第61話 朝・白いビキニと試練
二十一日目の朝。
体が重い。肩が凝ってる。首も痛い。腰も痛い。二十一日間の疲労が、層になって積み重なってる。
でも、慣れてきてもいる。この疲れにも、この生活にも。
LAUNDRYボックスの紙袋を開けた私は、その中身を見て、思考が完全にフリーズした。
それは、純白の、布面積が極端に少ない、ビキニだった。
しかもご丁寧に、上に羽織るための透ける素材のパレオまでセットになっている。
「……はああああ!?」
声にならない叫びが部屋に響く。
顔から火が出そうだ。
「うそ……うそでしょ……!無理無理無理……!」
手に取ってみる。
白い。
すごく白い。
純白。
そして、布が少ない。
めっちゃ少ない。
「これ……着るの……?」
スケジュール確認。
【Day21:南部プール跡】。
場所を確認すると、ケンタくんの部屋のすぐ目の前だ。
「……絶対、仕組んでる……!」
声が震える。
昨日ケンタくんに一泡吹かせたことへの嫌がらせか。
それともこれもテストの一部なのか。
どちらにせよ、これはあんまりだ。
「ひどい……」
ボトル子に愚痴る。
「ねえボトル子、見て……ビキニだよ……白いビキニ……ケンタくんの前で……こんなの……」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
「笑わないで……」
グンちゃんも心配そうにこちらを見ている。
「にゃあ?」
「グンちゃんも心配してくれる?ありがとう……」
タッチパネルで朝食確認。
『プールサイドで食べたいトロピカルカレー』と表示されている。
「……もう、確信犯じゃん!」
ウィーン。出てきた。カレーの匂い。甘い匂い。温かい匂い。
でも、この部屋は相変わらず冷たい。
出てきたトロピカルカレーにはマンゴーが入っていた。
一口食べる。
甘い。
フルーティー。
「美味しい……意外と美味しい……悔しい……!」
食べながらPCで資料を確認する。
南部プール、昭和33年建設。
海水を使ったプールだったらしい。
周りは海に囲まれているのに、東シナ海の外海という場所柄から潮の流れが極めて激しく、遊泳は基本的に禁止されていた。
だから子供たちのためにプールを作ったんだ。
「優しい……」
さらに読み進める。
泳ぎが得意な子は堤防から飛び込んでいたとか。
「とり鬼」という鬼ごっこが盛んだったとか。
プールサイドに上がって歩くのが3秒まで許されるルール。
「面白そう……」
子供たちがキャッキャと笑いながら遊ぶ姿を想像すると、クスッと笑えてくる。
でも、現実に引き戻される。
今日、私はあのプールで、ビキニで、撮影しなきゃいけない。
「恥ずかしい……」
でも、着るしかない。
私は、ビキニの上にパーカーをしっかり羽織った。
これなら少しはマシ。
でも下はビキニ。
恥ずかしすぎる。
鏡を見る。
パーカーを着てるから、まだ大丈夫。
でも、中はビキニ。
「やだ……恥ずかしい……」
覚悟を決めて、カメラとドローンを準備する。
「行こう……」
グンちゃんに話しかける。
「行ってくるね、グンちゃん。恥ずかしいけど……頑張る……」
「にゃあ」
ボトル子にも。
「行ってきます、ボトル子」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
「笑わないで……」
外に出た。
プールサイドに立つと、じりじりと太陽が肌を焼く。
暑い。
めっちゃ暑い。
そして、それ以上に、ケンタくんの部屋の窓から突き刺すような視線を感じる。
チラッと見る。
窓に人影。
「見てる……絶対見てる……」
顔が熱い。
恥ずかしい。
すごく恥ずかしい。
でも、撮影しなきゃ。
今日も、一人じゃなかった。




