第69話 夜・完璧への執念
夜。
お腹がすいた。
「お腹すいたー!」
タッチパネルで夕食を注文。
ピザセット!?
「ピザ!?まさかのピザ!」
驚く。
ウィーン。出てきた。チーズの匂い。トマトの匂い。温かい匂い。
冷たい部屋が、少しだけ優しく感じる。
出てきたピザセットが大きい。
チーズがとろーり。
いい匂い。
一切れ取る。
「いただきます」
一口。
「美味しい!」
チーズが伸びる。
「とろーりチーズが最高!」
もぐもぐ食べる。
ジャンクな味。
「今日の静かな一日に刺激をくれる!」
グンちゃんにも少しあげる。
「はい、グンちゃん」
「にゃあ」
ボトル子に報告。
「ねえボトル子、ピザだよ。美味しいよ」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。今日の笑顔は、なんだか満足そうに見える。
食べながら、PCを開く。
「見てみよう……」
完成した65号棟の3Dモデル。
マウスでぐるぐる回す。
「ぐるぐる……」
歯抜けだった部分は、完璧に埋まっている。
「埋まってる……よかった……」
でも。
よく見ると。
テクスチャの繋ぎ目に、わずかな違和感があった。
「あれ?」
ズームする。
「やっぱり……繋ぎ目が……ずれてる……気になる……」
ピザを食べ終わって、グンちゃんにメモを託す。
「グンちゃん、お願い」
メモを書く。
『気になるんだけど……繋ぎ目』
グンちゃんに結ぶ。
「届けてくれる?」
「にゃあ」
「ありがとう」
グンちゃんが出発した。
しばらくして、グンちゃんが帰ってきた。
「にゃあ!」
「グンちゃん!返事は?」
首輪からメモを外して、開く。
『気になるか?』
「!」
「やっぱり……ケンタくんも気づいてた……」
返事を書く。
『気になる』
即答。
グンちゃんに託す。
「お願い、グンちゃん」
「にゃあ」
「ありがとう」
また返事が来た。
早い!
開く。
『だろうな』
「!」
「だろうな……って……分かってたんだ……ケンタくんも気になってた……やっぱり……」
私たちは、同じところが気になるんだ。
次のメモが来た。
「にゃあ!」
「グンちゃん、ありがとう」
読む。
『今夜、直そう。専門書、読んだ?』
「専門書……」
本棚を見る。
『上級者のためのReality Captureテクニック』。
これだ。
取り出して、開く。
テクスチャ補正の章。
読む。
難しい。
でも、分かる。
こうやって、直すのか。
返事を書く。
『読んだ。やろう』
グンちゃんに託す。
「お願い、グンちゃん」
「にゃあ」
その夜、私たちは、専門書を片手に、テクスチャの補正作業に没頭した。
PC画面を見る。
何千枚もの写真。
その中から、最適な部分を切り貼りしていく。
選ぶ。
「これかな……」
違う。
「違う……」
次。
これも違う。
また次。
「これ!」
見つけた!
切り取って、貼り付けて、確認。
「うん、いい感じ……」
次の部分。
また探す。
気の遠くなるような作業。
でも、やる。
時々、グンちゃんがケンタくんからのメモを運んでくる。
「にゃあ!」
「グンちゃん、ありがとう」
読む。
『この部分、どう思う?』
スクリーンショットが添付されてる。
「うーん……」
考えて、返事を書く。
『もう少し明るくした方がいい』
グンちゃんに託す。
「お願い」
「にゃあ」
また返事。
早い!
読む。
『了解。そっちの進捗は?』
確認する。
『30%くらい』
「まだまだ……」
『俺も同じくらい。頑張ろう』
「嬉しい……一緒に頑張ってる……」
でも、私たちは、もう「それなり」では満足できなかった。
完璧じゃなくても、完璧を目指す。
その執念が、私たちを突き動かしていた。
作業を続ける。
選んで、切り取って、貼り付けて、確認。
繰り返す。
何度も。
ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子、終わらない……でも、やるしかない。完璧にしたいの」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。今日の笑顔は、応援してくれてる気がする。
グンちゃんも見てる。
「にゃあ」
「グンちゃんも応援してね」
「にゃあ」
「ありがとう」
作業を続ける。
時間が経つ。
でも、気にしない。
完璧にするまで。
【残り日数:7日】
画面の数字を見る。赤い数字。冷たい数字。
あと7日。
終わりが、見えてきた。
だからこそ、一瞬も気は抜けない。
完璧に。
作業を続ける。
今夜も、一人じゃなかった。
そして、完璧を目指して、ケンタくんと共に戦ってる。
それが、嬉しい。
静寂が、部屋を包む。




