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第75話 夜・星空デート、もどき

その夜。


私たちは、作業をしなかった。


珍しい。


お腹がすいた。


タッチパネルで夕食注文。


ピクニック弁当。


「ピクニック弁当!?夜なのに!?」


ウィーン。出てきた。サンドイッチの匂い。唐揚げの匂い。フルーツの匂い。温かい匂い。


冷たい部屋が、今はとても心地よく感じる。


出てきたピクニック弁当。


サンドイッチ、唐揚げ、フルーツ。


「夜だけどピクニック気分!」


サンドイッチを一口。


美味しい。


ハムとレタス。


「ハムとレタス……シンプルで美味しい」


唐揚げも食べる。


「唐揚げ……サンドイッチと唐揚げ、最高!夜のピクニック!」


もぐもぐ食べる。


グンちゃんにも少しあげる。


「はい、グンちゃん」


「にゃあ」


ボトル子に報告。


「ねえボトル子、今夜は作業しないんだ。たまには休憩。いいよね」


ボトル子は笑ってる。今日は、優しく笑ってる気がする。


食べ終えた。


「ごちそうさま」


窓辺に座る。


外を見る。


星空。


きれい。


「星空……きれい……」


ケンタくんも、窓辺にいる。


見える。


私たちは、それぞれの窓辺に座り、ただ、黙って、星空を眺めていた。


「静か……でも、心地よい……」


メモを書く。


『星空デート、もどきだね』


グンちゃんに託す。


「お願い、グンちゃん」


「にゃあ」


「ありがとう」


しばらくして、返事が来た。


「にゃあ!」


「グンちゃん、ありがとう」


開く。


見る。


「あれ?」


画像が添付されてる。


星図アプリのスクリーンショット。


「星図……?」


次のメモ。


『あの明るいのが、夏の大三角だ』


「夏の大三角……」


空を見上げる。


あの明るいの。


「あれが、夏の大三角か……」


また次のメモ。


「にゃあ!」


「ありがとう、グンちゃん」


読む。


『その横を流れてるのが、天の川』


「天の川……」


空を見る。


あれが天の川。


キラキラと輝いてる。


「ロマンチックのかけらもない。理系男子全開の解説」


でも、笑える。


それで良かった。


同じ星を見上げている。


それだけで、私たちは、確かに繋がっていると感じられた。


「繋がってる……確かに……」


しばらく、星を見る。


きれい。


静か。


胸が温かくなる。


また、メモが来た。


「にゃあ!」


「グンちゃん!」


開く。


読む。


『俺は、宇宙の地図を作る研究者になりたい』


「……!」


目を見開く。


宇宙の地図。


研究者。


ケンタくんの夢。


不意に届いた。


胸が熱くなる。


次のメモ。


「にゃあ!」


「ありがとう、グンちゃん」


読む。


『親父が、デジタルアーカイブの研究者だったんだ。地球の遺跡から始めて……俺は、その続きをやりたい』


「……!」


胸を突かれた。


お父さん。


デジタルアーカイブの研究者。


ケンタくんは、ただ技術をこなしているだけじゃなかった。


お父さんへの想いを。


大きな夢を。


その背中に背負っていたんだ。


「そうだったんだ……」


涙が出そうになる。


次のメモ。


「にゃあ!」


「グンちゃん……」


読む。


『ユイは?』


「……!」


私は……?


考える。


分からない。


まだ。


「まだ分からない……」


メモを書く。


『まだ分からない』


グンちゃんに託す。


「お願い、グンちゃん」


「にゃあ」


でも、この島の記憶を未来に繋ぐ、この仕事は。


とても、尊いものだと思った。


「尊い……とても尊い……」


ボトル子に話しかける。


「ねえボトル子……ケンタくんの夢、聞いた。宇宙の地図を作るんだって。すごいよね。私は……まだ分からない……でも、この仕事……尊いと思う」


ボトル子は笑ってる。今日は、とても温かく笑ってる気がする。


星を見上げる。


きれい。


ケンタくんも見てる。


同じ星。


グンちゃんが足元で丸くなってる。


「にゃあ」


「グンちゃん、お疲れ様。ありがとう」


「にゃあ」


【残り日数:5日】


画面の数字を見る。赤い数字。冷たい数字。


「あと5日……」


終わりの始まり。


最後の戦いが、もうすぐ始まる。


でも、今夜は、星を見る夜。


ケンタくんと。


静かで、穏やかで、幸せ。


「おやすみ、26番さん」


「おやすみ、ボトル子」


「おやすみ、グンちゃん」


「おやすみ、ケンタくん」


今夜も、一人じゃなかった。


そして、ケンタくんの夢を知った。


大きな夢。


私にも、いつか見つかるのかな。


夢。


「いつか……見つかるといいな」


その想いを胸に、深い眠りに落ちていった。


未来への希望が、胸を満たす。

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