第十四話 なんで?
気づけば、人は「理由」を隠しながら生きるようになる。
うさばらしのはずだったこの世界で、花は少しずつ変わっていく。
そして、リサもまた、自分の夢と向き合い始めていた。
今回は二人の距離が縮まる回です。
あれから一ヶ月が経った。あっという間だった。
リサとは、最近は週に一度出くわすかどうか、という頻度だった。
俺の私生活にも変化があった。
俺はあれ以来、一つのことを決意した。
そう。自分らしく生きていくこと。
ゲームの中だとしても、それは大きな変化だった。
自分の居場所がある。
少しでもそう思えたことで、現実で妻からストレスを感じていたことが、少しずつスルーできるようになってきたのだ。
まあ、ほんの少しだけだが。
イラつくこと、絶望していることには変わりない。
◆
それから数ヶ月後、狩りから戻ると、久しぶりにリサと会った。
「よ。久しぶり、元気にしてたか?」
「お久しぶりです!まあ、元気といえば元気です!体調に関しては!」
「ははーん、なんかあったんだな?
ま、話せることならおじさんに何でもいいなさい、ってな」
花は冗談っぽく言う。
「やだなあ、おじさんだなんてー!わたしとそんなに変わんないんですからー、多分!」
(あ、そうか、俺の実年齢知らんのだったな。なら好都合。おじさんぽさが軽くなるぜ)
「ま、お互い年齢わかんねえからな」
そういって、二人は笑い合う。
(なんか、気兼ねなく女の子と笑い合うなんて、新鮮だ。現実は妻との会話なんて絶望しかないからなあ)
「ねえ、今度は街の方行ってみない?」
リサはいつもより明るい。どこか吹っ切れた様子にも見える。
「なあ、思ったんだけど、そんなに自由にしてて良いのか?まあ俺は助かるけど、色々教えてくれるし」
「うん!持ち場離れる時は、ほら、NPCがああやって出てくるの!」
(うわー、ほんとだ。あ、これ前にも聞いたかもな)
「ごめん、これ前にも聞いたかもな」
「うん!これで3回目くらいかな!あはは!
でも、自分で気がついたのは今回が初めてだよ!前はうさばらしで頭いっぱい、って感じだったけど、前より雰囲気優しくなったね!」
俺は恥ずかしかった。
おそらく俺よりも一回りも若い子に、悟られていたなんて。
(けど、相変わらずよく見てるなあ)
「そっか、なんか最近は切り替えが上手くなったと言うか、ここにくると少し気が楽になるんだ。」
「それはそれは、運営側としてはありがたいコメントですなあ〜。
っと。あそこの店なんかはどう?」
街をしばらくいくと、レストランやカフェが並ぶストリートに出た。
店内には相変わらず防音システムがあり、外に会話は漏れない。
二人はコーヒーを注文する。
味覚や満腹中枢も機能しているから、リアルな飲食も楽しめる。
リサはゆっくり話し出す。
「わたし、実は夢があったんだ。
けど、親の考えもあって、、なかなか言い出せなくて。
でも、花さんと話して、後悔したくないって本気で思った。
だから、この数ヶ月、親と徹底的に話したの。
そしたら、やっとオッケーがもらえた。
もう、嬉しくて嬉しくて、今日絶対に花さんに報告しようと思ってたんだー!」
(話す感じだとおそらく進路だな。と言うことは学生か?いや、そうと決めつけるのは良くない、リサはリサだ。思ったことを言おう)
「そうか、俺のくだらん話が少しでも役に立って良かったよ。
そうだよ。今しかないんだよ。なんでもそうだけど、それを逃したり、見切りをつけたり、決断が鈍ると、手遅れになるからな。
まあ、なんだ、、夢に向かって前進できたなら良かったじゃん!おめでとう。」
花は、かっこつけるつもりなど、全く考えていなかった。むしろ、自分が他人を救えたこと。それで自分の経験が無駄じゃなかったと、救われる気持ちだった。
「ありがとうございます!
わたし、立派なお医者さんになりますね!」
ぶーーー!
花はコーヒーを吹いた。
「い、医者ー?!
俺はてっきり。アイドルになるとか、歌手になるとか、その手の類だとばかり思ってたよ。
まさか、医者になること反対する親がいんのか、、、」
「そ、そうなんだー。うちは逆で、小さい頃から音楽とか、歌とか習ってて、アイドルにしたかったみたいなの。
色々活動とかも頑張ってやったけど、どうも性分に合わなくって、、、」
(いや、めっちゃ才能の塊だけどな。この顔だし。親の気持ちわかるわぁー、けど、それは今言わんとこ)
「昔から、本を読んだり、わからないことを調べたりすることが好きで、新しいことを覚えた時の感覚が好きで、だから勉強は自然と好きになったかなあ。」
(いわゆる秀才ってやつか。すげえな、医者目指す人と普通に喋っとるわぁ)
「ところで、、、、なんで、花さんは、、そんなにうさばらししてるんですか?、、、」
「え、、?俺?、、、そ、そうだなあ、、」
(いかん、なんて誤魔化そう。理由がクソすぎて格好悪すぎてシャレにならん)
俺は、極力素性を隠したかった。別に色気づきたいわけじゃない。
既婚者であること、アラフォーであること。
その前提でこれから自分を見られるのが嫌だった。
ここでは全てから解放された、本当の自分でいたかった。
第十四話 完
人に話を聞いてもらうことで、救われることがある。
そして、誰かの話を受け止めることで、自分も救われることがある。
花が「ここでは本当の自分でいたい」と思った理由。
その答えは、まだ本人にもはっきりしていません。
次回、リサの「なんで?」が、少しずつ輪郭を持ち始めます。




