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第72話 夜・防空壕の迷宮と救出

30号棟の地下空間。


そこから、さらに奥へと続く穴を見つけた。


「穴……?何だろう……」


好奇心に負けた。


その中に入ってみる。


かがんで入る。


狭い。


でも、進める。


そこは、島の中央の岩礁を縦断するように造られた、防空壕トンネルだった。


「すごい……手掘り……」


壁を見る。


ツルハシの跡が残っている。


全部手掘り。


「全部手掘りで……すごい……」


一直線のトンネルを中心に、左右に様々なトンネルが造られている。


迷路状態。


「迷路……すごい……」


進む。


狭くて、湿度が高い。


居心地が悪い。


「狭い……湿度高い……気持ち悪い……」


壁が迫ってくる気がする。


息苦しい。


鉄管や軌道など、使わなくなった資材がまとめて置いてある場所がある。


「資材置き場……」


さらに進む。


また分岐。


また分岐。


「どこに続いてるんだろう……」


ワクワクする。


でも、怖い。


迷いそう。


でも、見たい。


もう少しだけ。


進む。


そして、私は、完全に道に迷ってしまった。


「迷った……どの道も、同じに見える……」


壁の染み。


「この染み……さっきも見た気がする……」


天井のツルハシの跡。


「この跡も……見たような……」


懐中電灯の光が、心細く揺れる。


不安。


怖い。


心細さで、泣きそうになった。


手掘りの壁が、まるで私を閉じ込めようとしているみたい。


「怖い……出られない……」


涙が出そうになる。


心臓がバクバクする。


暗闇が、私を飲み込もうとしている。


その時。


「にゃあ!」


「グンちゃん!?」


グンちゃんが、私の足元にすり寄ってきた!


「グンちゃん……!どうして……ここに……」


抱きしめる。


温かい。


いつの間に入ってきたんだろう。


でも、嬉しい!


「グンちゃん……ありがとう……」


首輪を見る。


あれ?


USBメモリが結びつけられている。


「USB……ケンタくんから……?ありがとう、グンちゃん。一緒に帰ろう」


「にゃあ」


グンちゃんについていく。


グンちゃんは迷わない。


すごい。


さすが猫!


防空壕トンネルを抜ける。


30号棟の地下。


人道トンネル。


そして──


外に出られた!


「出られた……!よかった……」


太陽の光が眩しい。


温かい。


安心した。


部屋に戻る。


「ただいまー……」


お腹がすいた。


「お腹すいたー!」


タッチパネルで夕食を注文。


カツカレー!


「カツカレー!」


ウィーン。出てきた。カツの匂い。カレーの匂い。スパイスの匂い。温かい匂い。


冷たい部屋が、今は安心できる場所に感じる。


出てきたカツカレーが、すごい。


豪華。


サクサクのカツとスパイシーなカレー。


いい匂い。


一口。


「美味しい!サクサクのカツとスパイシーなカレー!迷子の不安も吹っ飛ぶ最強コンボだ!」


もぐもぐ食べる。


グンちゃんにも少しあげる。


「はい、グンちゃん。助けてくれてありがとう」


「にゃあ」


ボトル子に報告。


「ねえボトル子、迷ったんだよ。防空壕トンネルで。でもグンちゃんが助けてくれた。すごいでしょ」


ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。今日は、ほっとした笑顔に見える。


食べながら、今日撮影したデータを処理する。


「データ処理……」


65号棟の地下。


理容美容室。


66号棟の外壁のメッセージ。


人道トンネル。


防空壕トンネル。


全部。


Align Images、Create Model、Simplify、Unwrap、Texture。


いつもの工程。


部屋の換気扇が、低く回ってる。ヴーーーン。


「処理中……」


待ってる間、PCでUSBの中身を確認する。


開いて、見る。


「これ……」


ケンタくんが作った、地下通路の3Dマップだった!


人道トンネルだけじゃない。


防空壕トンネルも!


「3Dマップ……!すごい……防空壕トンネルまで……!」


レーザースキャナーは、闇の中でも、正確に地形を捉えることができるんだ。


すごい。


マウスでぐるぐる回す。


地下通路の全体が見える。


私が迷った場所も。


全部見える。


彼の光が、私の迷った闇を、照らしてくれた。


「ケンタくん……ありがとう……」


メモがある。


読む。


『俺のデータは骨格だ。ユイの写真で、これに皮膚と表情を与えてくれ』


「!」


目を見開く。


ケンタくんからのメッセージ。


初めての、本格的な共同制作の提案だった!


「嬉しい……」


私は、自分が撮ってきたトンネルの写真をPCに取り込む。


ケンタくんのレーザーデータを開いて、見る。


寸分の狂いもない正確なトンネルの形状。


無機質な点の集合体として描き出されていた。


一方、私の写真は、壁の染み、手掘りの跡、コンクリートのざらついた質感。


生々しいディテールに溢れている。


彼の「論理」と、私の「感情」。


二つのデータを一つに重ね合わせる。


「作業開始!」


まるでパズルのピースをはめていくよう。


でも、ずれる。


「合わない……」


グンちゃんがメモを運んできた。


「にゃあ!」


「グンちゃん、ありがとう」


読む。


『基準点がズレてる。そっちのデータのタイムスタンプXXXXの写真、基準点を補正してくれ』


「了解!」


補正して、返事を書く。


『了解!こっちの壁の質感、もっと活かしたいから、あなたのモデルのポリゴン、もう少し細かくできない?』


グンちゃんに託す。


「お願い、グンちゃん」


「にゃあ」


「ありがとう」


グンちゃんが、私たちの間を何度も往復する。


「にゃあ!」


「グンちゃん、お疲れ様」


また往復。


「にゃあ!」


「ありがとう」


また。


「にゃあ!」


「頑張ってね」


言葉を交わすよりも速く、正確に、データとメモが交換されていく。


夜が更けるのも忘れた。


でも、気にしない。


没頭した。


彼の正確な骨格に、私の撮った記憶の皮膚がぴったりと張り付いていく。


無機質だったトンネルの3Dモデルが、みるみるうちに、息遣いを取り戻していく。


「すごい……」


それは、一人では決して見ることのできない、奇跡のような光景だった。


一人じゃできない。


二人だからできる。


完成した!


「完成……!」


画面を見る。


人道トンネル。


防空壕トンネル。


完璧。


ボトル子に見せる。


「ねえボトル子、見て!すごいでしょ!ケンタくんと一緒に作ったの!」


ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。今日は、とても嬉しそうに見える。


グンちゃんにも。


「グンちゃんも見て!グンちゃんのおかげだよ!」


「にゃあ」


【残り日数:6日】


画面の数字を見る。赤い数字。冷たい数字。


あと6日。


違う道を進んでいても、同じ星を目指すことはできる。


ケンタくんとの共同制作。


素晴らしかった。


今夜も、一人じゃなかった。


そして、ケンタくんと一緒に、奇跡を作った。


奇跡への確信が、胸を満たす。

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