第60話 夜・月明かりの約束
夜。
お腹がすいた。
「夕ご飯……食べよう……」
タッチパネルで親子丼を注文。
「親子丼!」
ウィーン。出てきた。卵の匂い。鶏肉の匂い。甘い醤油の匂い。温かい匂い。
でも、この部屋は相変わらず冷たい。
出てきた親子丼。
いい匂い。
卵がとろとろ。
鶏肉もたっぷり。
「美味しそう!」
スプーンですくって一口。
「美味しい!」
卵の甘さ。
鶏肉も柔らかい。
玉ねぎもいい感じ。
「玉ねぎも美味しい!」
グンちゃんにも鶏肉を少しあげる。
「はい、グンちゃん。美味しい?」
グンちゃんは喜んで食べる。
「にゃあ」
ボトル子に話しかける。
「ねえボトル子、あと10日……間に合うかな……不安だけど……頑張るしかないよね。外観メインで完成を目指すって決めたから!」
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
食べ終わって、今日のネットタイム。
「今日はネット……何調べよう……」
部屋の換気扇が、低く回ってる。ヴーーーン。
PCを開く。
今日は、ケンタくんのレーザースキャンについて、もっと詳しく調べることにした。
検索。
記事を読む。
「へぇ……すごい技術……でも、高い……機材、めっちゃ高いんだ……数百万円!?ケンタくん、すごい機材使ってるんだ……尊敬する……」
でも、負けない。
写真には、写真の良さがある。
私は、今日撮った写真の中から、特に気に入った一枚を、印刷することにした。
「印刷しよう……プリンター、使えるんだ……」
部屋の隅にあるプリンターを使う。
ボタンを押す。
ウィーン。
「出てきた!」
印刷された写真。
日給社宅の屋上からの眺望。
青い空の下、コンクリートの屋上。
かつて、ここに畑があった。
子どもたちの笑顔があった。
「きれい……」
その写真の裏に、メッセージを書いた。
ペンを走らせる。
『写真は遅いけど、心を写せる。それが私の武器』
読み返す。
「うん、いい」
グンちゃんに託す。
「グンちゃん、お願い」
首輪に結ぶ。
「よいしょ……ケンタくんに届けてくれる?」
「にゃあ」
「ありがとう。気をつけてね」
グンちゃんが出発した。
窓から見送る。
「気をつけて……」
月が、明るい。
満月に近い。
グンちゃんの姿が、月明かりに照らされて、よく見える。
ケンタくんの建物に向かって、走っていく。
「頑張って、グンちゃん……」
しばらくして、グンちゃんが帰ってきた。
「にゃあ!」
「グンちゃん!おかえり!」
駆け寄って、抱き上げる。
「ありがとう!」
首輪を見る。
メモと、何か小さなものがついてる。
「メモと……これ……?」
小さな、金属の部品。
「金属?何だろう……」
メモを先に読む。
開く。
『写真、すごくきれいだった。君の言う通り、心が写ってる。これは、俺が最初に作った試作品のパーツ。お守りとして。一緒に頑張ろう』
「!」
目を見開く。
「お守り……一緒に頑張ろう……嬉しい……!」
涙が出そうになる。
小さな金属のパーツを手に取る。
ケンタくんが、大切にしてたもの。
それを、くれた。
「嬉しい……」
私は、そのパーツを、首からかけられるように、細いチェーンに通した。
首にかける。
「よし……」
触る。
「温かい……ケンタくんの想い……」
胸が熱い。
窓の向こうを見る。
ケンタくんの部屋の明かり。
「ありがとう、ケンタくん……私も……頑張るよ……」
小さく呟く。
顔が、少し熱くなる。
ボトル子に報告。
「ねえボトル子、見て!ケンタくんがくれたお守り!嬉しいよね!」
首のパーツを見せる。
ボトル子は笑ってる。いつも笑ってる。変わらない笑顔。
グンちゃんも見てる。
「グンちゃんもありがとう。いつも運んでくれて」
「にゃあ」
【残り日数:10日】
画面の数字を見る。赤い数字。冷たい数字。
「あと10日……」
いよいよ、カウントダウンが一桁になった。
焦り。
不安。
でも。
首にかけたお守りを触る。
「温かい……一人じゃない……ケンタくんも、頑張ってる……私も、頑張らなきゃ。外観メインで、完成させる!」
26番さん。
「26番さん……見てる?私、頑張ってるよ。あと10日。やり遂げるから」
おやすみ、26番さん。
「おやすみ、ボトル子」
「おやすみ、グンちゃん」
「おやすみ、ケンタくん」
四人に、おやすみを言う。
首のお守りを握りしめる。
「温かい……」
今夜も、一人じゃなかった。
そして、ケンタくんとの絆が、また深まった。
嬉しい。
でも、時間がない。
明日から、もっと頑張らないと。
「おやすみなさい……」
温かい夜。
でも、焦りもある夜。
静寂が、部屋を包む。




