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第85話 朝・最後の散歩

二十九日目の朝。最終日前日。


「明日が……最後……」


目が覚めて、すぐにその現実が頭に浮かぶ。明日、私はこの島を出る。東京に帰る。普通の生活に戻る。ミカに会える。家族に会える。学校に行ける。


「嬉しい……はずなのに……」


なんか、胸がざわざわする。これ、何?寂しいの?それとも名残惜しいの?心の奥が、きゅうって締め付けられる感じ。


LAUNDRYボックスを開けると──


「!?」


魔法少女っぽい衣装が入っていた。ピンクと白を基調とした、フリルたっぷりのワンピース。胸元には大きなリボン。スカートは短めで、裾にはキラキラした装飾。そして──


「杖まである!?」


謎の杖。星のモチーフがついた、キラキラした杖。手に取ってみると、何故か本当に魔法が使えそうなオーラがある。重さも、バランスも、完璧。


「これ……なんか……リアルすぎない?本当に魔法使えそう……」


「つーか、完全にコスプレじゃん!コミケで着るようなコスプレじゃん!」


衣装を広げてみる。なぜか完成度が高い。本格的。生地もしっかりしてて、縫製も丁寧。フリルの一つ一つが、丁寧に作られてる。


「でも……実は……子供の頃、魔法少女に憧れてたんだよね……」


小さい頃、テレビで魔法少女アニメを見て、キラキラした変身シーンに憧れた。杖を振って、魔法で問題を解決する。困ってる人を助ける。そんなヒロインになりたかった。


「まさか、最後の最後で魔法少女になれるとは……」


着替えてみる。ワンピースのファスナーを上げる。フリルが体に沿って、ふわっと広がる。鏡を見る。


「あ……意外と……似合ってる?」


ピンクと白の衣装が、28日間で少し日焼けした肌に映える。フリルがふわふわしてて、動くたびに揺れる。杖を持ってみる。星のモチーフが、朝日を受けてキラキラ光る。


「これで魔法使えたら、どんなに便利だろうな……」


グンちゃんが、じっと見てる。


「にゃあ?」


「グンちゃん、どう?魔法少女だよ」


「にゃあ」


「似合ってる?」


「にゃあ」


「ありがとう。でも、恥ずかしいよ……」


鏡の前で、くるっと回ってみる。スカートの裾が、ふわって広がる。フリルが踊る。


「あれ……なんか……これ……」


もう一回、回ってみる。また、ふわって広がる。


「可愛い……かも……」


小さく呟く。自分で言っててビックリする。でも、本当に、可愛い気がする。


28日間でちょっと日焼けして、少し痩せたかも。目は前より輝いてる気がする。なんか、強くなった?子供の頃に憧れた、あの魔法少女に、少しだけ近づけた気がする。


魔法少女の杖を振ってみる。


「えいっ!」


もちろん、何も起こらない。でも、なんだか元気が出る。胸の奥が、じんわり温かくなる。


「この杖……なんか……いい感じ……」


朝食のタッチパネルを開く。今日は栄養ドリンクと卵かけご飯。


「TKG!シンプルだけど、究極の朝ごはんだと思う!」


栄養ドリンクをグビッと一気飲み。


「うっ、苦っ!でも、元気出る感じする!まるで魔法の薬みたい!」


体の中が、カーッと熱くなる。疲れが、ふっと軽くなる気がする。


卵かけご飯は、卵を割ってご飯に混ぜて、醤油をたらして、ぐるぐるかき混ぜる。黄金色のご飯が、湯気を立ててる。玉子の黄色と白が、ご飯に絡んで、食欲をそそる。


「いただきます!」


一口。卵がご飯に絡んで、まろやかで優しい味。醤油の香ばしさと、卵の甘み。


「うん、美味しい!やっぱりTKGは最高!」


もぐもぐ食べながら、グンちゃんにもちょっとだけあげる。


「はい、グンちゃん」


「にゃあ」


食べながら、魔法少女について考える。


「ねえボトル子、聞いて。魔法少女って、子供の頃の憧れだったんだよね。杖を振って、魔法で問題を解決する。キラキラしてて、かっこよくて……」


ボトル子は相変わらず、あの優しい笑顔で立ってる。いつもより、もっと優しく微笑んでる気がする。


「でも、よく考えたら……フォトグラメトリってまるで魔法みたいなものだよね。写真を撮って、データを処理すると、失われた建物が3Dで蘇る。これって魔法じゃん!」


そう思うと、私も魔法使いなのかもしれない。カメラが杖で、データが呪文。PCが魔法陣。


「私、魔法使ってたんだ……この28日間、ずっと……」


杖を握りしめる。温かい。まるで、本当に魔法が宿ってるみたいに。


「ねえボトル子、聞いて。明日が最後なんだよ。信じられる?」


「もう28日だよ。あっという間だったような、長かったような……」


食べ終わって、PCを起動する。画面には、完成した軍艦島のデジタルツインが映ってる。昨日作り上げた、私たちの奇跡。


マウスでぐるぐる回してみる。完璧。どこから見ても完璧。光の当たり方も、影の落ち方も、すべてが自然。


「もう、やることないんだよね……実は」


ボトル子に話しかける。


「ねえボトル子……正直に言うとさ、もう作業ないの。細部のチェックとか言っても、ただの言い訳。本当は……」


胸に手を当てる。心臓の音が聞こえる。ドクン、ドクンって。


「この島で過ごす、最後の時間を、惜しんでるだけなんだよね」


グンちゃんが「にゃあ」って鳴く。


「グンちゃんもそう思う?名残惜しいよね」


「にゃあ」


「そうだよね……」


今日も、一人じゃなかった。でも、明日には終わる。この奇妙な生活も、グンちゃんやボトル子との時間も、そして……ケンタくんとの、この不思議な共同作業も。窓越しのやり取りも。


「最後の時間……大切に過ごさなきゃ」


魔法の杖を握りしめる。キラキラした星のモチーフが、手の中で光る。


「この杖……本当に魔法使えたら、時間を止められたらいいのに……」


でも、時間は止まらない。明日は、必ず来る。


「だから、今日を……大切にしないと……」

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