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第71話 昼・人道トンネルと闇の撮影

お昼になった。


お腹がすいた。


でも、部屋に戻る時間がもったいない。


ポケットを探る。


カロリーメイトがある。


持ってきててよかった!


「時間がない時はこれだよね……栄養バランスもいい……はず!」


自分に言い聞かせて、パクパク食べる。


味はよく分からない。


でも、食べる。


食べ終わって、人道トンネルへ向かう。


ドルフィン桟橋の近く。


そこに、人道トンネルの入り口があった。


「人道トンネル……島の出入り口から住宅棟へ続く道……」


見上げる。


「うわ……」


まるで巨大な獣の口のように、ぽっかりと暗い穴を開けていた。


暗い。


すごく暗い。


ひんやりとした湿った空気が、中から流れ出してくる。


怖い。


少し怖い。


でも、行かなきゃ。


深呼吸。


「すー……はー……お邪魔します……」


小さく言って、一歩足を踏み入れる。


外の喧騒が嘘のように消えた。


静か。


音が消えた。


自分の足音だけが響き渡る。


コツ、コツ、コツ。


壁を伝って滴る水の音。


ポタ、ポタ……


それだけ。


心臓がドキドキする。


懐中電灯をつける。


カチッ。


光が、濡れたコンクリートの壁をぼんやりと照らし出す。


「暗い……ここは、光がほとんど届かない……」


床が、桟橋方面に向かって緩やかに傾斜している。


排水溝の役割も果たしていたんだ。


「傾斜してる……排水溝の役割……」


私は、Day6の選炭施設での経験を思い出した。


あの時も、暗かった。


でも、撮れた。


あの時と同じように。


即席の三脚代わりに、ガレキを拾い上げる。


「これ、いいかな……」


カメラを固定して、シャッタースピードを極端に遅くする。


息を止める。


「……」


シャッターを切る。


カシャ。


「撮れた……闇を切り取れた……」


ファインダーを覗く。


ふと、壁に無数の傷が刻まれているのに気づいた。


「傷?無数の傷?」


懐中電灯で照らして、よく見る。


「子供の落書き?いや、違う。もっと切実な、何か……」


壁に手を触れた。


その瞬間!


「!」


私の脳裏に、いくつもの光景が流れ込んできた。


上陸した人たちが、最初にこのトンネルを通る。


仕事帰りの炭鉱夫たちの疲れた背中。


彼らの吐く息は白い。


遠い間隔で灯る蛍光灯だけが頼り。


ぶつぶつと交わされる会話。


家族への想い。


それらが、鈍い灰色の光となって、トンネルの壁に染み付いている。


その中に混じって、時折、子供たちのはしゃぎ声が、黄色い光の粒となって弾ける。


「この暗いトンネルも、彼らにとっては生活の一部だったんだ……軍艦島への入島の洗礼……」


そうか。


ここは、生活の場所だったんだ。


撮影を続ける。


カシャ、カシャ。


トンネルを進む。


かなり距離が長い。


「長い……まだ続く……」


懐中電灯の光が心細く揺れる。


暗闇が、私を包み込もうとしている。


怖い。


でも、進む。


やがて、30号棟に繋がる出口が見えてきた。


「30号棟……あと少し……」


でも、最後に分岐がある。


南側と東側へ出られるようになっている。


「分岐……どっちだろう……」


右の道を選んだ。


進む。


でも、なんだか様子が違う。


「あれ?30号棟の出口じゃない……これ、地下……?」


30号棟の地下空間に迷い込んでしまった。


「迷った……どこだここ……」


不安が込み上げる。


今日も、一人じゃなかった。


でも、これから迷う。

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