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世界の色を、私はまだ知らない

作者: 加藤 すみれ

※本作は短編です。

設定や本編を知らなくても、この一話だけで読めます。


目が見えず、歩くこともできない少女が、

それでも世界を選ぼうとする物語です。


よければ、少しだけ付き合ってください。

世界は、音と温度と、色でできている。


 少なくとも、私――スミレにとっては。


 目は、生まれたときから役に立たなかった。

 魔力が多すぎるせいだと、大人たちは言った。

 歩こうとすれば足は痛み、立ち上がろうとすれば世界が遠のく。


 それでも私は、生きている。


 風が草を撫でる音。

 人が近づくときの、魔力の揺らぎ。

 感情が強くなった瞬間、世界は色づく。


「……スミレ、寒くない?」


 白髪の少年、ルイの声がした。

 彼はいつも静かで、でも確かに、そこにいると分かる。


「平気。氷の気配、今日はおとなしいから」


 私の言葉に、彼は小さく笑った。


 この世界では、魔法は一人につき一つ。

 それが普通だ。


 でも私は、歌と氷、二つの魔法を持って生まれた。

 だから髪は、上がピンク、下が青。

 だから人は、私を見て少しだけ距離を取る。


 ――異常。


 その言葉を、私は何度も聞いてきた。


「ねえ、スミレ」


 ルイが、少しだけ声を落とした。


「……今日、街で聞いた。

 “世界樹の根元が、ざわついている”って」


 胸の奥が、きゅっと締まる。


 命石が、反応した。


 女神族の血を引く者だけが持つ、魂の石。

 普段は静かに眠り、存在すら感じさせない。


 でも今は――

 はっきりと、青い色を帯びていた。


「……そう」


 私は息を整える。

 ざわつく心を、歌魔法で静めながら。


 世界樹。

 この世界の始まり。


 世界樹が大精霊を生み、

 大精霊たちが世界を作った。


 歌と氷を司る大精霊イレイナ。

 彼女の気配を、私は時々、すぐそばに感じる。


 理由は分からない。

 でも――逃げられない気がしていた。


「怖い?」


 ルイが聞いた。


 私は、少し考えてから答えた。


「……怖いよ。

 でもね、もっと怖いのは」


 ここで立ち止まることだ。


 世界の色を、

 知らないままでいることだ。


 私は深く息を吸い、

 胸の奥の命石にそっと触れる。


 もし、これが砕けたら。

 魂は、完全に消える。


 それでも。


「行こう、ルイ」


 私がそう言うと、

 彼は何も言わず、私の手を取った。


 その手は、あたたかかった。


 光と闇。

 祝福と呪い。

 歌と氷。


 すべてを抱えたまま、

 私は今日も、世界を選ぶ。


 ――まだ知らない色に、

 出会うために。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


この一話が、

スミレという少女や、

彼女の生きる世界を知るきっかけになれば嬉しいです。


物語は、まだ終わっていません。

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