのディナーよ。最高の料理人よ。
あんたみたいなブサで不潔な男のオムレツなんて、問題にならないでしょ。
じゃあね。
※ ※ ※
オレは婚約者を殴っていた。
無言で殴っていた。
婚約者は何も言わなくなった。
オレの拳は血まみれになっていた。
ボロボロになった婚約者の体から何かが転がりだした。
それがオレの足に当たった。
その小さな刺激が、オレを我に返らせた。
婚約者は血まみれで、顔の形もわからなくなっていた。
怖くなった。
オレは動かなくなった婚約者を置いて、逃げた。
※ ※ ※
あとで聞いた。
婚約者は血まみれで発見された。
なんとか一命をとりとめたらしい。
だが、婚約者と一緒に床に落ちていたものが、問題だった。
魅了のアイテムだったのだ。
婚約者はどこかから手に入れたそれを使って。
周りじゅうの男をたぶらかしていたらしい。
大商人の息子を、某伯爵令息を、某侯爵令息を、某侯爵令息を、王子を。
某教師を、学園の理事達を、学長を。
父親だけは、魅了を使うまでもなく、成長した娘を見て発情したらしい。
オレも調べられたが、オレには魅了を使われた痕跡はなかった。
婚約者は。
あんなブ男に使うのはもったいない。
それに、アレは、どんなことをしても、あたしのためなら我慢するはずだったのに。
そう言ったそうだ。
魅了で洗脳された令息たちの精神汚染は凄まじく。
王子は本気で婚約破棄をする気だったらしい。
だが全ては事前に阻止され。
各家が粛々と後継者を変更し、婚約者を変更してかたがついた。
王子は病気療養のため離宮に送られ、そこで三日のうちにひっそりと死んだ。
結果的に、オレは、国の混乱を事前に救ったことになった。
オレは無罪放免となった。
そして、王家から密かに褒美を贈ると言われた。
オレは迷わず婚約者を望んだ。
※ ※ ※
処刑されたはずの婚約者は、今はオレのものだ。
絶対にオレに逆らえないように、処置されている。
それでも、いい。
婚約者はかわいい。
誰よりもかわいい。
世界一かわいい。
オレに殴られてあちこち変形して動かなくなってもかわいい。
今日もオレは婚約者にオムレツを作る。
彼女の顔を思い浮かべながら作る。
苦痛に歪む顔を思い浮かべながら作る。
オレが地下室にオムレツを持っていくと、婚約者は恐怖に歪んだ顔をする。
本当に泣く。顔をぐちゃぐちゃにして泣く。
だが、婚約者はオレに逆らえない。
泣きながら吐きそうになりながらオムレツを食べるしかない。
それは、ひどく、まずいのだそうだ。
どんな汚物よりまずいという。
そのもだえ苦しむ歪んだ顔を見るのが、たまらなく好きだ。
オレの婚約者は世界一かわいくてきれいなのだから。
※ ※ ※
ふたりとも死んだな。
ああ、少量とはいえ毒入りの卵で作ったオムレツを毎日喰えばな。
こんな奴らを生かしておく金は、国にないのさ。
記録上で、女はすでに処刑済み。男も死亡済み……記録が事実になったわけだ。
オレらは死人を殺したわけか。
だが、男の顔はしあわせそうだったな……。
あのオムレツ、本当のところはどうだったんだ?
ああ。普通だったよ。
普通?
ああ可もなく不可もなくな。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。
少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




