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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

オムレツの味は愛の味 ~婚約者が本気で泣いても殴るのをやめない~

作者: マンムート
掲載日:2026/09/29

 


 オレは婚約者を殴った。


 婚約者はさっそく泣いた。うそなきだった。




 ※      ※      ※




 オレの婚約者はかわいい。


 だが、身も心もビッチだ。


 でも、かわいい。


 男爵令嬢ではあるが、当主がメイドに産ませた女の子だ。


 なのに当主に溺愛されて、いつのまにか娘に納まっていたらしい.


 でも、かわいい。




 オレはブ男だ。


 身だしなみにいくら気をつけても、ブ男だ。


 どうやっても不潔に見える。


 生まれつき、魚人間の血でも混ざっていると思うような顔だ。


 両目が妙に離れていて、もうハゲが始まっている。


 しかも汗っかき。


 運動も苦手で頭も悪い。


 どんな努力も嘲笑うように悪い。


 ブ男ザブ男だ。



 得意なのは料理だけだ。


 しかもオムレツだけだ。


 オムレツだけは上手だ。


 婚約者の姿を思い浮かべながら作る、彼女においしいと言わせたくて作る。



 オレのオムレツをしぶしぶ食べる時。


 彼女は、一瞬だけ、なんとも言えずにしあわせそうな顔をする。


 そして、オレに見られているのを気づくと、


「これだけがとりえね」と嗤う。


 だが、あの一瞬の表情を見るだけで、オレは全てを許せる。




 婚約者は、いろいろな男にちょっかいはかけていたし、とっくに処女でもなかったが、それでもかわいい。


 とてもかわいい。


 人格なんてどうでもいくらいにかわいい。


 オムレツを食べる瞬間の顔は、オレ以外誰も知らない。



 それに、オレの男爵家は貧乏で、婚約者の果てしない欲望を叶えるなんて無理だ。


 だから、それを他の男が買ってると思えば我慢できた。



 どんなパーティでも、絶対にオレと踊らなくても。


 どんな男と腕を組んでいても。


 オレとの交流日をことごとくすっぽかしても。



 かわいい。


 美の化身だ。





 ※      ※      ※




 それでも、オレは、婚約者を殴った、殴り続けた。


 婚約者は、オレを口汚く罵り始めた。いつも罵られているので、なんとも思わず。


 オレは殴り続けた。




 ※      ※      ※




 オレは我慢した。


 婚約者と大商人の息子が、学園の生け垣の陰で、裸でがっぷりよっつしていたのを見ても。我慢した。


 婚約者と某伯爵令息が、学園の空き教室で、発情した猫よろしく盛っていても。我慢した。


 婚約者と某侯爵令息が、学園の屋上の隅で、トンボのごとく繋がったままなのを見ても。我慢した。


 婚約者と某侯爵令息が、学園の学園内の侯爵家の特別室で交わってる音を聞いても、我慢した。


 婚約者と王子が、学園の生徒会室で下半身で粘膜接触してるのを見てしまっても、我慢した。


 婚約者と某教師が、学園の生徒指導室でオスとメスになっているのを見ても、我慢した。


 婚約者と学園の理事のひとりが、ふたりしてトイレの個室に入って、男女の声をあげだしたのを聞いても、我慢した。


 婚約者と学長が、学長室の中からいやらしい声をあげているのも、我慢した。



 婚約者とその父親が、書斎でいそしんでいるのを見せつけられても、そっと扉を閉め、見なかったことにした。




 ※      ※      ※




 それでも、オレは、ついに、婚約者を殴った。殴り続けた。


 婚約者は、はじめて、本気でギャン泣きした。


 それでもオレは殴り続けた。




 ※      ※      ※、



 オレは見た。


 オレの渡したオムレツを、女がゴミ箱に捨てるのを。


 オレの視線に気づくと、婚約者は笑った。


 だって、あんたの食べると、今日の王子様とのディナーがお腹に入らないんだもの。


 王宮でのディナーよ。最高の料理人よ。


 あんたみたいなブサで不潔な男のオムレツなんて、問題にならないでしょ。



 じゃあね。



 ※      ※      ※




 オレは婚約者を殴っていた。


 無言で殴っていた。


 婚約者は何も言わなくなった。


 オレの拳は血まみれになっていた。



 ボロボロになった婚約者の体から何かが転がりだした。



 それがオレの足に当たった。



 その小さな刺激が、オレを我に返らせた。



 婚約者は血まみれで、顔の形もわからなくなっていた。



 怖くなった。



 オレは動かなくなった婚約者を置いて、逃げた。



 ※      ※      ※



 あとで聞いた。


 婚約者は血まみれで発見された。


 なんとか一命をとりとめたらしい。


 だが、婚約者と一緒に床に落ちていたものが、問題だった。


 魅了のアイテムだったのだ。



 婚約者はどこかから手に入れたそれを使って。


 周りじゅうの男をたぶらかしていたらしい。



 大商人の息子を、某伯爵令息を、某侯爵令息を、某侯爵令息を、王子を。


 某教師を、学園の理事達を、学長を。


 父親だけは、魅了を使うまでもなく、成長した娘を見て発情したらしい。



 オレも調べられたが、オレには魅了を使われた痕跡はなかった。



 婚約者は。


 あんなブ男に使うのはもったいない。


 それに、アレは、どんなことをしても、あたしのためなら我慢するはずだったのに。



 そう言ったそうだ。



 魅了で洗脳された令息たちの精神汚染は凄まじく。


 王子は本気で婚約破棄をする気だったらしい。


 だが全ては事前に阻止され。


 各家が粛々と後継者を変更し、婚約者を変更してかたがついた。


 王子は病気療養のため離宮に送られ、そこで三日のうちにひっそりと死んだ。



 結果的に、オレは、国の混乱を事前に救ったことになった。



 オレは無罪放免となった。


 そして、王家から密かに褒美を贈ると言われた。



 オレは迷わず婚約者を望んだ。




 ※      ※      ※




 処刑されたはずの婚約者は、今はオレのものだ。


 絶対にオレに逆らえないように、処置されている。


 それでも、いい。


 婚約者はかわいい。


 誰よりもかわいい。


 世界一かわいい。


 オレに殴られてあちこち変形して動かなくなってもかわいい。



 今日もオレは婚約者にオムレツを作る。


 彼女の顔を思い浮かべながら作る。


 苦痛に歪む顔を思い浮かべながら作る。



 オレが地下室にオムレツを持っていくと、婚約者は恐怖に歪んだ顔をする。


 本当に泣く。顔をぐちゃぐちゃにして泣く。



 だが、婚約者はオレに逆らえない。


 泣きながら吐きそうになりながらオムレツを食べるしかない。



 それは、ひどく、まずいのだそうだ。


 どんな汚物よりまずいという。



 そのもだえ苦しむ歪んだ顔を見るのが、たまらなく好きだ。



 オレの婚約者は世界一かわいくてきれいなのだから。





 ※      ※      ※



 ふたりとも死んだな。


 ああ、少量とはいえ毒入りの卵で作ったオムレツを毎日喰えばな。


 こんな奴らを生かしておく金は、国にないのさ。


 記録上で、女はすでに処刑済み。男も死亡済み……記録が事実になったわけだ。


 オレらは死人を殺したわけか。



 だが、男の顔はしあわせそうだったな……。



 あのオムレツ、本当のところはどうだったんだ?


 ああ。普通だったよ。


 普通?


 ああ可もなく不可もなくな。


たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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