第五十七話 そばにあるもの
この回は「言葉にできない弱さ」と「そばにいる意味」を描いた回です。
派手なバトルはありませんが、心が一番大きく動きます。
きっと誰しも、一度は「頼っていいのかわからなかった夜」を思い出すはず。
今回は、そんな“そばにあるもの”のお話です
--16年前。
(ああ……熱が下がらねえ。寒気、吐き気、頭痛。解熱剤飲んでも再発する。念のため親にメッセージしたが……誰も助けにこねえな。
携帯見てみよう。)
『みんな自分でなんとかしてます。頼らないでください。』
(だから、その"みんな"って誰だっつーの、毎度毎度……。ああ、クソみてぇだな。人がこんな状態なのに……。友達も仕事で頼れねぇ。
俺、このまま……重症……後遺症?……いや、そもそも助かるのか?原因不明の熱……しょうがねえよ。これが俺の人生だ………)
ガク。
翌日まで、気を失っていた。
祖母から電話だ。
「あんたどこにおる?おかあさん、場所も教えてくれんし、探せんのよぉ。ごめんねぇ。」
(ああ………俺、生きてた……まだ俺のこと心配してくれる家族。いたんだな。)
◆
花は昔を思い出していた。
兄妹、母方従兄弟、父方従姉妹、皆勉強ができてスポーツ万能。
花だけが落ちこぼれ。何をやっても人よりできない。差別され続けた。
そんな中、祖父母だけは、平等に扱ってくれた。
そして、友達という仲間にも出会えた。
森を走り抜け、ふと目尻が熱くなる。
カレッジ内のセーブポイントに、リサは座り込んでいた。下を向いて泣いている。
「リサ!!!」
リサは顔を上げる。顔はもうぐしゃぐしゃだ。
花はすぐに駆け寄り、リサを支える。
「ひとまず転移だ!」
シュン!
教会裏のセーブポイントへ転移した。
夜のライトアップされた花畑と、風に舞う花びらが見える。
花は転移した後もリサを支えて、自分の胸にリサを包み込む。
背中をさすりながら、時折りぽんぽんと優しくたたく。
「リサ……焦らなくていい。何があったか、話してくれるか?」
リサは呼吸もままならないまま、泣いている。
「わたし……」
リサがかすかな声で言葉を発した。
花は黙って傾聴する。
「……お父さん…お母さん…離婚したんだ…わたしが…アイドル目指すの辞めたから…喧嘩しちゃった……」
(な?!なんだと?いやいや、医学部だぞ?なんでそうなるんだよ!)
「お母さん…わたしのこと…もういらないって…お父さんも…仕事が出来なくなるまで追い詰められたって…わたしのせいだ。」
(おいおい、リサの母親、やばすぎだろ……うちオカンもそうだが……なんで子供が思い通りになると思い込んでんだ?……クソみてえだ。)
「わたし……もう人に迷惑かけたくない……いなくなりたい…おばあちゃんにも迷惑かけてる…わたしのことで喧嘩して……わたしがいなくなれば……」
花は言葉を遮った。
「リサ!……ダメだ。……言うな。
それは言っちゃダメだ。……ダメなんだ。」
「けど……わたしがいるせいで……みんなが不幸になっちゃう」
「"みんな"って誰だよ……」
花はリサをグッと引き寄せる。
「その"みんな"に、俺も入ってんのか?ランスは?それに、友達は?……浮かべてみろ」
………………
リサは沈黙しながら、肩を震わせている。
「そうだろ?……リサ……お前の周りには、こんなにたくさんいるじゃないか……忘れたのか?」
リサは花の胸の中で首を横に振る。
「みんなが……少なくとも、俺はリサを慕ってる。嘘じゃない。
こんなに全力で走ったのは、もう何年ぶりだろうな……早くリサに会わなきゃって、少しテンパったんだぞ?」
花は、リサの頭を撫でながら、少し冗談ぽく笑ってみせる。
リサはゆっくりと、密着していた身体を離して花を見る。
「お。やっと顔が見えた。せっかくの美人が台無しじゃねえか?」
花はまた、リサの頭をクシャッと撫でる。
「ありがとう……花さん……もう、どうしていいかわからなくて……胸が張り裂けそうだったの……そしたら……花さんが言ってくれたことが、頭に降ってきて……気づいたら、助けを求めてた……ごめんなさい。」
「謝らなくていい。それでいいんだ!
頼ればいいんだ。そのために、俺はいるんだ。
ゲームの世界だろうと、俺たちは仲間だろ?」
リサは、涙を拭って笑顔になる。
「うん!」
(そうそう、これこれ……この笑顔だよ……俺には眩しすぎるこの笑顔。
良かった……この笑顔が戻って、本当に良かった……闇に落ちるのは俺だけでいい。)
「数時間ぶりだけど、おかえり、リサ」
「うん!ただいま花さん……数時間ぶりだけど。」
ぷっ。
二人は向かい合ったまま笑い合うのだった。
「お!見てみ?夜景が凄いぞ!」
二人は立ち上がり、階段のある踊り場へ歩いて行く。
「うわあ、すごい……!ねえ……花さん」
「ん?」
ガバッ!
(おお?!なんだ?!)
リサは花に抱きつく。少しのけぞったが、花はしっかり受け止める。
ぎゅうー!
(なんだなんだ?!)
「んんん!たくさん、ぎゅうってするんだからー!もう我慢しないー!」
「い、いででで!つ、強え!強えって!リサさんー!?」
「気が済むまで、こうしてたいなあ!ね、いいでしょ?
今、わたしこうしていたいの!
言いたいこと、言っていいんだよね?!」
「ぷっ。………ああ、かまわん。
辛かったろ……よく頑張ったな。」
「…….うん。辛かった。」
「前、向けそうか?」
「……うん。花さんのおかげだよ……本当にありがとう。……わたし、まだ自分の価値とか、存在とか、よくわからないんだ……けど……こうして頼れる仲間がいる。
今はそれだけで、安心できる。」
「そうさ。少しずつでいいんだ。
人の存在価値なんか、誰も決められない。親ですらな。
だから…これからリサが、どう悔いなく歩むかだぞ…………後悔しないように……な。」
「…….うん。……花さん?」
「ん?」
「これからも……一緒に冒険しようね。」
「もちろんだ。みんなついてるぞ。」
リサは、ほんの少しだけ、ぎゅっと花に抱きつく。
「これからも。よろしくね、花さん」
「ああ。」
夜景が照らす景色は神々しく、まるで、これからの未来が明るくなるかのようだった。
光の中、リサは新たに、そして、強く、悔いなく生きていくことを決意したのだった。
第五十七話 完
最後までお読みいただきありがとうございます!
ハナさんの全力疾走が間に合って、本当によかった……!リサさんの「我慢しないぎゅう」に、読んでいるこちらも救われる思いでした。
家族の形が壊れても、自分で選んだ「仲間」という新しい家族がハナたちにはあります。
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