異常者
本作は異世界転移ファンタジーです。
最後までお読みいただけますと幸いです。
街灯の点滅とともに、黒い人影がゆらりと姿を現した。
最初は靄のように曖昧で、そこに“何か”があるとしか分からない。だが、時間の経過とともに、その輪郭は現実味を帯びていく。
ボロ布を纏い、顔には人間味のない仮面。
足元には、どこの時代のものとも知れぬ奇妙な靴。
ただそこに立つだけで、空気が歪んでいた。
「……近いな」
低く、ざらついた声。
その言葉を最後に、仮面の人物は霧のように掻き消えた。
***
「パーク、楽しかったね! もう一回、いや、毎日行きたいくらい!」
「毎日行ったら飽きるだろ。ああいうのは、たまに行くから特別なんだよ」
夜風に笑い声が混じる。
結城 綾麿と相良 凛。
二人はテーマパークの帰り道を、手にお揃いの袋を提げながら歩いていた。
友達以上、恋人未満。
そんな曖昧な関係が、心地よかった。
世田谷区の住宅街。あとは橋を渡って右へ曲がれば、それぞれの家が見えて来る。
「……ん?」
綾麿が橋の手前で足を止める。
視線の先、橋の中央に“それ”はいた。
仮面の人物。
無風の夜なのに、衣がゆっくりと揺れている。
見ているだけで、胸の奥を冷たい手で握り潰されるような感覚が走った。
「綾麿……あの人、なんか怖い。戻ろう、ね?」
「ああ、そうだな。別の道に——」
言いかけたその瞬間。
仮面の人物が、綾麿の目の前に“現れた”。
「お前ではない」
くぐもった声と同時に、綾麿の身体が宙を舞う。
強烈な衝撃。背中を地面に叩きつけられ、肺の空気が押し出された。
「……みつけた」
次に聞こえた声は、少し高い。女のようでもあった。
「うっ……あなた、一体何者……!」
「オウマトキト」
ガラガラと、壊れた機械のような声で答える。
まるで、最初からその一言だけがプログラムされていたかのように。
「オウマ……? まさか、あなた——んぐっ!」
仮面の人物が、凛の口に手を突っ込んだ。
骨と肉をかき回すように、腕を無理やりねじ込む。
そして——
「あった……あったあったあった! あったよおぉぉぉぉぉッ!!」
耳を裂くような絶叫が夜を震わせた。
凛の喉から抜かれた腕には、赤黒い何かが握られている。
「これで崩れない、崩壊しない、もう一度やれる……やったね、人類。……後は不要。価値無し」
仮面の人物は、片手で凛の身体を持ち上げると——まるでゴミでも捨てるように、橋の外へ放り投げた。
「……凛ッ!? ああああああああああああああああッ!!」
声にならなかった悲鳴が爆発する。
激痛に軋む体を、怒りと絶望が無理やり動かした。
「……お前は不明」
「黙れえええ!!」
綾麿が拳を振るう。
だが、その拳は空を切った。仮面の人物は、まるで別の次元にいるかのように、滑らかに避け続ける。
「人類は歩みを止めてはならない。人類は救われる。人類の先は明るい。……でもお前の先は——どっちだ?」
「何言ってんだよ……お前はッ!!」
瞬間、仮面の人物の姿が消える。
「消えた!? どこに——ッ!」
背中に衝撃。
全身の力が抜け、視界が反転する。
倒れ伏した綾麿の口から、血の味が広がった。
「り……ん……」
途切れる意識の中、彼はただ、橋の下へと消えた好きだった少女の名を呼び続けた。
いかがでしたでしょうか?
いきなり重めの話ですが、仮面の人物の異常さは伝わってと思います(多分)。
次話以降も続きますので、どうぞよろしくお願いします。
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