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第十四話 なんで?

気づけば、人は「理由」を隠しながら生きるようになる。


うさばらしのはずだったこの世界で、花は少しずつ変わっていく。

そして、リサもまた、自分の夢と向き合い始めていた。


今回は二人の距離が縮まる回です。

あれから一ヶ月が経った。あっという間だった。

リサとは、最近は週に一度出くわすかどうか、という頻度だった。


俺の私生活にも変化があった。

俺はあれ以来、一つのことを決意した。

そう。自分らしく生きていくこと。

ゲームの中だとしても、それは大きな変化だった。

自分の居場所がある。

少しでもそう思えたことで、現実で妻からストレスを感じていたことが、少しずつスルーできるようになってきたのだ。

まあ、ほんの少しだけだが。

イラつくこと、絶望していることには変わりない。



それから数ヶ月後、狩りから戻ると、久しぶりにリサと会った。

「よ。久しぶり、元気にしてたか?」

「お久しぶりです!まあ、元気といえば元気です!体調に関しては!」

「ははーん、なんかあったんだな?

ま、話せることならおじさんに何でもいいなさい、ってな」

花は冗談っぽく言う。

「やだなあ、おじさんだなんてー!わたしとそんなに変わんないんですからー、多分!」

(あ、そうか、俺の実年齢知らんのだったな。なら好都合。おじさんぽさが軽くなるぜ)

「ま、お互い年齢わかんねえからな」

そういって、二人は笑い合う。

(なんか、気兼ねなく女の子と笑い合うなんて、新鮮だ。現実は妻との会話なんて絶望しかないからなあ)


「ねえ、今度は街の方行ってみない?」

リサはいつもより明るい。どこか吹っ切れた様子にも見える。

「なあ、思ったんだけど、そんなに自由にしてて良いのか?まあ俺は助かるけど、色々教えてくれるし」

「うん!持ち場離れる時は、ほら、NPCがああやって出てくるの!」

(うわー、ほんとだ。あ、これ前にも聞いたかもな)

「ごめん、これ前にも聞いたかもな」

「うん!これで3回目くらいかな!あはは!

でも、自分で気がついたのは今回が初めてだよ!前はうさばらしで頭いっぱい、って感じだったけど、前より雰囲気優しくなったね!」

俺は恥ずかしかった。

おそらく俺よりも一回りも若い子に、悟られていたなんて。

(けど、相変わらずよく見てるなあ)

「そっか、なんか最近は切り替えが上手くなったと言うか、ここにくると少し気が楽になるんだ。」

「それはそれは、運営側としてはありがたいコメントですなあ〜。

っと。あそこの店なんかはどう?」

街をしばらくいくと、レストランやカフェが並ぶストリートに出た。

店内には相変わらず防音システムがあり、外に会話は漏れない。

二人はコーヒーを注文する。

味覚や満腹中枢も機能しているから、リアルな飲食も楽しめる。

リサはゆっくり話し出す。

「わたし、実は夢があったんだ。

けど、親の考えもあって、、なかなか言い出せなくて。

でも、花さんと話して、後悔したくないって本気で思った。

だから、この数ヶ月、親と徹底的に話したの。

そしたら、やっとオッケーがもらえた。

もう、嬉しくて嬉しくて、今日絶対に花さんに報告しようと思ってたんだー!」

(話す感じだとおそらく進路だな。と言うことは学生か?いや、そうと決めつけるのは良くない、リサはリサだ。思ったことを言おう)

「そうか、俺のくだらん話が少しでも役に立って良かったよ。

そうだよ。今しかないんだよ。なんでもそうだけど、それを逃したり、見切りをつけたり、決断が鈍ると、手遅れになるからな。

まあ、なんだ、、夢に向かって前進できたなら良かったじゃん!おめでとう。」

花は、かっこつけるつもりなど、全く考えていなかった。むしろ、自分が他人を救えたこと。それで自分の経験が無駄じゃなかったと、救われる気持ちだった。

「ありがとうございます!

わたし、立派なお医者さんになりますね!」

ぶーーー!

花はコーヒーを吹いた。

「い、医者ー?!

俺はてっきり。アイドルになるとか、歌手になるとか、その手の類だとばかり思ってたよ。

まさか、医者になること反対する親がいんのか、、、」

「そ、そうなんだー。うちは逆で、小さい頃から音楽とか、歌とか習ってて、アイドルにしたかったみたいなの。

色々活動とかも頑張ってやったけど、どうも性分に合わなくって、、、」

(いや、めっちゃ才能の塊だけどな。この顔だし。親の気持ちわかるわぁー、けど、それは今言わんとこ)

「昔から、本を読んだり、わからないことを調べたりすることが好きで、新しいことを覚えた時の感覚が好きで、だから勉強は自然と好きになったかなあ。」

(いわゆる秀才ってやつか。すげえな、医者目指す人と普通に喋っとるわぁ)

「ところで、、、、なんで、花さんは、、そんなにうさばらししてるんですか?、、、」

「え、、?俺?、、、そ、そうだなあ、、」

(いかん、なんて誤魔化そう。理由がクソすぎて格好悪すぎてシャレにならん)


俺は、極力素性を隠したかった。別に色気づきたいわけじゃない。

既婚者であること、アラフォーであること。

その前提でこれから自分を見られるのが嫌だった。



ここでは全てから解放された、本当の自分でいたかった。


第十四話 完

人に話を聞いてもらうことで、救われることがある。

そして、誰かの話を受け止めることで、自分も救われることがある。


花が「ここでは本当の自分でいたい」と思った理由。

その答えは、まだ本人にもはっきりしていません。


次回、リサの「なんで?」が、少しずつ輪郭を持ち始めます。

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