第三十一話 丘の森
現実の記憶と仮想の冒険が交錯する中、二人の旅は新たな拠点へと辿り着きます。
深まる信頼と、何気ないやり取りの中に隠された、大切な想いの断片。
一歩ずつ進み続ける道の先で、ふとした瞬間に過る「一つの違和感」が、物語に新たな波紋を広げていくことになります。
コンコン
ドアをノックする音。
「好春、入るね。」
そこには、ベッドで体育座りをする青年がいた。
「仕事辞めてきたの?大丈夫?」
「…………姉さん。ありがとう。ごめん心配かけて。」
「うん。大丈夫。夕食、ここに置いておくね。」
「ありがとう……。」
青年はパソコンで動画を見ていた。
とあるアイドルのライブ映像。
たまたまだった。
小さな頃からアイドルを目指していたという、新人のアイドルの卵。
しかし、どこか表情の硬さを青年は見逃さなかった。
(この子、なんか辛そうじゃないか?)
『みんなに元気を与えられるような存在になりたい。』か………。
青年はパソコンのキーボードを打つ。
(俺、めっちゃカッコ悪いな。でも、相手はどこの誰かもわかんないんだし、メッセージ送ってみよう。)
数日後、メッセージは返ってきた。
自己紹介や感謝の言葉の最後に、一言メッセージがあった。
『ゆっくり。自分のペースを大切に。』
驚くほど短文だが。ありきたりな「頑張れ」とか「努力すればなんとか」といった励ましではなく、自分自身を気遣うものだった。
このアイドル以外にも、動画を立ち上げている人たちに相談のメッセージを送っていたが、この子だけは内容が違っていた。
青年は、この言葉に救われた。
◆
教会の階段を降りて、丘を下る。
ふと下町を見ると、そこは森と隣接している。
花は地図を見た。すると詳細がアップデートされている。
「ふむ。そうか。北の森は、あちこちに伸びていて、各所の森と繋がっているということか。
どうりで、階段前に、道が二股になってたわけだ。
なら、あっちの道を選んだら、森に行くということだよな、これを見る限り。」
(花さん、森がどうのこうの言ってる……まさか、また暇さえあれば森で憂さ晴らしをするんじゃ……多分そうだろうなぁ)
丘を降りるとターミナル前のホテル街に戻ってきた。
地図画面を開いたまま、何本かのメインストリートを見つけて、一番手前の道を選択する。
「よし。ひとまずこっちのエリアに行こうと思うんだが、リサはどう思う?」
「うん!ひとまず近い方から行ってみよう!」
道を抜けると、噴水広場に出た。
その先を見ると、中央の王都の城壁が薄っすらと見えている。その壁までが港エリアの街になる。
花は辺りを見回す。
「ふむ。なるほどな。おそらくあっちの道に行くと、ここと似た様な雰囲気の街へ繋がっている。そして、丘の側の道へ行くと森へ行くということか。差し詰め、森を抜けると東エリアへ繋がるということだろうな。」
リサはポカンとしている。あまりゲーム慣れしていないのと、方向感覚はそこまで得意ではないからだ。
しかし、あるポイントだけは理解できている。
「花さん。やっぱり森を中心にマップを更新してる??」
「ん?ああ、その通りだ。森を把握しておかないと、憂さ晴らしができんからな。最重要ポイントだ。」
(最重要ポイントって………やっぱりそうなのね。けど、花さんのこと少しわかってきたから少し面白いかも)
「どうせ、面白いやつだなとか思ってるんだろ?ふ。好きに思えばいい。うさ晴らしだけが俺の楽しみだからな。」
「だけ?……しっかりパンツ覗いてたのに?」
「そ、それは別だ!勘違いしているみたいだが、覗くために行動しているんじゃないぞ?たまたま見えそうなシチュエーションだったから……」
「ぷ。はいはい〜、そういうことにしておきますよ〜、ふんふふ〜ん」
(ぐ。こいつ、もう開き直ってやがる……鼻歌なんぞ歌いやがって〜……恐るべし!)
二人は宿屋を見つける。
宿屋のNPCに聞くと、宿泊部屋は何部屋もあるらしく、一度解約しない限り、その部屋は登録して使い続けることができるとのこと。
「ん?なんか空きが多いな?」
その理由も質問した。
NPCは丁寧に答えてくれる。
まず、部屋にはメリットがいくつもあり、登録料が割と高めであること。
たいていの初期プレイヤーは、森で夜営してセーブポイントを設置することが多い。
とのこと。
また、冒険者ランクがD以上を含むパーティが利用可能。
などの制限がある。
メリットは、部屋は基本的に鍵をかけることが可能。ドアはある程度の強度があり、低い攻撃力では蹴破れないため、身の安全が確保できる。ランクの良い部屋になるほど扉の強度は増す。ただし、耐久性は別。攻撃し続けるとそのうち壊れる。
「質問いいか?この港エリアで一番良い宿屋はどこだ?」
「はい。港エリアですと。この宿屋のスイートルームになります。
森と隣接し、王都や教会へも行きやすい立地ですから。後は、スイートルームはパーティ用としても活用されており、複数人過ごせる仕様になっております。」
リサは金額を見て驚く。
(うわあ、いくら一度登録したら良いとはいえ、さすがに高いなあ……)
「よし。じゃあこのスイートルームを頼む。一括払いだ。」
「え!もう決めちゃったの??!すごく高いけど、大丈夫なの??」
「ん?ああ、すまん、気が利かなかった。
別々の部屋が良かったよな?よし、そしたらもう一つスイートルームを………」
「ストッーーップ!だ、大丈夫です!一緒の部屋で!」
「? そうか?なら、決まりだな。」
スイートルームへ案内されて部屋に入る。
「わあ〜。王族になったみたい〜。」
リサはまたクルクル回ったりして楽しそうだ。
その間に花はセーブポイントを設置する。
「よし。リサを共有設定にしておくから、これでこの部屋も使えるぞ。
これからはしばらくここを中心に行動して、また良さそうなところがあればセーブポイントを設置するか。」
「うん!なんだか冒険って感じだね!
わたしのワガママで、花さんの時間が取られちゃって、なんと言って良いのか……」
リサの顔は暗くなる。やはりタクのことが不安なのは変わりないようだ。
(そりゃあそうだ。ストーカーみたいなもんだからな。ま、普通の女子ならホイホイ釣れるんだろうけど、リサは少し価値観違うからなあ。)
花はリサの頭をポンと撫でる。
「心配するな、俺もついてる。いざとなったら俺が盾になるから安心しろ。」
リサの目がウルっとする。
「ありがとう、花さん。わたしも少しでも強くなるように努力するね!」
「まあ、時々パンツは見るかもしれんが、それは許してくれ。」
「んもうー!花さんのカバ!」
二人は漫才の様に笑い合った。
これから王都、大学、探索することは山の様にある。
花は少しワクワクしていた。今まではうさ晴らしに徹していたが、冒険する楽しさを実感しているのだった。
そして、ある疑問が浮かんだ。
(ん?ちょっと待てよ………そもそもリサ。)
第三十一話 完
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ハナの過去に触れた冒頭、そしてリサとのスイートルームでのやり取り……。二人の絆が深まっていく様子に、思わず顔が綻んでしまいますね。ハナが最後に感じた「疑問」とは一体何なのか。次回の展開も見逃せません!
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