第79話 朝・No.26の罠
二十七日目の朝。
目が覚めた。
机に突っ伏して寝てしまったみたい。
体が痛い。
首も痛い。
肩も凝ってる。
でも、眠れた。
少しだけ回復した。
「あれ……私、寝てた……」
PCの画面を見る。
プログレスバー。
100%。
完了してる。
「完了してる!」
早速、完成したモデルを開く。
マウスでぐるぐる回す。
軍艦島の3Dモデル。
全ての建物が配置されている。
「すごい……完成してる……」
でも、何か違和感がある。
「あれ……?」
よく見る。
30号棟と31号棟の間に、わずかな隙間がある。
「隙間……?でも、資料では隣接してるはず……」
数値を確認する。
座標データ。
「……おかしい」
30号棟のX座標が、0.3メートルずれてる。
「0.3メートル……たった0.3メートルだけど……これ、おかしい」
他の建物も確認する。
病院。
学校。
神社。
全部、微妙にずれてる。
「全部……ずれてる……うそでしょ……」
心臓がバクバクする。
これ、完成してない。
データが壊れてる。
「データが……壊れてる……うそ……」
お腹がすいた。
でも、食欲がない。
タッチパネルで朝食を注文。
おかゆと焼シャケ。
「おかゆと焼シャケ……」
ウィーン。出てきた。おかゆの匂い。焼き魚の匂い。温かい匂い。
部屋は冷たいけど、その冷たさが心を落ち着かせてくれる。
出てきた朝食。
シンプル。
おかゆは優しい味。
焼シャケは塩気がちょうどいい。
一口食べる。
「優しい味……」
でも、心は重い。
問題は解決してない。
もぐもぐ食べる。
焼シャケも食べる。
「美味しい……でも……」
グンちゃんにも少しあげる。
「はい、グンちゃん」
「にゃあ」
食べ終わる。
でも、不安は消えない。
メモを書く。
『データに歪みがある。全ての建物が微妙にずれてる。原因不明』
グンちゃんに託す。
「お願い、グンちゃん」
「にゃあ」
グンちゃんが出発した。
しばらくして、返事が来た。
「にゃあ!」
「グンちゃん……」
開く。
読む。
『こちらも確認した。歪みがある。原因を調査中』
また待つ。
2通目。
「にゃあ!」
読む。
『基準点の再計算を試みた。効果なし』
3通目。
「にゃあ!」
読む。
『座標変換のアルゴリズムを見直した。効果なし』
4通目。
「にゃあ!」
読む。
『GPSデータの誤差補正を試みた。効果なし』
5通目。
「にゃあ!」
開く。
読む。
『論理的なアプローチでは、全く原因が分からない』
文字がいつもより乱れてる気がする。いつもの几帳面な字とは違う。急いで書いた跡が見える。
「分からない……ケンタくんも分からない……」
そして、もう一枚。追伸があった。
開く。
手が震える。
『データを何度解析しても異常が見つからない。レーザー計測も、座標計算も、全部正常だ。でも、どう考えてもおかしい。論理が通用しない』
文字が、少し震えている。走り書きみたいになってる。
そして、最後の一行。
『ごめん。俺のレーザーでも、お手上げかもしれない。……間に合わないかも』
「……!」
あの冷静なケンタくんが、弱音を吐いてる。
「ケンタくん……」
胸が締め付けられる。論理が通用しない世界で、彼もまた、孤独に震えていたんだ。
彼は、いつも冷静で、論理的で、完璧に見えた。でも、彼も、怖かったんだ。
「うそでしょ……」
血の気が、引いていく。
どうしよう。
心が、折れそうになった。
ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子……どうしよう……ケンタくんも分からないって……原因が分からないって……彼も怖がってる……」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。今日は、心配そうに見える。
グンちゃんも心配そう。
「にゃあ……」
「グンちゃん……」
その時、私は、はっとした。
「……!そうだ……」
Day14。
見つけた。
No.26のメモ。
『この計算式は罠だ』
「罠……罠だ……これ、罠なんだ!」
分かった!
技術的な問題じゃない。
人為的な罠だ。
No.26が仕掛けた罠。
だから、論理が通用しないんだ。論理を超えた、悪意の罠。
だからこそ、私がやらなきゃ。論理じゃなくて、感覚で。共感で。
26番さんの悪意を、私の共感で見つけ出す。
私にしかできない。
「ケンタくん!罠だよ、これ!」
大声で叫ぶ。
メモを書く。急いで書く。
『罠だよ!26番さんの罠!論理じゃない、悪意の罠!』
窓に叩きつける。
見せる。
すぐに返事が来る。
「にゃあ!」
読む。
『どういうことだ?』
私は、もう一枚メモを書く。
『26番さんが残したメモ。「この計算式は罠だ」って書いてあった。人為的な罠だから、論理的には解けない!』
見せる。
ケンタくんが読む。
しばらく考える。
そして、メモを書く。
『分かった。データを見直す。人為的な改ざんを探す』
「そう!それだ!」
ボトル子に宣言する。
「ねえボトル子、やるよ。ケンタくんを助ける。論理が通用しないなら、私の共感で戦う」
ボトル子は笑ってる。今日は、力強く笑ってる気がする。
グンちゃんに話しかける。
「グンちゃん、応援してね」
「にゃあ」
「ありがとう」
今日も、一人じゃなかった。
そして、ケンタくんも、一人じゃない。
私が、彼を支える。




