第五十八話 明日は続く
今回は、激しい戦闘も派手なイベントもありません。
けれど、「誰かのそばにいること」が、どれだけ人を救うのか。
静かで、あたたかい時間を描いた回です。
何気ない会話の中に、少しだけ大切なものが詰まっています。
どうぞ、肩の力を抜いて読んでいただけたら嬉しいです。
--16年前。
「あんた、いつも何食べて過ごしてるん?」
「ラーメン……5パックで160円くらいかな?それを昼と夜に分けて食べてる。」
「何でまあ、そんな状態で追い出すのかねえ……あんな風に育てたばあちゃんたちのせいだ。」
「まあ、そうと言えばそうだね。けど、あれはもうしょうがない。いくら言っても頑固だし。自分が正しいって思ってるから。」
「晩御飯だけでも食べにおいで。そんな生活してたら身体が持たない。」
それから祖母と夕食を共にするようになる。
独居だからちょうど良いと言われた。
生きていれば、必ず誰かが手を差し伸べてくれる。
そう思った瞬間だった。
◆
「ところでさあ……」
教会の階段で、夜景を見ながら二人並んでいる。
「今どこにいるのかーって言われた時に、布団の中って言ったじゃん?
あの時、なんで動揺したの?」
「……………そ、そうだったかな?」
(動転してた割に、しっかり覚えてんじゃんか!……なんで泣いてるのかこっちはわかんねえんだし……万が一誰かに……って思うのは俺だけか?!)
「もしかして……わたしが誰かに、あんなことや、こんなことされちゃったー、とか、想像しちゃったの?」
リサはイタズラそうに笑い、花の顔を覗き込んでいる。
「仕方ないだろ……なんで泣いてるかなんかわからないのに、布団の中って言われたら、つい最悪の事態を想像したんだ……まあ、そうじゃなくて安心した。」
「安心したの??」
「リサが無事だったからな、誰かに誘拐されたかと思って、焦ったよ。」
「ふーん……なーんだ、そっちかー」
(そっちって、どっちだよ!………ようやく、落ち着いたようだな。)
「わたしがピンチのときは、駆けつけてくれる〜?」
「ああ、行けるところまではな」
いつものようにからかうと、リサも、いつものように頬を膨らます。
「んもう!そういう時は、"俺が駆けつけてやるー!"とか"どこへでも飛んでいくぜー!"とかじゃないの?!」
「ぷっ、俺は白馬の王子様か、正義のヒーローなのか?
あいにく、どちらも正反対だ。そんな柄じゃない。」
「そ、そりゃ住んでる場所とか、みんなバラバラだし、現実的には無理かもだけどさぁー、気持ちの話だよぉ」
「気持ち……か。そんなら……飛んで行ったり、駆けつけたりしねえな。」
「えー、そんなぁ…」
リサは少ししょんぼりした。
「あ、悪い悪い!俺が言いたかったのは、気持ちだったら、いつも近くに置けるだろ?ってことだ。」
リサは顔を上げて花を向く。
「ここは、どんなに離れていようと、どんな素性だろうと、仲間でいれる。すぐ会える。
な?いつも近くに……そばにいるだろ?
だから、これからのこと、一緒に考えさせてくれないか?」
リサの目尻が熱くなる。
「わたしのために?……一緒に、考えてくれるの?」
「おう、当たり前だ。リサ……俺はな……
どんなに辛いことがあっても、何があっても明日は続く……その時、助けてくれる人が必ずいる。そう思うんだ。
だから、もう辛い時や何かあったら、溜めずに、ちゃんと吐き出すんだぞ?」
「うん‼︎」
リサは花の腕にしがみつく。
「お、おい!」
「ん〜、今日だけお願い〜!」
「ったくしゃーねえなぁ、好きにしたらいい。」
リサはしばらく花にくっついていた。
おそらく、誰にも甘えることができなかったのだろう。
恋愛というよりも、安心を求めている。そんな雰囲気だった。
花もそれをよく理解していた。
自分も過去に絶望を経験し、その度に誰かに支えられて、ここまできたこと。そして現在もまた、絶望の中にいることを。
人には、なんらかの支えが必要だ。
(今のリサにとっては……この時期に……俺が…‥俺たちが必要なのかもな……
この子はいずれ、大切な人に出会い、俺とは全く関係のない世界で生きて行く……
何十年先に、振り返って……あの時あんなやついたなぁ……そう思い出してもらえるくらいは、支えてやれるといいな。)
しがみつくリサを見て、花は静かに思うのだった。
第五十八話 完
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
鼻島(花)の過去、そしてリサへの不器用な優しさが描かれた回でした。
「明日は続く」という言葉の重みが、二人の絆をより確かなものに変えていきます。
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