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静かな病室で

 静寂が、痛いほどに響いていた。


 無機質な蛍光灯の光が瞼の裏まで突き刺さり、結城ゆうき 綾麿あやまろはゆっくりと目を開けた。

 ぼやけた視界の端で、点滴の管が揺れている。

 消毒液の匂いが鼻を刺し、ここが病院だという現実を無理やり実感させた。


 一瞬、「あれは夢だったのか」と淡い期待が脳裏をよぎる。

 だが、現実はあまりに明確で、残酷だった。

 腕には包帯。肋骨には鈍い痛み。

 そして胸の奥には、何とも言えない恐怖がある。


 ——あの仮面の人物との邂逅は、幻なんかじゃなかった。


「……起きたのね、綾麿」


 ドアの隙間から柔らかな光が差し込み、母・結城ゆうき 朋美ともみが静かに入ってきた。

 白いカーディガンを羽織った彼女の顔には、疲労と悲しみの影。

 それでも無理に微笑もうとする姿が、余計に痛ましい。


「……母さん、凛は……」


 綾麿の声はかすれていた。

 唇が乾き、喉が焼けつくように痛む。

 問いの意味はわかっている。答えもわかっている。

 それでも、確認せずにはいられなかった。


 朋美は小さく息を吸い、そして目を伏せた。


「……ごめんなさい。凛ちゃんは、もう——」


 その一言で、世界が軋んだ。

 音が消え、色が消えた。

 綾麿の視界がにじみ、静かな病室が遠のいていく。


 凛が、いない。

 もう、どんなに手を伸ばしても届かない。

 あの笑顔も、声も、くせっ毛を気にして笑った仕草も。


「……嘘だ……」


 綾麿はシーツを握りしめ、うなだれた。

 白い布に、熱い雫が落ちていく。

 嗚咽が漏れ、胸の奥から堰を切ったように涙があふれ出す。


 朋美はただ黙って、息子の頭を抱き寄せた。


「……いいのよ、綾麿。泣いていいの」


「俺……守れなかった。目の前で、仮面のアイツが凛を——!」


 声が震え、言葉が途切れる。

 ——不気味な仮面をつけた人物。

 凛の口から何かを引きずり出し、彼女を橋の外へ放り投げた。

 その光景が脳裏に焼き付いて離れない。


「……仮面? 貴方たちを襲った犯人のこと?」


「……ああ。不気味な仮面をつけてた。顔は見えなかったけど、あいつ……“オウマトキト”って名乗ってた」


 その名を聞いた瞬間、朋美の瞳が大きく揺れた。

 血の気が引き、口元がわずかに震える。

 まるで、過去に埋めたはずの記憶を引きずり出されたかのように。


「——なんですって……?」


「母さん、知ってるの? “オウマトキト”を」


「……ええ。知ってる。少し……いや、まずいわ」


 短く呟き、朋美はバッグを掴むとすぐに立ち上がった。

 ヒールが床を叩く音が、病室に鋭く響く。


「知り合いに連絡を入れてくる。綾麿、無理しないで休んでて。すぐ戻るから」


 ドアノブに手をかけた瞬間、朋美は振り返った。

 その瞳の奥には、恐怖と——決意が宿っていた。


 ——カチャリ。


 静かに閉まる扉の音が、やけに長く響く。


「……何が、どうなってるんだよ」


 綾麿は動かぬ天井を見上げ、息を吐いた。

 胸の奥で、何かがゆっくりと動き出している。


 ——とても奇妙な感じだ。


 作品を読んでいただき、ありがとうございました。

 本話では新キャラクターである、結城 朋美が登場します。彼女がなぜ仮面の人物……“オウマトキト”を知っているのか? ……その答えは近いうちに明かされます。


 もしよろしければ、何かしらの評価をいただけますと幸いです。作者、泣いて喜びます。


 次話もどうぞよろしくお願いします。

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