第七十四話 "大切"
夕暮れの教会。
ハナが初めて語る、心の奥底に隠していた「現実」の破片。
それを聞いたリサが流した涙と、最後に差し出した温もりとは……。
ズダン‼︎
花は見事に着地する。
ちょうど階段を登った踊り場だった。
「ふぇぇ、心臓が止まるかと思ったよー。」
「そんなんで、リサの心臓は止まったりしねえよ。ぷ、驚いたか?」
「もう!すごくびっくりしたんだから!」
(やっぱり、こいつをいじると、面白いな。
というか、いるだけで明るくなる。
つい、いじりたくなるんだよな。)
「ま、まさか、とんでもないジャンプ力。やっぱりステータス、バグってるね。」
「かもな!"力"は攻撃力に比例してるんだろ?
だからじゃねえか?
何が違うのか、よくわかんねえけどな!」
「もう、わけわかんない!あははは!」
二人は大笑いした。
「そういえば、さっき見えた大陸……やっぱりあそこも行けるのか?」
「うん!この世界はどこへでも行けるよ!
必ずフィールドは設定されてるから、まだ未開の地だらけだね!」
「ビギナ大陸でも、充分すげえのに、まだ広がってるんだな。」
「そうだよ!これから面白いこと。たくさんあるんだからー!」
「…………ああ、そうだな……確かに、それは面白そうだ!」
二人はまた以前と同じように、並んで階段に腰掛ける。
現実世界では夜だが、こちらでは夕陽が沈む頃だ。
「花さん、何かあったの?」
「?!……え、なんで?」
「だって……すごく、怖い顔してたから……」
「…………………ありがとうな。」
(やっぱり、わたしに言ってはくれないんだね。……花さんはいつも、何か抱えてる。
時々、思い詰めた顔するから。)
「聞いてくれるのか?」
リサは顔をハッとあげて、花をみる。
「うん!わたし、聞くよ!」
花の目の前にズイッと近寄る。
「ち、ちけえよ。チューすんぞ?」
リサはハッとして赤くなる。まさか、自分を頼るなんて思いもよらなかったから、つい嬉しかったのだ。
ガバ!
「ご、ご、ごめんー!つい近寄りすぎちゃった!」
「ぷ。まあ、簡単にいえば、現実世界で、嫌なことがあった、それだけさ。」
「え?……かなりざっくりだね。嫌なことって?」
花は少し困り顔になり、笑いながら答えた。
「まあ平たく言うと、俺は、居てもいなくても、どっちでもいいんだってことがわかったのさ。惨めすぎて、笑うしかねえわ!カッカッカッ!」
「………もしかして……家族からってこと?」
「ん?ああ、正解だ!ぷぷ。頑張って生きてても、ろくなことが無くてな!もうやり直しもきかねえし、とっくに詰んでるって、再確認できたってことさ。そしたらよぉ、なんか、むしゃくしゃして、つい、愚痴ってたってわけよ、何もない空に。頭おかしいよな!カッカッカッ……って……お、おい?どうした?…なんで泣いてんだ?
あ、ああ、そうか、すまん!リサも、家族で色々あったもんな!思い出させて悪かった!
ごめんな!」
リサは首を横にブンブン振る。涙と鼻水がダラダラ垂れてきている。
「なんで……なんで……はなさんが……そんなふうに……あつかわれてるの?……」
「お、おいおい、まいったなあ……お、俺のために、泣いてくれるのか?」
花は、アイテムからハンカチを取り出して、リサの鼻水を拭き取る。
子供の世話をしているため、とても手慣れた清拭だ。
「わたしも……ランスも……みんな、はなさん……好きだよ?……ぐすっ。なのに……なんで、そんなふうに……ぐず」
「ありがとな、リサ。まあ、色々あんだよ。
人には、価値観ってもんがある。
人を大切にする方法も、自分の生き方も、全部人それぞれなんだ。
俺は、その"大切な中"には、入れなかった。
ただそれだけさ。
相手が"大切"と思う中に、入ってるなら、もちろん大切にしてくれるだろう。
だが、その"大切"にも、それぞれ価値観があるんだ。
"その人の中で、何をもって大切なのか"
その価値観の中に、たまたま俺は入らなかった。
今思うと、単純なことだよ。
俺が大切だと思っても、相手が大切だと思わねえんじゃあ、話にならんわな。
相手に悪気はねえんだ。
ただ、自然に、大切にしないだけ。
それだけさ。」
花は、リサの顔を引き続き拭っている。
もう泣きじゃくる子供を世話しているかのように。
(ぷ。うちの娘も、そのうち、こんなデカくなるんだよな。そんとき、俺は見届けられるだろうか。)
「花さんは……家族に悪いことしたの?」
「いんや、なにも……もう、生活するのに必死だったよ。何もかも、やらなきゃならねえ。
貯金も使い込まれたし、一息つく時間さえも、与えてもらえなかった。
ぷ。情けなさすぎて、笑うしかねえわ!」
「なんで……花さんばっかり、そんな想いしなきゃダメなの?」
「んー…"俺がどれだけ困ろうと、どれだけ辛かろうと"そんなことよりも、そいつは"自分がどうしたいのか"が大切なんだ。
そういう考え方や価値観。生き方をするやつには、支えたり、尽くしたりしても無駄さ。
"家族のためにその人が、どう頑張ってるか"なんてのは、どうでもいいのさ。
"自分が、今いい気分なのか、機嫌が悪いのか、趣味がしたいのか、寝たいのか"
全ては、"自分"が中心なんだよ。」
「いくら、家族でも、そんなの、花さんと一緒にいる資格、無いよ……家族って、お互いの事を一番に考えるものじゃないの?
"なんか、今日しんどそうだな"とか、"いつも頑張ってるな"とか、一番近くにいれば、普通にわかるものじゃ無いの?」
「……リサ……俺も、そう思ってたよ。その考えは……リサは……すごく、優しいやつだよ。
そう……だから、俺みたいにはなるな。
家族になるやつは、必ず、お互いを思いやれる間柄じゃ無いと、辛くなるだけだ。
ま、リサなら大丈夫だ!
そんな心配すんな!」
「………花さんは、辛くないの?」
「……………」
花は、リサの顔を拭うのをやめて、景色をみる。
その質問に、何も答えられなかった。
辛いといえば弱音。
それを言ったところで、リサが困るだけだと悟っていた。
だが、"辛くない"は嘘だ。
今は冗談でも、嘘をつける余裕がなかった。
まさに、人生が詰んでいる。
ふと、リサの方を見る。すると、何やらリサがポーズをとって、じっとしている。
「お、お前……それ、なんのまねだ?」
リサは、両手を広げて、花に合図している。
(な、何の真似だ?……お、おれを、抱きしめるとでもいうのか?……こいつは、俺の気持ちを、汲み取ったのか?)
誰も、花の気持ちを汲み取るものなどいなかった。友人には愚痴をこぼすが、甘えたり、弱音を吐くような関係じゃない。
甘え方も、弱音の吐き方も忘れた俺に、リサは今、最も足りないものを差し出していた。
(…………リサ…………)
花は、リサの広げられた両手をただ見つめていた。
第七十四話 完
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
リサの優しさに触れ、立ち尽くす花。彼の凍りついた心が少しずつ解けていくような、そんな一話でした。
二人の関係がこの後どうなっていくのか、ぜひ見守っていただければ幸いです。
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