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世界の色を、私はまだ知らない

作者: 加藤 すみれ
掲載日:2026/01/19

※本作は短編です。

設定や本編を知らなくても、この一話だけで読めます。


目が見えず、歩くこともできない少女が、

それでも世界を選ぼうとする物語です。


よければ、少しだけ付き合ってください。

世界は、音と温度と、色でできている。


 少なくとも、私――スミレにとっては。


 目は、生まれたときから役に立たなかった。

 魔力が多すぎるせいだと、大人たちは言った。

 歩こうとすれば足は痛み、立ち上がろうとすれば世界が遠のく。


 それでも私は、生きている。


 風が草を撫でる音。

 人が近づくときの、魔力の揺らぎ。

 感情が強くなった瞬間、世界は色づく。


「……スミレ、寒くない?」


 白髪の少年、ルイの声がした。

 彼はいつも静かで、でも確かに、そこにいると分かる。


「平気。氷の気配、今日はおとなしいから」


 私の言葉に、彼は小さく笑った。


 この世界では、魔法は一人につき一つ。

 それが普通だ。


 でも私は、歌と氷、二つの魔法を持って生まれた。

 だから髪は、上がピンク、下が青。

 だから人は、私を見て少しだけ距離を取る。


 ――異常。


 その言葉を、私は何度も聞いてきた。


「ねえ、スミレ」


 ルイが、少しだけ声を落とした。


「……今日、街で聞いた。

 “世界樹の根元が、ざわついている”って」


 胸の奥が、きゅっと締まる。


 命石が、反応した。


 女神族の血を引く者だけが持つ、魂の石。

 普段は静かに眠り、存在すら感じさせない。


 でも今は――

 はっきりと、青い色を帯びていた。


「……そう」


 私は息を整える。

 ざわつく心を、歌魔法で静めながら。


 世界樹。

 この世界の始まり。


 世界樹が大精霊を生み、

 大精霊たちが世界を作った。


 歌と氷を司る大精霊イレイナ。

 彼女の気配を、私は時々、すぐそばに感じる。


 理由は分からない。

 でも――逃げられない気がしていた。


「怖い?」


 ルイが聞いた。


 私は、少し考えてから答えた。


「……怖いよ。

 でもね、もっと怖いのは」


 ここで立ち止まることだ。


 世界の色を、

 知らないままでいることだ。


 私は深く息を吸い、

 胸の奥の命石にそっと触れる。


 もし、これが砕けたら。

 魂は、完全に消える。


 それでも。


「行こう、ルイ」


 私がそう言うと、

 彼は何も言わず、私の手を取った。


 その手は、あたたかかった。


 光と闇。

 祝福と呪い。

 歌と氷。


 すべてを抱えたまま、

 私は今日も、世界を選ぶ。


 ――まだ知らない色に、

 出会うために。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


この一話が、

スミレという少女や、

彼女の生きる世界を知るきっかけになれば嬉しいです。


物語は、まだ終わっていません。

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