第六十八話 疲労
仮想世界での激闘の裏側で、現実世界にもまた、それぞれの「事情」が重くのしかかります。
一時の休息の中で交わされる、軽妙なやり取りと、ふとした瞬間に漏れ出る本音。
物語が大きく動き出す直前の、嵐の前の静けさとも言える一幕。彼らが手にする日常の尊さが、ひたひたと胸に迫ります。
ゲームのヘッドギアを外し、起き上がる。
「はぁ…はぁ…な、なんだ、この疲労感は……とりあえず、水飲もう。」
タクはこの一週間、はじまりの都でひたすらモンスターと奮闘していた。
意外なことに、しっかりレベルを上げようとしていたのだ。
「ちっ、このゲームがあんなに難しいなんてな、ソードスキル使っても、まるで当たりゃしねえ!なんでだ?………今度、受付嬢に聞いてみるか。
こんなに疲れてたんじゃ、リナの前でかっこわるい!
そんなの俺じゃねえ!」
タクは水を飲み干して、TVで動画一覧をスクロールする。ALOに関する情報を集めるためだ。
ふと、ある動画に目が止まる。
それは、とあるホストの動画だった。
タクはこの人物を知っている。
『大人気の、Another Life online!?
そうだ。俺はこれから、ギルドを作る!
入りたい人は大歓迎だ!
クラブのメンバーも、もちろん俺たちのギルドメンバーさ!
そうだなぁ……人材派遣も検討してる!
攻略したいクエストがあれば、うちの人材を同伴させる!そんなビジネス!』
……………
「金、金、金……こいつは昔からそうだったな。だが、実力は確かだ。
ここの社長から、いくつかの事業も任され、ホストクラブもやれるほど、見た目と才にも恵まれてる。
やり方は気に入らねえがな。社長さんには恩がある。穏便に関わらねえとな。
だがこいつは……欲しいものはなんでも横取りする。…………こいつにだけは渡さねえぞ。」
◆
カレッジ内屋上。
「ところで花、何やってるの?」
花はリサを肩車している。
「…………見ての通り、肩車だ。」
「それは見ればわかるよ、なんでそうなったのかってこと。」
「ふ……男は常に女性には優しくする。おじいちゃんから、そう学ばなかったか?」
「…………ま、まあ、それはわかるけど。」
ボカ!
「なーにが!女性には優しくしろ、よ?!
いつも恥ずかしい思いさせてー!」
「痛え!バカ!暴れるな!お、落ちるぞ!うわ!」
「あ、危ない!」
咄嗟に、花はリサをお姫様抱っこした。
「っぶねえな!大人しく乗ってろ!頭でもぶつけたらどうすんだ!
あ、でも、ゲームだから大丈夫なのか?」
…………
「あ、あの……そろそろ…降ります。」
リサは恥ずかしそうに降りる。
「ん?どうしたんだ?肩車じゃ不満か?なら、高い高いしてやろうか?」
「わ、わたしは子供じゃないー!んもう!さっきの罰はこれでチャラね!
か、肩車してくれて、ありがとう。」
「なんだ、そんなことで良かったのか?
肩車くらい、いつでも俺たちに言えば、やってやるぞ?なあ、ランス?」
「え?!僕?!そ、そうだね!やったことないけど、多分できると思うよ!?」
「今から練習しとけ!大人になったら、何百回もしなきゃならんからな!カッカッカッ!」
「そ、そうなの?!将来必要なら、僕もできるようにならなきゃ!」
「ちょっと花さん?!ランスに変なこと吹き込んでるんじゃないの?!良い子なのに!花さんみたいになったらどうするの?!」
「俺みたいに……か……確かにそうかもな……良いこというじゃねえか、リサ!カッカッカッ!」
リサとランスは花の表情が一瞬曇ったのを見逃さなかった。
「今日は、気分転換にきたのか?」
「え?うん、そうだね、最近勉強三昧だったから。でも、やっぱりこうして気晴らしすると、違うね!」
「いつでも言ってよ!僕たち暇だから!」
「おい!俺を暇人扱いすんじゃねえ!」
「ごめんごめん!あんなに狩りばっかりやってるから、暇人なのかと思ったよ!」
「言うようになったじゃねえか、ランスくん〜、またPvPでボコボコにしてやろうか〜?」
「ぬ!ぐぬぬ!くそう……今度は負けないぞ!」
リサはこのやりとりをみて、お腹を抱えて大笑いする。
「あははは!もう!お腹痛いよぉ!まるで漫才なんだからぁ!」
(いや、MVPはリサさんだと思うけど……)
「んで?あれからもう何日も経つが、マネージャーからは連絡あったのか?」
「いや、それが何もないんだよねー。」
「こっちはこっちで、警戒しながらやるから心配しないで大丈夫!リサさんは、バイトと勉強がんばってね!」
「ありがとうランス!あ!そろそろ塾の
時間!その後バイトだ!
もう行くね!」
二人に手を振って、リサは走り出した。
背中を見ながら花が声を掛ける。
「リサー!」
リサは振り向く。
「また顔見せろよ。」
静かに言って花は手を振る。リサは目を見開き驚くが、次の瞬間満面の笑みになる。
「うん‼︎‼︎じゃあ、行ってきまーす‼︎」
(か、可愛いー‼︎)
花はランスの頭をガシガシする。
「さぁ、俺たちも、レベルアップしないとな!」
「だね!今日のPvPは負けないからね!」
「お!いいね!かかってこい、ランス‼︎」
各々が目的のために、静かに動き出すのだった。
第六十八話 完
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ハナの「また顔見せろよ」という言葉、不器用ながらも精一杯の優しさが詰まっていて、リサでなくてもキュンとしてしまいますよね。リサの背中を見送るハナの横顔が少し切なく、印象的な回でした。
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