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異世界召喚&帰還した賢者の世直し無双

作者: 賽の目四郎

昭和元年生まれの俺は16歳の時に異世界に召喚された。

店先で仕事をしていると急に目の前が光の渦に満たされ、すぐに気を失ったようだ。

次に目が覚めると目の前におとぎ話の王様の様な人物が大臣みたいなお供と共に立っていた。


「汝は世が呼び出した。我が国の発展の為に尽力致せ。」


何を言っているんだこいつと思ったが、周囲を槍を持った衛兵にとり囲まれているので逆らえない。

しかなたく、

「わかりました。で、私は何をすればよいのでしょう?」

と問うと、

「そこに控える魔技大臣に一任しておる。以後、この者の指示に従え。」

そう言うと、王様はさっさと行ってしまった。


マギ大臣と紹介された人物から別室に移動する様に言われ、それに従って召喚された部屋の隣にある簡素な部屋に入ると、一人の男が待っていた。

「おぉ、やっと召喚出来たのか。待ちわびたぞ。」


マギ大臣は

「魔法省技官殿、この者が召喚石が選んだ賢者候補だ。王の期待に沿える様に頼む。」

と言い、護衛と共に部屋を出て行った。


「私は魔法省に属する技官だ。これから君を立派な賢者に育ててあげよう。」


あ、マギ大臣は魔技大臣ね。

この時点で俺の頭は大量の疑問符に満たされていたので矢継ぎ早に質問をした。

「ここはどこなんだ。それと喋っている言葉が日本語ではないのに何故通じる?」


「ここは君の世界とは異なる世界の王国だ。この部屋は王都の王宮の離れの中にある。言葉が通じるのは異なる言語間の意思疎通をする翻訳魔法を君にかけさせてもらった。」


どうりでモロ外国人だらけ相手に流暢な日本語で話していると思った。


「なぜ俺はここに呼び出されたのだ?」


「我が国は魔法立国であるが上位魔法を使える者が少なく、周辺国に対して優位性が薄い。それで国防上の意味でも強力な魔法が使える可能性が高い異世界の人間を召喚することにした。」


「なぜ俺なんだ?」


「それは私にもわからん。召喚石と呼ばれる魔術装置が異世界を検索して選んだとしか。」


「その召喚石は本当にあてになるのか?俺のいた世界は魔法を使える者はいなかったぞ。」


「あーそれは心配いらない。君の世界に魔素が無いだけで、君自身はこの世界にある魔素を使えるぞ。試しに右の手の平を上に向けてそこに意識を集中して「水滴」と言ってみてくれ。」


俺は言われてたとおりにすると、手のひらの上にプツプツと水滴ができはじめた。


「わわっ!なんだこれっ!」


俺は慌てて手の平を振って水滴を振り落とした。


「それが魔法だよ。一番簡単な水魔法で、誰でも手の平に直接水滴を出すことができる。あぁ、心配はいらないよ。君の体内の水分ではなく、空気中の水分を凝縮したものだからね。決して汗ではないよ。」


俺はそう言われてやっと安心する。

うっかり間違うと手の平が切れて血がにじむんじゃぁないかと思ったし。


「わかった。確かに俺の居た世界では不可能な現象だ。」


「わかってくれて私はうれしいよ。では早速レッスンを始めようではないか。」


「待て、俺はまだ納得した訳ではない。用が済んだら元の世界に送ってくれるんだろうな?」


「心配するな。こちらの魔法戦力に目処が付いたら送り届けるよ。」


どんな目処だ。

目処が付かなかったら永遠に拘束されるってことじゃないか。

俺はそれ以上聞いてもろくな返事は返って来ないだろうと思い、更に対応を間違えると反逆者にされそうな気がしてきたので、大人しく言われることに従うことにした。


そうして魔法の訓練が始まったのだが、確かに魔法はこの世界の人間よりも使える。

この世界の魔法使いは基礎練習3年応用8年と言われているくらいなので、俺が1年で一人前と同等になったのは魔法省の技官を大いに喜ばせた。

但し、魔力を貯め込める力は平均より少し上くらいらしく、戦力としていまひとつらしい。

なので、魔力石を体内に埋め込む術をかけられた。

最初はいやがっていたが、これをしないと戦力外で王の期待に添えず、扱いがどうなるか分からないと言われたらどうしようもない。

しぶしぶ同意して魔力石を埋め込まれた。


そして、3年の間の厳しい訓練の後、俺は剣聖と賢者の称号を得た。


剣聖?

やっぱり物理的な自衛手段は欲しいだろ。

ここは剣と魔法の世界だ。

魔法を封じられれば即座に詰む。


魔法省の技官は剣技習得を渋っていたが、

「混戦になったら自衛手段が要るだろ。敵はもちろん、味方に間違えられて切られるなんでごめんだ。」


こう何度も言うとやっと納得してもらえ、剣技の指導者を付けてくれた。

実は俺は剣道の有段者だ。

9歳の頃から町の道場に通い、今では同じ門下生に俺より強い奴はいなくなっていた。

まぁさすがに道場主の師匠にだけは敵わなかったが。


この国の剣技は刃引きした鉄剣を用いて簡単な防具を着て打ち合う。

もちろん当たったら骨折では済まないので回避が基本となる。

剣自体が重いので、竹刀や木刀に慣れた俺の目にはかなり遅く感じる。

ただ、俺自身も鉄剣を振り回すのに体力が足りなくてだいぶ叩かれ、怪我もした。

まぁそれを3年も続けていれば体力が大幅に付いて魔法で筋力補助も出来る様になり、持ち前の技量が生かされる様になったことでこの国では負け知らずになった。

それを評されて剣聖の称号を貰ったということだ。

ただ、この国自体の剣技に関するレベルがさほど高くない様なので、どこまで本当の剣聖かは疑問だが。


そして賢者。

俺は魔法の適性が高かった様で、魔法省技官が要望して来る戦力としての魔法は全て習得した。

そして、応用問題として出された威力向上と射程距離延伸、範囲拡散と継戦能力を全て大幅にアップさせた。

また、応用が利く様にと様々な魔法を習得させられた。

転移魔法、転送魔法、飛行魔法、伝達魔法、隠蔽魔法、収納魔法、翻訳魔法、回復魔法。

他に火水土風各系、錬金など、単純にこれらが出来る様になると嬉しかったな。

いざという時の切り札にもなる。

これらの習得完了により、魔法省技官は俺に「賢者」の称号をくれた。



それから半年近く経った頃、最初に言われていたことが現実となり、隣国が攻め込んできた。

国境付近には数年前から隣国軍が布陣していたので、進撃は間近だとこの国も準備はしていた。

そこで魔法兵が足りなくて俺を召喚したとのことだった。


俺は将軍の直属部隊に配属され、少し高所になっている司令部陣地から直接魔法を行使した。

俺の魔法はもはやこの世のモノでは無いくらいに威力と射程距離が向上しており、攻め込んで来た敵兵をまたたく間に撃滅した。

いや、俺は戦争なんかしたことが無かったし、しかも人殺しなんてイヤだったので殺人魔法ではない。

広域麻痺魔法と言って、指定した範囲の中に居る人間を遠隔から麻痺させるだけだ。

だいたい1時間くらい麻痺してその場から動けなくなる。

その間に味方兵が出撃して麻痺で転がっている敵兵は片っ端から縛り上げて捕虜とした。

麻痺が浅くて襲って来る敵兵は仕方なく殺していたが、


この異世界での戦争は武力のぶつけ合いで相手を降参させれば終結だ。

何も殺す必要はない。

むしろ、殺さずに捕虜にした方が終戦後の捕虜引き渡しや戦勝条件の交渉で有利に働く。

捕虜一人当たりの身代金と敗戦国としての賠償金だな。

殺した敵兵が少ない方が敵方の恨みも少なくなるし。

なので、俺のやり方は歓迎された。


また、敵兵の武器や装備はあまり損傷なく丸ごと剥いで自軍の装備に組み込めるので懐も潤う。

いかにかけた戦費を回収出来るかが、戦後の国力保持に優位に働く。

もちろん再軍備されて再び侵攻されない様に軍縮も条件に入れ、数年置きの監査も受け入れさせる。



そういう近隣国との戦を何回か経験したが、いつも俺一人で広域麻痺魔法で片付けてしまうのでだんだん周囲の貴族から恐れられる様になってきた。

もし王の機嫌を損ねて自領に俺が攻め込んで来ると、抗う間もなく一網打尽にされるのだと。

反逆罪でも着せられたら一族郎党縛り首になるのは目に見えている。


そんなこんなで、周辺の貴族達はやっきになって俺に刺客を差し向けてきた。

何故貴族からの刺客と分かるのかというと、翻訳魔法の応用だな。

一般用途だと口から出た言葉を訳すだけだが、相手の脳に魔力を浸透させる様に翻訳魔法をかけると、意識して話さない様にしている制約が緩む。

まっとうな翻訳魔法の使い方ではないが、昔から自白目的には使われていたらしい。

俺も奴隷相手にある程度は練習していた。

都合の良いことに、最初に強めの翻訳魔法をぶつけるとそれ以降の記憶がほとんど無くなるらしい。

なので、本人は自分が情報をしゃべったとには気がつかない。


翻訳魔法の魔力をあまり強く浸透させると相手の脳にダメージが加わるので加減が難しい。

適度に加減して魔力を浸透させると相手は実に正直になってくれる。

侵入者に向けて適度な魔力をかけて聞き出したのが、彼らは周辺貴族からの俺への刺客ということだ。


そして、実に有意義な事もしゃべってくれた。

「王は対外国戦で連戦連勝で気が大きくなっている。王の支配力を強力にするため、次の矛先を我々に向けてくるのではないかと心配し、その元凶であるお前を消すことにした。」

「王は更なる版図を増すために、現在の友好国にも侵略戦争を仕掛けようとしている。その為の兵力供出を打診されているが、それも承諾出来るものではないので、王の力の源泉たるお前を消せと言われている。」

などなど。


「アホか。」


今までもそうではないかと疑っていたが、これで決定だな。

俺は誰にも気付かれずに逃亡すべく準備を始めた。

何せ、主力戦闘員としての俺には四六時中執事とメイドが付き従っている。

王家直属の監視員だな。


こいつら目を盗んで準備を始めるが、やはり隠蔽魔法は便利だな。

俺の部屋や宮殿には監視用の魔道具が大量に配置されているが、既に解析は済んで隠蔽魔法はアップデートしてある。

従って、ドアの開け閉めを転移魔法で行うことと改良版隠蔽魔法を組み合わせればまるで幽霊の如くどこにでも侵入できる。


とりあえず俺は地球に帰りたいので、召喚時に奴らが使っていた召喚石をかっぱらおう。

使い方が分からないので、取説に相当する魔導書も要るな。



探すのも手間なので担当者に直接聞こう。

まず、小さな魔法石に独特の波長の魔力を定期的に発する様に加工してマーカー石とする。

一般の魔法使いには分からない程に魔力の出力は小さいが、俺の高感度な魔力感知能力なら少々離れていても分かる。

ラジオ受信機が特定の放送局の電波を共振の原理で受信出来るのと同じ様な理屈だ。

意識してマーカー石の周波数に神経を集中すると頭の中でピコーンと分かるな。


隠蔽状態にし、飛行魔法で上空から探せばすぐに魔力の発生方向は分かるので、離れた2カ所で三角測量すると位置は特定できる。

八木アンテナの指向性で電波源を探すみたいなもんだな。

接近すればマーカー石の魔力の強度そのもので分かるので間違いようはない。



魔法石は魔技大臣のポケットにこっそり忍ばせたマーカー石で自宅を特定し、深夜に隠蔽しながら侵入して翻訳魔法で保管場所を聞きだした。

宮殿の宝物庫だと。

召喚石を頂くついでに今までの報酬だとばかりに宝物庫の宝の山をごっそり収納魔法に入れた。

魔道具の様な物もかなりあったので、今後の活動の役に立つだろう。

殆ど全部入ったな。

ついでに王宮の図書館の魔法関連の書籍も片っ端からいただいておいた。

これで王国の魔法に関するレベルはちょっとは下がるか。


次は召喚石の使い方だな。

召喚時に召喚石を操作していた魔技大臣の部下の顔は覚えていたので、これもこっそり忍ばせたマーカー石で自宅を特定した。

そして深夜に隠蔽しながら侵入して、魔法石の使い方について翻訳魔法でしゃべってもらう。

何やら召喚石は太古の遺物で、原理は分からないが魔力を充填しさえすれば何回でも使えるらしい。

同時に召喚石の取り扱い資料と研究資料もいただいておく。

これで俺にも使える様になるだろう。


次に食料だ。

逃亡して隠遁するので買い出しに行けない。

なので1年分くらいは食料のストックは欲しい。


王宮の職員用食堂のキッチンの食料ストッカーを覗いてみる。

穀物は米に似たのがあり、パンと半々くらいで出ていたのでそれを大量にいただく。

パエリアやドリアみたいにして出してくれたのはそこそこ美味かったな。

あとは肉と野菜だ。

俺の収納魔法には保存領域毎に任意に時間遅延をかけられる。

時間経過を千分の一に設定した領域にありったけの肉と野菜を放り込んだ。

これで千日経過しても一日しか経過していないことになり、1年くらいは新鮮なままだ。

巨大な王宮職員用食堂のストッカーなので、一人で消費するとなると十分な量があった。

ついでに調理器具や香辛料、調味料なども頂く。

コンロは魔石を燃料に火魔法で加熱する方式だ。

地球のカセットコンロみたいなもんだな。


最後に魔石と武器だ。

魔石は魔道具の武器にも使うので武器庫に大量に保管してある。

ありったけの魔石と俺が扱えそうな武器を10本ばかし失敬した。


逃亡準備の済んだ俺は逃亡が発見されるのを遅らせる為に小細工をする。

俺に仕えている執事とメイドを全員部屋に呼んで翻訳魔法をぶつけて暗示をかける。

暗示をかけてから一週間は俺が部屋に要るかの如く振る舞う様に念入りにかけた。



さて、出発だ。

この国には俺に匹敵する魔法使いは居ないので、執事らへの暗示が解けるまで俺の逃亡には気付かれまい。

まぁたとえ気付かれたとしても痕跡は残さないので追跡は不可能だしな。


俺はまず自身に隠蔽魔法をかけ、次に転移魔法を発動する。

目的地は戦争で何回も行ったことのある国境の丘の上だ。

一旦そこまで飛び、隠遁に適した地を探す。


あちこち戦争で引き回されていた時に、遠くに見える山々を王国が用意した簡易地図に書き込んでおいた。

何カ所かの戦場で書き込んで、それが同じ山々ならそれを交点として地図の精度を上げる。

更に侵攻中に調べておいた地図に無い道を追記し、それから離れた所に隠遁場所を探す。

戦争時は常に見張られていたので、候補地は遠くに見るだけで実際には行っていないので現地調査は必要だ。


最初の転移で国境の丘の上に飛んだ俺は地図を広げ、候補地を何カ所か書き込む。

それを持って飛行魔法で上空から地形を観察し、簡易地図を修正していく。

それを二日ほど繰り返して、絶好の候補地を発見した。

山深い渓谷の洞窟だ。

人跡未踏であることは周辺を念入りに探索して確認した。

凶暴な動物は居るが、食料だな。

清流もあるので水と魚も得られるし。



俺はそこに腰を据え、衣食住環境を一週間かけて整えた。

鬱陶しい上司の居ない楽しいニート生活の始まりだ!


最初は開放感に大いに引きこもり生活を楽しんでいたが、さすがに一ヶ月もすると飽きてきた。

娯楽目的で持ってきた本も読み尽くしたし。

そこで本来の目的である召喚石の研究を開始する。

まずは使ってみないとだな。


召喚石の使い方は魔技大臣の部下から詳しく聞き出しており、同時に頂いてきた資料類も合わせて自分なりの作業手順書を作成していく。

この辺はオヤジに習ったラジオ修理の手順書作成と似たようなもんだな。

オヤジは何でも口頭で済まそうとする人だったので、言われたことを全部覚えられる訳でもなく、自然と自分なりの手順書を作るのが習慣になっていた。

ラジオのメーカーや機種が違うと作る手順書もまた違うので、いつの間にか結構な量になっていたが。


まず、召喚石自体の王国の把握していないであろう地球への送還方法の研究だ。

何故なら魔法省技官の最初に言っていた「こちらの用が済んだら送り返す」というのは嘘だったからだ。

魔技大臣の部下に聞いても、その部下の資料の隅々まで調べても、元の世界に送り返す送還魔法は存在していなかった。

なので俺自身が手元の資料を基に、地球への送還魔法を組み立てる必要がある。


まず召喚石で出来ることを全てリスト化し、片っ端から実験していく。


俺の居た地球から俺を引っ張って来れたのだから、もう一度同じことができるに違いない。

魔力トレーサーを作って召喚石の周囲を計測すると、魔力の細い流れが途切れずにまっすぐ上に向かって伸びていた。

最初は計測ミスかと思ったが、召喚石の向きを変えたりゆっくり回してもずっとまっすぐ上方向に伸びている魔力の流れは変わらない。

なので、これはひょっとして俺の世界への転移の痕跡かもしれないと思った。

ならば検証だ。

地球からこの世界への召喚手順を記載した魔方陣は既に解析を終えていた。

その一部を書き換え、転送の方向を反転させる。

召喚石の下にこの魔方陣を敷き、それと繋がっているもう一つの転送対象物エリアの魔方陣にとある魔道具を置いた。


確認方法は色々考えたが、いきなり生物を送ってもどうなるか分からない。

生死に関わる危険性があるし、向こうの様子を確認させるのも困難だ。

なのでまず音声の記録を試してみることにした。


音声を記録する魔道具を用意し、録音状態にする。

魔石を動力に、丸3日間くらいは連続で記録してくれる。

これを召喚石逆転動作で送還させた。

向こうに着いても、録音魔道具はただの石に見えるので現地人や野生動物の干渉を受けないと期待したい。

そうして丸一日経ってから召喚石の下の魔方陣をこちらに召喚するものに交換した。

俺が召喚させられたのと同じ記述の陣を起動すると、すぐに昨日送った録音魔道具が出現する。

とりあえずは無機物レベルでは双方向転移は成功だ。


そして、ちょっとドキドキしながら録音魔道具に再生の指示を与えた。

最初の数時間は風が吹く音と虫が鳴く声しか聞こえない。

ちょっと再生位置を飛ばすと人の話し声とガラガラという何か引きずる音がする。

更にもう少し経つと会話が聞こえた。

なんと!大阪弁だ。

しかも戦争だの昭和19年だのと言っているので、間違いなく現代日本の大阪付近だ。

やはり地球とはずっと繋がっていた!


それから録音開始からの経過時間から静かになるのは向こうの夜だと判断し、人目の付かない夜間になる様に徐々に送還させる物を大きくする実験を繰り返していった。

そして、無機物だけでは送還の安全性が分からないので、俺と同じ体重の野生の山羊を捕まえて軽い麻痺状態にし、麻袋に詰めて録音魔道具と共に送る実験もした。

山羊が無事回収できたのを何回も確認し、やっと俺は自分自身を安全に送れると確信した。


ひとつ問題は一度俺自身を地球に送ると、そこから再度この異世界に戻ることができないということだ。

こちらに協力者が居れば出来るかもしれないが、逃亡して隠遁しているこの身では不可能だ。

なので一方通行になることは仕方なしとした。


その代わり、転移先の地球でも賢者として相応しい魔法は使いたい。

地球には魔素が無いとのことなので、魔素を溜め込んだ魔石を大量に用意した。

王宮から盗み出した物だけでは不安だったので、人跡未踏の地を上空から魔力サーチしてわずかな魔力のゆらぎから地中の魔石を探し出し、土魔法で大規模に採掘した。

10トンくらいは掘り出したから通常の活動で数百年分くらいはあるな。

収納魔法はそれらを全部詰めてもまだまだ底は見えなかった。


これらの作業に試行錯誤も含めて約1年かかった。

そして、俺は4年ぶりに地球に帰還する。



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俺の生まれ故郷は大阪だ。

十三という地名の街に住んでいた。

俺の両親は俺が9歳の時に流行り病で死んだ。

それから俺は親戚の電気屋に引き取られ、修理工として働いていた。

修理技術は店のオヤジに叩き込まれた。

同時に無学だとこれからの時代やっていけないだろうと、当時としては学ががあったオヤジから色々教わった。

特にラジオ技術については原理から学び、修理で余った部品でラジオの自作などもしていた。

また、満州事変や日中戦争があり、もし徴兵されたらある程度の力が要るだろうとの心配から近所の厳しいことで有名な剣道道場にも通わされた。

おかげで文武共にかなりの自信が付き、オヤジには感謝している。


16になる頃にはひと角の修理屋として、店の修理依頼の殆どをこなすようになっていた。

そんな時だ。

俺が異世界に召喚されたのは..


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異世界送還魔法の眩しい光が収まると、俺は焼け野原に立っていた。

おそらく異世界に召喚された場所だとすれば電気屋の店先のはずだが、周囲にはそれらしき建物はなかった。

地面に落ちた焼け焦げた看板の切れっ端が、ここが電気屋だったことを示していた。

戦争は異世界で慣れているが、さすがに焼け野原は経験がない。

異世界転移する前には日米開戦もささやかれたいたので、この惨状の犯人はアメリカ軍だろう。


オヤジや近所の人々が心配になったが、今は戦争中であろう日本のことを優先したい。

まずは情報収集だ。


幸い異世界転移前が給料日だったこともあり、ポケットには給料袋がそのまま入っていた。

これで十三駅前に焼け残った店舗で営業している雑貨屋に入り、新聞を買った。

住居は無いので、電気屋の跡に魔法で強化した簡易シェルターを作って掘っ立て小屋に見える様に偽装した。

地下壕も掘り、そこをとりあえずの拠点とする。

焼け跡にラジオの残骸があったので修理して使える様にし、魔力を電力に変換して放送を聞く。

新聞もラジオも大本営発表ばかりで、実際の戦況はよく分からない。

まだ戦争が続いていることだけは分かった。

なので一旦東京に転移し、日本軍の大本営に侵入して大将らしき人物に魔法で寝言を言ってもらった。


日米開戦から4年、日本はだいぶ追い詰められていた。

大都市は米軍の空襲で焼かれ、無辜の市民が何万人単位で殺されていた。

日本は国民総動員で女子供達も竹槍の訓練をしていた。

これには俺もかなりの危機感を持った。

さすがに異世界とは規模が違う。



「アメ公、締めるか」

俺はこの戦争に介入すること決心し、アメリカに干渉することにした。

まず情報収集としてアメリカの主要機関に転移して情報を集めた。

隠蔽魔法を使うとあらゆる生物や機械類に存在を認識探知されなくなる。

もちろんカメラや鏡にも写らない。

そして言葉は翻訳魔法が同時翻訳をしてくれる。

最初は何を言っているのか分からなかったが、しばらくするとだんだん意味が分かるようになっていった。

主要機関の存在を調べ、それぞれの長と思しき人物の自宅に夜間侵入して寝ているところを尋問魔法で機密をしゃべらせた。


「こりゃ大変だ」

俺は思わず唸った。

「アトミック・ボム」という巨大兵器を近々本州と九州に使うらしい。

今までの空襲とは次元の違う威力らしいので、これを使われると日本は完全にダメになる。



アトミック・ボム=原子爆弾を積んだB29爆撃機は大統領補佐官への尋問魔法で特定した。

転移魔法でテニアン島の離陸直前のB29に侵入し、離陸するまで暫く隠蔽魔法で隠れておく。

離陸して巡航高度に達した直後、原子爆弾を積んだB29の乗務員に翻訳魔法強めにかけると全員目の焦点が定まらなくなる。

俺は夢うつつの乗務員に行き先変更を指示する。

大統領勅命ということにして通信も禁じた。

B29は俺の指示と飛行補助魔法であっさり太平洋とアメリカ大陸を横断し、東海岸まで到達した。


突然連絡が途絶え、レーダーからも消えたエノラ・ゲイに米軍は大騒ぎとなった。

俺が飛行補助中は丸ごと隠蔽魔法をかけているので機体はレーダーには写らない。

もちろん肉眼でも見えず、排気音も聞こえない。


B29の乗務員が見覚えのある海岸線に気付き、俺の指示どおりに動く。

「爆撃目標、距離約30マイル、ワシントンDCのホワイトハウス」

機長が指示するとパイロットも爆撃手も何ら疑問に思うことなく原爆投下準備をする。

「投下」

その日、ホワイトハウスは大統領と共に市街地もろとも地上から消えた。

ついでに約3kmしか離れていないペンタゴンも機能を停止した。

アメリカ全軍は急に指揮系統を失い、大混乱に陥った。


大量虐殺?

何をふざけたことを言う。

元々日本人を大量に殺すつもりで持ち出した兵器だろ。

そのまま返しただけだ。

文句を言われる筋合いはない。


それ以降の命令系統は混迷を極めたが、次の日には米軍最大の基地であるノーフォーク海軍基地が指揮権を掌握し、全軍への軍事活動の即時停止を命令した。

さすがにホワイトハウスが大統領ごと消滅し、ペンタゴンも機能停止しては継戦は不可能である。

この日を境にアメリカは日本への攻撃を全て中止した。

日本への原爆攻撃が理解出来ない状態でそのまま返って来たのが原因である。

追撃したら今度は何が起こるか分からない。

サイパンやグァムなどの日本に近い東南アジア圏からも全軍が引き上げた。

2発目の原爆である「ファットマン」も封印され、本国に送り返された。



アメリカからの侵攻は無くなったが、日本の受けた損害は莫大なものがあった。

各地の工場群を中心に、軍事基地や港湾設備の多くが爆撃で破壊され、同時に数十万人もが殺された。

これはアメリカには償わさせなければならない。

ただ、状況はまだ欧州の不穏な動きが収まっていないので今は動けない。


アメリカはホワイトハウス消滅後、日本に対して腫れ物を触る様な対応をし始めた。

「カミカゼ」、「スサノオ」という単語も米軍の中でささやかれ始めていた。

何か超常的な力が働いたことは確かであろうとの意見も多く出ていた。

そう、俺である。



その間にも世界の情勢はますます不穏な動きを示す。

欧州ではドイツが覇権を握り、日本からは距離を置く様になったアメリカとの小競り合いを大西洋側で繰り返す。

大西洋側のアメリカ軍は殆ど影響を受けていなかったので、早い内に軍事活動を再開できた。

ただ、ドイツがいち早くジェット戦闘機を実用化したことによりB29は完全に無力化され、欧州はアメリカの空爆を受けることはなくなった。

ドイツは勢いに乗ってアメリカの東海岸を空爆する様になり、日に日に大西洋戦線は緊張が増す。


俺は異世界での戦争に嫌気がさして逃亡隠遁し、やっとの思いでこの世界に帰って来たのに未だに世界中で戦火が燻っている。

なので、おしおきをすることにした。


まず俺は近所の延焼を逃れた仕入れ先から黙って頂戴した真空管を使い、軍用周波数の無線受信機を作った。

それに魔法技術を組み込んだ魔道無線受信機を30台ほど作り、世界各地にばら撒いた。

オヤジにしごかれて習得したラジオ技術と魔法のハイブリッドだ。

様々な周波数に対して自動検出する仕組みを魔法で作り、それで真空管回路を制御する。

これには無線通信の傍受と記録、暗号解析能力が付与されており、各国機関の通信は平文で記録する様になっている。

もちろん音声もモールス信号も文字起こしを自動でする様に作った。

それらを俺は日本に居ながらにして転送魔法で順繰りに取り寄せる。

記録された情報を片っ端から並列思考で処理していくと世界の情勢が手に取るように分かる。


アメリカはどうやら原子爆弾の開発を全て中止したらしい。

ま、自国の原爆を自国の大統領府に落としたのだ。

国民が許すまい。



原爆を落としたB29は迎撃戦闘機に撃墜されたが、臨時政府は不可解な現象として正直に国民に報告していた。

曰く、「日本に早期降伏を促す意味合いで新型爆弾を搭載したB29が発進したが、どういう理屈か不明ながら日本ではなく我が国のホワイトハウスに爆弾は落とされた。謀略により乗っ取られた可能性が高いが、どの様な経路で太平洋を横断したのかは不明である。」


B29の航続距離はリトルボーイを積んで約6千キロである。

発進基地のテニアン島からワシントンDCまでは1万2千キロあるのでどうやっても届かない。

しかも基地を発進してから僅か10時間で到着している。

これはマッハ1で飛行しないと間に合わないので、米軍司令部の理解を超えていた。

なので詳細は国民には伝えず、臨時シンクタンクに丸投げしていた。



ドイツはアメリカの状況を見て調子づいているらしい。

原爆も開発に成功し、大型ジェット爆撃機などとセットでせっせと準備中だ。


アメリカはそれを察知してはいるが、ジェット機の開発に遅れをとって焦っている。

先日アメリカ国防省の臨時トップに吐かせて確認した。


ここまで世界情勢がこじれたらどちらかが完敗するまで収まるまい。

それまで何年かかるか、何人死ぬか誰にも分からない。

なので俺は介入することにした。



「神降臨」

一番わかりやすく、敵味方共にひれ伏しても問題ない。

逆説的に神は人類共通の敵だ。

昨日の敵は今日の友として、理不尽な神の要求に対抗するしかない。


俺はまず世界中の極秘レベルの情報を神の名でブチまけた。

技術、戦略、戦力、兵站、金融、流通など。

各国言語で詳細を記述したビラを作り、自動操縦の魔道航空機で隠蔽魔法をかけつつ各国の主要都市上空からばら撒く。

これを同時多発的にやったので各国ともに防ぎようがない。

更に何日かに分けてシリーズ化したので情報量は膨大なものになる。

これで各国首脳部は大混乱に陥った。

ドイツの技術省などは発狂寸前だとか。


これによりドイツの技術的優位性は皆無となり、アメリカもジェット戦闘機を量産するようになる。

すぐにドイツの大型爆撃機は無力化され、大西洋戦線は膠着状態となった。

危うい平衡状態で落ち着いている。


アメリカの金融街も表に出てこない裏が暴露され、多くの逮捕者が出た。

マフィアのドンも裏金を潰されて全滅である。


日本には少し手加減して、本当に独創的な物は公開から除外した。

まぁ既得権に胡座をかいている害悪勢力には容赦しなかったが。


多くの組織が神の名を調べて介入しようとしたが、全て徒労に終わった。

当然である。

この世界の理屈ではないのだから。



これにより世界は一旦リセットされ、ある程度自浄作用が働くようになる。

何せ神のすることだ。

どこでまた暴露されるかわかったものではない。

なので大部分の人類は真面目に生きることを選んだ。



俺としてはこれ以上地球の人類に直接干渉するつもりはない。

ただ、魔法技術そのものは伝えるつもりはないが、魔法で作られたブラックボックスとしての科学技術の進化に役立つモノは与えても良いなと思う。

いずれ科学技術だけでも作れる様に工夫したブラックボックスは人類の良い指標となるだろう。

まさに「十分に発達した科学技術は魔法と区別がつかない」だ。



さて、俺はこれから何をしよう?

寿命は賢者魔法による定期的な生命コア再生でほぼ無限にあるし、俺の魔法はこの世の理解の範疇外なので到達されることはまずない。

ま、監視もするから万一芽が出そうなら根こそぎ蹂躙するだけだが。



・・・


ないよな?



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